第十五話 ガチャァァァ!!
第十五話 ガチャァァァ!!
サイド 矢橋 翔太
「剝ぎ取り品の品定めだ野郎どもぉ!」
「お、おお?」
シャウトするホムラさんに若干ひく。というかなんだ剝ぎ取り品って。いや言いたい事はわかるけども。
とりあえず水浸しで気持ちの悪かった足元から移動し、森の中に。
「まずはなんか水が出てた腕輪ぁ!」
未だ自分が持ったままになっている腕輪に視線が集まる。
青をベースに白のラインが入ったそれは、ホムラさんの服ほどではないが魔力を帯びている。つまり魔道具だ。
効果は恐らく『水の生成』。これによって生み出された水はダンジョンが消えた今も健在らしく、ダンジョンがあった場所は水浸しだ。
「とりあえず、魔力流してみます?」
「そうだねー。じゃ、頼んだ翔太!爆発したら頑張って耐えてね!」
「いやしないでしょ」
「傷薬は持ってるから、頑張ってね」
「アミティエさん?」
やめてそういう不安にさせる事言うの。怖いから。
二人の言葉に若干ビビりながらも腕輪に魔力を注ぎ込む。すると、腕輪の一部から水が出始めた。
勢いは蛇口から強めにでる水ぐらい。色や匂いに目立った所はなく、消費魔力は『ヒール』一回分ぐらいか。そして流れた水の量は……1リットルぐらい?
「魔力をちょっとそそげば1リットルぐらい水が出る、と」
「魔力的にも特に変な所はないよー。ぶっちゃけ普通の水」
「飲んでも大丈夫な水かは後で調べるけど、たぶん大丈夫じゃないかな?そうでなくても洗い物とかには使えると思う」
……結論。
「下手な武器より重要では……?」
「それな」
旅をしていて思うのは、水の大切さだ。
もちろん他にも苦労する事はたくさんあるが、現代日本人としてはやはり衛生環境は気になってしまう。飲み水意外にも色々使いたいのだ。
幸いというか、アミティエさんはお父さん経由で外の情報を知ったお母さんが、『防疫にはまず清潔』とその辺の考えを徹底したらしいので、彼女の衛生感覚はわりと日本人に近い。
ただその分、消費する水の量は多くなってしまう。ぶっちゃけ自分が運ぶ荷物の半分近くは水だ。川などの比較的近くをルートとしても選んでいる。
しかし、この魔道具を使えばどこでも水が手に入るのだ。旅をしていない人でも、大抵の人間が欲しがるだろう。
「というわけで、どうぞ」
「え、いいの?」
なんで驚いた顔してるんだアミティエさん。
「ウチ、特に活躍してないけど」
「いや、滅茶苦茶助かったけど」
「それな」
ぶっちゃけ、あのダンジョンは自分とホムラさんだけだと見つけるのも大変だった。その上内部の探索となると、迷っていた可能性がある。
索敵でも助けられたし、戦力でなくとも彼女の活躍は非常に重要なものだった。
「うーん……正直、二人の戦いがおとぎ話過ぎて実感わかないと言うか、麻痺していると言うか……」
「麻痺している自覚があるなら、余計に受け取った方がいい。その方がお互いの為だと思うし」
自分は嫌だぞ。ネット小説によくある追放物の追放する側みたいになるの。
「……それもそうだね」
こちらの意図を察してくれたのか。はたまた客観視して最初に決めた報酬に値する働きだったと自覚したか。どちらにせよアミティエさんが自分の左腕に例の魔道具をはめる。
彼女の魔力量は自分の半分以下だが、それでも頑張れば10リットルぐらい出せるだろう。
「はいじゃあ次ぃ!翔太お前ガチャポイントどんぐらい?というか『称号』なんか入った?」
「そうですね……ガチャポイントは十連一回分ぐらい。称号は……おお」
『迷宮踏破』
SIZ以外の基礎ステータスに+3される。
「滅茶苦茶当たりの称号がついてました。『迷宮踏破』っていうのが」
「マジか。私も私も。なにこれすっげ……こんな簡単に手に入っていい称号なのこれ」
確かに……『竜払い』の難易度というか、それに付属する因縁と比べたらかなり軽いんだが。
「いや。二人こそ麻痺しているけど、普通ダンジョンを制覇するっていうのは十分に凄い事だからね?場合によっては吟遊詩人が暫く語るぐらいだよ?」
「そんなに!?」
吟遊詩人ってアレだろ。酒場の隅の方でギターとかを奏でながら英雄とかの歌を歌っておひねりを貰う。場合によっては街の貴重な情報源扱いもされる人達。
日本だったら地方新聞とか夕方のテレビに出るぐらいの話しという事か……こう言うと微妙だな。
「まあ、とにかく。翔太よ。わかっているな」
「ええ、ホムラさん」
目を細め、互いに真剣な表情で見つめ合う。その身に纏う雰囲気は尋常ではなく、正に戦場に赴くがごとし。
「っ……どうしたの二人とも。まさか敵襲?」
「いいや、違うよアミティエさん」
「そうだよ。アミティエちゃん。私達は、これから――」
そっと、ステータスに指を這わせる。
「「ガチャの時間だー!!」」
ヒャッハー!我慢できねぇ!
