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4話 魔女狩り2

 じんわりとした温かさが右腕に広がっている。

 全身が痛くて上手く呼吸ができない。

 何が起こった?体が吹き飛んだところまでは覚えている。

 加藤、加藤はどこだろう。

 体を起こそうと地面に着いた両腕に力を入れたが、バランスを崩して倒れてしまった。右腕に鈍痛が響き、それはキリキリとした激しい痛みに変わった。

 耐えられない痛みだが、バタバタと暴れることもできなかった。体全身が痛くてダルい。

 特に足のつま先から胃の辺りまでが酷い。何箇所か骨が折れているんじゃないだろうか。

 俺は右腕に視線を向けて驚愕した。腕のあるはずの場所に何もなかった。むき出しになった2対の骨は折れていて、よくわからない肉が絡みついている。

 叫ぶよりも先に、これからのことを考えた。他の作業員たちはどうなった?このままここにいていいのか?今どういう状況なんだろうか。

 首だけ持ち上げて当たりを見回すと、凄惨な景色が広がっていた。

 作業員たちは全滅していた。うるさくエンジンをふかしていた機械は大破して、1列目を担当していた作業員たちの盾や体と混ざってぐちゃぐちゃになっていた。

 2列目や3列目の作業員たちも大して変わらない。スプラッタ映画の現場にすれば間違いなくアカデミー賞だ。

 加藤を探すのは諦めた。ある程度見回したがこの有様だ。死んでるに決まってる。

「加藤・・・」

 悔しさを込めてつぶやいた。あいつはまだ25歳だ。これからだったのに。

 声を出して初めて気づいたが、耳もやられていたらしい。音がやけにこもって聞こえる。

 遠くから何か雑音が聞こえる。誰かが話す声と、何かが燃える音だ。

 火事だろうか。だとしたら危険だ。ここは森だしすぐに逃げなければ周辺の木々と一緒に灰になってしまう。

 どうせ魔女狩りは失敗だ。とにかくここを離れなければ。

 音の聞こえる方に助けを求めようとすると、予想もしていなかった光景が広がっていた。

 

 魔女だ。魔女が10メートルほど離れた位置で、統括本部の人間たちと戦っていた。

 顔が見えない程大きなつばの紺色の帽子を被り、紺色のローブに身を包んでいる。

 コテコテの魔女だ。猫背になっているローブの背中の部分には、倒れた聖杯のようなマークが刺繍されている。

 手に持った大きな杖は、先が曲がっていて鎌のようにも見える。

 魔女が杖を振り上げてブツブツと何か呟いている。

 統括本部の人間たちが何か察したようで防御の構えを取るが、直後地面から現れた大量の木材に足元をすくわれて体制を崩してしまう。

 木材は瞬く間に籠のような形状に変形し、数人の統括本部の人間たちを閉じ込めてしまった。

「凄い…」

 初めて見る魔法に感嘆の声を漏らした。

 閉じ込められた人間のうちの一人が籠から腕を出し、先程の魔女のように何かブツブツと唱えている。

 やがて赤い螺旋状の光のような何かが腕を囲み、その光と同じような物体が弾丸のように魔女に向かって無数に飛んで行った。

 魔女は馬鹿にするように少し笑った。魔女が杖で払うような動作をすると、森の木の一つが驚くほどの速さで幹を伸ばし、盾となって弾丸から魔女を守った。

 続けて攻撃を仕掛けるように魔女は腕を上げるが、すぐに転倒してしまった。

 うめき声をあげる魔女の足元を見ると、先ほどと同じ赤色の光の。しかし人間の腕を一回り大きくしたような形状の何かが、魔女の右足を掴んでいる。

 木製の籠の中では、先程弾丸を打った社員ではない人間が何かブツブツ唱えていた。

「CGみたいだ…これが紋章持ち…」

 紋章持ちの使う魔法が美しくて、感動と共に嫉妬を覚えた。しかし今はそれどころではない。

(早く魔女を倒して、できれば俺を助けてくれ・・・)

 そう思っていると、籠に囚われていない社員たちの奥から数人の男たちが現れた。手にはライフルのような武器を持っている。

 男たちは魔女から5メートルほど離れた位置まで移動すると、ジタバタしている魔女に向かって銃口を向けた。

「照射!」

 統括本部リーダーの倉敷が合図すると、男たちは武器の引き金を引いたようで、銃口からは魔女に向かって炎が放たれた。

「うわああああああ!」

 魔女が叫び声を上げてバタバタと暴れまわる。男たちが照射を辞めないため、魔女は何とかして逃げようと何か詠唱した。

 成人男性くらいの太さの木が地面から現れ、木の幹から木材の繊維が飛び出し盾の形に変形するが、すぐに男たちの武器によって焼却されてしまう。

 魔女はうめき声を上げながら地面をはって逃げようとするが、先程の赤い大きな腕が魔女の右足を離さない。

 魔女は何か詠唱して地面から木製の小さなナイフを召喚すると、ナイフを手に持った後、少しためらいながら掴まれている右足を切断した。

 魔女は片足でケンケンしながらこちら側に逃げてくるが、途中で転んでしまった。今度はあの赤い腕のせいではない。片足のためバランスを崩したようだ。

 俺からそう遠くない位置に倒れ、うずくまって悲痛な声を上げている。

 

