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事前登録したら異世界に飛ばされた  作者: たろっぺ
最終章 大和共和国前進す
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第百三十三話 速度

第百三十三話 速度


サイド 矢橋 翔太



「うう……ヤバッシーに乱暴されたのじゃ」


「人聞きが悪い」


 思う存分ギルマスさんの頭でシャウトとしたので、ちょっとスッキリした。


 そうして満足げに鼻から息を吐いていると、秘書の人がこちらに鋭い視線を向けてくる。


「矢橋さん」


「はい」


「グッジョブです」


「ありがとうございます」


「なんでじゃぁ!?」


 秘書の人とお互いサムズアップをする。ギルマスさん、これが人望というものです。


「それはそうと、メローナ様からの提案どう思います?」


「うむ、ちゃんと聞いておったよ。ヤバッシーが儂の耳を掴んで己の欲望のまま小さい頭を前後に動かして楽しんでいた間に言っておった事じゃろう?」


「人聞きが悪い」


 なんかそういう風に言うと……その、いや。なんでもない。


「お?なんじゃマセガキ。なんぞいやらしい事でも想像したかえ?とんだおさかんさんじゃのー」


「………」


「待つのじゃヤバッシー。話し合おう」


 スッと両手をギルマスさんの狐耳に向けると、彼女も真顔で扇子を閉じる。


 相打ち覚悟で引っ張りまわすから覚悟しろよこのお馬鹿様。


「ジョーク。ほんのジョークじゃから。儂も少し疲れたゆえ、心の癒しを求めてヤバッシーとコミュニケーションをとろうとしただけなんじゃよ」


「ギルマスさん。一応言いますが女性から男性へのセクハラも存在しますからね?」


「その対応で場合によってはセクハラか暴行の容疑かかりそうな事をするお主も大概じゃと思うが……」


 ………なるほど。


「本題に戻りましょう」


「そうじゃな!」


「こうして不正はうまれていくんですね」


 秘書の人が何やら不穏な事を言っているが、きっと気のせいだろう。


 ショウタ、ギルマスサン。トモダーチ。


「悪くない話じゃな。ただし、儂らだけでアーサー前王の救出を行ってもいい事を除けばのう」


 そう、あの話は別にメローナ様を間に挟まなくともどうとでもなる。


 エイゲルン王国でモルドレッド様をクーデターに導いた魔族が待ち構えていようが、こちらの戦力を直接向かわせて……それこそ自分の隊が突撃すれば救出は可能だろう。


 自信過剰かもしれないが、これでもこの世界の人界では有数の実力者であると考えている。アミティエさん達も揃えば、大抵の障害は蹴散らしてアーサー前王を第七遊撃隊のみで救出してみせるとも。


「けどやらない方がいいんでしょう?うちの国だけで救出は」


「じゃなー!」


 扇子を開いてバサバサしながら笑うギルマスさん。


 そう、共和国だけ活躍し過ぎるのはまずいのだ。ほどよく手柄を分散させたい。というかせめてポーズだけでも『自国で問題を解決する』というのをやってほしい。


 うちだってそんなに余裕がない……というか、むしろ本気で人的余裕がない。大西さんみたいな実力者まで日本に帰ってしまうのだ。動かせる戦力には限りがある。


 そこでアレもコレもと共和国に頼られる様になっては、手が回らないどころか手足が千切れ飛ぶ。


 極端な話、西の小国群に『エイゲルンは自力で頑張ったぞ?で、あなた方は?』と言えるようにしておきたいのだ。


「で、行ってくれるのかのう。ヤバッシーよ」


「はい、勿論です」


 姿勢を正し答える。自分が行くのは既に決定事項みたいなものだろう。


「……少し意外じゃな。お主はこういう仕事を嫌がるタイプじゃと思っておったが」


 むしろ仕事と呼べるものはほぼほぼ嫌いです。家でゴロゴロエロエロだけしていたい。


 しかし、嫌だからで済まないのが仕事というものだ。なにより今回は個人的に理由がある。


「自分にも利益がありますからね、この任務は」


「エイゲルン王国への貸しじゃな?」


「はい」


 人間、一番大変な時に助けてくれた相手というのはいつもより強く恩を感じるものである。


 そして、『恩』というものは国家を運営する者にとって無視できないものだ……と、素人ながら思う。


 御恩と奉公という言葉は日本の学生なら必ず覚える言葉だ。そして、それが崩れた国は確実に崩壊するという事も。


 国が内心はどうあれ恩を忘れた行いをすれば、仕える者達がどう思うか。そもそも国家が利益だけで行動する様になった場合、最悪他国への裏切り祭りだってありえるのだ。


 だからこそここでエイゲルン王国の救援に向かうのは大きな恩を売れる。それも、竜殺しの英雄としてつい最近『フォン』の位を受けパレードにまで出た自分ならなおの事。


 勝ちすぎて依存されるのはごめん被るが、あちらとて英雄一人、その部隊一つに全て預けてくるほど馬鹿ではあるまい。


「まあ、情も一応ありますが……」


「え、やっぱりメローナ殿と一夜の過ちを!?」


「してませんし違います」


 そっちのじゃねえよ。というかロリはそこまで好みじゃねえよ。


 ただ、メローナ様やモルドレッド様とは何度も会話を重ねたのだ。その人達が困っているとなれば。それも命の危機となれば多少なりとも支援の一つもしたくなる。それに、何度か相談にのってくれたエーカー隊長も気になるし。


 更に言えば、あのパレードも少し心に残っている。自分という男は単純なもので、ああも歓迎され持て囃されれば気分がよくなってしまうものだ。支援の手を多少伸ばしてもいいと考えてしまう程度には。


