第九話 初めての街
第九話 初めての街
サイド 矢橋 翔太
世界が白に包まれていた。
骨が凍り付きそうな冷気に晒されながら、雪が体に打ち付けてくる。上下左右、ほんの一メートル先も見えないほどの状況で、一人佇んでいた。
雪が膝まで積もっていてまともに動けない。それでもどうにか足を引き抜き、歩を進める。
「アミティエさん……?アミティエさん!」
声を出すが風の音でかき消された。これでは彼女の声も聞こえない。
「っはぁ……はぁ……」
呼吸するだけで肺が酷く冷える。目を開けているのだって辛い。
ふと、唐突に吹雪が止んだ。柔らかな雪が降ってくるだけの静かな空間。
どうしたのかと空を見上げて、大きな瞳と視線がかち合う。
『■■■■……!!』
エメラルド色の隻眼。白の竜が、歯をむき出しにこちらを見下ろしていた。
* * *
「っ……!?」
目を覚ます。眼前には赤々と燃える焚火があり、体は地面の上に横たわっている。
「おや、目が覚めたかい?」
声がした方向を見て、咄嗟に固まってしまった。
――エメラルド色の隻眼に、白い髪。
「酷くうなされていたね。大丈夫かい?」
「え、ええ。はい。うん」
「なんだい。随分寝ぼけているじゃないか」
クスクスと笑うアミティエさんに引きつった笑いで誤魔化す。
たぶん、今抱いた感情を口にしたら殺されそうだ。
「かー……くー……」
自分の少し隣ではまきや……じゃない。ホムラさんが寝ている。
なんというか、警戒心というのがないのか口端から涎まで垂らしてアホ面を晒していた。
ここは森の中に昼の内に作った拠点だ。大きな木と木の間にロープをつないで、そこに布や長く葉のついた枝をかぶせるようにして小屋みたいにしている。地面には葉っぱを広げ寝る所には上から布を敷いていた。
その中央に穴が掘ってあり、そこで火を焚いているのだ。一応俺とアミティエさんが交代で番をしている。
ホムラさんが順番に入っていないのは、行き倒れしていたので体力に難があるのも理由だが……。
「その人、信用できると思うよ」
こちらの考えを察したのか、アミティエさんが焚火に枯れ枝を折って放り込む。
「たぶん、君もその子もかなり平和な所にいたんだね。ウチも恵まれている部類だと思うけど、その『日本』とやらは豊で静かな所だったのがわかるよ」
「……そうだね」
日本に住んでいたって、酷い事件は起こるしきな臭い話を聞く事はある。学校は大変だし、勉強やらなんやら煩わしい事もある。
それでも、ここよりは確実に天国みたいなところだった。
「……眠った方がいい。もう少し、ウチが番をしている時間だから」
「ごめん、そうさせてもらうよ」
「うん。ちゃんとウチが寝る時は起こすから」
「ああ、おやすみ」
「おやすみ、翔太君」
寝転がり、布を被って目を閉じる。あまり広い空間でもないので、少しだけ丸々ように。
……今度は、竜の夢は見なかった。
* * *
「おおっ……」
まるで城壁みたいな物が視界一杯に広がっている。すごいな……これがこの世界の街か。こんなのアニメでしか見た事がない。
「ここがウチのオトンが傭兵をやっていた頃からの友達。『スタンク』さんが街長をしている『エルギス』だよ」
「はえー……え、街長?」
「あれ、言っていなかったかな」
「言ってない言ってない」
正直、ホムラさんの話もあるのであまりこの世界の貴族とか兵士を信用できないのだが。
この世界の街長という事は、当然貴族とも繋がりがあるはずだ。
「それって……ムウ・フォン・ノール男爵でしたっけ?その人と関係があったりとか」
「いいや。スタンクさんはこの街をハルバルト・フォン・ストラトス伯爵から任されている人だよ。ノール男爵はストラトス伯爵の寄子だね」
「……無関係なんですか、それ」
「ほぼほぼね」
「ほぼほぼですか……」