「が、ガチャ?」
疑問符を浮べるアミティエさん。前に大雑把な説明をしたが、自分達のテンションについていけてないらしい。
「ふー!私は今回六回分のポイントたまったからね!一日一回毎朝まわして行くどー!」
「笑止!単発教に明日はない!ここは確実な十連ですよ!」
まあいい。互いの宗教は尊重されるべきもの。ホムラさんが寝起き単発ガチャ教だろうと、俺のガチャには関係ない。
ここで絶対……俺は『ドラゴン絶対殺せる剣』とか『どんな呪いも解ける薬』とか出すのだ!
「いや……どっちも別に確実性は」
「うおー!でぇろぉぉおおおおお!」
「聞いてないね」
俺は特に宗派をもたないが、それでも単発は信じない!やはり十連。十連ガチャだけが救ってくれる。
だから頼む!なんかいい感じの出てくれ……!
『☆1ナイフ』『☆2懐中時計』『☆1干し肉』『☆1干し肉』『☆2麻の男物衣服』『☆1火打石』『☆1乾燥パン』『☆4蛮刀・山剥ぎ』『☆3呪毒の矢』『☆4経験値結晶』
「お、おお……?」
☆4二枚抜き。とりあえず最低保証だけという事態は免れたが、これはいったい?
とりあえず刀……というか『大剣』の方を手に取る。
かなりの大きさだ。柄だけで三十センチ。不思議な鞘に包まれているが、側面のレバーを動かすと鞘が縦に割れた。抜刀しやすくする為か?
現れた刀身は刃渡り約百六十センチに、幅十五センチほど。かなり分厚く、切っ先は峰側が短くなるように斜めとなっている。
印象としては『超巨大な鉈』だろうか。刃の部分が深い緑色をしているのが特徴的だった。
「おお!なんか凄そうな剣じゃん!」
「これはまた……普通の人じゃ振るうのも大変そうな剣だね」
ずっしりとするこの感覚は、もしかしたら二十キロはあるかもしれない。どこかで聞いた大剣の重量って重くても十キロほどだったはず。その倍はあるのか。
儀礼用ならともかく、実戦では通常使い物にならないはず。だが。
「よっ、と」
彼女らから数歩は離れ、試しに縦に横にと振るってみる。剣の重さに体が流されそうだが、膂力の方は問題ないらしい。
「おお!漫画のキャラみてぇ!」
「うわぁ……本当に凄いパワーだね」
若干ひいている様子のアミティエさんに、頭を掻きながら問いかける。
「いや確かに振るえるけど……体が引っ張られるというか」
「それはそうだろうね。翔太君の重量は装備を含めても百キロちょっと。その剣は見た感じ二十キロはありそうだから、立って振るうにはよほど体幹がしっかりしていないと。もしくは工夫が必要だね」
「工夫?」
「うーん……例えば、剣に引っ張られるのを利用して、連撃を叩き込んでいくとか?」
そう言ってアミティエさんがこちらの腰に提げている剣を引き抜く。いつ近づかれて、いつ引き抜かれたのか一瞬わからなかった。
「借りるね?」
「え、あ、はい」
我ながら間抜け面を晒している間に、彼女が剣を振るっていく。
自分が購入したあの剣はそこそこの重さを持っている。形こそ違うが、この大剣と同じく鉈みたいな物だ。素人の自分でも壊さず、相手を叩き割る為に。
彼女の細腕で振るうにはあまりにも重い武器であるはずなのに、その太刀筋はあまりに綺麗だった。
「すげぇ……」
「踊り……?」
感嘆の声をあげるホムラさんの隣で、ただアミティエさんの動きに見惚れる。
服の上からでもわかる魅惑的な肢体を動かし、まるで神仏へ捧げるかのような剣舞。揺れる髪。存在を主張する胸。細い腰は動きに合わせて捻られて、しかしすぐさま解放されて次の挙動へ。
長い脚は軽やかにステップを踏み、力強さはないはずなのに――その剣は自分が振るうそれよりも遥かに速く、鋭い。
「という感じ……かなぁ?」
どれほどの時間だったろうか。一瞬にも、一時間にも感じられる。だがアミティエさんは息を切らすでもなく、ニッコリといつも通りの笑みを浮かべていた。
「はい。ごめんね、突然借りて」
「い、いや。それはいいけど……いや、あの時も気づいたら抜かれていて」
「あれは手品みたいな物だよ。大道芸人がよくやる、人の意識の隙間をつくだけ」
手品……意識の隙間……『ミスディレクション』ってやつか。
……いやどう考えても『だけ』で済ませられる事じゃなくない?
