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事前登録したら異世界に飛ばされた  作者: たろっぺ
第三章 捧げられた村
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第三十七話 戦場の霧

第三十七話 戦場の霧


サイド 矢橋 翔太



「ふー……ふー……!」


 若干他の箇所よりも白い左手の五指を動かしながら、息を整える。


 痛かった。滅茶苦茶痛かった。ちょっとしばらくは鉈と包丁は持てない気がする。主に精神的な理由で。


 現在、エイミーさんが作り上げた聖水を風雷魔法の応用で霧とした中にいる。どうにも白魔法との相性がいいようで、霧の中だと言うのにやけに落ち着く。


 それはそれとして左手がまだ痛いんだけどね!?神経がムズムズする!


「翔太。指の具合はどうかね」


「少し痛みますが、問題ありません」


 ……正直、最初はエイミーさんを指の件で恨んだが、それは違うとすぐに気づいた。


 そもそも彼女は『俺達に一番物理的な被害のない』作戦を提案していたのだ。それをこちらの我が儘で曲げただけ。であれば、彼女を恨むのは筋違いだ。


 ので、誰が悪いってなったらこんな所で非道な事をしているベルガーが悪い。絶対に殺す。


「な、なんだ、これ。頭が……!!」


「おえっ……お、おいなんか口から変なのが出たぞ……?」


「なんだこれ……?なんかの粒、か?」


 霧に飲まれた村人たちが頭を押さえるか蹲り嘔吐している。見た目、むしろこっちの方が毒ガスまいているみたいだな。


 だが、これで体内に潜伏しているG5を除去できたらしい。とにかく人命が助かったのならヨシ。


「エイミーさん、城にはどれぐらいですか?」


「まだかかる。くれぐれも君は霧の外に出ないように。今の君を見れば、魔族は間違いなく『自棄』になる」


 どうにも、エイミーさん曰く今の自分は白魔法の気配が強すぎるらしい。


 というのも、散々血を流し、なおかつ聖水作成の儀式をしていた『太陽の力を持つ存在』。それは魔族にとっては猛毒が人の形をして歩いていると見えるほどだとか。


 なので、今の自分を見た場合並みの魔族とやらがどういう反応するかと言うと……。


「魔王や四天王と呼ばれる上位者以外は、全てを投げだして逃げるか、あるいは命さえも放棄して君を殺しに来る。その場合の周囲への被害を本機は予測しきれない」


「はい……」


 この場所で戦えば、せっかく治療した村人たちに被害が及ぶ。それではエイミーさんの案を蹴った意味がない。


 だが……。


 霧の向こうにあるであろう、ベルガーの城を睨む。


「アミティエさん……ホムラさん……」


 突入した二人が心配だ。


 無事だといいのだが……。



*  *  *



サイド ホムラ



「ふはは!燃えろ、燃えろぉ!」


 周囲の炎をすくい上げるように杖を振るえば、それだけで炎の鞭が形成される。


 普段なら十数回も使えば魔力切れ寸前までいく魔法も、この状況ならいくらでも放てる。魔力の消費量と自然回復の速度がほぼ拮抗しているのだ。


『ガ、ァァ……!』


『ギィィィ!!??』


 人と虫の混ざったような異形共が燃えていく。大丈夫――アレは、人ではない。


 道を塞がんとしていた異形は全て燃えたから、斬り捨てられた。今はむしろ自分が道を塞いでいる。


「思考停止して燃やすのきーもちぃいいいい!」


 ヒャッハー!私はそもそも色々考えるのはしょうに合わないんじゃい!とりあえず燃やす!ああ、炎は私の心を癒してくれる……。


 自分の背後にある扉。あけ放たれたそれにチラリと目を向ける。


 教室一つ分はありそうな部屋には、扉がある場所以外の壁には所狭しと磨き上げられた石の台が置かれていた。


 石の台には上部どころか側面までも文字が彫り込まれており、自分の中にある魔法の知識がアレは高度な魔法技術の産物であると告げている。


 扉の反対側。その壁中央にある石から浮かぶホログラムめいた画面に触れて、アミティエちゃんが必死に操作をしていた。


「アミティエちゃん!あとどんぐらい!?」


「もうちょいかかります!ああ、もう!なんやねんこのぐちゃぐちゃな入力……どんだけ雑なんやベルガーのアホたれ!」


 苛立たし気に吠えるアミティエちゃん。普段の様な冷静さはないが、代わりに上の空な感じは収まったらしい。


 だが、まだかかるかぁ……。


「焦らせる様で悪いんだけどさぁ!実はあんま時間なさそうなんだよね!」


 自分の魔力は問題ない。が、自分とアミティエちゃんの『酸素』が問題だ。


 というのも、絶賛燃えているまっ最中である。地下への階段に自分は陣取っているのだが、その壁にまで炎がきてしまっているのだ。


 温度は『ヒートルーム』の魔法で調整できるが、酸素までは専門外だ。


 まだ多少の時間は残っているだろうし、できるだけ炎に道を作らせているが……のんびりはしていられない。


「わかっとります!ここを、こうで……!」


「と、『ヒートウィップ』!」


 炎の壁を潜り抜けてきた異形を焼き切る。


 これで何体目だ……流石に無限湧きとは思いたくない。こいつら、見た目こそ特撮に出て来そうな怪人だがあまり強くはない。いや、まあ接近戦は負けると思うけど、私か弱いし。