微妙に不安だが、行かないわけにもいかない。アミティエさんを信じるとしよう。旅をするにも色々と補充しないといけない物がある。
水はまだいいとして、調味料や歯ブラシ――この世界のは木製で片方がハケ、反対が平たく尖っている物――。それから武器。
あいにくとまだ10連ガチャ分はポイントが溜まっていない。単発は信じない主義だ。なので、必然的に自分の腰にはナイフしか挿していない。
ここが物騒な世界だと知っているので、それだけというのはあまりにも不安だった。日本にいた時は考えられない心配である。
街の門にはかなりの人だかりがあり、皆荷車を牽いていたり色々背負っていたりと、かなりの大荷物な人が目立つ。
だがその顔は暗いというか、商人とは思えない。それだけで彼らがどういう経緯でここに来たのかを察した。
「次の者!」
なんとなく彼らから目をそらしているうちに、自分達の番がやってきた。
「んん?ふむ……通行証と、ついでに身体検査をさせてもらおうか。街に不審な物を持ちこまれてはいかんからな」
応対したのは若い門番だった。その視線は露骨にアミティエさんやホムラさんの体に向いている。
一応ホムラさんには地味な外套で体を隠させたが、二人とも美人なのは一目でわかるだろう。ちなみに俺は目が合った瞬間舌打ちされた。
あまりにも下心丸出しな態度に、少し迷ってから前に出る。
「あのっ――」
「この馬鹿が!」
だが、自分が何か言う前に中年の門番が若い門番の頭を殴りつけ、更に別の門番がもみ手をしながらやってくる。
「す、すみませんあの高名な『雨の日ジョージ』殿の娘さんにとんだ失礼を。あいつは最近入ったばかりの新入りでして」
「いえいえ。警戒するのは当たり前ですから」
それにニッコリと笑みを浮かべて、特に驚いた様子もなく対応するアミティエさん。
え、どういう事?
「今日はいったいどういったご用件で……?」
「街長のスタンクさんに会いに」
「わかりました!ささ、どうぞお通りください」
「ありがとうございます。皆さんお疲れ様です」
「いえいえそんな!ははははは!」
全力の愛想笑い。それを浮べてくる大人というのに慣れていないので、ちょっと怖い。
奥の方で先ほどの門番が別の門番に追加で殴られているのを見ながら、街の中に。
街長の友達の娘って、そんな気を遣う立場だったのか……。
色々考える事はあるものの、それは視線を街の中へと向けた瞬間奥の方へと引っ込んでしまった。
「これが……」
なんというか、今凄く『異世界』というのを実感している。
立ち並ぶ出店に、賑やかな大通り。そこを中世の恰好をした人達が歩き、各々に話したり買い物をしたり。
ここまでなら、海外でも見られるかもしれない。だが鎧や武器を身に纏った人達が普通に歩いているのだ。まるでゲームの中にでも入ったみたいな感覚を覚える。
え、ドラゴンという一番異世界らしいものに出会ったって?アレは忘れたいのでノーカン。
「うん?」
そう言えば、こういうのに一番反応しそうな人が先ほどから無言である。
「ホムラさん?」
少し心配になって見てみると、彼……いや彼女?の顔は真っ青だった。
「え、ちょ、どうしたんですか?」
「移動しよう。こっちに」
「は、はい」
アミティエさんの誘導で大通りから少し離れ、路地の入口へと入る。
「ホムラさん、どこか具合が悪いんですか?もしかして昨日やっぱりどこか怪我を……」
「い、いや。そうじゃなくってな」
冷や汗をダラダラと流しながら、ホムラさんが一度深呼吸を挟む。
「盗賊やら兵士に追われた時のこと思い出しちゃってな……その時、見ちゃったんだよ」
「見たって、なにを」
「……人が、人を殺すところ」
「それは……」
アミティエさんの説明を受けて、そういう事をする奴らだとは知っていた。だが、まさかこの人がその現場を見ていたとは。
「悪い。アミティエちゃんは良い子なんだろうなって、そう思う。けど、俺……情けねえけど」