 もう勝ったと思ったのだろう。銃を持った男たちは照射を辞め、統括本部の人間たちは魔女をあざけ笑った。

 倉敷がポケットからケータイを取り出し、ワンタッチでどこかに電話をかけている。

「すべて計画通り。損失はありません」

 倉敷は数秒間相手の返答を聞いてから通話を切り、ケータイをしまった。

「片付けと最終チェックは清掃班に任せる!本日は解散!」

 倉敷が叫ぶと、本部の人間たちは疲れただの腹が減っただの愚痴をつきながら帰り支度を始めた。数人の社員がこっちに転がってる大量の死体に近づいてくる。恐らく清掃班だろう。

「おいお前!」

 突如誰かが叫んだ。若い女性の声だった。本部の女子社員だろうか。

「お前だお前!聞こえないのか!」

 声のする方を見ると、叫んでいたのが倒れている魔女だとわかった。声が若すぎて気づかなかった。

 声ならまだしも顔つきも若い。童顔で顔にはシワ一つない。魔女だというから鼻の長い老婆を想像していたのに、実物は15歳前後の女の子だった。

 魔女はこちらを睨みつけながら早口で叫んだ。

「私と契約しろ!今ここでだ!」

 突然の言葉に耳を疑った。契約?何の契約だろう。第一何のためだ。

「早くしろ!時間が無いんだ!」

 呆然としていると魔女が這って近づいてきた。年下に怒鳴られたのは2度の人生で初めてだ。

「契約ってなんだよ」

 驚いていたから声が上ずった。魔女が何をしてくるかわからないから怖さもあった。

「お前の右腕を寄こせ」

 驚きのあまり返答できなかった。

「早くしろと言っただろう!」

 魔女はそう言うと胸ぐらを掴んで顔を俺の目の前に持ってきた。すごい剣幕だ。明らかに焦っている。

「寄こせってどういうことだよ。第一、もう右腕はねえよ。お前が吹き飛ばしたんだ」

「そういうことなら問題ない」

 魔女はそう言うと指でどこかの方角を差した。魔女の差す方を見ると、木の根元に恐らく俺のものである腕が転がっていた。

「あの腕を貰って、お前には新しい腕を作ってやる」

 意味がわからない。取れた腕なんかもういらないし、俺に新しい腕をくれるって?

 それじゃあまるで、俺には得しかないじゃないか。

 魔女が人が得をするような契約を持ちかけるわけがない。こいつ俺をハメるつもりだ。

「俺を騙すつもりか?そんな上手い話があるか!」

 俺は魔女に初めて睨み返した。

「腕が欲しいならそこに山積みになってる死体から貰えばいいだろ!わざわざ契約なんてする必要がねえ!」

 裏があると確信した俺は強気に出た。

「残念だったな魔女野郎!俺は騙されねえ。何か別の契約でもして逃げようと思ったんだろ!何を言ってこようが無駄だ!」

 魔女はキョトンとしている。

「お前はここで死ぬんだよ!統括本部の奴らと、下働きだが役に立った俺たちの活躍で討伐される!」

 言い切ってやった。今になって加藤との思いでが蘇ってきた。

 転職組だったが、新卒社員と同じくらい可愛がってやった。大企業からの転職だったのは鼻についたし、少し生意気なところもあったが良い奴だった。

 俺もあいつも盾にしかならなかったが、誇りに思おう。そして、あいつが残していった戦果に見合う態度を取らなければいけない。

「殺したきゃ殺せよ。俺はお前に腕はやらないし、協力もしない」

 魔女はまだ目を丸くさせて、わけがわからないといった顔をしていた。

 きっと心に余裕ができたんだと思う。俺は魔女に説教でも聞かせるように上から言った。

「人間様の誇りは理解できねえだろ。俺達には間違っても曲げられないプライドがある」

 そこまで言うと、突然魔女が笑い始めた。始めは鼻から激しく息が漏れて、次第に子供がはしゃぐように笑った。

「臭かったか?まあいい。お前は死ぬ」

「あんたも死ぬんだよ」

「殺すならやれよ」

「そうじゃないよ」

 魔女はひどく冷たい目をすると言った。

「あんたはそのトーカツホンブの奴らに殺されるし、あんたと下働きの奴らは活躍なんてしてない」

「どういうことだよ」

 こいつの話はチンプンカンプンで理解が追い付かない。少なくとも、活躍してないという言葉には納得できなかった。

「訂正と謝罪をしろ。俺の後輩はお前を討伐するために戦死した。胸を張れる"活躍"だ」

「騙されて囮になったことを活躍って言っていいの?」

「なんだと!」

 思わず左手で魔女の胸ぐらを掴んだ。

 魔女は馬鹿にするように続けた。

「最初に円形に陣を取っていたのは、僕を制圧するためじゃなくて僕の最初の攻撃からトーカツホンブから守るためだよ。君たちはトーカツホンブが綺麗に先制攻撃するためと、危険度の高い魔女からの第一手を避けるための囮だ」

