初めテガいッぱイ
何とか話の最新部分をかきつつ毎日投稿するのを一週間行えました
この話の後は全く作っていないので明日の22時までに書ければと思います
次話から戦わせます
紆余曲折はありながらも、今度こそ話が着地点へと向かう。だがこれから依頼に動こうというのに、それに赴く大半は既にげんなりとしていた。
ただでさえ朝から呼び出されたというのに、仲間の一人は血気盛んな馬のように暴れ出して話が長くなったり殴られたりとこの時点で散々になっていた。だが目の前にいる筋骨隆々な老婆の手には大きな人参が握られている。若い牡馬三頭はここで厩に帰るわけにはいかない。
それを見越してか、老婆が人参ごと手を一つ叩いて話を仕切り直す。
「さて、大分かかったがやっとお互いを紹介できるね。こっちの坊やがシンヤ・マサキ。見ての通り高位技師と下位使用者の試験官だ。坊や、このスーツきてカッコつけてるのがケイザン・ファストリ。両隣の同じ格好したのがハンバーズ兄弟で、さっきヘドウィグが殴ったバカがアム、見えにくいが耳だけ狼になってるのがヒューイだ。ケイザンは上位、ヒューイは中位でアムは劣器の中位だ」
「カッコつけてるは余計だ」
「そりゃもういいだろがよ!」
「よろしくね」
スタンドを介しての紹介にシンヤもいつも通りの返事で応え、改めて三人を見る。
ケイザンは黒地に細い白のストライプ柄をしたスーツ上下に黒革靴、黒髪で左から右に流れているであろうアシンメトリーの前髪を中央部分から止めているピンで視界の邪魔にならないようにしている。格好つけているのかどうかはともかく、とても討伐に行くような格好には見えない。
腰にはスーツに対して不自然にならない程度のデザインと大きさの黒革のシザーケースを左右で付けていて、カバーで中身が見えず落ちないようになっている。
アムとヒューイはケイザンと対照的な恰好で、少し腕をまくったデザートカラーのミリタリージャケットにタクティカルパンツ、黒のオープンフィンガーグローブにタクティカルベスト、ブラウンのジャングルブーツを身に付けている。肘と膝の部分に厚めのパッドが入っていてそこの部分だけ盛り上がっている。
体格もスラリとしたケイザンとは逆にスタンドの存在によって見劣りはしてしまうものの中々の体躯をしている。そんな彼らの肩越しに見えるのが同じ位の大きさをした半円型の黒いシールドだった。正面から構えられれば当人の体のほとんどは隠れてしまうだろう。厚みもあるため重さと安定性はありそうだ。
「お前さんらも知ってる通り、地上交通機関会社の依頼で設けられてる期限は通常と違って受けてからじゃない、拠点に届いた日、つまり今日からになる。期限は一週間。余裕があるといってもチンタラしてるとすぐに終わっちまうよ。さっさと行きな!」
「? そうなの?」
「あーそうか、オマエ使用者になったばっかだもんな。そりゃ知らねぇか」
「初めての依頼が地上交通機関絡みかよ。チッ、運の良いヤロウだ」
「えーとね、依頼主が早く済ませて欲しい場合は拠点に来た日から期限が設けられてるんだ」
従来の依頼は使用者の階級昇格への判断材料や達成報告のなかった場合の再発注、報告自体を行わなかった使用者を死亡したとしてデータベースに登録する関係で「使用者が依頼を受注した日を開始として」「拠点側が期限を設定」している。
だが今回のように依頼主の都合で優先的に解決が必要な依頼に関しては、受注してからではなく「拠点に届いた日から」の期限を「依頼主側が設けて」いる。受注前からカウントが始まっている依頼は、その分同じ階級の依頼よりも報酬が高い。
その中でも日々多くの利用者がいる地上交通機関絡みの依頼は特段緊急性が高く、依頼主である会社も影響による損失が出ることを危惧しているためその額は抜きん出ている。ケイザンのように地上交通機関関連の依頼を目的に朝から拠点に向かうという使用者も、その結果空振りに終わるということも珍しくない。
「そういやバアさん、今さらだがこの依頼上位使用者向けだろ。受注には「同階級以上の使用者を含む一つ下の階級まで」が推奨のはずだ。良いのか? コイツ連れてって」
「推奨であって絶対じゃないさ。まあ頭の固い本部の連中からお小言を言われるかもしれないがね。お前さんらならこなせるだろうし、さっき言った通り坊やにも素質はある。問題ないはずだよ」
「俺らはその通りだがコイツに関しては勘だろ? それ」
「それ以上何がいるってんだい?」
「いやー何もねぇなそりゃ最高だ。んじゃそろそろ行くわ」
スタンドから受け取った依頼書ごと手をひらひらとさせて、ケイザンらは拠点を出ていく。シンヤも後を追おうと振り返った際にふと掲示板を見ると、職員が掲示板に貼り付けだしている依頼書を遠目に確認している使用者がポツポツといる。彼らが地上交通機関絡みの依頼を欲しがっている使用者なのかもしれない。
