命ヲ金ヨり軽く見ル者
ババァ何言ってんだ。
そう出ようとした言葉を舌に留めた。
聞いた瞬間は同じような物だろうと思ったが、中身は全く違う。「伝える」と「伝わる」と同じだ。
言葉は限りなく近いが意図としてはとても遠い。
それを理解したケイザンは言葉に詰まる。何かがあったのだというのは分かるが、だからといって自分が何か出来るかといえばそうでもない。
それに関わってから一日経っていない相手の根深い問題に踏み込むには、まだ何も知らなさすぎる。
何よりあの白い軍鶏と関わるのはこの依頼だけだ。あとはこちらの兵器を見てもらえばそれで終わり。流れのアイツはその内居住地を離れる。
そんな浅い関係でしかない奴のことを探ろうなんて面倒以外の何物でもない。昔の誰かも言っていた、三十何計何とやらだ。
「まあアイツのことはそれくらいだ。また異常個体でも出ない限りは三、四日ありゃ何とかなんだろ。それよりも気になることが二つある。両方とも【ケダモノ共】絡みだ」
「何だい、言ってみな」
やや強引だが話を切り替え、スタンドも今の所シンヤに関しての最適解が出せないとそれに乗る。
「今回の地上交通機関、知らなかったのか?」
「こっちに来た内容は「黒霧産物と魔物」の討伐だね」
「狼の【ケダモノ共】なんざ厄介さで言えばかなり上の部類だ。俺らが先に見つかったことから多分索敵範囲も広い。乗客全員が見落とすにしちゃデカすぎる代物だ」
「……ちょっと待ってな」
前髪を軽く払いながら質問をするケイザンの言いたいことを把握し、スタンドは自分の机にある機械のキーボードを叩き始めた。今まで来ていた同じ依頼主からの依頼と違う部分があったのを思い出したからだ。
静音タイプのキーボードを叩き終えると、すぐ隣にある手のひらサイズのプレートで指を滑らせる。やがてその指も動きを止めると、ディスプレイに表示されている内容、データベースに登録された今回の依頼内容を確認する。
スタンドの記憶が正しかったことを意味するように、ディスプレイを睨みつけんと片目を大きく開く。
「成程ねぇ。ケイザン、多分アンタの予想は当たってるよ。今まで依頼を寄越してきた担当と名前が違ってる」
悪い知らせを聞いてケイザンが舌打ちする。こんなに当たっても嬉しくないことはそうそうない。
異常個体の存在を知りつつ、その旨を拠点に知らせなかった。
つまりは情報の虚偽と差額の着服である。
依頼が発注されるパターンは大まかに分けて二つ。
一つは情報収集から依頼発注までの過程が拠点のみで完結される場合。
もう一つは個人、集団、企業等外部から直接情報提供と依頼発注の要請があった場合。受注する使用者からすれば、依頼主が拠点か外部かの違いでしかない。
発注する際は収集された情報の精査、確認の上で難易度や受注可能な階級、そして報酬が設定、承認される。外部からの依頼では提供された情報を基に同じことが依頼主も交えて執り行われ、報酬とは別に拠点に手数料も支払うことになっている。
だが今回に関しては急を要するとして即座に依頼の発注をするよう打診があった。その代わり既に振り込まれた額は通常よりも割増しとなっており、手数料も多い。拠点側としても問題ない額とすぐさま発注した。
討伐依頼は受注する使用者の命だけでなく、放置された場合に危ぶまれる被害も考慮されるため報酬が最も高いカテゴリに分類される。異常個体の討伐となるとその額は更に跳ね上がるが、そうなれば当然依頼主の負担が大きくなってしまう。
目の上の瘤は処理したい、だが財布が軽くなるのもよろしくない。利己的で他者の命と金を秤にかけられる依頼主が手っ取り早く二兎を得ようとする手段が虚偽の報告だった。
実際よりも討伐対象や討伐数を軽くして報告すれば、拠点が設定する難易度も下がる。つまりは依頼主が支払う報酬の額も下がり、生じた差額を自分の財布に入れられるという訳だ。
残念なことに情報の虚偽は時折見られる。一部例外もあるが、大体が自分の懐を少しでも温かくしたい欲にまみれた者からの依頼だ。今回依頼を送ってきた人物もそれに当てはまる可能性が高い。
組まれた予算の額に目がくらみ、異常個体の存在を意図的に知らせず依頼を発注することで生じる差額を着服した。大方そんな所だろう。
自分の思考を鈍らせる程の額だったのか、それとも単純にがめついだけなのか。いずれにせよ担当が自分になって早々行動に出るとは、仮説が事実だとしたらとんだ間抜けでしかない。
「ちょいと突いてみるかねぇ」
拠点長になって長いスタンドも、今まで拠点に虚偽の情報を渡されたことは両手でも足りない程度には経験している。勿論、そうした依頼主に対しての対応も慣れたものだ。
二人の会話はまだ続きます。
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