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壊レタ技師ト壊シタ使用者  作者: 塵無
壊レてかラ 01 スタンド町

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28/42

歪ナ甘言

 眠った時と同様にシンヤがゆっくりと目を開ける。映る物の輪郭が明確になり始めた視界で窓を見ると、外は暗く青みがかっていた。


 夕方より少し遅く起きたかと思い端末で時刻を見ると、表示された数字は午前四時半を回っていた。


 自分が思っている以上に疲れていたんだなと小さく嘆息すると、それに応えるように小さくお腹が鳴るのが聞こえた。食堂が開くのはもう少し先になる。


 小さく座り直した時、椅子にホルスターが当たる。改めて座り直そうと思いホルスターに触れると、そこで動きが止まる。


「ちょっとメンテナンスしようかな、闘技場で使ったし」


 そう言うとホルスターが備わっている太目のベルト二本を腰から外してベッドの上に置き、自分もその隣に座る。


 本革で造られたダークブラウンのベルトは触り心地がよくなめらかな質感がする。履いているカーゴパンツを留めるためのベルトとは別に、武器をしまうホルスターを備えているファッション性も兼ねたベルトだ。


 一本のベルトにはホルスターが四つ、それぞれグリップとアタッチメントが三つ入っている。それがもう一本あり、ベルトをクロスさせて左右に計八つのホルスターが位置するようにかけている。


 それぞれのベルトのバックルから一番近いホルスターからグリップを取り出す。


 グリップは魔力の浸透性と伝導速度に定評のある青い金属インディギオルで造られており、人差し指と中指の部分には魔力の浸透性よりも硬度の高さが評価されたストリオルメタリアという銀色の金属でナックルガードとトリガーが備え付けられている。この二つのトリガーを使って、アタッチメントの取り付けやリリースを行う。


 グリップを少し分解して余計な砂埃やゴミをエアプレーで吹き、丁寧に拭きとる。再度組み立ててトリガーを適当に引く。変な感触もなく問題もない。


 アタッチメントは同じくストリオルメタリアで製作されたナイフ、ドリル、ロッドの三つ。それぞれ二本一対で造られホルスターに入っていて、グリップとの接続部分がホルスターから顔を出し、すぐに取り付けができるようになっている。破損した時に備えてそれぞれ予備も作成している。


 ホルスターから昇格試験で使用したナイフを取り出すと、改めて丁寧に血や油を拭い取る。工房でないため研磨はできないが、使用頻度を考えるとまだ問題ないだろう。最悪適当な空き地で行えばいい。()()()()()


 部屋の机に備え付けられているメモ帳を一枚取りナイフを走らせる。何の抵抗もなく紙は切られ、切れ端がひらりと床に落ちる。やはり研磨は必要なさそうだ。


 ドリルやロッドは使っていないので砂埃を吹き飛ばす程度に留めて全てをホルスターにしまう。立ち上がりベルトをかけておかしくないか自分を軽く見やってから端末を覗くと、六時を少し過ぎた所だった。軽いメンテナンスとはいえ集中していたようだ。


「やっぱり作業しだすと時間が早いなぁ。ゴハン行こっ」


 部屋の端に差し込んでいたカードキーを抜くと、そのまま部屋を後にした。




 朝は日の光が入り明るくなるよう、夜は暖色系にしている明かりが穏やかに外行く人を照らすように窓がいくつも設けられた食堂は、まだ六時になって間もないせいか席は一つも埋まっていない。


 鼻歌混じりに整然と並べられた席にシンヤが一番乗りすると、人の気配を感じてか厨房から昨日カウンターにいた少女が出てくる。少女は今日初めての客を目にすると一瞬足を止めるが、すぐに気持ちを切り替えてテーブル席でにこやかに笑っている少年に近づく。


「えっと、おはようございます。今日は早いですね」


「ああ、おはよう! そうだね! 昨日は早く寝ちゃったから起きるのも早くてさ!」


「そういえば昨日の夕食では見かけませんでしたね。ずっと寝てたんですね、フフッ。あ、朝食持ってきますね! あとコーヒーでいいですか?」


 昨日の出来事が引っ掛かってはいたものの、町の外から来た容姿の優れた異性との会話は、少女にはとても刺激的なものだった。足取りも軽く厨房に向かい、その足で朝食を運んでくる。


「すごくおいしそうだね! いただきまーすっ!」


 運ばれてきたばかりの香ばしい厚切りトーストにバターを塗り頬張るシンヤを見て、また少女が「フフッ」と笑う。


「そんなに美味しいですか? 喜んでくれてよかったです」


 少女は美味しそうに朝食を食べるシンヤが少し幼く、可愛く見えてしまう。他にまだ客はいないこともあり、そのままシンヤと雑談することにした。今食堂にいるのは自分とシンヤの二人きり。少女にとっては幸せな、シンヤにとってはただの食事と会話の時間が流れる。


