第百十五話 兵器開発部門四天王
第百十五話 兵器開発部門四天王
サイド 矢橋 翔太
『銃器開発センター』
大和共和国にある『兵器開発部門』に組み込まれている施設の一つであり、他にもゴーレムや呪具をメインとする『魔道具開発センター』、剣や槍などの『鍛冶部門センター』等が存在する。
名前の通り鉄砲を作る所でもあるが、それ以外にも爆発物や戦車の実験も行っている……と、大西さんから聞いた事があった。だが、『魔道具開発センター』の方ならともかく、鉄砲関係がイリスにどう関係があるのか。
疑問に思いつつ、中区の奥にあるセンターに向かう。そこでアイアンゴーレムによる入念なチェックの後、中に。
施設自体がかなり大きいが、そもそも土地自体がかなりある。中区の半分近くが、もしかして兵器開発部門の土地ではないだろうか。
「前に案内された事があるからな。私について来てくれ」
そう言ってホムラさんに連れられ、蛍光灯みたいな魔道具で照らされる廊下を歩く事二十分ほど。やけに大きな扉の前に到着した。
「あの、ここは……?」
「まあ見てろって。もう先方に連絡は済ませてあるから」
カードを取り出して、扉の横にある魔道具にかざすホムラさん。すると、重い音と共に扉が開いていく。
隔壁と呼んだ方がしっくりくるかもしれない。そんな分厚い扉の向こうにある物を目にして、自分は思わず顎が外れそうになってしまった。
「ゴーレム……?」
ポツリとイリスが呟く。間違ってはいないのだろう。だが、アレを形容するのならもっと相応しい言葉があるはずだ。
そこには、鋼の巨人がいた。
メタルシルバーで彩られた装甲。二本足で自立し、無手で直立する姿は甲冑を着た兵士にも見える。
だが、人間に……生物に見間違えるにはそのシルエットは有機的には程遠く、何よりも露出した関節部の形状は重機のそれに酷似していた。
そう、これこそが全日本人の憧れにして、夢の象徴。
「ひ、人型ロボット!?」
「翔太君?」
大声を上げる自分にアミティエさんが訝し気な目を向けてくるが、気にしている余裕がない。
「え、ちょ、え!?マジですか!?マジで作ったですか!?」
「ふっふっふ。私も見た時は同じ反応をしたぞぉ、翔太。わかる。わかるよお前の気持ち……」
腕を組んで頷くホムラさんに、心の中で同意する。
リアル人型ロボットを見てテンションが上がらない日本人などいるはずがない。四メートルほどの巨体を前に。興奮が抑えられなかった。
「ナイスなリアクション!満足ですわ~!」
「はっ、この声は!?」
「え、知ってる人?」
いや、知らないですアミティエさん。けどハイテンションの自分はついこういう返しをしてしまった。
素早く視線を向けた先。壁に取り付けられた作業用と思しき足場には、四人の人影が。
それらの人物たちが、掛け声とともに跳び下りてきた。
「兵器開発部門、四天王の一人!レディ・プラム!」
紫色の髪を、斜めのおかっぱにしたスーツ姿の妖艶な美女。猫耳をピコピコと動かし、眼鏡をキラリと反射させている。
「同じく。四天王の一角である大門司武流」
金髪を角刈りにした、筋骨隆々の大男。まるでアメリカのアクション俳優ばりに鍛え上げられた肉体を惜しげもなく晒し、更にサングラスがその威圧感を高めていた。
「どうも。彼らの同僚で山崎仁です」
二十前後の、爽やかそうな男性。スラリとした体つきに、着慣れた様子のスーツ姿。その為、他二人と並ぶと妙に違和感を覚える。
「木村……菫、です……」
黒髪を長く伸ばし、前髪も片目が隠れてしまう程の少女。整った顔立ちながら視線は落ち着かず猫背気味で、声もかすれて消えてしまいそうだ。あと何故か黒いセーラー服を着ていた。
