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事前登録したら異世界に飛ばされた  作者: たろっぺ
最終章 大和共和国前進す
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第百二十九話 暴走特急メローナ

第百二十九話 暴走特急メローナ


サイド 矢橋 翔太



 ギルマスさんの演説も聞き終わったので、早速メローナ様の所へ行く事にした。最初はアミティエさんにも同行してもらおうかと思ったのだが……泣き疲れたとの事なので一人で向かう。


 それにしても、まさかギルマスさんがあんな事を計画していたとは。だが考えてみれば色々と納得がいく。


 事前登録者達を保護して回っていたのは、善意だけではないと思っていた。国家運営の為の戦力確保や、地球の技術を他国に取られない為だけにしては頑張りすぎと思っていたが……流石に予想外だ。


 異世界との門……この世界と日本を繋ぐ門を潜れるのは自分達事前登録者達のみ。


 自分は空間魔法の類についてさっぱりだが、白魔法の知識なら頭にある。そこから考えるに、『縁』が必要なのだろう。楔と言ってもいい。


 空間に関する魔法は酷くデリケートだ。一歩間違えれば周辺一帯の空間が文字通り『弾ける』し、人や物の転移はバラバラな形で発動しかねない。それこそ、『石の中にいる』案件もありえる。


 規模が大きくなればなるほど術式は細かくなっていくし、壊れやすくもなる。世界間での転移を人力でなど、正直想像もつかない。


 だからこそ、生き物に限っては二つの世界に関係する存在のみ移動すると制限するわけか。


 なんだかんだ、こういう魔法は移動する物体に魂が……絶えず変動する独自の魔力が含まれている事が術式に影響を与えやすい。生物の転移と無機物の転移では難易度が変わる、と思う。自信はないけど。


 自分達の魂は、当然地球で産まれ育ったもの。だが肉体は勿論、レベルアップの影響で魂もややこちらの世界よりに変質しているはず。


 人格や記憶に影響はないだろうが、それでもこっちの世界との『縁』には十分すぎる。


 ま、とにかく門が開通した時は『通れる人間』として特権と保険を得られるわけだ。俺達しか通れないのなら、他の勢力から無体にされるリスクが少し減る。拉致の危険も少し増すがな。それでもプラマイはややプラスだろう。


 問題なのは、両親にどうやってアミティエさん達と挨拶に行くかだ。ホムラさんしか一緒に行けないしなぁ……。


 その辺もギルマスさんに相談……も、するけど。土地と役職を貰えると確約してもらったし、自分の方でも手段を考えていった方がいいか。無論、上司への報連相は忘れずに。


 エイミーさんとコネがあるのがここで活きるか?彼女が変な方向に突っ走らないかどうかも気になるし、仕事面でも繋がりをもつのはいいかもしれない。


 彼女がシャイニング卿とは別人であると思っているが、それはそれ。マッドには変わりない。人体実験の類は法と倫理にそった範囲でやってほしいものだ。


 そんな事を考えていると、メローナ様がいる本部フロアへ到着する。


 ……なんか、嫌な予感がするな。


 気持ち早足になって進んでいくと、声が聞こえ始める。


「そこをどいて!如月代表にお話しがあるんだ!」


『現在代表は重要な会議中です。連絡中ですのでお待ちください』


「急いでいるんだ!こちらから彼女に会いに行く!」


『現在代表は重要な会議中です。連絡中ですのでお待ちください』


「むー!!」


 なぁにこれぇ。


 本部の警備用アイアンゴーレム二体と、メローナ様が廊下で睨めっこしている。


 ただし、メローナ様が一方的に頬を膨らませているだけだが。


 それはそうと彼女の服装に注目したい。応接室で会った時は薄緑色のドレス姿であったのだが、現在は動きやすいものへ着替えられていた。


 下は白い乗馬ズボンの様なものに、編み上げブーツ。上はエイゲルン王国の軍服っぽいの。そして濃い緑色のマントを羽織っている。


 うん。どう見てもこれから馬に乗ってどっか行ってくるって感じだわ。


「メローナ様」


「っ、翔太卿!」


 こちらを見るなり花の様に顔を輝かせたかと思うと、すぐに真面目なそれへと変わる。


 少し驚いた。天真爛漫でモルドレッド様を少女にしたような方と思っていたが、今の表情はエイゲルン王に似ている。


 いや、今はモルドレッド王とアーサー前王と呼ぶべきなのか?ややこしい……そういうのに慣れていないから、どういう風に言うのが正しいのかわからん。そもそもクーデターの正当性も知らんし。


「翔太卿。大和共和国で受けた歓迎の数々御礼申し上げます。しかし国の一大事故、お暇させて頂きたい。なんのお礼もせずに帰るのは誠に申し訳ないのですが、謝罪と感謝のほどは後日とさせてもらいたい」