「オーイ、行くぞー」
拠点の外からの呼び声に、シンヤも続いて拠点を出た。
ケイザンを先頭に皆が歩を進めていくが、数分歩いて行く内にシンヤは今進んでいる方向が乗降場の方向ではないと分かる。
「あれ? 乗降場に行かないんだね」
「あー? ああ、今回規模が規模だからな。「足」出すんだよ。多分それもあるからバアさんが俺らを呼んだんだろうな」
「コイツぁ家と車持ってんだよ。今日はそれに乗って移動だ」
「まあルート沿いだけでもないからね」
「車かぁ! ボク初めて乗るよ!」
「そうか。乗ってみな、飛ぶぞ」
気分がな。ニヤリとした顔で言いながら、ケイザンは三人を連れて自分が住んでいる家へと向かう。
「オジサン」
「あ!? オジサンってオレか!?」
不本意な呼ばれ方に自分の方を振り向きながら凄むアムに話を続ける。
「「運が良い」って言ったよね。逆だよ。クフフハハ……」
言葉の意味が分からなかったのか、「何言ってんだコイツ」とシンヤにバリアートを見せ直した。
◇◇◇◇◇
マットブラックに塗装された車が音と砂埃を立てながら荒れた地を走る。居住地を一歩出れば辺りをどう見渡しても黒霧が漂っているが、運転に支障はない。というよりも黒霧の存在にとうに慣れてしまっているのと、そこまで気を配るほど周りに障害となる物が建っていないというのが正しい。
運転するケイザンを除く三人は後ろの荷台に乗り込み、ダイレクトに風と黒霧を感じている。舗装されていない地面の凹凸や乗り上げた岩によって時折車体が揺らぎ一瞬の浮遊感を覚える。
「アハハハハハハハ! 気持ちイイねぇ! こんなのボク初めてだよ! アハハハハハ!」
「うるせぇくらいにはしゃぎやがって。やっぱガキじゃねぇか」
「何言ってんだよ、俺たちだって初めて乗った時はこんな感じだったじゃないか」
「テメェ、ヒューイ! 言うんじゃねぇ!」
「はしゃぐのは構わねぇが落ちるんじゃねぇぞ。落ちてもこっちはそのまま走ってくからな」
大きなタイヤで走り道が悪くても構わず進む。大きなシールドを持った二人の男を乗せられることも含めて、ケイザンの車は今の環境に対してとても適していた。
過去にはタイヤを必要としない、地面を浮き空を走る車というのも存在していたらしいが、度重なる天災や戦争によってそれらに関する必要な技術は皆壊されてしまった。残っていた記録や機械を基に、また魔石を使用するという今の時代ならではの技術を組み合わせることで、地上交通機関以外の移動手段はある程度復活してきていた。それでも空を飛ぶことができるのは大分先の話だろう。
今回の依頼の進めるにあたって、彼らは地上交通機関用のレールを境とした南北で分けることにした。スタンド町からモーリー村までの行きでレール北側、帰りでレール南側にいる黒霧産物や魔物を討伐していく。近くにいた場合は都度対応していく。
確認した限りでは黒霧産物も通常個体だけで、魔物も散見していて大きな群れもいない。滅多なイレギュラーがなければ期限となっている一週間後までには余裕で終わるスケジュールだった。
「いたかー?」
「いや、まだ特には」
「何処にいやがんだ」
「あー、風気持ちイイねぇ! アハハハハ!」
「テメェもちゃんと探せ!」
普段敵を見つけるまでは三人がそれぞれの役割を担うような形で索敵を行っている。目の良いケイザンは主に視覚で、亜人のヒューイはその耳で、繊細な一面を持っているアムは頻繁に顔を動かして色々な方向に気を向ける。町を出てから数分、まだそれらしき存在は確認できない。
もう一人加わったことで敵を捕捉しやすくなったと思いきや、当の本人は初めて乗る車で感じる風を十分に味わっていた。気にしいのアムが逐一注意することで索敵精度は若干落ちる。
「オイオイ頼むぜヒヨコちゃんよぉ。泣いた所で餌が出るわけじゃねぇんだ。アムもあんまり気にしてんじゃねぇって。ったくこんな調子で大丈夫かよ……って言ったそばから。ヒューイ、あれ違うか?」
少し遠く、黒霧の黒さと重なるもまとまって動く影を見つける。
「ちょっと待ってくれ。えーっと……ああ、この引きずるような音、黒霧産物の歩行音で多分間違いない」
「っしゃ。飛ばすぞお前ら。落ちんなよ」
ケイザンがそう言い終わるとアクセルを踏む足の力を強め、車がスピードを増す。顔には煙草と吊り上がった口角。こうやって敵を見つけた時にギアを上げるのがたまらない。
一部の矛盾解消のため、29話のスタンドの台詞を後日修正予定です
ケイザンらのタグは今の所皆服の中に入れているため見えていない状態です
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