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事前登録したら異世界に飛ばされた  作者: たろっぺ
第三章 捧げられた村
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第二十七話 トレント

第二十七話 トレント


サイド 矢橋 翔太



 シャイニング卿の隠れ家の一つがあるという『イノセクト村』へと向かう道中、相変わらず街道から少し外れて森の中を通っていた。


「んー?」


「どうしましたホムラさん」


 何やら考え事をしている彼女に声をかける。


 まさかとは思うが、この森の中で火炎魔法を使う手段を考えているとかではないだろうな。


 結界ならともかく、攻撃魔法を使われたら最悪自分達が炎に巻かれて死ぬのだが。


「いや、よく考えたら森も財産だなーと。そこを勝手に通ったり、動物を獲っていいのかなって」


「ああ、それですか。俺も前にアミティエさんに聞きましたよ」


「あ、そうなの?」


 ぶっちゃけ日本人としては当たり前の感覚である。山や森だってその所有者の大切な財産だ。


 木々は材木や薪に。山菜や木の実は食料に。動物は家畜にできる。偶にやらかすキャンパーとかいるらしいが、普通に犯罪だ。


 で、自分達はセーフかと言うと。


「帝国だったら普通に死刑だね」


「ええ!!??」


 ニッコリと笑顔で答えるアミティエさんに、ホムラさんが目を向く。


「けどうちの国ではセーフだよ。山賊でなければだけど」


「お、おう?」


「基本的に、狩人も冒険者も足りてないんだよね。帝国以外は」


 コールウェット帝国。この大陸最大の国にして、陽光十字教のバックにいる存在。


 あの国は大陸最強の軍事力を有しているうえに、『立地』がいいから兵士だけで魔物や魔獣に対処できるらしい。だから冒険者はほとんどいないとか。


「この大陸はね、西に行くほど魔の領域に近くなっているんだ」


 大陸の最東を支配する帝国。それから少し西に行った所にこの国、『ファルスト王国』を含めた五か国があり、その西側に十六ほどの小国があるのだとか。


 前に現在地を『大陸の東にある』と言われたが、この世界だと『帝国を抜いた国々の中で』となるらしい。それぐらい、この世界の住民には帝国が東にあるのが当たり前の事なのだとか。


 そして、問題は十六の小国よりも西側。事実上の、『大陸のもう半分』。


「西の小国の先に広がる『魔の森』っていうのがあってね。そこにはたくさんの魔物や魔獣が生息しているんだ。つまり……」


「あー。その魔物がこっち側に来るから、西側ほど被害にあっていると」


「そういう事だよ」


 基本的に、帝国までは魔物はたどり着けないらしい。だから帝国は余裕があるし、逆に西に行くほど国々に余裕がない。


 一応、あんまりにも魔物の被害が酷い時は陽光十字教からなんとか神聖隊というのが出撃し、迎撃を手伝うらしい。


 なお、その出撃費用は救援要請をした国もちである。まあ、その分その神聖隊とやらは強いらしいが。


「だから、森に入って危険な生物や魔物を殺してくれるのはOKなんだよ。もちろん盗賊以外でだけど」


 なお、よそ者が大人数で猟補をした場合も大抵は『盗賊』扱いされるらしい。


 いや、むしろそうやって余所の土地で大人数が行動する事自体『侵略行為』か『盗賊の集団』って事らしいが。


「……ちなみに、盗賊って捕まえたらどうすればいいんだ?やっぱその辺の兵士さんの所まで引っ立てるとか?」


「え?そっちの世界だと盗賊って捕まえるの?あ、他の盗賊の場所を聞き出すため?」


「あ、大丈夫でーす」


 察した。うん。人権って言葉そういやないんだったわ、この世界。少なくとも『市民権』とやらを持っていない人達は。


 ただなぁ……この二人とか滅茶苦茶狙われそうな容姿しているからなぁ。


 チラリと二人を見て、視線が胸元に吸い寄せられるのを気合で抗う。


 今はアミティエさんが道を選んでくれているから、襲われる事はない。だが、そのうち遭遇してしまったら対処しないといけないのは確実だ。泣き寝入りは断じてNOだ。降りかかる火の粉は全力で払う。