「さっき見せたウチの動きは、オトンから習ったものでね。再現には程遠いけど、剣の重さと振るった勢いを殺さずに振るい続ける技だよ」
「そんなアニメでしか聞いた事ない動きを……」
マジで実践する人いるんだ。いや、程度の差はあれど地球にもいたかもしれんけど。
「え、待ってアミティエちゃんのお父さんって有名な傭兵なんだよね?この世界のって事は、かなりゴツイんじゃ……?」
「?うん。体格はスタンクさんと同じぐらいだったよ」
「「うわぁ……」」
思わずうめき声をあげる。スタンクさんが先の動きをしているのをイメージしてしまったのだ。
躍動する筋肉。踊るような動きをする巨体。はっきり言おう。キモイ。あんたなら普通に振るえばいいだろ。
「ど、どうしたの二人とも」
「いや、なんでもない……」
「気にしないでアミティエちゃん。とにかく、見せてくれたのが君でよかった」
「う、うん?」
きっっっっっつい。
忘れよう。アミティエさんの動きを思い出そう……今思うとエロイな。
「つまり……あの踊りを翔太がすんの?」
「えっ」
「無理だね」
「えっ」
いや嫌だけど俺も。だからって即答するならなんで見せたの。
まあ嬉しいけどさ見せてくれたのは!綺麗だしエロかったし!またお願いしていいかなぁ!?
「ウチもそこまで才がある方じゃないけど、翔太君は本当にない」
「ぐっ」
「無才。という程じゃないけど凡才。中の下ってぐらいかな?」
「おうっ」
「数十年も訓練を積んだらできるかも……?そもそも向いてないだろうし」
「………」
「……あ、ごめんね翔太君。貶しているわけじゃなくってね?」
「いや、いいから。大丈夫だから」
わかってた。わかってたよはい。自分に剣の才能とかないって。
つうか今まで碌に剣道とか武術習った事ないし?そりゃあ都合よく『俺TUEEE』とかできないですよ、ええ。どうせチートにおんぶにだっこですよ、ええ。
それはそれとしてハッキリ言われると心にナイフが……。
「はっはっは!翔太は脳筋プレイがお似合いだな!よ、蛮族!」
「うるさいですよ痴女」
「痴女!?」
その服装で何を驚いているのか。肩だし脇だし谷間だし。更にもう少しでパンツが見えそうなミニスカートと絶対領域。ドスケベボディの見本市か貴女は。
ありがとうございます。お世話になっております。
「とにかく、ああいう一例もあるって事かな。オトンからはあまり人前で使うなって言われたけど」
「「でしょうね」」
そりゃこんなエッチな体した美少女が剣舞していたら敵を斬るどころか逆に敵増やすわ。
「まあ、翔太君もそれを使うなら工夫が必要だよって」
「うす」
「あ、そういえばその剣効果とかないの?魔法の武器でしょ?」
「……価値観、壊れるなぁ」
遠い目をするアミティエさんは置いておいて、剣の傍にあったメモを見る。
『山、森の中で使用時切れ味を上昇。及び、石・木への特攻』
「……木こりかな?」
「ですねー」
あれか。土木工事でもしろと?いやドラゴンとかいないならアリだけども。少なくとも殺し合いよりはマシだ。
まあ自分に木こりとか山師の知識とかないけど。
「それはそうと、あの危険物なに?」
「毒矢ですね。呪い付きの」
形状だけなら一般的なその矢は、しかし余りにも禍々しい鏃が備えられていた。
黒と紫で彩られ、明らかに良くない魔力が漏れ出ている。そんな見た目なのに無臭なのが逆に気持ち悪い。
「ウチにはわからないけど……そんなに危険な物なの?」
「たぶんそれも魔法の武器です」
「……ウチの常識って、なんだったのかなぁ」
どうにもあのガチャ、『☆3』以上は魔道具が出てくるらしい。
この矢は特にメモとかついてなかったのだが、名前からして刺さった相手に毒と呪いを付与するとかそんな感じだろう。
……いやどうしろと。
「アミティエさん」
「うん?」
「どうぞ」
「ありがとう。ありがたく使わせてもらうね」
「ちょいちょいちょい!?」
そっとアミティエさんに矢を差し出すと、何故かホムラさんが吠える。
