伐採士モーリー
二年以上かかっての更新です。
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「んうぅ……ん。あー、良く寝たなぁ」
ケイザンがスタンドとの連絡を終えてから、特に敵が出てくることもないまま朝を迎えた。
誰に起こされるでもなくどこか悩ましさを感じさせる声を上げ、昇る朝日を見てシンヤが伸びをする。
「そういえば野宿って初めてだったかなぁ。前は夜通し移動してたし。ウン、こんな感じなんだね」
頭に浮かぶのはここに来るより前のこと。だがハンス町から来た時のことではなく、それよりも前。シンヤがハンス町へと辿り着いた時のことだ。
あの時は大変だったなと遠くに目をやりながら思い出す。
体も心も両親に大いに傷つけられ、逃げるようにそこを離れた。だが逃げた先でも軽んじられ、虐げられ、拒絶された。
そして今の自分ができた。
「…………」
軽いフラッシュバックが起きるが、ゆるく上げた口角から表情を変えるでもなく白い髪は風に撫でられている。濁りきった眼は、ただ白んでくる空を移す。
「おお、早いな。もう起きたか」
シンヤが振り返った先では、ケイザンが一服しながら近づいて来る。
結局眠気が訪れることはなかった彼は、そのまま誰とも交代するでもなく見張りをしていた。次の野営では残りの三人で回してもらうつもりだ。
いや、やはり双子だけでやってもらおう。慣れてない奴に夜の見張りは難しい。何より死にたがりの巻き添えはご免だ。
「あ、オニイサンおはよう」
「おう。さて、じゃあ双子を起こすか」
鼾の煩いアムとその横で寝ていたヒューイの頭を軽く叩く。
「おい起きろ馬鹿共。もう朝だ」
「でっ!」
「……んぁ?」
「アハハハハハ!」
叩かれた二人の様子を見て声を上げるシンヤにアムが「朝っぱらからうっせぇ!」と怒鳴る。起きて早々に怒鳴れるとは元気が良い。
「起きたらさっさと準備しろ。昨日みてぇなことがねぇ限り今日中にはモーリー村に着いておきてぇ」
「……もう少し寝てたいな」
ヒューイが目をこすり、耳を動かしながら呟く。どうやら朝に弱いらしい。
「車で寝ろ。お前らもさっさと乗れよ。それが嫌なら後は魔獣か黒霧産物の餌だな」
「黒霧産物ってボクたち食べるのかな?」
「例えだ例え。マジ置いてくぞ」
髪留めを外して髪を整える優男が運転席のドアを開け、三人は荷台に乗り込む。大きく車体を揺らした車は間もなくエンジンをふかし、再び荒れた地を走り出した。
◇◇◇◇◇
約二時間、スタンド町を出てから【ケダモノ共】との遭遇地点まで来た時と同じ位の時間が経ったが、その道中は今の彼らにとって至って平和といえる物だった。
魔獣や黒霧産物が行く手を阻む事が少なくなかったものの、異常個体を制した後となればいずれも容易い。
盾役のアムとヒューイの二人がケイザンを守りつつ、あるいは斬り、あるいは突き、あるいは殴り、その間からケイザンのダーツが敵を射る。小規模な爆発が複数起こる中で、好き勝手動き回るシンヤがナイフで斬り、飛ばし、突き刺し、笑う。
最初はシンヤの笑い声が響く度にアムが怒鳴っていたが、今では完全に慣れてしまった。「何度も聞いてりゃ慣れるモンだな」と言っていたアムに対しヒューイが肯定で返すやり取りを見て、ケイザンは昨夜の寝ている二人を思い出し口角が若干上がっていた。
相談の末にシンヤは完全に放っておき、攻撃後シンヤに敵視が向きそうになったらカバーに回るというスタンスに変えた三人。スタンドと話していたことを双子にも伝え、改めて認識を合わせた所、闘いやすさが明らかに向上した。
三人でいた時の戦い方はそのままに、遊撃手を一人加えたようなものだ。指揮官の命令など気にも留めないが、三人が少し気を配ればいい。今回の依頼の報酬も加味すれば十分すぎる釣りがくる。
そんな考えを巡らせているケイザンの視界の奥に、見慣れ切った黒霧と荒廃した景色のとは別の物が見えてきた。
「お、見えてきたぞ。アレがモーリー村だ」
目的地となるモーリー村。村と言ってもそれは単純に居住地の規模で振り分けられているだけで、多少見た目が異なれど他の都や町と同じく、住居に拠点、囲いといった造りは変わらない。
モーリー村は太い丸太を綺麗に並べた囲いに、大半の建物が同じく丸太を用いて造られている居住地になる。
昔よりも木材が稀少となってきている今の時代、資格が無ければ木の伐採が不可能となっており、またその資格を得るための条件も難しくなっている。