 何処から来たのか、今日の予定はと聞いてくる少女に、シンヤは特に気にせずいつも通りのトーンで返事をしていく。


 いくらか話をして一人楽しい時間を過ごしていた少女だったが、頭の隅にあった思いが首をもたげ始める。昨日カウンターで行っていたやり取りだった。


 あんなことを言う人は当たり前だが今まで誰もいなかった。あまりにも唐突でおかしな発言。それ故に少女にとってはずっと気がかりになっていた。


「……あの、昨日のことなんですけど」


「ん? 昨日?」


 砂糖とミルクを入れたコーヒーを静かに啜りながら聞き返すシンヤに、少女は続ける。まだ食堂に来る客はいない。


「その……自分を殺してくれる人かどうかが、興味の対象だって」


「ああ、そうだね! そう言ったね! ウン! その通りだよ!」


「……どうして?」


「どうしてって言われてもなぁ。ボクが殺されたいからとしか言えないかな! アハハ!」


 少女はビクリと体を震わせる。シンヤがあまりにも物騒な文言を、あまりにも嬉々として告げたことで改めて自分の頭で内容を理解し、今さらながらの恐怖を覚えたからだ。


「そんな、殺されたいなんて……」


「ウン! まあそう思うよね! でもそれが普通なんだよ! 言ったでしょ? ボクはおかしいんだって! まあ自分でおかしいなんていうのもヘンだけどね! アハハハハハハハハ!」


 恐怖を抱いている少女に対していつも通りに自己完結して笑うシンヤ。笑い声の奥で階段を降りる足音が聞こえてくる。二人きりの時間ももうじき終わりを迎える。


 コーヒーももう飲み終わる、話ももう終わりにしよう。


 大きくカップを傾けてコーヒーを飲み終えると、シンヤは急に立ち上がる。それにまた少女が一瞬驚いた隙に、少女の耳元に口を近づける。


「……もしキミがボクを殺してくれるっていうなら……ボクはキミに興味を持てるかもしれないね……」


「! ……んんっ!」


 今までのはっきりとしすぎていた台詞や笑い声に反して、静かで甘やかな声。シンヤが急接近した驚きの後二、三秒してから、少女は自分の背中を指で撫でられたようなゾクリとした感覚に思わず身をよじり小さく声を上げる。


「フフフ……アハハハハハハハハ! そろそろ拠点に行こうかな! ごちそうさま!」


 降りてきた他の客と入れ違うように食堂を出るシンヤの背中を、今までのシンヤとの会話で一番顔を紅に染めた少女が、口を押えながらも見つめ続けていた。胸の激しい鼓動はしばらく止みそうもない。




「拠点ってどこだろう?」


 準備を終えホテルを出たものの、拠点の場所を聞き忘れていたことに気づいた。だがすぐに「まぁ行けばいずれわかるかな」と切り替え、止めた歩みを再び進め出した。


 少女の耳元で囁いた(いびつ)甘言(かんげん)は、シンヤ自身あまり大きな意味を持って行ったわけではなかった。


 ただ甘みとまろやかさを足したコーヒーが喉を通りすぎた際、「彼女にだったら殺されてもいいかな」と何となく思った程度に過ぎない。そして殺されること自体は、シンヤの中では切なる願いでもあった。それが結果口から囁くような形で出ただけの話だ。


 まあ耳元でいつも通りの音量で言うよりはいいかなと、シンヤの中ではそこで完結した。


 道中では昨日同様多くの男女がシンヤを横目に見ていたが、また昨日同様にそれらの一人に拠点までの道を尋ねる。聞いた所ホテルから数分の距離らしい。


 歩きながらも、拠点に着いたらまずどうしようかとシンヤが頭を巡らす。


 自分の目的を最優先にするのであれば、やはり使用者としての依頼を受けるのが一番早い。しかし下位使用者の受けられる依頼は、今のシンヤにとってはほとんどが役不足となってしまう。


 上の階級の使用者と組めば自分の階級以上の依頼を受けられるだろうが、流れの下位使用者と組むような物好きはそうそういない。いたとしてもう会うこともないだろうと囮代わりに使われることが安易に予想できる。そういう死に方はシンヤ自身望んでいない。


 そうなると地道に依頼をこなして階級を上げるという、一見して当たり前のルートが最も近いことになるのか。近道なんて存在しない。体のいい精神論や根性論でよく使われそうな言葉がシンヤの頭をよぎる。


「あ、ここかな?」


 結論がいまだ見えてこないまま、気づけばスタンド町の拠点の前まで来ていた。これ以上考えても埒が明かない。


「とりあえず入ろうかな。何かあるといいなぁ」


 答えの出ない頭の中に反して楽観的な言葉を述べると、ここまで来たのと変わらぬ足取りで拠点に足を踏み入れた。

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