「「「我ら!兵器開発部門を取り仕切る四つの頭脳!その傑作をご照覧あれ!」」」
「あ、あれー……」
微妙に乗り遅れている木村さんの横で、他三人がドヤ顔で言い切った。
なるほど。
「リアル魔王と四天王がいるらしいので、その名乗りはちょっとどうかと……」
「「!?」」
「あ、やっぱり?」
ショックを受けたらしい猫耳とマッチョ。山崎さんが後頭部を掻きながら頷いてくる。
「こちらの四人が、自己紹介の通りここの責任者さん達な」
「初めまして、矢橋翔太と申します」
「アミティエです」
「い、イリスです……」
「あ、これはご丁寧にどうも」
とりあえず軽く会釈した直後、猫耳ことレディ・プラムさんと筋肉の大門司さんが大股でイリスに詰め寄る。
「あらあら~。貴女が例のテストパイロットさんですか?」
「すぐにパイロットスーツに着替えるんだ。実験に移るぞ」
「え?え?」
目を白黒とさせるイリスから、二人を山崎さんが引きはがす。
「二人とも、テスターの子が困っているから。先に色々と説明しないと」
「あの、てすとぱいろっとって?」
疑問符を浮かべるイリスに、プラムさんがニッコリと笑みを浮かべる。
「もっちろん!あそこにある魔導式大型甲冑『武御雷』に乗って操縦してもらうお仕事ですよ~」
「えぇ!?」
ギョッとして視線をホムラさんに向けるイリス。それに対して、彼女は笑顔でサムズアップをした。
「いやぁ。元々は私に来た依頼だったんだよ。なんでも、アレを操縦するには『魔導眼』持ちじゃないと難しいって話しでな」
「大型化すれば、それだけ操作や内部機構が複雑化する。いくら思念で動かせるゴーレムとは言え、魔力の流れを正確に目視できる人間でなければテスターは務まらん」
無駄に大胸筋を動かしながら呟く大門司さん。この人、なんで下は軍服なのに上半身はノースリーブのジャケットだけなんだろう……しかも前開いているし。
「ただ、私を始め『まれ人』で『魔導眼』持っている連中は断ったというか……」
「残念ながら、中位クラスのスキルまでいく人はアレに乗るよりも強いんだよね。だから変な癖がつく様な事はしたくないって断られちゃって」
本当に困った様子で苦笑いを浮かべる山崎さん。
なるほど。確かに人型ロボットはロマンだし、自分は是非とも乗ってみたいが……直感が、アレの性能は自分を下回ると告げている。
決して弱くはない。この世界に飛ばされた頃の自分よりは強いと確信がもてる。だが、そこまでだ。
アレに乗って変な癖がつく、というのは。魔力の流れを目視できない身にはわからない。だが、自分の持つ『武器』が鈍るのを嫌がる気持ちは理解できる。
こんな世界だ。命綱を緩めたい奴はそういない。
「イリス。私はお前を推薦する」
「師匠……?」
「お前はちゃんと『強味』がある。けど、今は色々あって自信を無くしちゃってるんだ。自信の喪失が、お前の眼を曇らせてると私は思う」
ホムラさんが彼女の両肩を掴み、真っすぐと瞳を合わせる。
「だから、自信をつけてこい。お前が凄い奴だって、ちゃんと認識するんだ」
「師匠……!」
「お前は自分の居場所を、自分で作れるんだ。世界で初めての、一人だけのゴーレムパイロットになるんだから!」
イリスとホムラさんが、視線をゴーレムに。武御雷に向ける。
鋼の巨人は何も言わない。しかし、確かにそこにいるのだ。搭乗者を待つ兵器が。
「え、量産を目指したデータ取りがメインなんですけど?」
「戦いは物量だ。シャーマン戦車の様に地表を埋め尽くすのがジャスティス」
「ちょ、二人とも。そこは空気を読んで……」
プラムさんと大門司さんの言葉に、一瞬変な空気が流れる。だが、どうにかそれを振り切りイリスが両手を強く握った。
「私……私は。これから、故郷の村に一度行って見ようと思うんです」