モーリー村の拠点長・モーリー・エヴァンスは、その条件たる「伐採士」の資格を持っていた。
大きくふくよかな体に心と母性、そして伐採を行える数少ない存在である彼女を、【母なる伐採士】と呼ぶ者も多い。
「モーリーのオバサンかぁ……あの人やりづれぇんだよなぁ……」
「ああ、俺らのこともガキ扱いでたまったもんじゃねぇ」
「まあそれも当人の良さでもあるんだけど。うーん……」
煙と共に小言を吐くケイザンに双子が乗る。三人共モーリーとの面識があり、どういった対応をされたのかを想像しては辟易していた。無論会ったことのないシンヤはいつもの笑顔で、頭に疑問符を浮かべている。
怪訝な顔三つと疑問顔一つが一台の車に乗ったまま、彼らの表情を作る原因となっているモーリー村へと入っていった。
◇◇◇◇◇
「マァ~~~~~! よく来たわねあなたたち! スタンドさんからこっちに来るのは聞いてたけど、思ったより早く着いたのね~~~!」
モーリー村に入って車を降りてから数分後、ケイザンと双子はふくよかで大柄な女性に、三人まとめて抱き寄せられていた。三人とも何とも言えない顔をしているが、少なくとも良く思っているようには見えない。
「わかった、わかったからモーリーさん! ちょっと離してくれ、三人まとめてだと痛いんだよ!」
「あああああ~~~~~!!!!!! うっとうしぃなババァ!」
「アム動かないでくれ! 防具が当たって痛い!」
「マァ、みんな元気で何よりよ! それに「ママ」って呼んでっていったでしょ? ホラ言ってごらんなさい?」
ケイザンはともかく決して非力ではないアムとヒューイでも、モーリーの腕から出るのに苦労している。
三人がうごうごともがいている様子を見て、この男が笑わない訳がない。
「アハハハハハハハ!」
笑われての意趣返しか、ケイザンが笑っているシンヤを一瞥する。
「そうだモーリーさん、コイツのことも聞いてるだろ、今回一緒に依頼を受けることになった奴だ」
「ああ! そうだったわ! 聞いてるわよ~。まさか試験管になったのがこんなに若くて可愛い子だったなんて思わなかったわ~~!」
三人をすぐさま解放すると、そのままシンヤの肩を掴む。三人は安堵の息をし、シンヤに対し悪い笑みを浮かべる。
「……今回は羊になってくれたな」
「あ? 羊だぁ?」
「スケープゴートって意味だね。可愛そうだけど、まあいずれなることだし」
三人の視線の先にいたシンヤとモーリー。変わらぬ笑顔をモーリーに向けると、モーリーも笑顔で口を開く。
「あなたがスタンドさんが話していたシンヤちゃんね。私がここの『モーリー村』の拠点長、モーリー・エヴァンスよ。よろしくね」
「うん、よろしくねオバサン」
笑顔での返答ではあったが、それに対し困った笑顔でモーリーが首を振る。
「ここでは「ママ」って呼んでくれていいのよ? 遠慮しないで呼んでみて?」
「わかった! よろしくねママ」
「マア~~~何ていい子なの!? いいわよ? ママに何でも頼って頂戴ね!」
嬉しさのあまり、モーリーは勢いよくシンヤを抱きしめる。シンヤもそれに抵抗するでもなく素直に受け入れている。
元々母性が強いモーリーではあったが、実際にママと呼ばれることは少なかった。それが急に呼ばれたことで、いつも以上に母性があふれ出てくる。
ましてや中性的な美しさや可愛らしさを持つ少年に言われた日には、その喜びというのは計り知れない。
抱きしめられているシンヤを見て、先ほどまで抱きしめられていた三人が呆然としていた。
「……スゲぇな。あの拠点長のハグを受け入れてやがる」
「なあ、あっさりあんな感じで「ママ」とか言えるか? 俺はムリだぞ」
「まあシンヤだから言うことに抵抗がないのかもしれないけど。それにしてもモーリーさんがあんなに受け入れてるなんて初めて見たな」
三人は口には別の意見を述べるものの、思っていることは一緒だった。
ああよかった。モーリーの相手をしなくて済む、と。
【変更】
介錯人の番号を「No.XX」から「第〇〇番」に変更します。
【黒霧塊】と【No.16(ディエシセイス)】と読みが被る凡ミスを解消する為です。
介錯人は【第 零番】から【第 伍拾番】までとなり、それに伴い既存の呼び方を変更いたします。
また介錯人の武器の種類を広げる為、「天秤を模した武器」から「天秤のマークが入った武器」に変更いたします。




