第二十六話 夜が明けて
第二十六話 夜が明けて
サイド エルギスの街長スタンク
「ふぅ……」
ペンを置き、ようやく一息つく。
どうにか街周辺にあったダンジョンは片付けた。被害は少なくないが、早期解決できたのが功を奏した。不本意ながら、アミティエ達が一つ潰してくれたのが大きい。
まあ街の仕事は減っても、俺の仕事は増えたけどな!?あいつらほんと親子だよ!!
ああ……ワイスさん。なんでもっと娘さんを貴女の方に似せなかったのですか。なんですかあの女版ジョージみたいな奴。
とにかく、これで少しは時間の余裕ができた。
後はうちの妻の実家から、多少なりとも支援を引き出さねば。
あまり夫婦仲も、相手の実家とも懇意ではないが、それでも妻の父親である『カイラール街長』はケチでガメツイが話せばわかる人間だ。きちんと利益を提示して交渉すればどうにかなる。
あちらの方は比較的スノードラゴンの被害が少なかったはず。どうにか支援を約束してもらわなければ。後が怖いが、まずは今だ。
その時、突然部屋のドアが開けられた。かなり勢いがよかったので、咄嗟に戦闘態勢を取りそうになる。
だが、入って来たのは細面の我が秘書だ。
「どうした。なにかあったのか」
「ヴァルピスが落ちました!」
「……は?」
思わず間の抜けた声が出る。なんて?
う゛ぁるぴす。ヴァルピス。はて、義父の治める街と同じ名前だなぁ。不思議な偶然もあったものだ。そんな名前の村がどこかにあるのか。
「もう一度言え。ゆっくりと、丁寧にな」
「……このエルギスから最も近い街、ヴァルピスが陥落しました。詳しい情報は不明。なれど、街長含め住民の大半が死亡したとの事」
「うそーん」
思わず変な声が出る。えー、いや、だって……えー。
理解が追い付かない。だが、まだだ。まだ頑張れる。頑張れスタンク。ジョージの無茶ぶりに比べればまだやれるはずだ!
「誰にやられた。その犯人共はこちらに向かって来ているのか」
「報告に来た兵士の発言では、やったのは伝説の吸血鬼『カーミラ』。しかし既に旅の者に討伐されていると……」
「 」
目が点になった。ついでに顎がはずれた。
嘘やん。
「旅人たちの名前は兵士も知らないとの事でしたが、銀髪の少女に黒髪の少年。そしてフードをかぶった女性だったそうです」
「 」
あみてぃえちゃん?ちょっとなにしたの?おじさんにおしえて?
あ、やばい。吐きそう。
「生き残りがこの街への支援を求めています。また、ヴァルピス周辺の村々から今後どうしたらいいのかと問い合わせが多数来ておりまして……」
「……伯爵への報告書作成の為、その兵士とやらに話をきく。それと俺の部下共を集めろ。街の警戒態勢を引き上げ、それからヴァルピスへの派遣を行う。妻にはまだ黙っておけ。いいや他の者全員にだ。余計な混乱は避けたい」
「はい!」
吐き気を堪えながら、どうにか指示を出して秘書を見送った。
天井を見て、大きくため息をつく。
「これ、俺が誤魔化さないといけないんだよな……」
アミティエと同行しているまれ人二名。あいつらの素性を陽光十字教に知られるわけにはいかない。最悪、アミティエも俺も討伐対象にされかねない。
『スタンクぅぅぅ!すまん、領主の武官やっちゃった!どうしよう!?』
「ジョォォォォジィィィィ!!!」
親子二代で無茶ぶりすんのは本当にやめろバカぁぁあああああああ!!??