「……そっか」
「でも」
迷いを滲ませながら、しかしホムラさんの瞳を見返すイリス。
「その前に、自信をつけたい。私はやれるんだって、確認したい。やらせてください、師匠!」
「ああ。行ってこい!」
「そーの言葉をお待ちしておりましたわー!」
「さあ実験だ。テストだ。歯車を回し、硝煙の香りをむせ返るほどまき散らすのだ」
「本当に空気を読もうね?せっかく見つけた大切なモルモッ、テスターなんだから!」
「ふ、ふひ……ついに私のロボットが、動く……!」
……本当に大丈夫なんだろうか、この人達に任せて。
そこはかとなく不安を覚えるが、疾風のようにプラムさんがイリスを小脇に抱えて走り出してしまう。
「早速お着替えの時間でしてよ~!!!」
「し、ししょーう!?」
イリスのエコーを残しながら走って行く不審者を見送り、まだ会話が成立しそうな山崎さんに話しかける。
「あの……実験って具体的にはなにを?」
「うん。彼女には実際に武御雷を動かしてもらって、そのデータを取ってほしいんだ。それを元に、量産機がより簡単な操作で動かせるようにする為にね。他にも、どういう所が使いづらいとかも見つけてほしいのさ」
「は、はあ……あの。危険性とかは?」
「安心してくれ。その辺りは『伊藤さん』とギルマスから口を酸っぱくして言われているから」
「伊藤さん?」
新しい名前が出てきた事に疑問符を浮かべると、山崎さんが『忘れていた』とその辺の作業台からノートパソコンを持って来てその画面を見せてくる。
いや、パソコンではなく、これは合わせ鏡の魔道具だ。鏡面に波紋が広がり、そこには――。
「だ、段ボール?」
マンゴーの絵が描かれた段ボールがドアップで映し出されていた。
『やあ、初めまして。私は伊藤。偽名なので、下の名前は存在しないんだ。好きに呼んでおくれ』
ふざけた画面からは想像もできない、重圧感のある声が響いてきた。
自然と背筋が伸びる。なんという迫力だろうか。エイゲルン王には及ばないまでも、彼を比較対象に出す程に『上に立つ者』の気配を感じる。
無意識に硬い唾を飲み込んだ後、小さく会釈する。
「初めまして。矢橋翔太と申します」
『ああ。君が矢橋君か。お噂はかねがね』
噂……共和国でも自分の噂が流れているのか。
いやだなぁ……大抵、そういうのは面倒ごとを引き寄せる。変な輩が湧いて出ないといいが。
だが、それよりも今はこの伊藤何某だ。意識を逸らすべきではない。
「伊藤さんは凄い人だよ。僕たちも多少の知識はあったけど、武器づくりなんて初めてでね。彼の知識がなかったら機関銃なんて作れなかったよ」
「正に硝煙の申し子。隠された五人目の四天王と言った所だ」
「私も……引きこもりたかった……」
『いやいや。君達が実際に作業してくれるから、本当に助かっているよ。大和共和国の兵器は君達が作ったものだ。僕は知らない。関わっていない。本当に。絶対に』
あ、なんか重圧感がどんどんなくなっていっている。心なしか声に震えまで混じりだした。
『ほんと……お願いだから僕の事はいないものとして扱って……もしも会社に僕がやっている事がバレたら……!この体じゃ整形で顔も変えられない……!逮捕は嫌だ……!』
ああ、うん。日本でどういう職業だったかは知らないけど、銃器に関わる人だったんだと言うのはわかった。
なーんか自分の勘が『あれ、もしかして戦車作ってる会社の人?』と言い出しているけど、言葉には出さないでおこう。
『そ、それより。君には聞きたい事があったんだ。矢橋君』
「はい、なんでしょうか」
『僕が作った銃を使ったらしいね。その感想を聞きたいんだ』
銃……ラルゴの時に使った頭のおかしい拳銃か。え、アレこの人が作ったの?