 さて。そろそろ退路を考えて――。


『よもや……よもや小娘二人にここまでいいようにされるとは、な』


「あん……?」


 ぬっ、と現れた土人形。それが前のめりに倒れ、土をばら撒いて強引に火を押しつぶす様に鎮火。


 その土を踏みつけて、一人の男が歩み出てきた。


「ベルガー……!」


 白髪まじりの初老の男。しかし姿は昨日見たものとは明らかに違う。


 表情が優し気なものから、物理的にも精神的にもこちらを見下すものに変わっているのもあるが、それ以上に『崩れている』。


 頬やこめかみなどの皮膚が溶けた蝋の様に崩れ、その下から黒い何かが覗いていた。


 なるほど。人の皮を加工した物で化けていると聞いたが、こういう事か。


「貴様らの狙いは既に見切った。我が城の制御室を占拠し、G5を強制停止。そして外にいる本命が攻め込んでくる。だろう?」


「へぇ。さすがにそんぐらいはわかるか。で、何しにきたの?命乞い?」


 精一杯の挑発をするが、内心で冷や汗をかく。


 やっべ。どうしよう。私一人で勝てるのかな、こいつ。


 ヴァルピスで翔太が戦ったカーミラ。自分はその姿を最後に見ただけだが、それだけでも震え上がったほどだ。


 それでもどうにか翔太に付与魔法を使う事ができたが……正直、アレと戦って勝てるとはとても思えない。あいつ滅茶苦茶頑張ったんだなと頭が下がる思いだ。


 万一こいつがカーミラと互角だった場合、逃げ一択になる。だが唯一の道はこいつが陣取る階段の上。さてはて……どうしたものか。


「これ、で……!ホムラさん!G5強制停止できました!」


 背後からアミティエちゃんの声が響く。


 これで奴の戦力は激減。かつ自分達は隠し通路で村の外へ行けるようになったわけだ。


「で、どうする?そっちのペットは今死滅したけど」


「ふん。言っただろう。見切ったと。『主力』には既にG5を差し向けた後だ……今頃、お仲間は千を超える虫に群がられて喰いつくされているだろうよ」


「っ……!」


 翔太が?いや、落ち着け。あいつはスキルのおかげで異様に頑丈な体を手に入れている。きっと大丈夫だ。


 それでもここまでベルガーが自信満々となれば、きっと厳しい妨害を受けているはず。自分達との合流は……はたして、期待できるのだろうか。


「よもや……シャイニング卿の知識を持つ者達が現れるとはな。いいや、正確には『本人』ではなく、別の者だろうがな」


 ……おいおい。まさかこいつ、エイミーの事も知っているのか?


 確かに奴が保管されていた場所はイノセクト村のすぐ近く。いっそそこの地下と言っていい。


 だが気づいていたならなんで先に対処しなかった?何が目的だ?


 不気味だ。言いようのない不安感が胸中で渦巻く。


 自分の隣に、剣を構えたアミティエちゃんが並ぶ。自分達の会話が聞こえていたのか、彼女の表情は硬い。


「さて……私も忙しいのでな。『やらねばならない事』があるのだ。この辺りで終わらせよう。勇敢にも我が巣穴に飛び込んだ勇気に敬意を払い、人間の言葉で名乗りをあげてやる」


 杖を握りなおし、呼吸を整える。酸素が薄い……だけではないな、この息苦しさは。


 どこまでが奴の計画通りだ。どこまで奴は見破っている。わからない。未知というのが、まさかここまで怖いなんてな。


 ベルガーの体が膨張する。内側から作り物の皮を引き裂き、奴の本当の姿が顕わとなる。


 ハエの様な顔と体。猫背ながら、頭の位置は二メートルほどの場所にある。六本の脚のうち上四つを人の腕のようにゆったりと動かしながら、ベルガーはガラスが擦れた様な耳障りな声で名乗りをあげた。


『我が名はベルガー!!魔王様に認められし四天王が一角、ベルゼビュート様よりベルの名を賜った魔界貴族に連なる者!アキラスの使者よ。貴様らは苗床などにはせん。ここで確実に殺してくれよう!』


 あの時見た、死にかけのカーミラと比べても矮小な魔力。そこで転がっている異形共と大差ない威圧感しかない。


 だからこそ、不気味だった。まるで底が見えない。今見ているこいつの姿は本当のベルガーなのか?まだ何か……見落としがあるんじゃないか?


 魔王?四天王?魔界貴族?……どうやら、自分達はとんでもない大物とかち合ってしまったらしい。




読んで頂きありがとうございます。

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[良い点] お互いに、 変なふうに思い込んで、 変なふうに勘違いして、 変なふうに噛み合っちゃって、 変なふうに盛り上がって、 それが俯瞰してる読者視点だと喜劇なんですけど、当事者たちは必死も必死…
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