「落ち着いて。それは普通の事だよ」
視線を落とすホムラさんの肩に、アミティエさんが優しく手を置く。
「実は、ウチも人を殺した事がある」
「えっ」
初耳だ。突然そんな事を言いだす彼女の顔を思わず凝視するが、これまで通りの態度で彼女は言葉を続けていた。
「村を襲った盗賊が昔いてね。ほとんどオトンが倒してくれたんだけど、その時、村の友達を襲おうとしていた奴を後ろから石でね」
「それは……」
「震えたよ。獣を殺すのと同族を殺すのは訳が違う。ウチも、助けた子も、しばらく眠れなかった。だから、君がその光景を見て情けないと思う必要はない」
「……すまん」
「いいんだよ」
ニッコリと笑って手を離すアミティエさんと、己の頬をはるホムラさん。
「よっし!まあそんなわけで『私』はちょっとこの世界の人とは素面で喋れないから!そこんとこよろしく!」
「はい。わかりました」
しっかりと頷く。そういう経験をしたのなら自分からは何も言えない。
ただ、困った。
「よぉし!じゃあそのスカンクだかスラングだかって人のとこに行こうぜぇ!」
「スタンクね」
フードの下でこちらに笑いかけるホムラさん。この人、この街に置いていく予定なんだけど……。
「やっていけるのか、ホムラさん……」
* * *
街長の館は街の中央にあり、役所も兼ねているらしい。街の端からでもわかる大きさかつ厳重な造りをしており、かなりの威圧感があった。
なんせ明らかに堅気じゃありませんって人達が武装して立っているのだ。館に近づく人間をもの凄い威圧感で睨みつけている。
だが、その圧迫感を一切無視する様にアミティエさんが正面から歩いていき、普通に話しかけた時は本当に驚いた。
「皆さん、こんにちは。お久しぶりです」
「ん?おお、アミティエちゃんじゃねえか!」
「ジョージん家の!えらく別嬪さんになって!って、その目……」
「あはは、まあ少し。それよりライゼンさんは?」
「あいつなら先に逝っちまったよ」
「そうですか……」
話の内容からして知り合いのようだ。どうやらお父さんの関係者らしいが。
それから五分ほど話して、その内の一人に案内され館の中へと通された。
「あの、彼らは……」
「うん。あの人達もオトンの傭兵仲間。今はスタンクさんの下で働いているんだよ。色々信用できる相手は貴重だからね」
「は、はあ……」
なんというか、『傭兵』という単語に馴染がなさすぎてしっくりこない。そんな言葉、テレビの中でしか聞かないし。
だが考える間もなく応接室へと通された。実質フリーパスだ。大丈夫なのか警備体制。
「街長。アミティエちゃんが来ました」
「おう。入れ」
ノックして傭兵の人が扉を開けてくれたので、中に。
「アミティエ!よく来たな!」
あ、これ警備とかいらんわ。
両手を広げてこちらを迎えてくれた人物を見て一瞬で理解する。
身長二メートルはある長身に、似合わない礼服の上からでもわかる筋骨隆々とした肉体。厚い胸板から出るバリトンボイス。
撫でつけられたオールバックの黒髪に碧い瞳。鷹の様な眼光と顔の中央にある横一文字の傷が凄まじい存在感を発する、巌の様な大男。
チート抜きだったら相対した瞬間踵を返して道を引き返す事確実の人物がそこにいた。あとホムラさん。ナチュラルに人を盾にしないでほしい。俺だって怖い。
「スタンクさん、お久しぶりです」
「ガッハッハ!前に会った時は二年前か?随分とでっかくなって!ワイスさんにそっくりだ!」
「ありがとうございます。顔だけは父に似なくてよかったと思っています」
「ちげぇねぇ!あいつは人肉食ってそうな面してたからな!」
大笑いするスタンクさんに勧められて、部屋の中央にある机を挟んでソファーに座る。アミティエさんを中央にしようとしたのだが、ホムラさんが俺の隣から離れない。仕方がなく俺が中央になったのだが……。
目が怖い。スタンクさんの目がめっちゃ怖い。
