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6話 シネマ1

すみません更新遅れました;;


 少しでもリリィを信じた自分が馬鹿らしくなった。

 あいつは体を拭き終わると、すぐに右腕の契約の話を始めた。俺の右腕はこの先永遠にリリィの奴隷になるらしく、リリィが少し指を振れば右腕は思ってもみない方向に曲がった。

 自分で自由に動かせるのに、リリィが少しでも指示を加えればそっちを優先してしまうらしい。戸惑っているのにリリィが実演だとはしゃいで、腕を粘土に変えたり、木を生やしたりしてきたからうんざりした。

 リリィの"遊び"に付き合っていると、ドアが開いて若そうな青年が一人入ってきた。俺よりも二、三歳若く見える。細身の中背で、黒いリクルートスーツにウルフカットになった赤毛が妙に映えて見える。中性的な顔立ちが、男性にしては少し長い髪を自然に見せていた。

 青年は俺の腰かけているベッドの横まで来て止まった。動かずにこちらを見つめている。正確には、体はこっちを向いているが目はどこか、俺のずっと奥を見つめていた。

「着替え持ってきた?」

 リリィが言うと、青年は手に持っていた紙袋をリリィに向けた。リリィは何も言わずに紙袋を受け取ると、中から何か取り出してベッドに一つ一つ投げた。

 ベッドの上に男性用の下着と黒いスーツが転がった。

「これは?」

「着替え」

「誰の?」

「あんたの」

 リリィとの一問一答が終わる。状況が理解できない。青年はまだ俺の体の奥のどこかを見つめている。

「くれるの?」

「うん」

「元のスーツは?」

「捨てちゃった」

 元のスーツが破れたから代わりをくれるらしい。羽振りがいいもんだ。

 俺が部屋の隅に行ってスーツに着替えていると、リリィが青年の紹介を始めた。

 フミキくん。23歳。趣味は読書。妹がいるらしい。

「下は?」

 訪ねると、彼は初めて俺の奥の景色じゃなくて俺の目を見た。

「下の名前は?」

「無いよ」

 リリィが答えた。

「彼に名前は無いんだ。最初から」

 フミキの目がまた遠くを見始めた。

「そんなことより、今後の話がしたいんだけど」

 リリィが切り出した。

「今後?」

「そう、今後の」

 嫌な予感がした。着替え終わったスーツが肌から離れていくような、地に足が着かないような気分。

「腕以外はやる気はない」

 睨みながら言うと、リリィがニヤニヤしながら俺の目を見つめた。おもむろに紙袋から何か取り出すと、こちらに投げ出した。軽い何かが地面にぶつかる音がして、それは俺の足元まで滑って止まった。

 新聞だった。表紙の赤と黄色の太字が仰々しい。

「新聞が何だよ」 

 そう言って新聞を拾い上げながら広げた。タイトルに仕事でもスーパーでもよく見る大企業の名前が載っていた。俺はその企業の名前よく知っている。

「これって」

「そう」

 リリィが相づちを打つ。顔はもうニヤついていない。

「この前の私の討伐戦。もうニュースで広まってる」

 付属の写真を見ると、何故か末端社員の俺の写真がアップで映っている。ご丁寧なことに、本文端にいつか撮った証明写真までついていた。

「どういうことだ?」

「派手にやり過ぎたんだ。ちょっとだけ」

 まだちゃんと読んでいなかったタイトルを読んでがく然とする。

「"大手企業「ミカヅキ」、スパイに強襲受ける"」

 リリィが暗記でもしていたかのようにタイトルを呟く。

 スパイ?俺のことか?何かの間違いだ。他に情報がないか新聞に顔を近づける。

「君が私と契約する直前に、ミカヅキの清掃班が君を殺そうとしただろう?あいつらはそれがバレるのが怖いんだよ

「そんな…」

「下請け企業の人間を意図的にオトリに使ったのも隠したいだろうしね」

 新聞に載った自分の顔を見つめる。普通に撮った写真なのに、恐ろしい犯罪者のように見えてきた。

 リリィが急にベッドにダイブし仰向けになった。何か勝ち誇ったようにこちらを見つめている。

「なんだよ」

「なんだよ?」

 リリィがまたニヤニヤし始めたから、きっと今から嫌な目にあうと確信した。

「立場をわきまえた方がいい。君が今まで生きてきた社会は、君のことを犯罪者だと認識している。」

「全員じゃあないだろ!」

「どうだろうね」

 会話が一瞬途切れる。フミキが何もない壁を見つめている。

「仮に信頼できる人がいるとして、君が頼って会いに行ったらその人に迷惑がかかるんじゃない?」

 今度は数秒、沈黙が続いた。何も言い返せない。

「君は今、生まれたての赤ちゃんよりも弱い存在だよ」

「何が言いたいんだ」

 少し乱暴に言った。煽ってくるリリィに嫌気が差した。会話の目的も見えない。俺はリリィから顔を反らした。

「殺してもいい」

「え?」

「殺してもいいと言ったんだ」

 もう一度リリィを見るとその目は真っ直ぐと俺の目を見ていた。さっきまで緩んでいた口元が嘘みたいに平たく、何故か妖艶で美しく見えた。

「弱い奴はいらない。私の情報を持ってるのに有用じゃない奴は生きていない方が都合がいい」

 語気が強い訳じゃないのに威圧されている気分になった。何か言い返そうとしたが、本当に殺される気がして言葉が出せなかった。

「君は弱いのに私の役にたつ気もないだろう」

「何だよ急に」

「私は魔女だ。人間も好きじゃない。君のことなんか、さっきまで寝てた間にだって殺せたんだ」

 リリィの目がどんどん赤黒くなっていく気がする。そんなはずはないが、少なくとも俺の右腕で遊んではしゃいでいた少女の目ではない。新聞の端を見つめると、リリィに殺された社員たちの写真が載っていた。詳細が映っていない、遠くから撮影したもので、映っているのはほとんど倒れた巨木や割れた地面だったが、充分に魔女の脅威が伝わってくるものだった。

 もう躊躇している場合じゃないだろう。もう10分もこうしていれば、きっと殺されてしまう。何かリリィの機嫌が取れそうなことはないだろうか。

「腕以外に何が欲しいってんだよ」

 言葉が自然と出た。しかしダメらしい。腕以外の体もくれてやれば、えくぼを作ってはしゃぎだすだろうと思っていたのに、リリィはあの目を辞めない。

「そういう問題じゃないんだよね」

「どういうことなんだ。説明してくれよ」

 なだめるように言った。確実に自分は悪くないのに、年下であるリリィに気を使った。つくづくバカらしくなる。俺は弱い。今に殺されるだろう。

 異世界転生までして、年下の若い女子に恐怖している自分にがっかりした。

「飽きてきちゃったな」

 リリィがそう言って俺を見るのを辞めた。赤い瞳孔が気だるげに天井を見つめていた。

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