「違う!」

「何が違うの?全員を生かす作戦だって立てられたはずだ。でもそうしなかった」

「きっと予測できなかったんだ!予測できないほどの威力だった!」

 魔女はまたどこかに向かって指を差す。指の先には俺たちを守る予定だった盾が転がっている。

「あの盾が一度でも作動したかい?」

「攻撃が早すぎて、作動しなかったんだ」

 声が上ずった。研修でも一度も盾の魔法は作動させていない。でも大丈夫なはずだ。盾の性能が充分じゃ無いなんて、人の命がかかった現場であり得ていいはずがない。

「じゃあ遅ければ作動できたんだ」

 魔女が俺の目をじっと見て言う。

「作動させてみろよ。今。」

 魔女はそう言うと、近くに落ちていた盾を拾い上げて俺に突き出してきた。

 俺は魔女の手からムキになって盾を奪うと、盾の持ち手にあるスイッチを押した。

 盾に掘られた紋章に沿って緑色の光が伸び始める。

「ほら見ろ!ちゃんと作動するじゃないか」

「パートリファイ」

 魔女が何か呟いてから盾を殴りつけると、盾が粉々に割れてしまった。

「痛いだろ!何するんだ!」

「今のは下級魔法だ」

「え」

「答えろ。その盾で魔女の攻撃が防げるとトーカツは言っていたんだな?」

 答えられなかった。俺はただ茫然と魔女を見つめた。

「待ってくれ」

「待てないし、待ってもお前から言い訳は出てこない」

「そうだ!きっと壊れているんだ。すごい衝撃だったから」

「あの男は」

 魔女が口を挟んだ。

「あの男は『すべて計画通り。損失はありません』と言ったんだぞ」

「あれは統括本部側の損失を言っただけで」

「お前らの業界では武器の破損は損失に含まれないのか?」

「あ・・・」

 4年蓄えた業界知識が言い訳をさせてくれなかった。魔法武器を管理しているのは一番上の統括だ。間に入ってる中間会社じゃねえ。

 その統括管理の武器が壊れたのに、統括の倉敷が上に『損失なし』と言うのはおかしい。

 統括本部の人員に限って損失なしと言った可能性も無しだ。現場全体の仕事の完了報告の際に、わざわざ自社社員限定の生存報告をする意味がない。

 ハメられた。この案件は魔女討伐における前線の盾持ち要因補助ではない。

 統括本部が安全に魔女討伐をするための死亡要員補助だ。

 顔の血の気が引いて、体全体が震え始めた。怖いのか怒っているのか、自分でもわからない。

 背中がひどく冷えて寒い。喉が渇いてきた。

「後輩君は満足してくれそうかい?」

 俺が状況理解したのに気づいたんだろう。魔女が話しかけてきた。

 答えられない。声が出ねえ。

「本当に時間が無いんだ。早く決め―」

 言い切る前に、魔女の体が宙に浮いてふっ飛んだ。ゴミみたいに地面にぶつかると、水たまりにレジ袋を落とした時みたいな音がした。

 魔女のいた位置に、掃除班の一人が立っていた。

「あれ、盾持ち担当のお方ですか?」

「は、はい」

 平然と聞いてきたからドモってしまった。魔女と言っても、まだ20歳にもなっていない女の子を躊躇いもなく蹴ってこの様子だ。

「他に生存している方は見かけましたか?」

「いや、たぶん全員・・・」

「そうですか」

 ガチャ。と、音が鳴った。質問してた奴が俺の頭に銃を突き付けている。

「実弾が鉛じゃなくて炎なんで。まあ苦しんで行ってください」

 言われた瞬間に終わりを自覚した。今までの出来事が走馬灯になって繰り返される。

 でも一瞬で現実に引き戻された。焼死ってことは即死できない。苦しいのはごめんだ。

 正直二度目の人生だし、かっこつかなくても理不尽でも、死んだってかまわない。でも苦しい死に方をするのはごめんこうむりたい。

 焼けただれ、硬化する皮膚を想像した俺は、恐怖のあまり叫んでいた。

「俺の腕をやる!俺と契約しろ!魔女!」

 次の瞬間青い光が視界の全体を覆って、俺と清掃班を何かが突き飛ばした。

 俺は遠のいていく意識の中で、巨大な青い腕が清掃班と統括本部の人間全員をアリみたいに叩き潰しているのを見た。

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