* * *
サイド 矢橋 翔太
「吸血鬼こわい。もう二度と戦いたくない……死んじゃう」
拝啓、お母様、お父様。お元気ですか?俺は死にかけましたが、どうにか五体満足で生きています。正直自分でもびっくりです。凄いですね、人体。お母様に産んでもらった体と今の体は違うのですが、神に感謝するのは癪なので貴女にお礼を言いたく思います。
あの騒動から数日。自分達はまた旅を再開した。
自分が目を覚ましたのは気を失って一時間後。しかし激痛でまた三十分ぐらい気絶し、その後どうにか自分で自分に白魔法を使ったわけだ。
治療が完了し、少しだけ復興作業を手伝って、後の事は知らんと出発した。大きく手を振って、『ありがとう』と見送ってくれた街の人々が少しだけ印象に残る。
ヴァルピスがこれからどうなるのか。自分にはわからないし、正直あまり興味もない。どちらかと言うと、ご近所さんがこうなったスタンクさんが心配である。
正直、彼には迷惑をかけると思うのでちょっと申し訳ない。もしも日本に帰れるとなっても、一度お礼を言いに行くべきだろうな。
「めっちゃ弱気じゃん。吸血鬼を相手に大立ち回りしたんじゃないの?」
「うん。翔太君のおかげで作業に専念できたよ。随分うまく挑発してくれたみたいじゃないか」
不思議そうなホムラさんとアミティエさん。その二人に引きつった笑顔を返す。
「いやね。あの時は怒りと脳内麻薬で酔っぱらっていましたが、冷静になったら滅茶苦茶やったなと我ながら。というか、マジで死にかけましたし」
「それはねー。全身に裂傷と打撲。骨折十カ所以上。そのうえ左腕は開放骨折が二つ。左肺に肋骨が刺さっていたし、背中も脊髄が露出している箇所が……」
「やめて!?詳しく説明しないで!?」
思い出しただけで体が痛くなってくる。そりゃ目覚めてもまた気絶するわ!痛いもん!つうかよく死ななかったね俺!?
「むしろなんで後遺症もなく普通に歩けてるの、翔太君……」
「頑丈な体だったので……」
いやそうとしか言いようがないよ。
うろ覚えだけど、たしか『VIT』の値と『SIZ』の値の差が後遺症というバッドステータス判定に関わっていた気がするが、それかもしれない。
とにかく全身に傷跡こそ残ったが、それもしばらくすれば消えるだろう。頬の傷にいたっては既に綺麗さっぱりなくなっているし。
なお、何故か右胸だけは無傷だった。くそが。
「けど、本当に俺らは街から出てよかったのか?スタンクさんに会っといた方がいいんじゃ」
やはりそこが気になる。なんとなく、あの人は俺達が教会に目を付けられないよう頑張ってくれそうだし。
だが、アミティエさんは少し申し訳なさそうにして首を横に振る。
「いや。たぶんウチらが留まったらもっと面倒になるよ。吸血鬼が出た以上教会が出張ってくるし、ウチらが現場にいたら住民からの証言でこっちに話しが回ってくる。そうなったら、スタンクさんも庇いきれないと思うな」
「そっかー……」
となると、やはりこれがベストと言わずともベターか。すみませんスタンクさん。
「それよりさぁ、早くどっか大きな獲物がいる所探さない?試し打ちしない?」
そう、目を輝かせながら聞いてくるホムラさん。彼女の手には真新しい杖が握られていた。
今回の件でたまったガチャポイントを使い入手した☆4の『赤蛇の杖』。木製の杖に黒い蛇が巻き付き、先端で赤い宝石を咥えている。
「いや、俺はもうしばらく戦いとか嫌ですよ……そっちだって魔力切れ寸前だったらしいじゃないですか」
「まーねー。思った以上にグール達が来て、兵士達が勝手にそっちに向かっちゃったからねー。私のMPも残り1だったし」
まあそれでこちらは助かったが。最後エンチェントをかけてもらわなかったら心臓まで届いたかわからん。
それにしても、あの戦いで死者ゼロは奇跡である。教会に残っていた神父と顎髭隊長とその家族も無事だったらしいし。
……まあ、グールとなってしまった人達はカーミラが死ぬと同時に灰になってしまい、埋葬すらできなかったが。
「翔太だって色々ガチャアイテムとか称号手に入れたんだろぉ?いいじゃんかよぉ」
「ちょ、くっつかないでください」
「あ~ん?お姉さんに欲情しちゃったかぁ?このスケベ!」
「理不尽!?」
ふざけ半分に腕を抱かないでほしい。マジで反応してしまうから。
くっ、やはり『挟んでください』とばかり空いているあの衣装やばいって!生乳が!生乳の感触が!