 ……相手をどうするかは、ケースバイケースとしか言えないかぁ。


「あ、待った」


 その時、直感に反応があった。


 即座に二人の前に出て、腰の剣を抜く。自然と背後で二人も戦闘態勢に入るのがわかった。


「場所と数はわかる、翔太君」


「ごめん、わからん。あの辺だと思うんだけど……」


 気配からして、たぶん人外。けど場所がわからない。


 視線の先、ちょうど進行ルートから危険を感じ取っているのだ。それも、十メートル前後の距離で。


 だが視界に映るのは普通の木々だけ。魔物や魔獣の類は見つけられない。


 直感の誤作動?いいや。このスキルには何度も助けられた。となれば、よほど高い隠密能力を持っているか。


「……わかった。あの木だ」


「え?」


 アミティエさんが自分の陰から一本の木を指さす。あそこに隠れているのか?


「あの木そのものが魔物だよ。たぶん、トレントだ」


「トレント……木の化け物か」


 ゲームとかで偶に見るモンスター。作品によって見た目はまちまちだが、基本的には大木に手足と顔がついているような姿が浮かぶ。


 腰の剣を戻し、代わりに『山剥ぎ』を引き抜いた。まるで歓喜する様に、刀身が鈍く輝いた気がする。


「トレントの特徴は」


「本体は根っこだけど、上の部分を破壊しても死ぬよ。大抵のはその場から大きく移動できない。けど木の部分全体を動かしてこちらを捕まえようとしてくるし、蔦に化けた触手は二十メートルまで届いたって例もあるね」


「つまり、ここも射程圏内と」


「……そうだね。よく見たら土に隠れて蔦が潜った跡が見える。相手に耳や目はないけど、触覚からこちらの位置を把握してくるよ」


「下手に動けば位置を悟られるか。なら、遠距離攻撃だな」


「お、私の出番?」


「ホムラさんは下がっていてください。山火事はごめんです」


「くーん……」


 ぶっちゃけこういう場所だとこの人の魔法が一番怖い。空気は乾燥していないが、それでも危険である。


 この前みたいにグールの軍勢とか来たら頼りになるから、適材適所と言うべきか。


「俺が攻撃したら、それぞれ動いて」


「わかった。ウチとホムラさんは安全な木に避難して援護するよ」


「ふっ、アミティエちゃんは任せろブラザー」


「了解」


 そっと、右腕をトレントへと向ける。


「『マグヌス・ラケルタ』」


 掌に突起のある円が浮かび――。


「えっ」


 なんかとんでもないスピードで赤い光弾が飛んでいった。


『ギィィィィィィィィ―――!!??』


 目の前の『根元近くでへし折れた木』からつんざく様な絶叫が聞こえる。


 ラケルタが着弾した箇所が大きくはじけ飛び、四メートルはあった大木がばっきりと折れていたのだ。それどころか貫通して別の木までへし折っている。


こちらに向かって倒れたトレント。その先端部が開き、ギザギザとした歯が並ぶ口を向けてきている。


 予想以上の火力が出てしまったが、計画に変更はなし。『山剝ぎ』を手に駆ける。


 周囲で土を巻き上げて触手が跳ね上がり、狙いもなく暴れ回る。他の木々に次々とぶつかるのだが、それらはかなりの威力があるらしく女性の胴ほどもある枝まで簡単にへし折られている。


 自分でも直撃すればただでは済まない。一撃ならともかく、二撃、三撃と受ければ動けなくなるだろう。だが幸いなことに狙いは定められていないようで、周りの木々を盾にするようにして走った。