「ま、実際ヤバッシー以外に適任はおらぬからのう。『竜殺しの英雄が再び国の窮地にかけつけてきてくれた』というのは、混乱したあの国にとってよい鎮静剤になろう」


 扇子をぴしゃりと閉じ、ギルマスさんが片目をつむる。


「――して、こちらもお主に伝えておかねばならぬ事があるのじゃ、翔太よ」


「……魔王軍についてですか」


「左様。あやつら、速度と規模を高めおった。エイゲルン以外の国は全て『おちた』ぞ」


 過去形、か。進行形ではなく。


 一度強く目をつむる。瞑目をしたかったのか、考えを纏めたかったのか。自分でもよくわからないが、それでもすぐに見開いた。


「他の遊撃隊やギルマスさんの分身が守っているという防衛線が、破られたのですか?」


「いいや、そこは未だ健在じゃ。じゃがこちらも戦って貰わねば止められん。大きく迂回されては、のう。その上こちらが移動しようにも、元々の方向からも今まで以上の数が攻めてくるのじゃ。嫌じゃのう、質と物量を兼ね備えた相手というのは」


 それはまた、策も何もないくせに一番の『上策』をしかけてきたものだ。


 質をともなった物量で押しつぶす。それによりこちらの防衛戦力を押さえながら脇を素通りし、後ろの拠点を狙う。どこの指揮官も『やれるならやってるわ』と言いたくなる作戦だ。


 古今東西、これをやられて耐えきれた国がどれほどあるのやら。あいにくとその辺に疎い自分にはわからないが、対抗策がそうそう浮かぶものでもない。


「魔王め。いい部下をもったらしい。大陸に潜んでおった全ての魔物や魔獣が一斉に進撃を開始し、地竜どころか火竜までよこしてきおった。奴が封印されていた間によくもここまで準備をしたものよ」


「火竜までもですか……」


 たしか、前にシャイニング卿の用意した武器でスタンクさんやジョージさんが倒したというアレか。


 火を吐きながら空を飛ぶ、日本人が考える典型的な西洋竜みたいなやつ。それに加え、他の竜種より頑強と有名な地竜。


 一体だけでも国家の危機と呼ばれるやつらがバーゲンセールにやってくるおばさん達なみに突っ込んでくるとは、どんな悪夢だ。


「安心せよヤバッシー。火竜も地竜もスノードラゴンよりは弱いからのう。お主でも二体までなら同時に相手どれるぞ?」


「なんの安心も出来なさそうですが……」


 揶揄う様にそういうギルマスさんに肩をすくめて答える。


 話しを聞いた感じ、絶対に二体じゃすまないだろう相手の数は。ギルマスさん以外が行ったら引き潰されて終わるわ。


「ま、ともかく異様な速度で魔王軍は進んでおる。三つにわかれたそれらの軍は、碌に略奪も虐殺もせぬ事で速度を維持。エイゲルン王国直前で合流し、国境を超える寸前までいっておる」


「随分と統制が取れていますね……一種族だけの軍ではないのでしょう?」


「うむ。オークにゴブリン。リザードマンやスケルトン。百鬼夜行とてまだ纏まりがありそうなほどバラバラじゃが、統制だけは儂の知るどの軍隊よりもとれておるようじゃ」


「……ちなみに、合流した所をギルマスさんの力でどかんとか無理ですか?」


「それがのー。儂も分身に力使い過ぎてのー。この国の防衛戦力も残したいから動けないんじゃよねー。魔王もその軍にはおらぬようじゃしー」


 遠い目で乾いた笑いを浮かべるギルマスさん。そっかー。


「では、やはり速度が重要ですか」


「うむ」


 敵が速いなら、こちらも速さが必要だ。待ち構えて迎え撃つには色々と足りなさすぎる。ある意味、その為の遊撃隊とも言える。数はないが身軽だからこその遊撃なのだ。


 数と質で負けているが、幸い最上位の質に関してはこちらに分がある……と、いいなぁ。


 魔王の強さはわからないが、イゼルとかいう四天王四体分ぐらいならギルマスさん一人でも本気を出せばどうとでもなるだろう。それ以上だった場合は、ちょっとわからん。


 いざとなったら首狩り戦術で対抗するしかないので、頑張ってほしい。まさか魔王の相手まで俺がとかないよね?ね?


「本当にすまんが、明日の昼には出発してもらうぞ。メローナ殿には今から儂が連絡をしておく」


「了解しました。隊の皆にも伝えておきます」


 一礼し、ギルマスさんの部屋を退出する。


 出発は明日の昼。そう準備もしていられないが、のんびりしていて共和国の周りには魔族しかいません、なんて事態は避けたい。


 そう……明日、なんだよなぁ。


 懐から時計をとり出す。この国に来た時購入した、桜の絵が蓋の裏に刻まれた懐中時計。


 その針は既に十二時を過ぎており、もうすぐ午前一時を迎えようとしていた。



「明日って今日さ……」



 仕事って、大変だなぁ……。




読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


Q.ギルマスはなんでつまらないジョークを?

A.ギルマス

「徹夜が続いておって癒しがほしかったのじゃ。反省はしておるが後悔はしておらん」


本編にあんまり関係のない情報


ヤバッシーの戦略系ゲーム風ステータス

統率90 武勇90 政治55 知略45 人望70 忠誠75

※統率や人望は『眼光』と英雄の肩書が下駄を履かせてくれた数値です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 良いコンビでほっこりする [一言] 癒しから発展して欲しいけど、もうクライマックスなのだからなぁ
[一言] 翔太(=´∀`)人(´∀`=)ギルマス <ナカーマ 翔太くんはロリコンではない。でも相手は同年代ですよ? 質と量の双方で攻めるのは反撃手段が無くなるのでNG
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