第百十六話 武御雷
第百十六話 武御雷
サイド 矢橋 翔太
「とにかく乗ってみましょうそうしましょう!」
「コックピットの中は他に誰もいないから!恥ずかしがる必要ないから!」
危ない勧誘なみにコックピットへと誘う兵器開発部門四天王。状況が違ったら通報待ったなしである。
「レッツ、エントリー!」
そんな中、プラムさんが小さいリモコンの様な物を操作した。それこそ車の鍵についているやつみたいな機械だったが、それに反応してか突然武御雷が尻もちをつくように座り込んだ。
驚きつつも見てみれば、武御雷の太ももと脹脛の外側には大きな車輪がついている。それらにより、足を延ばす様にして座った状態で走行できる様になっている……のか?
「これが本来の待機モード兼長距離移動形態!車高も三メートルだからトンネルも安心です!そしてコックピットオープンンン!」
「おお」
更にリモコンを押すと、胴体のハッチが前方に倒れる様にして開いて行き、コックピットを解放した。
中にはシンプルな座席と二つの操縦桿。足元にはペダルらしき物がある。
思わず感嘆の声を上げたが、人型の何かを動かすにはシンプル過ぎる操縦席だ。操縦桿にはボタンらしき物はなく、代わりに赤い宝石が取り付けられている。
……はて?どこかで見た事があるような。
「ささ。この開いた部分を足場にコックピットへ。あ、もしアレでしたら保護者の方も内部を見てみますか?」
「あ、じゃあ俺が」
ロボのコックピット超見たい。
「私は前に見たからいいや。それよりアミティエちゃん。エイゲルンでどういう事があったか教えて」
「はい。じゃあちょっとあっちでお話しを……」
そう言って部屋の隅に向かう二人。あれ、なんだろう。そこはかとなく不安が背筋を通り過ぎるのだが、気のせいかな?
何はともあれ、コックピットに向かう。武御雷の足の間を通り、坂道の様になった装甲を踏みしめて操縦席に。
流石に三人も集まるには狭いスペースだ。というか、巨乳美女と美少女とこうして近づくのは未だにドキドキする。
「ではこちらの座席に座って、シートベルト……その茶色いベルトを体に装着してくださいな。金具の所を合わせる様に、そうそう!そんな感じですわ!」
プラムさんの指示でイリスが体を操縦席におさめ、シートベルトを装着。ベルトは映画で見る戦闘機のパイロットがする様なのだった。
すると、プラムさんがヘッドギアの様なものをコックピット上部から取り出す。
「では、これを被ってくださいまし。これは頭部のメインカメラから外の映像を受信してくれますので」
「へ?え、けどこれ。目の所が塞がってますけど」
なるほど、VRみたいな感じか。コックピットにモニターの類が見られなかったのはそういう理由かと納得する。
ただ、イリスにはどう説明したものか。
「外の景色が見える魔道具だ。合わせ鏡の亜種……でいいですかね?」
「はい!そういう解釈で構いませんわ!」
「は、はぁ。なるほど……?」
微妙にわかっていなさそうなイリスだが、言われるがままにヘッドギアを装着し、顎の部分で固定する。
……なんか。ピッチリタイツの女の子が目隠しされているみたいで、薄っすら背徳感があるな。
「では、私たちは一度離れますので、コックピットを閉めさせて頂きますわね」
「え?あの、私一人で乗るんですか?」
「あいにくと一人乗りでして。補助シートを取り付けるスペースがなかったのですわ……まあ、外から指示は出すのでご安心ください!」
そう言って、プラムさんが俺の背中を押して外に。ちょ、胸が背中に当たってる!?
「ではでは、よい実験を~」
例のリモコンでハッチをしめるプラムさん。不安そうなイリスだが、まあギルマスさんが管理している所だし、安全性は保障されているだろう。
まさか、『パイロットスーツと言ったらコレじゃろう!』と全身タイツ投げつけて帰ったなんて、そんな無責任な事ギルマスさんがするわけもないしな!
……ないよね?