「どうしました?」
「もしかしてお腹空いた?」
「いやそうだけど違う!?危険物!どう考えても危険物!うっかり刺さったらどうするの!?ぺいしなさいぺい!」
「いや、毒矢は彼女の専門かなと」
「ドラゴンに撃ち込んだら効果ありそうだから欲しいなって」
ぶっちゃけ持っていても使いどころがないので、彼女に持たせておきたい。俺だとうっかり自分に刺しそうだし。
まあ多分刺さっても大丈夫だろうけどね自分なら。直感がそう言っているし、『状態異常耐性』もある。
「まあ、一応俺が治せると思うので」
「そこが不安かなぁ……ドラゴンに効くといいけど」
「そこまではなんとも」
「やだ……この子たち思った以上に殺伐……」
なにを今更。こちとら初日からデッドオアアライブな上に今もクソトカゲにマーキングされてるんだよ。一パーでも生存率上げるのに必死じゃい。
え?ただで魔道具をあげていいのかって?危険物を専門家に預けるのは普通では?持っていたくない。
「で、最後」
「え、マジでこれで済ますの?どんな毒とか呪いとかもわかってないのに?」
「あ、もしかしてこれ持っているだけで呪われます?」
「いや、魔力の動き的にそういうのはないけど……」
「じゃあ大丈夫ですね」
「なにが……?」
未だ右往左往しているホムラさん。気持ちはわかる。けど必要だし。悪いのはスノードラゴンだ。あいつマジで許せねぇ。
視線が、人の頭大の青い立方体に集まる。
『☆4経験値結晶』
「なにこれ?」
「あー……なんか、消費したら特定のスキルに経験値をくれるみたいです」
「マジ?」
「マジ」
わりとありがたい。どれぐらいの経験値かわからないが、早速やってみよう。
そう思い、『白魔法』を意識しながら結晶に触れる。理由?一刻も早くマーキング解除したいので。
すると、結晶は粒子に変わり自分の手へと吸い込まれていった。モンスターを倒した時のように、経験値が流れ込む感覚がある。
「どう?どう?」
「……魔法のレベルが一つ上がりましたね」
「マジかー!地味に羨ましい!」
固定でレベルアップ。というよりは、あくまで経験値をくれるだけらしい。高レベルになってレベル上げが大変になった頃に使うも今使うも、そう変わらないだろう。
とにかくこれでマーキング解除に一歩近づいた。
現状使えるのは『初級』まで。確かゲームのホームページにあった情報では、LV:11から『中級』、LV:16から『上級』だったはず。今となっては、うろ覚えの知識だが。
ドラゴンの呪いがどこまでのものかは知らないが、先はまだ遠い。
「だいたいこんな感じですかね」
「だな」
「え?いや、え?」
少し驚いた様子で、アミティエさんが懐中時計を差し出してくる。
「これには何かないの?」
「え、いや普通に時計だし……ああ、そうだった」
この世界、スマホどころかまともに時計を見た事すらない。たしか、スタンクさんの屋敷に時間を知らせる鐘はあったが。
「かなり高価な物だから、きちんと持っていないとだめだよ?」
「はい」
確かにその通りだ。現代人的にはアンティークに感じるゼンマイ式の懐中時計だが、この世界では高級品。いや、日本でも高いのは高かったけど。
「さて……どうしよっか」
アミティエさんが夕焼け空を見上げる。
どうとは?
「とりあえず今日は野宿するとして……スタンクさんへの報告、どうしよう」
「「あー」」
この世界だとかなり危険で厄介なものであるダンジョン。その危険を伝える早馬を送ったその日にコアを奪取したわけで……。
説明、しなきゃだめだよな。
「……よし」
アミティエさんがニッコリと笑みを浮かべる。
「明日の事は、明日考えよう」
「「だね!!」」
きっと明日の俺達がいい感じのアイデアを出すに違いないと信じて!
読んで頂きありがとうございます。
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次回、街長スタンクの毛根死す!




