ケダモノ共
一か月以上気力がなかったのですが漸く投稿できました。
今後は時間を決めてこまめに進めていこうと思います。
また更新していない間に一日PVが300オーバーしている日がでました。
閲覧感謝。
あとこちらも更新していない間にレビューを書いて頂いてました。
レビュー感謝。
ケダモノ共。
黒霧産物の異常個体の一つで、動物が黒霧の影響で変化する魔物と異なり、黒霧のみで獣の形を構成している存在。
通常の人型と同等の攻撃力を持ちながらも模している獣と同じ性質を併せ持ち、従来のそれよりも一回り以上大きな体躯。そして何より共通して高い機動性を誇る。
特に聴覚や嗅覚に優れ、俊敏な足をした動物を模したとなればその脅威は更に群を抜く。
そう、例えば犬や狼のような――。
佇む四人。車が一台。黒霧で模られた黒狼が一匹、いや一頭。
得物を吟味するように凝視している一頭に対し、四人のうち三人は今まさに現実から目を背けたい気持ちでいっぱいだった。それをギリギリの所で踏ん張り、戦意喪失になることを辛うじて免れている。
年老いた拠点長に呼び出されて、白頭の流れを連れて行けば求めていた仕事を受けられ、しばらくは金に困らない生活ができる。
割の良い仕事だと思っていた数時間前、今では三人ともが揃って同じことを思った。
割に合わない仕事だと。
シールドを前面に出して攻撃に備えている双子の表情には戦意よりも緊張が伺える。二人は異常個体と遭遇するのは初めてだった。
逆に遭遇、討伐の経験があるケイザンは二人よりか気持ちに余裕があったが、苛立ちから溜息混じりの煙を吐く。
「あの拠点長、マジでとんでもねぇ依頼よこしやがった……」
やり場のない感情をここにいない存在にぶつけるが、それをしてもどうしようもないというのは本人がよく分かっていた。
地上交通機関の乗客が見た時点では遠すぎて異常個体か判別できなかったかもしれない。
あるいは地上交通機関会社に相談が入ってから、依頼として拠点に発注してから、自分たちが依頼をスタンドから受けてから、もしかしたら車に乗りここに来るまでの間に変異をしたのかもしれない。こればかりは何を責めようもない。
強いて言えば、シンヤの言う通り「運が悪い」の一言に尽きる。
だが今この場においてその言葉を放った当人が唯一、武器を取り出し戦いの姿勢を取っていた。
「アハハハハハハハ! ウンいいよ! いい! ボクを殺してくれるならこうでなくちゃ! ウンウン!」
グリップに魔力を注ぐと、グリップからアタッチメントのナイフへ魔力が行き届き、青い光をまとう。
それから一瞬だけナイフが揺れたと思うと、高い音を出して揺れが止まったように見えた。磁力と魔力で振動の速度を跳ね上げられた刃は超振動ナイフとなる。
「? あれ? みんな行かないんだ? まあいいか! アハハハハハ! じゃあボクから行くね!」
「あ! オイ、ちょっと待ちやがれ!」
アムの静止を聞かずに、白い髪をなびかせた少年は軽快に、笑顔なままで黒狼に駆け出して行った。
突然の笑声と動きに反応した黒狼は、その動いている一点を中心に捉えると体を低くして攻撃に備える。声を発しない黒霧産物ではありながらも、その黒い牙を見せている口腔から唸っているように見える。
自分の射程距離に入れると両手に構えていたナイフを横に振るうが、黒い狼は鋭くなった警戒心によって素早く一歩横にずれ、刃は空を切る。
「へぇー速いなぁ! アハハハ!」
攻撃をかわした相手を見て感心するシンヤに狙いをすませ、ケダモノ共は一層と体を低くして力を溜める。
足に力を入れて飛び掛かろうとした時、横から黒い塊が飛んできた。それを察知すると、正面へ移動するためのエネルギーを横に変えて黒塊を避ける。
「チィッ! 避けやがった、クソが」
アムが投げたシールドのチェーンを急いで巻き取りながら舌を打つ。武器を手元から放していることが分かるのか、黒狼はシンヤからアムに目標を変える。
「アム、急げ!」
ヒューイの発言の直後、黒狼がアムに向かって飛び掛かる。やっとチェーンを巻き取りシールドを手にしたがこのままでは間に合わない。
「フンンッ!」
ヒューイが魔力を込めたシールドを構えながらアムの前に跳び出す。宙を跳んでいながら避けられるはずもなく、黒狼は突起物の出たシールドに体当たりする。
「ぐぅっっ!」
勢いのある体当たりを受けた形となり、シールドは弾かれヒューイが数歩後ずさる。しかし相手も衝撃を受け何とか着地をするに留まっている。シールドの突起に当たった部分からはかすかに黒霧が出ていたが、おそらくダメージはさほど入っていない。
「そぉーれっ」