「聞こえましてイリスさん?」
『わっ。は、はい。聞こえます』
プラムさんがどこからか取り出したマイクに呼びかけると、武御雷についているらしいスピーカーからイリスの声が響いて来た。
「では早速、魔力路の起動をしてみましょうか。音声入力ですので、『武御雷、起動!』と叫んでくだされば大丈夫ですわ」
『はい。た、武御雷。起動!』
「うーん。やはり音声入力の起動こそ最高ですわね……」
すると、鈍い音をたてて武御雷の頭部カメラが緑色に発光。同時に、唸り声の様な駆動音が巨人から響いてくる。
『す、すごい……!もの凄く緻密な魔力経路を、大量の魔力が淀みなく流れていってる……!こんな魔道具、どうやって……』
スピーカーから聞こえるイリスの声に、自慢げに胸を反らずプラムさん。でかい。
『それに、本当に周りが見える様になりました!これが巨人の視点なんですね……』
「ささ。では立ち上がってみましょうか。基本はゴーレムですので、操縦桿となっている杖を握り魔力を流し込んでくだされば、思った通りに動きますわ」
『はい!』
武御雷が膝を曲げたかと思うと、滑らかな動作で立ち上がる。巨体に見合わぬ静かな挙動に、思わず自分や四天王も感嘆の声を出した。
「凄い。才能あるよあのモルモットちゃん」
「よし。射撃訓練だ。射撃訓練をしよう。とりあえず銃を放つんだ」
「ふぅ……ふぅ……!やはり人型ロボットこそ至高……!」
なにやら不穏な三人はさておき、紅潮した頬でプラムさんがマイクで指示を出していく。
「いい動きですわ。では早速グラウンドで軽く動かしてみましょうか」
『ちょ、ちょっと待ってください。突然視線が高くなって、ちょっと怖いです……』
「大丈夫、すぐに慣れますわ!それに貴女が握っているその操縦桿。それは貴女のお師匠様から頂いた杖を加工したものでしてよ」
『師匠が!?』
「はい。ですから、貴女のお師匠様を信じてあげて下さいまし。彼女は貴女の為に、貴重な杖を二本も提供してくれたのです」
『師匠……!』
あー……あの操縦桿、妙に見覚えあると思っていたら。またダブったのかホムラさん。どんな確率だよ。
確か、ギルマスさんの話しだと共和国で確認されているだけでガチャ産レア杖って五十種類以上じゃないっけ?そもそもレアアイテム自体そうそうダブルもんじゃ……。
ドラゴンの一件でたまったポイント。それを費やしてそんな結果になったのか……これ、俺がこっそりやったガチャの結果とその『提供先』を知ったら怒られそうだな。
『私、やります!師匠の顔に泥を塗れません!』
「その意気でしてよイリスさん!」
いや。たぶんあの人、わりとやけっぱちで杖投げただけだと思う。なんかもうその確信がある。
自分のスキルが『三銃士をしばくのに疲れてストレス発散もかねてガチャしたら、盛大に爆死して抜け殻の様に呆然とするホムラさん』のイメージを強く表示させてきた。南無阿弥陀仏。
ホムラさん、まさかレアアイテムのトレードが共和国内でやっているって知らないのだろうか……知らないんだろうなぁ。物凄く忙しかったらしいし。
「では、外部の隔壁を開きましてよ!」
「応っ」
大門司さんが武御雷の後ろにある壁へと走って行き、取り付けられていたレバーを勢いよくおろす。
すると、壁が左右に開いていくではないか。その先には広いグラウンドがあり、少し遠くには的の様な物まで見える。ここで兵器の実験をしているのか。
「さ、レッツゴー、ですわ!」
『はい!イリス、行きます!』
「あ、いいですわ今の返し。今度はお名前の後に機体名もお願いいたしますわ」
機体を反転させ、武御雷を歩かせていくイリス。重厚な背中を見せて進んでいく巨大人型ロボに、思わず視線が釘付けになった。
今ばかりは、兵器開発部門の人達がエロよりロボを優先した気持ちがわかる。これはいいものだ。浪漫がある。
「あらあら。矢橋さんもロボットに大変興味があるご様子。兵器開発部門はいつでも寄付とテスターを募集しておりますので、武御雷量産の暁には色々と特典もありますので、どうかこの資料をお受け取りくださいな♪」
「あ、はい」
いつの間にかパイロットスーツの胸元を解放したプラムさんが、胸の谷間から折りたたんだパンフレットを取り出して渡してくる。人肌の温もりが残るそれをつい反射で受け取ってしまった。
セールスが……セールスが上手い……!