「色々と聞きてえ事がある。まず、最初に……」
その巨体をソファーに沈め、前のめりになりながらスタンクさんが少しだけ迷う。
「あいつは、ジョージの野郎はどんな最期だった」
「……魔物や魔獣を相手に、壮絶な戦死を遂げました。母は、その前に病により体を壊し、そのまま」
「そうか……すまねえ。どうしても聞いておきたかった」
「いえ。ウチも同じ立場なら、同じ事を聞きます」
「……顔以外は、ジョージに似たよ。本当に」
「誉め言葉として、お受け取りします」
背もたれに体を預け、スタンクさんが天井を見上げる。
「あの馬鹿……『雨の日』なんてあだ名、その逃げ足からついたってのに」
「雨の日の奇襲と撤退が大得意だったから、そう呼ばれるようになったんですよね」
「そうとも。家族だけなら、三人だけなら吹雪の中でも逃げれたろうに……馬鹿野郎が……」
数秒の沈黙。秘書らしき人が入って来て、紅茶を机に置いていく音で彼が顔をこちらへ戻す。
「まあ、俺もあいつも、いつか死ぬってのはわかっていた事だ。今は、置いておく」
じろりと、その鋭い目がアミティエさんに向けられる。先ほどまでの親愛がこもったものではない。
傍にいる自分まで背筋が凍るような殺気がのせられていた。
「まさかとは思うが……その目、あいつの仇討ちの為に潰したんじゃねえだろうな、小娘」
地の底から響く様な声に、アミティエさんは静かに笑ったままだ。
「そのまさかです。スタンクさん。ただしこれは、ウチの決断です。ウチだけの責任であり、ウチの為の傷です」
「……馬鹿だよ、おめぇは。本当にあいつそっくりだ。似なくていいとこまで似やがって」
吐き捨てるように言って、スタンクさんが苛立たし気に頭を掻く。
「一応聞く。仇討ちなんぞ俺達傭兵は望まねえ。お前が片目を持ってかれて、なおかつ残った目に復讐心燃やしているぐらいだ。スノードラゴンなんだろう、相手は」
「はい」
「やめとけ。ドラゴンなんざ万を超える軍勢で挑むもんだ。たかがガキが二人や三人いてどうにかなるもんじゃねえよ」
視線がこちらにも向けられる。隣でホムラさんが固まり、こちらの裾を強く握る。
自分は、なんとなく彼の視線を見返した。チートを持ったせいで気が大きくなったのかもしれない。
けれどそれ以上に、ドラゴンと比べれば彼の視線でそこまで動揺するのは癪だった。ようは意地である。
「そこの二人。どういう事情かは知らねえが、なんなら三人纏めてうちで面倒みてやるぞ。市民権も用意してやる。脛に傷があっても構わねえ、そんな奴はいくらでもいる」
破格の話、なのだと思う。
この数日でアミティエさんから聞いたこの世界の常識と照らし合わせれば、こんないい話はありえない。普通なら詐欺を疑うレベルだ。
だが、本当だと思うし、自分には受けられない理由がある。
「……すみません。少なくとも俺は、その話をお受けできません」
「あぁ?」
「ひぅ」
低い声を出すスタンクさんに隣でかすれた悲鳴をあげるホムラさんを無視し、自分は己の右胸を触れる。
「俺はスノードラゴンに『マーキング』されました。これをどうにかするまで、どこかに定住する気はありません」
「なっ……!」
スタンクさんが目を見開き、その厳めしい顔を引きつかせる。
「おま……マジか」
「はい」
「本当ですよ、スタンクさん。彼と、その隣の人は『まれ人』です」
「……なるほどな。道理で」
顎髭を撫でながらスタンクさんが冷静さを取り戻していく。
「平民にしちゃ礼儀があって、貴族にしては品がねえ。商人にしても鋭さがねえのに、なんでか手負いの猛獣みてぇな威圧感がある。これが噂の『まれ人』か」
え、そういう評価なの?だからここに来るまでやけに傭兵の人達から見られたのか。
……いや、あれどっちかっていうと『娘に近づく悪い虫』扱いな気がする。
