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壊レタ技師ト壊シタ使用者  作者: 塵無
壊レてかラ 01 スタンド町
29/42

煙ヲ泳ぐ提案

 特に問題なく入れたということは、シンヤの思った通り拠点自体は既に開いているということだ。しかし開いて間もないからか、やはりまだ使用者は来ておらずがらんとしていた。


 受付の向こうでは職員が書類を持ちながら行き来しているのがちらほらと見える。新しい依頼書を貼る準備か、はたまた昇格試験や登録試験予定者についての情報か――。


 シンヤは依頼の貼り付けてある掲示板は何処にあるかと見回そうとするが、そうするまでもなくすぐに見つかる。まあ依頼書のある場所がすぐ見つからないというのもおかしな話だと再び自己完結する。


 掲示板の前まで行き改めて貼られている内容を見る。全体で十枚もない依頼書を見ると、今貼られているのは昨日以前に貼られたもので、それ以降の新しい依頼はまだ貼り付ける前らしい。


 その中で今貼られている下位使用者が受けられる依頼を見る。階級ごとに貼る場所が分けられているため、掲示板のどの部分を見ればいいかは容易だ。


「んーっと、「魔物三体の討伐」に「黒霧産物一体の討伐」。ああ、こっちもかぁ。やっぱり中々ないもんだなぁ、アハハ!」


 下位使用者の依頼自体はあるものの、どれもシンヤの要望に応えられるものはなく、実力からしても容易に達成できるものが多い。


 ただでさえ今貼られているのは最新の物ではない。昨日の時点で他の使用者が条件の良さそうな物は大体持って行ってしまっている。


 拠点に入る前に考えていたことを思い出し、また精神論が頭に浮かぶ。だが実際その選択を取らざるを得ないのかもしれない。


「しょうがないかなぁ。まあボクだしね」


 ちょうど良い依頼などあるわけもない。口と心でそう呟いて適当な依頼書を取ろうと手を伸ばした時、後ろから声をかけられた。


「珍しいねぇ。こんな朝っぱらからくる働きモンがいるなんて」


 しわがれた、それでいて大きくはっきりとした女の声がシンヤの背中に響く。後ろを振り向くと、その声にピッタリといえるような体格のある女性がそこにいた。


 ハンスを一回り小さくしたような背丈だが、それでもこの場にいる者たちのなかで頭一つ抜き出ている。少し煙草臭さがする色落ちした長い金髪をなびかせ、彫が深い顔をしていて高めの鼻と横に入った傷が印象的だった。


 シャツの上からでも鍛えられた隆々たる筋肉がはっきりと分かり、露出した筋肉に残る多くの傷が歩んできた戦いの数を物語っている。齢六十を迎えているその顔に深い皺が刻まれているものの、全く老いを感じさせない。


 そしてそれ以上に目を惹くのが、女性の隣に寄り添うように立っている多種の金属や鋼の人型だった。女性より少し背が低いものの、人間にすればそれなりに体格のいい造形だった。


 シンヤは一目見て、その人型がこの女性の超歪兵器であることを理解した。


 精神が歪み感受性が極めて乏しくなったとはいえ、技師としての性分が皆無になったわけではない。


 おそらく定期的か常時魔力供給を行って動かしているのだろう。多少の可動域を犠牲にしても硬度を保つことを優先させているのか――つい気になって人型を直視してしまう。


 人型を見ているシンヤの顔を見て、女性は妙に納得した顔をする。


「ああ、だからか。こんな熱心なヤロウなんて見たことないと思ったら町のヤツじゃなかったんだね。流れかい?」


「え? ウン! そうだよ!」


 人型の横から声をかけられて一瞬反応が遅れたものの、いつも通りの返事をする。


「いい返事じゃないか。まあ白頭の坊やなんてそもそもこの拠点(ウチ)にいないしね。アタシゃここの拠点長、スタンド・ブロスコヴィッチ。アンタが気になってるコイツは相棒のヘドウィグだ」


 自己紹介を行いながら、ヘドウィグと呼ばれた人型の肩を軽く叩く。


「でも超歪兵器なんだよね、それ」


「おや、一目ですぐに分かるかい。騙すつもりでもなかったが「相棒」って言うのもあって初めて見たヤツは人が入ってるって思うのがほとんどだけどねぇ」


「ウン! 人が着るには使われてる鋼材がちょっとおかしいよね。特に首回りの部分がその金属だと人だったら動きづらいよね! すぐに分かったよ! アハハハハハハ!」


「ホウ……」


 スタンドはシンヤの答えを聞くと静かに驚き、煙草を取り出しながらシンヤを上から下まで一通り見る。自分とは異なる華奢な体の少年がどう映っているのか。見られている当のシンヤ自身はまるで興味がなかった。


 スタンドの目がシンヤの胸元、タグと固定板を捉えた所で眉がわずかに動く。


「白髪……高位技師のタグに試験官固定板……。坊やかい? 昇格試験で拠点長、ハンスを()ったってのは」


「んー? ……ああ拠点長! ウン! そうだよ! もう話広まってるんだね! アハハハハハ! 早いんだねぇ!」


 腕組をしながら(いぶか)しげな表情をして聞いてくるスタンドに、シンヤは相変わらずな反応を見せる。互いの命に何かあっても不問とする契約が成されていたとはいえ、まだシンヤと会って間もないスタンドにはその反応は些か奇妙に見えた。