まあ、真面目な話。これから武器関係の需要が落ちるとは思えないから、投資先としては有りだよなとは思う。物騒な世界なので。
一番いいのはその投資が無駄になってくれる事だが……無理だろうなぁ。
「ではでは~。とりあえずグラウンド内を歩いてみましょうか!」
『はい!』
そうして、武御雷のテストが続いていく。
軽く歩き回る所から、走ったりジャンプしたり。はては前転に側転。例の尻もちをつく様な姿勢で車輪による走りまで。
メカメカしい姿とはかけ離れた、人間的な動き。かと思えば、時々人造物でしか出来なさそうなモーションまで。どうやら、思った以上に武御雷は高性能らしい。
だが、自分以上に四天王の人達が驚いている気がする。
「素晴らしいですわイリスさん!ここまでの動き、今までどのテスターさんもできませんでしたわよ!」
『え、えへへ……いやぁ。このゴーレムが凄い性能だからでして』
「おっと。ゴーレムではなく武御雷。あるいはロボットかメカとお呼びくださいませ」
『へ?あ、はい』
突然の有無を言わさぬ口調にちょっとビビるイリス。そこんところ、重要なんだ……。
「では、とうとうメインイベントだ。専用装備の確認を行う!」
そう言って大門司さんがグランドにやってきた。彼の後ろにはアイアンゴーレムが数体おり、それらにより巨大な台車が押されている。
そして、その上には。
「しょ、ショットガン?」
縮尺を間違えたのかと言いたくなる様な、大きなショットガンが鎮座していた。隣にはリロード用と思しき筒まで置いてある。
「最初はマシンガンやガトリングガンを想定していたが、内部機構や装弾部分のバネの問題でポンプアクション式のショットガンになった。ひたすら弾をばら撒きたい性癖の君には済まなく思っている」
「いえ、別にそういう性癖はありませんが」
勝手に人の性癖を改変しないでほしい。トリガーハッピーになった覚えはない。
「そうか。そう言えば伊藤さんの銃を愛用していたな、君は」
「愛用はしてませんけど???」
むしろできれば普通の銃ほしいぐらいですけど?
「まったく。普通に魔導式のビーム兵器にすれば簡単でしたのに」
「何を言う。安易なビーム兵器など邪道。やはり実弾兵器こそ戦場の華だ!」
「あら~?ビーム兵器だって浪漫が詰まっておりますのに。お堅い人。まあ。整備を考えれば実弾の方が安定している事は認めますが」
呆れ顔のプラムさんとグラサンの下で視線を険しくする大門司さん。実在するのか、ビームと実弾でガチの論争する人達。正直ついていけない会話である。
あ、ロボットアニメなら自分はビームも実弾も好きです。本来は実弾兵器しか積めない機体に後付けでビームの副武装つけるのとか好き。
……アニメ、こっちの世界だと見れてないなぁ。ギルマスさん、そのうちアニメ会社とか作ってくれねぇかなぁ。
「おっと。その前に耳栓をしなければ。炸裂音が凄まじいからな」
「それもそうですわね」
「ついでに側頭部につける軽機関銃も……」
「アレ、マジでつける気ですの?」
と、一度建物に戻って耳栓を持ってくる様だ。自分も後に続く。
そう言えばと、部屋……というか格納庫の隅で話しているホムラさんとアミティエさんはどうしたのだろう。流石にもう終わって――。
「アミティエちゃん。本当にさ、ちゃんと考えようね?」
「はい……」
ホムラさんがアミティエさんに説教しとるぅ!?
え、マジで?予想外過ぎる光景だ。普段は逆なのに。いったい何が起きたのやら。エイゲルンでの話しをしていたんじゃないのか?
「家族がたくさんなのは、いいことだよ?けど計画性は考えなきゃ。そういうので無計画なのは家庭崩壊の要因になるよ」
「で、でも。人は簡単に死んじゃうから……」
「そうだね。でもだから増やすってのは短絡的すぎるな。まずは一人一人を大切にしないと。アミティエちゃんに、翔太や私の代わりはいる?」
「いません……」
「そもそも。無計画に家族を増やして一番困るのは子供たちなんだから、そこをまず考えないと」
「おっしゃる通りです……」
すげぇ。ゴリゴリにアミティエさんが論破されてる……。
そう思ってそちらを見ていたら、突然ホムラさんがこちらを振り向いて来た。視線がぶつかり合い、咄嗟に背筋を伸ばす。
とても……とても綺麗な笑顔だった。金髪の美女なのに、大和撫子を彷彿とさせるその微笑みに、何故か自分の直感は最大限の警報を鳴らす。
「しょ~う~た~?後で私とゆっくりお話ししような~?認識の齟齬は避けたいもんな~?」
「サーイエッサー!!」
我々のヒエラルキーにおける頂点が誕生した瞬間である。
読んで頂きありがとうございます。
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以下、本編に関係ない情報。
主人公メンバーの推定子育て上手ランキング
一位:ホムラ『肝っ玉かあちゃん』
二位:イリス『良くも悪くも普通』
三位:翔太『基本普通だけどわりと親馬鹿になりそう』
四位:アミティエ『確実に親馬鹿になる。その上でスパルタ修行させそう』
一応全員毒親にはならないタイプですが、アミティエさんは飴と鞭が半端ないです。
ホムラの場合、メンタルさえ安定していれば伊達に三銃士を現代日本で捕まらない範囲に抑えていただけはありますね。