「そう言えば、翔太君から貰った矢を使ってしまったね。ドラゴン用に考えていたのに、それを謝っていなかった。すまない」
「いえいえ。むしろ助けてもらったので。こちらこそありがとうございました」
アミティエさんが放ったあの矢。前に自分がガチャで引き当てた矢だが、どうやら使い捨てだったらしい。
俺を殺そうとするカーミラの動きを止める為撃ち込んでくれたようで、おかげで命拾いした。
「あの作戦も二人にかなり負担をかけてしまったからね。ウチも、もう少し力になれたら良かったんだけど……」
「いや、命がけだったのは全員でしょ」
「そうそう。アミティエちゃんも滅茶苦茶がんばったじゃん」
というか、誰か一人いなくても成り立たない作戦であった。
『ホムラさんと兵士さん達が囮になって吸血鬼たちの視線を誘導』
『その隙に自分が館を強襲。吸血鬼からのヘイトを集中させる』
『自分達が二人とも囮になっている間にアミティエさんが住民とダイナマイトを設置』
『彼女に渡した時計と館内の時計でタイミングを合わせ、館を爆破。日の出と共にカーミラを太陽の下に』
というのがあの日の作戦だった。
後から見返すとかなり大雑把で穴だらけの作戦だったが、しかしそれしかなかったのだ。
自分達はお世辞にも練度が高いとは言えず、住民もあまり戦力にはならない。なおかつ相手は明らかに格上。むしろ、確実に勝てる手をあの場ですぐに考えられる奴は軍隊にでも入った方がいい。
「あとホムラさん。俺のガチャ結果と称号的に、それらをあんまり活躍させる機会には来てほしくないんですが……」
「え?そう言えばまだ聞いてないっけ。どんな称号とアイテムが手に入ったの?」
「ああ、ウチも聞いていなかったね。教えてもらってもいいかい?」
自分があの後、傷もある程度治って回したガチャの結果。二十連共に最低保証だった。
つまり☆4は二つ。
一つは『怪腕の刻印』。効果は対象のSTRに常時+5される。
こっちはいい。当たりである、問題はもう一つ。
これも有用ではあるのだ。むしろ先の刻印より当たりかもしれない。が、絶対に使いたくない。
もう一つは、『哀れな生贄』。
見た目は十字っぽい形の人型。白い木製のそれに服を着ているかのような絵が描かれ、胸の位置には待ち針らしき物が刺さっている。そして、のっぺらぼうな顔の口部分には、まるで糸で縫ったみたいな模様が入っている。
まるでこれが人の死体であるかの様に思えて気持ち悪いのだが、その効果は『装備者の死を一度だけ肩代わりする』という、ある意味最高の能力。使い捨てだが、それでもありがたい。
なお、複数装備は不可能なもよう。一緒にあったメモに、『共食いするから無理』とあった。冗談だよね?冗談と言って?