 近づいた事でこちらに気づいたか、トレントの口が自分に向く。正面から見るとヤツメウナギを連想する口内だ。


 触手をアンカーのように他の木々や地面に巻き付け、体をうねらせて突っ込んできた。思ったより速い。自動車なみだ。


 が、それでも周りの木々で軌道が制限され、どういう経路かは読みやすい。


 アニメやドラマの動きをイメージ。この肉体は、俺の想像に応えてくれる。


三角跳びの要領で木々を蹴って、突っ込んで来たトレントの上に。下を通り過ぎる寸前で真上から大剣を振り下ろした。


 バッキリとトレントの体をかち割る。斬った感触は木そのものだ。正直見た目のせいで違和感が強い。


 ビタンビタンと痙攣した後、トレントが動かなくなったのを確認。念のため二度『山剝ぎ』を突き立てた後、死んでいると判断して降りる。


 ちょうどアミティエさんとホムラさんも木々から降りてきた所だった。くっ……のぼる瞬間と降りる瞬間を見逃したか。


 終わってみれば、精神的には余裕がある。ふっ、俺を焦らせたければカーミラとかドラゴンとかを連れてくるがいい。


 まあ、そんな奴そうそう出くわすはずがないけどな!!


「いやー、凄いね翔太君。あの赤いの、前にドラゴンの左目を潰していたやつだっけ?威力上がっていないかい?」


「ああ。前使った時よりもかなり強くなってる。たぶん、MAGのステータスが上昇した影響かな」


 まさかこれほどまでに影響が出ているとは思わなかったが。まあ威力があるのは良い事である。


 これならスノードラゴンだってワンパン……!いや無理だわ。当たる気がしない。というか当たっても即死とか絶対にないわ。


「ふ、ふーん?しょ、翔太もいい遠距離攻撃使えるじゃん?け、けどこの炎上系アイドルホムラちゃんの魔法だって負けてないしー?」


「疑問なんだけど、『炎上系アイドル』ってなんなんだろうね。名前からして炎使いなんだろうけど」


「いや、ただの馬鹿って意味でいいと思う。あるいはお騒がせ」


「なるほど」


「そこぉ!泣くぞ!?私はメンタル弱いんだからな!?」


 知ってる。なんならこのメンツで精神的には一番頼りにしちゃいけない人な気もしている。


 まあ、それは置いといて。


「変に張り合わなくても、火力面ではホムラさん頼りですよ、森とか可燃物に囲まれている状況以外は」


 MPこそ増えたが、それでもラケルタの消費魔力は馬鹿にならない。ごっそりと三分の一近くがもっていかれた。


 瞬間火力ならホムラさんに匹敵するだろうが、とても連発はできない。


「ほほぉ!まあ、当然だけどね!?」


「はいはい。それより、これでトレントは死んだんだよね?」


 胸を張るホムラさんから視線を逸らせないままアミティエさんに尋ねる。ちくしょう、ナイスおっぱい。


 ……なんか適当におだてたら揉ませてもらえないかな。いや、流石にそれは人としてアウトか。


「うん。これで死んでいるよ。根っこの方も、あの状態だし」


「あの状態?……うわぁ」


 アミティエさんの言葉に、断腸の思いで視線をそちらに向けたらとんでもない物を見てしまった。


 なんというか、『陸揚げされた魚みたいになっている根っこ』?


 トレントの根本部分が地面からはい出し、痙攣しているのだ。ぶっちゃけキモイ。


 そっと視線をアミティエさんの顔に移動させる。可愛い。目の保養である。視線を下げればたわわに実った双丘が。エロい。


 ……いかん。精神的にダメなのは俺もかもしれない。これもスノードラゴンのせいだ。あのドラゴンには必ず報いを受けさせる。


「それにしてもトレントがいるなんてね。ここはよほど栄養のある森なようだよ」


「あ、この魔物もマタンゴと同じで森を豊にするの?」


「マタンゴ……何故だろう。覚えがないのに背筋が凍る気がする」


「ホムラさんマタンゴに食べられかけてましたからね」


「食べられかけていたの!?」


 何か騒ぎ出したホムラさんは放置して、アミティエさんと並んで倒したトレントを観察する。


「トレントは人間には食べられないけど、森にとっては栄養豊富なんだ。その分、トレントが生きていられる森はそれだけ豊かとされているよ」


「はぁ……え、待って。トレントの食べ物って?」


「動物も食べるし周囲の植物を食べる時もあるね。他には根っこから森の栄養を吸っている時もあったかな?」


「お、おう」


 実際に餌にされかけた身としてはなんとも言えない生態である。


 捕食方法は聞かないでおこう。あのヤツメウナギみたいな形状をした、やけにでかい口は忘れたい。


「トレントは肥料として高く売れるからね。砕いて持って行こう。死ぬとすぐに腐ったみたいにバラバラになっちゃうけど、その状態の方がむしろ畑に蒔きやすいって言われているよ」