「それならドラゴンにマーキングされるぐらい執着されて、まだ生きているのも納得がいく。で、アミティエ。まさかこいつの力があるからスノードラゴンを倒せるなんざ、夢見ちゃいねえよな」
「彼の力だけで勝とうとは思っていませんよ。その手段も含めて、これからの旅で見つけるつもりです」
「………はぁぁ」
スタンクさんが、頭を抱えて大きなため息をつく。
「俺は、街長としてそこのガキを街に置いておくわけにはいかねえ。竜のマーキングなんて解呪できる『癒術師』、伝手がねえからな。そんで、アミティエの両足へし折ってでもここに留めんのがアイツのダチとしての責任と思うが……」
「左手以外の四肢を失っても、ウチのオトンは止まりませんでした」
「だよなぁ……なんで父親似になっちまったかなぁ……」
本気で困った様子で、スタンクさんがその大きな体を丸める。
「いっつもそうだ。俺ぁあいつに振り回される。あの馬鹿たれ。狩りや戦い以外にも娘に教える事あんだろうが……生き方が不器用すぎるんだよ、本当に……」
「それでもウチは、オトンが大好きでしたよ」
「俺もだよ、畜生め」
先ほどまでの威圧感はどこへやら。スタンクさんがうちの父親みたいに草臥れた様子でため息をつく。
これあれだ。部下と上司について愚痴を言っているときの父と同じだわ。雰囲気が。
こんななりで苦労人なんだな、この人……。
「おい、坊主」
「は、はい!」
少し失礼な事を考えていたのがばれたか?スタンクさんの鋭い目がこちらに向けられる。
「アミティエを護れとは言わねえ。だが、もし変な事をしようもんなら……」
「は、はい。勿論ですとも。ええ、はい」
冷や汗がダラダラと流れる。
ぶっちゃけね。この世界に来てからまだ一回しか『アレ』ができてないんすよ、下世話な話。
だってね、巨乳美少女との旅ですよ?健全な男子は色々溜まりますよ、ええ。彼女に隠れて、はい。森の中でね?
はっきり言おう。めっちゃ邪な目で見ています。
けど手は出しません。そんな度胸ねえし落ちぶれてもいない。何より『途中で解呪ができても一緒に来てね♡』されそうだし!
「……それで。そっちの嬢ちゃんは?アミティエが連れてきたんだ。必要ならうちの街に住んでも構わんぞ」
水を向けられたホムラさんが、こちらの裾を掴む手を強めた。
「……すみませんが、私は彼らと同行します」
「あの、ホムラさん。それはやめておいた方がいいかと。言ってませんでしたが、俺はドラゴンに狙われていまして……」
「ふっ……なめるなよぉ、翔太」
フードの下。こちらを見上げながらホムラさんが不敵に笑う。なお、その艶やかな頬には玉のような汗が伝っているが。
「私はここに置いて行こうものなら、三日三晩泣きわめいたあげく餓死する自信があるぜぇ?殺人犯になりたいのかぁ?」
「えぇ……」
うっそだろこの人。
「捨てないでダーリン!貴方だけが頼りなの!」
「ちょ、まっ」
抱き着かないで!?立てなくなる!たっているから立てなくなる!
もっちりと柔らかい胸が二の腕に押し付けられ、額がこちらの肩へと擦りつけられる。やばい。柔らかい。神経が二の腕に集中する……!
「……ああ、うん。まあ、ほどほどにな?」
物凄く呆れた目でこちらを見るスタンクさんの声が、どこか遠く聞こえた。
* * *
その後、彼の紹介で宿屋に通された。ここで鍵を受け取ってから、それから買い物の予定である。
ただ、ホムラさんと同室にされたのは俺怒っていいと思うんだ。この未だ人の裾を持ったまま街を観察して『ほえー』とアホ面かますクソボケに。
今日の夜、俺は眠れるのだろうか……森の中テントで仕方なくとは違うと思うんだ。
久方ぶりのベッドは、部屋に一つしかなかった。
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おかしい……まさか私は読者の皆様から『巨乳TS娘好きの人』と思われているのだろうか……不思議だ……。