「つまり、刻印はともかく人形の方は使ったら俺が死ぬ状況です……」
「ああ、うん……」
「そういう状況は勘弁願いたいね……」
日の光を浴びながら街道を歩いているのに、若干お通夜みたいな空気が流れる。
この世界、マジでいつ死ぬかわからないのだ。ふふ……こわい。おうちかえりたい。
「で、称号の方ですが」
「え、そっちも厄ネタなの?」
そこは微妙ですよホムラさん。ただ、俺はこの称号が機能する所に出くわしたくないですけど。
そう心で呟いて、新たに手に入れた称号を語る。
『ヴァンパイアハンター』
吸血鬼との戦闘時、SIZ以外の基礎ステータスに+3される。
『吸血姫の見た陽光』
その肉体。及び使用した武器が一時的に太陽の光と同じ力を魔性の存在に与える。
……うん。
「つまりこれらが活躍する時ってまた吸血鬼に襲われた時ですよね!?いやだよ!?」
二度と戦いたくねえよ!こわいもん!
「ま、まあまあ。いざという時の備えとしてね?」
「無理だよアミティエさ~ん……俺怖いよほんと。無理だよマジで~……」
「あ、これダメだアミティエちゃん。翔太ってば幼児退行してる」
トラウマ不可避だよあの化け物。無理無理。ああいうのはもっとこう、『ザ・英雄』って感じの人が対処してください。
「ま、まあほら!このレベルが上がったホムラちゃんに任せたまえ!なーんと、全レベル7に到達したスーパー火力の持ち主だぞー!」
「あ、俺全レべ10になったので。おつかれーす」
「はぁぁぁ!?私あんなにたくさんのグールと戦ったのに!?」
「いやぁ……才能、ですかねぇ」
「は・ら・た・つ。やっぱあれか?ボスへのラストアタックか?よし翔太。次それぽいの見つけたらいい感じに削ってから私に回して」
「(そんな余裕は)ないです」
無茶を言うな。カーミラクラスが出てきたら俺は一目散に逃げるぞ。全力で後方に進軍する構えである。
命がけの戦いとかね、そういうのは戦闘狂な人がやってくれ。俺は平和主義者なのだ。ラブアンドピース……なんていい言葉なんだ。自分は平和に目覚めた。
話し合い……そう話し合いは全てを解決する。話し合いで纏まらなかったら相手を殺すから結果的に話し合いで終わるのだ。俺は覚えた。
「あはは……それはそうと二人とも、次の目的地なんだけどね」
「あ、うん」
アミティエさんが例の本を広げる。彼女がその白く綺麗な指でとある場所を指し示した。
「『イノセクト村』。ここに、シャイニング卿の隠れ家の一つがあるらしいんだ。スタンクさん達は直接行った事はないらしいけど、卿が呟いていたのを覚えていたんだって」
「なるほど……つまり、今度はそこに?」
「うん。いいかな?」
「俺は賛成ですね。ホムラさんは?」
「さんせ~い。他に行く当てもないしねー」
決まりだな。
ある程度生き残りの支援をした後、物資は破壊された街から補充させてもらった。火事場泥棒みたいで気が引けるが、アミティエさんの『吸血鬼退治の報酬としては安いと思うよ』と言う言葉に、個人的には納得して貰い受けた。
腰には新しく入手した片手半剣。これも片刃で、大きな街の武器屋だけあっていいのが手に入った。いや、良し悪しはわからんからアミティエさんに目利きしてもらったけど。
そして防具も、街にあった材料でこれまたアミティエさんが直してくれた……うん。
「アミティエさん。いつもありがとうございます……!」
「え、あ、うん?どういたしまして?」
本人は戦闘力を気にしているようだが、むしろ貴女いないと俺ら行き倒れる気しかしないんだが?
ついでにいつの間にかホムラさんとアミティエさんが街長の館から回収していた大量の金貨。うん……俺は何も見なかった。見なかったったら見なかった。
とにかく、装備は十分。
「じゃあ行こうか、『イノセクト』村へ」
「おー!!」
「お、おー」
それにしても、シャイニング卿かー……。
絶対に碌でもない人なのだろうなと言うのは、確信が持てていた。
読んで頂きありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
この少し後に、閑話を投稿させて頂きたいと思います。そちらも読んで頂けたら幸いです。




