3話 魔女狩り1
「円形になるように、あまり隙間を作らないように並んでくださーい」
20代前半のスーツ姿の男が声を張り上げている。統括本部の若手社員だ。
俺は若手社員の指示に従い、他の作業員たちと一緒にぞろぞろと円を作っていた。
長浜からの電話の後、俺と加藤は月末に前の現場を去り、魔女狩り案件参画した。
1週間の研修と検査を受け、今日が魔女狩り実施となる。
「虫多いっすね」
隣にいる加藤が羽虫を手で払いながら言った。
ここは森だ。山と言った方がいい。都心からも郊外からも離れた、高速道路の通り道になっているような人通りのない森。
この森の奥に魔女がいるらしい。
そいつを誘き寄せて討伐しようというのが、研修で聞かされた内容だ。
「魔女の眷属だったりしてな」
「無くはない話ですね」
冗談のつもりで言ったが、加藤は真面目に返答してきた。流石は元魔女狩り様だ。
「虫なんか使う奴もいるのか?」
「普通にいますよ。頭が1メートルあるトンボって見たことあります?」
あるわけがない。無いと知ったうえで聞いてきたのだろう。加藤がニヤニヤしている。
煽る後輩に少しムッとして言い返した。
「まあ資料になかったし、今回の魔女が虫を使うことはないだろ。研修通りやるだけだ」
「・・・まあ。大体はそれが正解ですね。」
加藤は少し考えてから答えた。
「大体ってなんだよ。」
「相手は魔女です。こっちが把握してない魔法も使うし、想定してない仲間も呼ぶかもしれません。でもそのときになって個々がバラバラに動くよりは、研修通りに連携して動いた方が強力です」
「マジかよ・・・でもなあ~」
片腕に持っている大きな盾を見下ろした。研修で扱っていた魔法武器だ。
盾の真ん中に紋章がついていて、そこから盾の端に向かって5センチ程の幅の線が複数伸びている。
紋章の部分に何か入っているらしく、その部分だけ異様にデコボコしている。
「重くない?」
「コンデンサーが入ってますから」
「コンデンサー?」
「エンジンみたいなもんですよ」
「なんでエンジン?」
「魔法武器だからでしょう」
きっと今までいくつもの魔法武器を取り扱ってきたのだろう。加藤は質問に即答し続けた。
盾の紋章を不安気に見ていると、聞いてもいないのに加藤が解説をし始めた。
「魔法武器と言っても、紋章持ちが使う魔法とは別物です。エネルギーをコンデンサーに通して動力や電気に変えているだけです」
「それって全然魔法じゃなくない?」
「元になるエネルギーが魔法と同じですから」
「へ、へー」
よく知ってるなあと思う。
「でも研修中は魔法っぽい事しなかったじゃん」
「簡単に使っていいものじゃないんですよ」
「本番で急に上手くできるもんなのかよ・・・」
加藤と話しているうちに全ての作業員が配置についた。上位会社の用意した大きな機械を囲うように、参画した各企業の作業員たちが、総勢100名ほどで3重の円を作っている。
俺は加藤と一番外側の円に陣取っていた。
「作戦決行します。各社研修通りに動いてください」
円の外側にいる統括本部のリーダー、倉敷が全員に聞こえるように声を上げる。
倉敷が右手で合図すると、同じ統括本部の社員が中央の機械を作動させた。けたたましいエンジンが森中に響いて反響する。
いよいよ魔女が現れるらしい。研修で聞いたが、あの機械を作動させると魔女を強制的に呼び出すことができるらしい。
エンジン音は次第に大きくなり、周囲で強風が吹き始めた。
地面の土や小石が宙に舞い、砂嵐を作り出す。
飛んでくる土煙から腕で目を守りながら、今まで経験したことがないくらいの高揚を感じていた。エンジン音がうるさく響いているのに、自分の心臓の音が耳のそばではっきりと聞こえていた。
周りの木々が大きく揺れ、枝が何本も折れる音が聞こえる。
次第に勢いは強くなり、砂嵐に太い木の枝や大きめの石も加わって、ほとんど目を開けていられる状態じゃなくなった。
例の機械から壊れるんじゃないかと思うようなエンジン音が響いている。
オーバーヒートしてるんじゃないか。目に見える電流が機械の周りに何度か発生していて、魔女なんて関係なく危険だった。
そう思った直後だろうか。大量の鋼がこすれ合うような音と共に、俺は宙に吹き飛んでいた。