閑話 信仰
閑話 信仰
サイド スタート難易度インフェルノ系転移者
「つ、ついた……?」
流氷に乗ってはや二日。遂に陸地へ到達し、安堵の息をはく。
「うおー!生きてる!『俺』は生きてるぞー!!」
小さくなってしまった体を大きく跳ねさせて、喜びを表現する。軽くだと言うのに一度の跳躍で自分の背丈よりも上に跳んでしまうが、それは愛嬌というやつだ。
何はともあれ、五体満足で生き残れた事に神に感謝しなくては。
「『アキラス様』本当にありがとうございます。ありがとうございます!」
空の太陽に向かって二礼二拍手一礼。よし!今日のお祈り終わり!
そのうちどこかに神社か何かを建てないといけないな。まあ、その為にもどこか纏まった土地でも見つけないと。
ピコピコと『本来の耳がある場所から、体毛で伝うように頭頂部に生えた耳』を動かせる。ふわりと腰の尻尾も揺らし、しばし考える。
何はともあれ、まずは現地人と接触しなくては。ただ、『獣人』がどういう扱いを受けるかが謎なのだよな。
そう、今の自分は『狐獣人』。綺麗で可愛いロリっ子狐なのだ。しかも白髪巫女服の!
と、どうやら丁度良く誰かが来るらしい。複数の馬に乗った騎士らしき者達が、土煙をあげてこちらに向かっている。
「おーい!おーい!」
両手をぶんぶんと振って、彼らに声をあげる。はて、聞こえているのか。返事はない。
それはそうと、喋り方はどうするか。いっそ元の喋り方で行くか?いいや、それは今の体に不釣り合いだ。となれば、やはり『のじゃロリババア』路線しかあるまい。
なんでかって?俺、じゃなかった。『儂』はのじゃロリになりたい人生だったからじゃよ……。
そうこうしているうちに、騎士達がやってきた。馬から降りるなり武器を手にして、半円を描くようにこちらを包囲してくる。
はて、どうにも警戒されておるな。ああ、不法入国者だからかの?
「初めましてじゃな、皆の衆!別に儂は怪しい者ではない。遭難者というやつでの。保護を頼みたいのじゃ」
「……遭難者であるのなら、保護をする事に異論はない。『この世の安寧』の為、我ら『ブライト神聖隊』は、人民の守護者である」
おお、どうやら保護はしてもらえるらしい。いやぁ、よかったよかった。
「だが、その前に三つ質問させて頂きたいのだ。フロイライン」
「うむ!よかろう。なんでも申してみよ」
胸を張り腰に手を当てふんぞり返る。見よ、これが儂の考えた最カワな『のじゃロリ獣っ子』じゃ!
さあカモン!
「一つ。そこに浮いている物は、なにか」
「うむ?」
隊長と思しき男が視線を向けた先。儂が乗って来た流氷の横に自分も振り返る。
あちゃー、しまった。陸地を見つけた喜びで忘れておった。
「ああ、これは儂の神通力で浮かばせておった『食料』じゃ。お主らも食べるかの?」
この『でっかい白トカゲ』を仕留めたはいいものの、他のトカゲに吹き飛ばされてしまったのは痛かった。おかげで流氷で二日も彷徨う羽目になったのだから。
まあ、こうして遭難中の食料には困らんかったがな。
「いいや。それは遠慮させてもらおう。では、二つ目の質問だ。君は『まれ人』か?」
「……?すまぬ。そもそもまれ人とはなんじゃ?」
「時折、この世界とは異なる世界に住む住民がやってくる事がある。それがまれ人だ」
「おお!ではその質問には頷いておこう!そうとも、儂はまれ人の一人じゃ!」
いやぁ、事情の説明が省けて助かるわい。これもアキラス様の思し召しじゃな!
儂がガチャで引き当てた祭壇。それによりあの女神様とお話しする事が可能じゃが、次お答えしてくれるのは一月後。
これからどうしようかと悩んでいたのじゃが、これで光明も見えたというもの!
見ていてくだされアキラス様!儂は御身への御恩を返すため、貴女様が与えてくださった使命を果たすのじゃ!
「……では、最後の質問だ。まれ人である君は、何を望む?静かに暮らすと言うのであれば、力になってやれるが」
「おお。目的ならば勿論あるぞ」
これも何かの縁。『神聖』と名乗っておるのだ。きっとこやつらもアキラス様を信仰しておるに違いない。
もはや運命。アキラス様が儂に早く使命を果たせと言っておるのだ。
「儂の目的。否、使命は『この世界に変革を起こす事』!儂の持ちうる全ての知識、全ての力を使い世界を変えてみせようぞ!」
そして、あわよくば『儂個人の目的』も果たすとしよう。
さあ、皆の者ついてまいれ!お主らも儂の後に続かせてやろうではないか!
「なるほど――総員、ここでこいつを殺す。いかなる手段を用いてでも、この『神敵』を生かしておいてはならん」
「「「了解!!」」」
「え?」
「覚悟しろ、神の意に背く悪魔め。そっくび叩き落して、『世界の安寧』の礎としてくれる」
「えぇ?」
嘘じゃろお主ら。こんな儚げな幼女に、むさくるしい男ども全員が武器を向けて殺気を送るとか正気か?
というか、え、『神の意に背く悪魔』?待って。まさかこやつらの神、他の神様?
「ま、待つのじゃ。お主らの神の名をきかせよ!儂はどんな神様でもわりと信仰できる心の広さをもっておるぞ?」
「黙れ。我らが神、『アキラス様』も貴様の様な信徒はいらぬだろうよ。そもそも、複数の神を信仰するとは、この外道めが」
吐き捨てるように吠える隊長らしき男。
え……え?
こやつらの神、『アキラス様』なの……?
読んで頂きありがとうございます。
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この少し後に、第二章の設定を投稿させて頂く予定です。そちらも見て頂ければ幸いです。