「その節は申し訳ありません。自分が雑に扱ったばっかりに破損を」
『いいや、構わないとも。武器は元々乱暴な事に使うんだ。君の扱いは正しい。それよりも、使い心地を教えてくれ。自分では中々上手く使えなくってね。データを取ろうにも使ってくれる人は中々いないし、なによりほら。浪漫があるだろう?やはり時代は大口径。最強の二文字は誰だって憧れるものさ。詰め込めるだけ詰め込んだ火薬が炸裂し、破壊の為だけに作られた機能が――』
そっと山崎さんが合わせ鏡を閉じる。
なにあの人こわい。
「おっまたせしましたー!早速実験を始めましょう!」
背筋に最初とは別の意味で冷や汗を流していると、プラムさんの声がした。悪寒を振り切る様に、軽い深呼吸をしてから入口の方に振り返る。
むせた。
「ちょ、その恰好は」
「し、師匠……こ、これは流石に……」
顔を引きつらせるアミティエさんと、耳まで真っ赤にして自分の体を隠そうとするイリス。
端的に言うと、ロボットアニメのパイロットスーツだった。あのやけに体のラインがわかるタイツみたいなやつ。
青と白のそれを纏ったイリスが、羞恥でプルプルと震えている。かき抱くように回した手が柔らかそうな乳房を圧迫して形を変えさせていた。
こうして見ると本当にスタイルがいい。特に彼女は尻と太ももが凄い。おっぱい教の自分ではあるが、『太ももは太いから太ももなんだよ!』という熱い主張をするに感じるものがある。
つまり、『乳やくびれもいいけどでかい尻とそこから流れるむちっとした太ももっていいよね』という事だ。
「そう恥ずかしがる事もないでしょう!わたくしもプロトタイプの方を着ていますから!」
そう。何故かプラムさんもパイロットスーツを着ていた。ただし。異様にハイレグなのを。
もうあれだ。深夜アニメでしか放送してない方のパイロットスーツである。ホムラさんに匹敵する爆乳を惜しげもなく揺らし、スラリとした美脚をニーソックスに包んで鼠径部を露出させていた。
すげぇ……コスプレ写真以外でこういうの初めて見た。
「む、無理です……これは無理ですぅ……!」
「ちょ、流石にこれは……」
「ええい!こうなったら木村さん!貴女も着替えてください!どうせ下に着てるんでしょう!」
「ぅえ!?」
止めようとするアミティエさんとイリスを無視し、プラムさんが木村さんに視線を向ける。
それに目を泳がせながら、彼女はするするとセーラー服を脱いでいった。
……なんかエロいな。
脱ぎ捨てられたセーラー服の下からは、プラムさんと同じデザインのパイロットスーツ姿が出てくる。
二人と比べて未成熟な肢体は、しかし徐々に女性らしさを出し始めた少女のエロスを醸し出していた。膨らみかけの小さな乳房や、徐々にできはじめたくびれ。そして、意外と肉の乗った尻がハッキリとわかる。
華奢な手足なのだが不健康というほどでもなく、どこか庇護欲まで醸し出していた。
「こ、これで、いい……?」
「グッドですわ木村さん!似合っていましてよ!」
「えへへ……」
なんか犯罪臭がする木村さんの横で、山崎さんがサムズアップをする。
「安心してくれイリスさん。これでも恥ずかしいなら僕たちも着替えよう」
「俺は用意していなかったが、すぐにスーツの予備を持ってくるぞ」
「お二人は止めてくださいまし。絵面が汚すぎます」
「ええ!?せっかく下に着て来たのに……」
おい。まとも枠かと思った山崎さんまで頭やばそうなんだけど。
何がアレって、男性陣含めイリスの恰好に興味ゼロなのである。どう見ても実験しか頭にねえ。
嘘だろ……あんなエロスーツ作っておいてロボット欲が上回っているのか……!
「ささ。実験をしますわよイリスさん!」
「うう……師匠……翔太様ぁ……」
「すまん、イリス。そのスーツはギルマスが考えたらしいから、恨むならあのロリババアを恨んでくれ」
なにやってんだあの人。寝不足のくせに何しょうもない事やってんだ。
けどよくやったぁ!
脳みそに三人のエロボディを焼きつけていく。いやぁ、眼福です。
「どないしよ、翔太君」
「あ、いえ、これはですね」
しまったぁ!アミティエさんが隣にいるのを忘れていたぁ!不覚っ!
「ウチ、妹が羞恥に震えている姿に、こう。胸にこみ上げてくるものがあるんやけど」
「……そっかぁ」
なにやら顔を赤らめて、熱い視線をイリスに向けるアミティエさん。
さては、これ深く考えたら負けな空間だな?
後でギルマスさんからあのスーツに予備がないかを聞かねばと硬く決意をしながら、『ロボとエロの組み合わせは最強やな』と再認識する。
それはそうと、本当に大丈夫か大和共和国。
読んで頂きありがとうございます。
感想、評価ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
以下、本編に関係ない情報
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