 え、誰。


 めっちゃ真面目に喋るメローナ様に内心で目を白黒させながらも、努めて冷静に答える。


「申し訳ありません。自分ではメローナ様の出立に関して判断をする権限を持たない為、上の者を呼ばせてもらいます。少々お待ちください」


 日本式奥義、『担当の者を呼びますので少々お待ちください』。


 いやだってわっかんねーし、世界情勢。俺、まだ正式に貰っている役職って遊撃隊隊長の地位だけだよ?ここでYESともNOとも言えんわ。


「もー!翔太卿までこの変なのと同じ事言うー!」


「お嬢様!」


 両腕をぶんぶんと振り回す彼女に、廊下の向こうからメイドさん達が駆けてきた。こういうと失礼なのだが、老齢の方が多いので凄く大変そうである。


「っ、矢橋卿。これは失礼を……」


「いえ。どうぞお構いなく」


 すぐにメイド長ぽい眼鏡の老女が頭を下げてきたので、こちらも軽く会釈する。


 お歳をめした方なのだが、着慣れている様子でクラシックなメイド服を纏うと様になるものだな。


 前にエーカー隊長が『貴族たるもの使用人に~』と言っていたが、たぶんこの推定メイド長さんも貴族の出だろうから、会釈しても問題ない……はず。


「お嬢様。どうか部屋にお戻りください。本国が心配なお気持ちはわかりますが、今は冷静に状況を――」


「その状況を知る為に動かないといけないんだ!動ける者だけついてこい!お父様に事の真意を問わなければならない!」


「ですが、まずは大和共和国の代表にご挨拶をしなければ」


「その為に代表を探してるの!」


「他国の重要な会議に割って入ってはエイゲルン王国の品位が問われます。どうかお立場を考えてください」


「それよりも優先すべき事があるでしょ!そもそも品位もなにもうちと共和国じゃ戦力差は明白じゃん!弱みとか今更だよ!翔太卿や大西卿がいる国だよ!」


「だからこそというのもありますが……」


 びしりとこちらにメローナ様の指がさされ、メイド長さんが困った様に目を伏せる。そんな人を戦略兵器みたいに言われましても。ギルマスさんじゃあるまいし。


 並の兵士が千人こようが圧倒できるが、国相手に大西さんと二人でとか流石に無理である。戦い方しだいでギリ?それでもメンタルの問題でキツイと思うが。


 まあ、ちょうどよくこちらに視線が集中したので言わせてもらおう。


「まずは部屋にお戻りください。そこにギルマスさ……代表への連絡をする為の魔道具があるはずですので」


「本当!?」


「はい」


 いつもの子供全開な彼女の様に、メローナ様がダッシュでUターンしていく。それにメイドさん達がこちらへ深くお辞儀をした後についていくので、自分も最後尾をのんびりと歩いた。


 後ろ手に、ギルマスさんへの簡易通信機を連打しながら。異常を察してくれギルマスさん。ちょっとこれは俺の判断できる範囲超えているので。



*  *  *



「明日!明日なら出発できるようにするから!」


「しかしすぐにでも本国に行き状況の把握をしなくては!」


「そうは言っても、メローナ殿は王女にあらせられる。その移動に関してはこちらとしても細心の注意と事前の確認をじゃな」


「来た時みたいに一瞬でお願いします!」


「ぬー」


 メローナ様の部屋に行くとギルマスさんの分身がやってきていたので、現在二人で話し合い……というか交渉が続いている。


 ギルマスさんは目をバタフライなみに泳がせ、尻尾をへなへなと力なく揺らしていた。


 負けてるぞギルマスさん。頑張れギルマスさん。俺はもう帰りたいから後は任せていいですかギルマスさん。


「あ、アレはそう簡単にできる術ではないのじゃ。じゃから今すぐには使えぬ」


「う……確かに凄い大魔法だったけど」


 あ、メローナ様が言い淀んだのを見てギルマスさんが目を輝かせた。ついでに尻尾も高速で左右に動き出す。


 たぶんだけど、ギルマスさん的にはアレってそこまで負担ないな?いや俺も信じられんけど。アレが通常技感覚って麻痺してないかこの人。


「そう!アレは凄まじい労力と準備が必要な大儀式!おいそれと使えぬ為、本日はこちらにて休んでいてほしいのじゃ!」


「……いえ。でしたら僕一人でも向かいます。護衛は不要。今は一刻でも早く王女であるこの身がエイゲルンに入る事が重要です」


「じゃーかーらー!王女をちゃんとした護衛もつけず動かせるわけないじゃろー!?」


「その辺の獣や野盗ぐらいなら一人でも倒せます!なんならそこの翔太卿を護衛にお貸しください!」


 え、俺?


