苦々シい結論
一話にまとめると長くなりそうなので分けました。
そのため若干短めです。
やれやれと溜息混じりにぼやくスタンドの様子はまるで歳相応だった。
「今のすげぇ年寄りくせぇぞ」
「やかましいよ黙りな」
過去にも同様の出来事があったとはいえ、今回は内容が内容、相手が相手だ。突く藪は深い。
まったく面倒なことをさせる。
苛立ちを感じたスタンドの咥えている煙草が、勢いよく灰へと変わっていく。
「で? 何だいもう一つってのは」
灰皿に煙草を押し付け多少気が晴れたか、ケイザンに話を促す。
「今回鉢合わせた【ケダモノ共】なんだが、今までの異常個体と明らかに違う」
「違うってのは?」
「戦い方から何からだ」
短くなった煙草を消し、次を取り出しながらそのまま話を続けた。今このタイミングで黙ったままだとスタンドがうるさい。
「双子が敵視を稼いでいたのにその後ろにいる俺に狙いを定めたり、まだメッタ刺しをする前だったシンヤを真っ先に殺ろうとした。それに警戒してたみたいに攻撃せずに、こちらの様子を伺っているようにも見える時もあった」
「何だって?」
思いもしない言葉に、スタンドが先と同じ台詞を吐く。ただそれは「そんなバカな」という疑惑からではなく、純粋な驚きだった。
黒霧産物は通常個体、異常個体問わず、一定距離内に人が近付くと襲いかかり、より近い位置にいる者、敵視を稼いだ者を優先的に殺害しようとする。
その習性は黒霧産物と戦ってきた長い歴史の中で何一つ例に漏れず、言わばプログラムのように確立されている物だった。
自身に最も接近し敵視を稼ぐ盾役を無視し、危険と判断した者を狙うという行動も、ましてや警戒などする筈もない。
そう、その戦い方はまるで――。
「……意思があるってことかい」
「残念ながらな」
「確かなのかい?」
「今言ったろ。ありゃ手前で考える頭を持ってる奴の行動だ。記録にも残せてねぇがあんな戦い方してくる黒霧産物なんて見たことねぇ」
話をするにつれてケイザンの顔に浮かぶ雲行きが暗くなっていく。その原因となる根拠は他にもある。
「それに、ヒューイが気付いたんだが――」
◆◆◆◆◆
「さっきの【ケダモノ共】なんだけど、遠吠えの体勢を取っただろ?」
黒狼との戦闘が終わってすぐ、放心から復活したヒューイがケイザンの下へ訪れていた。死に際の咆哮で気になることがあるらしい。
「取ってたな……まああれがあったから「180」取れたんだけどな」
そうは言うものの、黒狼が置き土産に遺した物はケイザンの表情をより険しくさせていた。疑惑に変わった仮説が色濃く増していく。
そこへ、更にヒューイが色を重ねていった。
「その時に、何か聞こえたんだ」
「聞こえた?」
「聞こえたっていうより、響いたって言えば良いかな。遠吠えをしたと同時に耳に違和感があった」
亜人である自身の犬の耳を何度か動かしながらそう告げる。シンヤが黒狼の死と交互にヒューイを見ていたのはこれだった。
優男の方眉が急激に吊り上がる。
「……おい待て何の話だ」
「今回はただの振動に過ぎなかった。でもそこが問題じゃない」
そう、問題はそこではない。「そこ」があること自体問題だった。ケイザンもこの時点で理解している。
極めて信じ難いことだが、先の戦闘を思い返すと受け入れざるを得なくなる。そしてそれを受け入れるということは、自らが抱いていた疑惑がより明確に輪郭を描くことを意味している。
受け入れたくない。受け入れたくないが、話を進めずにはいられない。
「てことは、つまりあれかよ」
「ああ」
二人がほぼ同時に、シンヤが手にしている黒い牙を見る。
「あの【ケダモノ共】は、声を出していた」
◆◆◆◆◆
互いの端末からは何も聞こえない。
ただ呼吸に合わせて垂れ流しで煙草を吸い、、煙を吐く。こんなに不味く感じたのは初めてかもしれない。
声なき者の咆哮は、文字通りの断末魔だった。
また狼は感情が高まった時に遠吠えをするという。つまりあの黒狼は感情を持っていたことになる。
そして戦いに於いても戦況を把握し、どう行動すべきかを考える知能を有し、警戒し踏み止まる意思を持っていた。
まだ不完全ではあるものの、それが意味する物。
黒霧産物が進化している。
二人は同じ結論へと行き着いていた。
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