現状に場違いな軽やかな声と共に、ケダモノ共の背後からシンヤが斬りつけようとするが、自ら存在を知らせたことでそれも避けられる。
「アハハハハハハ! やっぱり中々当たらないなぁ!」
「何やってやがる! 声出してたら後ろからやる意味ねぇだろうが!」
この短い時間で定着してきたのか、シンヤの挙動に対してアムが逐一怒鳴りつける。
「お前ら仲良いのか悪いのか分かんねぇな」
「それより、やっぱり異常個体だけあって手強いな……。何とか受け止めるので精いっぱいだ」
「ヒューイ、アムと敵視稼いでくれ。三本使う」
言葉の意味を理解しヒューイが頷くと、その横にいたケイザンが一、二歩後ろに下がる。
腰の左側にかけてあるシザーケースから黒い眼帯を取り出し左目にかけてから額中央の髪留めを外すと、アシンメトリーの前髪が垂れ右目が完全に髪に隠れる。
左目に当てている鋼鉄製の眼帯の中央には半球体のレンズが付いていて、レンズ越しに視界を確保できるようになっている。
再び左のシザーケースに手を入れて取り出したのは、三本まとめられているダーツ。黒と白で彩られているが、そのデザインは先に魔物を倒していたものとは異なっている。
レンズに黒狼を見据えると、眼帯上のスイッチを押す。レンズにダーツの的が表示され、これで「的」が紐づけられた。
次に手にしたダーツを見て同様にスイッチを押して、これで「1スローの矢」が紐づけられる。準備はできた。
だがそれと同時に、黒狼がケイザンを凝視する。感覚すら獣特有の鋭さを持っているのか、今この瞬間、最も自身にとって脅威となる存在を判断した。
そのケイザンの前に割り込むようにアムとヒューイがシールドを構える。重々しい鉄塊を二つ乗り越えないと標的には辿り着けなくなったが、同時に黒狼は自身の感性が正しいことを意味していた。
双子の双眸、四つの目が一体の狼を見つめる。敵視を稼がんとシールドを叩き、いつでも来ても良いように下半身に体重を置く。狼も再び体を落とし、跳ぶ用意をしている。
しかしまたもや予想外な所から、悪く言えば空気を読まない存在が宙を跳び場をかき乱す。
「っしょっと」
アムに怒鳴られて学んだのか、攻撃と同時に声を出してシンヤがナイフを振るう。黒狼も目の前の三人に意識を向けていたのか、避けたもののほんのわずかに反応が遅れて黒霧の体を掠める。
「あー、惜しいなぁ」
どうして当たらないんだろうという顔をして頭を掻いているシンヤを、黒狼が邪魔をするなと言わんばかりに睨みつけるが、そこに隙ができた。
左手でダーツを構えていたケイザンが、流れるような挙動でダーツを放つと、試合で的を射るかのように黒狼のこめかみにダーツが刺さる。小さくビクリと反応すると、黒一色の目は射手を見やる。
「60」
今度は間髪入れずに走り出し噛みつこうとするが二つのシールドに阻まれる。半円型の盾が二つ対照的に並び出来上がる大きな円によって、正面からはケイザンが全く見えない状態になっている。
「そらよっ!」
刃を出したシールドを両手に持ち勢いよくアムが振るうが、それも飛び退いて難なく躱す。すぐに攻撃に転じようとするが、既にアムは防御の姿勢を取っており、入れ替わりでヒューイの槍が突き出る。
「よっしゃ! 当たったぜ!」
「いや、でも軽い!」
手ごたえ自体はあったもののダメージが入ったとは言い難く、黒狼の身のこなしは相変わらず軽い。
目の前に築かれている黒い円を壊さなければその向こうにいる相手には届かない。そう判断すると再び黒に染まった体を低くして飛び掛かる準備を取る。
だが足に力を入れようとした時に腹部に衝撃を受けた。黒狼が目をやると、自分の腹部からナイフが生えている。黒い体に白銀のナイフはとても映えて見える。
そしてそのまま顔を上げた先にいる、白髪の少年。
「アハ、やった!」
ナイフを飛ばしたシンヤが小さく笑うと、グリップのトリガーを引いてナイフを戻す。ストリオルメタリアの刃が黒狼の体から勢いよく抜き出されると、そこから黒霧が噴き出す。
そこへ畳みかけるように黒狼のこめかみに二本目のダーツが生える。
「60」
「うしっ! 今だ!」
「ンー……ドォリャッ!」
ダーツが刺さったのを合図に、ナイフとシンヤを目で追っていた隙をつきアムとヒューイが駆け出し、二人そろってのシールドバッシュを放つ。
顔を含む上半身に重い衝撃を受けた黒狼は、声は出なくとも顔を歪ませて小さく吹き飛び、砂埃を舞わせて体を落とす。すぐに立ち上がり身構えたがダメージは確実に入っていた。
次話あたりでケイザンの超歪兵器の仕様を書くと思います。
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