 その気持ちは別として、スタンドは一服して返す。


「……そりゃそうさ。今回の話は中身が中身だ、その日のうちに拠点全体に情報が行き渡るのは当たり前の話さね」


 昇格試験で拠点長が殺されるという事態は、拠点全体の歴史を掘り返しても極めて稀なケースだった。それが史上最年少の高位技師によるもので、尚且つその昇格試験から試験官が生まれたというのは情報過多にも程がある。


 スタンドはハンスとは浅いながらも面識はあった。実力はあったものの素行が著しく悪く例の性癖についても耳にしていたため良い印象はなかったが、自身を上回る体格と筋肉量を誇っていたことは唯一彼女がハンスを評価していた点だった。


 そんな男が目の前にいる男か女か分からないような線の細い子に殺られたというのが、スタンドとしては信用しろと言われても素直に首は縦に振れない。


 しかし共有された情報には、その昇格試験や試験官認可は介錯人が正式な依頼の下立ち会って行われたものであるとの話もあった。


 厳正な中立を貫く組織が関わった上で目の前にいる少年の胸元にはタグと固定板がぶら下がっている。信じがたくはあるが信用する以外の選択肢はない。


 そして同時に、立ち会っていた介錯人から拠点本部への報告として以下の一文が追加されていた。


『その者、己が身命を軽んずる戦い方と思想を備えているため依頼と昇格は注意が必要』


「…………」


 煙を(くゆ)らせながら頭の中でその一文を再度読み返す。


 当たり前な話だが、拠点としては各使用者に死んでもらうために依頼を受けてもらうわけではなく、難易度の高い依頼を多くこなし、より強い使用者がより大量に輩出されることを望んでいる。死にたがりのためにお膳立てをするなど御免被る話だ。


 そういった意味では、この介錯人の一文は拠点にとっての損失を防ぐ内容とも言える。高位技師の試験官という希少価値の高い存在は尚更失うわけにはいかない。


 しかし、昇格試験とはいえ現役の拠点長を死に追いやるという結果を、実戦経験が皆無な目の前の坊やが成したというのも事実。それだけの力があるならば使わない手はない。


 どうしたもんかと考えていると、カウンターを挟んで向こうにいた女性職員の一人からスタンドを呼ぶ声が聞こえた。


拠点長(ホーマ)ァー。最新の依頼書の整理が終わったので掲示板に貼り付けますねー」


 その言葉を聞いてピクリとスタンドの目じりが動く。


「ちょいと待ちな!」


 煙草を吸い一考すると、思いついたのか再び声を上げる。


「悪いが上位(サード)の依頼書だけ抜き出しておくれ。ヘドウィグ」


 職員に指示するとヘドウィグに声をかける。ヘドウィグは足の裏に備え付けられている小型ホイールで音もなく移動し、カウンター越しに職員の所へ向かう。


 職員も分かっているのか、スタンドに言われるまま抜き出した上位使用者向けの依頼書の束をヘドウィグに差し出すと、それを静かに受け取り再び音もなくスタンドの下へと戻る。


 ヘドウィグから依頼書を受け取ると、煙草を咥えながら依頼書を一枚ずつ見てはめくるを繰り返す。上から下に目を動かしては次の依頼書に目を移し、何枚目かの依頼書に目を通した時、煙草を咥える口がニヤリと動く。


「こいつをもらうよ」


 その一枚を抜いて残りをヘドウィグに渡し職員に返すと、今一度手にした依頼書の内容を確認する。間違いない、これがいい。


 ヘドウィグをずっと見ていたシンヤがいつの間にか掲示板に貼られている依頼書を取ろうとしているのを見て、すぐに止めに入る。


「待ちな坊や」


 シンヤがスタンドの方を振り向くと、分かりやすいように手に持った依頼書をひらひらと揺らし、宙と煙草の煙をかき分けるように泳がせている。


「坊やにはこれから、アタシが指名したヤツと組んでこの依頼を受けてもらうよ」


「え? 何なに? 何の依頼?」


「せっかちだねぇ、全員揃ってからだよ。ケイザンに連絡しな! すぐに来いって伝えるんだ! そうすりゃ木偶の坊二人も連れてくるだろうさ!」


 シンヤをなだめると職員に向けて声を張り上げ、ケイザンという人物に連絡を取らせた。それから頭の中で呼び出した三人が来る大体の時間を予想する。


 この時間でもケイザンならもう起きているだろう。連絡を受けてからバカ共を起こして支度をさせて、どうせダラダラ来るだろうから十五分くらいか。


 スタンドの中では三人はすぐに来ないことが前提となっていた。それに備えてか、両手の指から小気味よく関節を鳴らして準備に入っている。


 隣にいるシンヤは特に緊張も不安もすることなく、いつ頃来るか分からない臨時の仲間たちが拠点に入ってくるのを既に待っていた。


「組んで依頼をするなんて思わなかったなぁ。誰が来るんだろう?」




 三十分後。小気味よい音が四度鳴った頃、拠点にスーツを着た優男と、同じ顔と恰好をした二人の男が入ってきた。

「わかる」「分かる」の表記ゆれが所々見られるのでいずれ直せればと思います

スタンドとヘドウィグのモデルは言うまでもないです


【追加】

一部修正

作品キーワード一部変更


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