「………」


 ちょっとギルマスさん?なに『それならありか?』とか考え込んでいるんですか?


 一応騎士爵もらっているうえに隊長ですからね?そんなほいほい貸し出さない……え、貸し出さないよね?


「い、いや。あやつもそう簡単には動かせませぬ。どうか時間を頂きたい」


 セーフ。ギリセーフ。なんかギルマスさんの中で葛藤があった気がするけどセーフ。


「しかし!」


「お嬢様」


 会話に熱が入り過ぎていた所で、メイド長さんが一歩前に出てきた。


「なにっ、今は共和国の代表と話しているんだけど」


「私をお切りください」


「……は?」


 部屋にいる全員がギョッとした顔で老女を見つめる。


 その中で、彼女はメローナ様の前に片膝をつきながら淡々と告げた。


「王女殿下についていけず、国難において足手纏いになる世話係など末代までの恥じにございます。私が不要という事でしたら、どうか死ねとご命じください」


「ちょ、そ、そこまでは」


「モルドレッド様から貴女様の身の回りの世話を命じられた身として、役目を果たせないのならば死ぬ覚悟はできております。今すぐにエイゲルンに向かいたいのでしたら、この老人の首を踏みつけてからに……」


「わ、わかった!今日は行かないから、もういい!」


「それはようございました」


 メローナ様が手をわたわたと動かすなか、メイド長さんがしれっとした態度で立ち上がる。


「……ううん?」


「そのお言葉を聞き心底安堵いたしました。お優しい方に育っていただき、婆は嬉しく思いますよ。ですが、矢橋卿は我が国の英雄でありアーサー様がお認めになった騎士。簡単に出撃を要請してはなりませんよ?」


「だ、だましたね!?」


「いえ。殺される覚悟なら当然あります。死にますか?」


「死なないでよ!?」


 コントかな?


 だが、自分の直感が告げている。この人、やれと言われたら最期にメローナ様へ釘をさした上で自害しそうである。


 こわぁ……本職のメイドさんこわぁ。


 その覚悟が伝わったのか、メローナ様が数秒硬く目をつむり深呼吸をした。


「……ごめん。色々と冷静じゃなかった」


「恐縮にございます」


「如月様と翔太卿も、お騒がせしました。このメローナ・フォン・エイゲルン。深く反省させて頂きます」


「うむ。わかってくれたのならいいのじゃ。それよりも良い家臣に恵まれましたのう」


「はい。ぼ、いえ。私には過ぎた者ですが」


「そう言えるだけ、十分な主と思いますぞ。ほっほっほ」


 余裕の態度をしているが、ギルマスさん。貴女ぁ、尻尾やばいですよ。なんか死にかけの生物みたいにうねうねと動いてますよ。それどういう感情なんですか。


 それはそうと狐耳が忙しなく動いているのだが。つい目で追ってしまいそうになる。


「翔太卿」


「はっ」


 メローナ様の視線がこちらに向けられたので、姿勢を正す。


「……少し、お話ししたい事があります。お時間を頂けませんか?」


「かしこまりました。自分が御身の話し相手として相応しいかはわかりませんが……」


「いいえ。貴方に聞いてほしいのです」


「わかしました。お付き合いさせて頂きます」


 わぁ、これ絶対に厄介ごとなやつだぁ……。


 冷や汗を流しながら腰を曲げ首を垂れるのだが、隣でギルマスさんがサムズアップしながら『ばちコーン』とウインクしてくる。


 ギルマスさん。とりあえず貰う予定の土地と地位について書類を渡してもらいますからね?その上で吹っ掛けますからね?


 覚悟してやがりませこんちくしょう。





読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。

最終章に入りましたが、どうかこれからもお付き合い頂けるととても嬉しいです。


Q.翔太、土地土地地位地位とがめつくない?

A.所帯をもつと自覚したのでその辺厳しくなってます。バイトも碌にした事のない学生なので隙は多いですが。

なお、この後渡される土地の書類を見て白目をむきます。伯爵相当のものを貰うので。


Q.ギルマス、メローナ相手に押され過ぎじゃない?

A.この人、実はわりと切羽詰まっているので……大量の分身を展開し続けるのは意外と大変です。まあ国家間転移は彼女的に低燃費技ですが。


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― 新着の感想 ―
[一言] まあいきなり人員が六分の一になった上に同盟国でクーデターとかなったら誰だって切羽詰まるわな、二千人は仕事の引継ぎもせんと問答無用で帰ったみたいだし。
[一言] 心配する気持ちも分かるが国の代表に突撃はちょっと…… そういえば、ギルマスってマジギレしてるところ見た事ないな?目の前で事前登録者たちを全員虐殺とかすればキレるかな?
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