「なるほど。ほらホムラさん。遊んでないで手伝ってください」


「遊んでないよ!?恐怖で発狂してたんだよ!?」


「なるほどいつもの事ですね」


「最近翔太ってば私に対して雑じゃないかなぁ?」


「気のせい気のせい」


 アミティエさんが取り出した茶色の土のう袋みたいなのに、トレントの死体を『山剝ぎ』で砕いて入れていく。


 金貨はたくさん持っているが、それでも金はあるに越した事はない。それに、場所によっては貨幣では取引できない時もあるらしい。物々交換に使えそうな物は積極的にとまでは言わずとも、可能なら集めるべきだ。


 ソレニシテモ、ナンデアンナ沢山ノ金貨ガ荷物ニ入ッテイルカワカラナイナー。妖精サンガ入レテクレタノカナー。


「よし。これぐらいかな」


 採取したのは三袋。意外と軽く、三十キロほどか。三人でそれぞれ背負う。


 俺が全部持とうかと聞いたら、アミティエさんに苦笑いされた。この森だと俺がメインで戦うので、荷物を持ち過ぎて戦闘に支障が出たら困ると。


 別に美少女にカッコイイ所を見せたかったわけじゃないよ?純粋に善意だからね?


「残りはこの森の養分になる。あまりとり過ぎても邪魔になるしね」


「OKぇ。そう言えばアミティエちゃん。トレントの肥料ってどれぐらいで売れるの?」


「たしか、大銅貨二枚だったかな?」


「ふーん……いや強さのわりにはしょぼくない?」


「買うのは農民だから……」


 二人の会話を聞き流しながら、心の中で同意する。確かに少し安い。


 戦った感覚的に、明らかにクマより強い。ラケルタで砕けたとは言え、初日の頃だったら負けていた可能性もある。蔦の力もそれこそクマをくびり殺す事ができる程だろう。


まあ、一般の人達からしたらトレントよりもクマの方が危険かもしれないが。


 なんせクマは村に侵入して人を襲うが、トレントはほとんど動けない。村に住んでいてどちらが危険かと言われれば、間違いなく前者だろう。もっとも、猟師や開拓民からしたらたまったもんじゃないだろうが。


 あとはまあ、アミティエさんの言う通り購入者がお金のない農村の人達という点だろう。そこの所、もっと治めている貴族とかが買って農村に――。


「待った」


 そんな事を考えて歩いていたが、すぐに思考を中断。立ち止まって『山剝ぎ』を抜く。


「どうしたの、翔太君」


「アミティエさん。さっきのトレントはどうやって他の木と見分けたんだ?」


「……左右対称過ぎる事だよ。普通、自然界の木で左右対称になる木は滅多にない」


 背後で二人も戦闘態勢に入るのを確認。呼吸を整えながら、剣を握りなおす。


 視線は、ゆっくりと眼前の木々へ。


「だけど、これは……」


 あちらこちらから、直感が警告を告げている。


 視界に映る数十本の木々。その二割ほどが、『綺麗なまでに左右対称』だった。



読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。



Q.二章の閑話でスノードラゴン死んだの?

A.ご安心ください。翔太の胸にはがっつりマーキングが残っています。別の個体です。


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― 新着の感想 ―
[一言] あれ?カーミラ戦の最後で剣が折れたってあったから山剥ぎ折れちゃったと思ってたら別の剣だった…?
[一言] え、白いトカゲってスノードラゴンだったの? 流氷に乗ってたし寒冷地特有のアイスサラマンダー程度の魔物だと思ってた んじゃあのインフェルノのじゃロリさんって滅茶苦茶レアを引き当てた強者って事か…
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