旅立チ別レる二人
区切りをよくするため若干短めです
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時計の短針が真上を示してからしばらくの時間が経った頃、工房の戸を開け外に出たシンヤが軽く伸びをする。使用者昇格試験を受けた時と同じ姿に加え、少し大き目なメッセンジャーバッグを一つ背中に背負っていた。
伸びを終えると改めて工房内を覗く。中を見るのもおそらくこれが最後になる。
「……大丈夫かな?」
頭の中で必要な物を一通り洗い出して持ったかどうかを判断していく。
「よし! 問題ないかな?」
必要な物は全て持ったし、必要なくて置いていった物は追々処分されるだろう。主がいなくなる工房は、戸を開けたままにして誰もいないことを示す。
これからシンヤが向かうのは、地上交通機関乗降場だ。
地上交通機関は日没から日の出までの間は極端に本数が減少するが、日没以降も一時間に一本程度のペースで走っている。定期的に丸一日かけてのメンテナンスが行われる場合があるが、今夜は通常運行している。
シンヤは人の少ない深夜帯の地上交通機関で町を出るつもりだった。明日の地上交通機関で町を出る。午前0時を超えたらもう明日になる。シンヤの言動は何一つ偽りではない。ただアイリと認識が異なっていただけに過ぎない。
「たぶん乗る直前で発車するんだろうなぁ、ボクだから」
自分のタイミングの悪さを自覚しつつも乗降場に向かうシンヤだが、具体的にどの居住地に向かうかは全く決めていない。自分が乗降場についてから直近の地上交通機関に乗る程度にしか考えていなかった。
何処であったとしても泊まれる所はあるだろうし、今のシンヤであれば仕事につくのは容易だ。万一すぐ仕事に就けなかったとしても蓄えはある。
だが今の時点では、仕事や生活以上に彼に疑問を抱かせていることがある。アイリだ。
何故自分に話しかけてくるのだろう、接してくるのだろう。自分のことが嫌なのではないのか。旧廃棄所であれだけのことを言っていたのに――。
嫌なら関わらなければいい。拒絶する相手とは距離を置けばいい。でもそれと真逆のことをするアイリに、シンヤはずっとどうしてだろうと考えている。
当然アイリはアイリなりの考えと理由の上で行っているわけだが、精神的に壊れてしまった今のシンヤにはその答えを導き出すことはできない。
少なくとも今の時点で分かっているのは、おそらく彼女は自分を死から遠ざけようとするだろうということだった。拒絶した相手のことなのだから放っておいてもいいのではないかと、シンヤは心の中で独り言つ。
出せるはずのない答えを探している内に乗降場がすぐ目の前に現れる。それと同時に発車を知らせるベルが鳴り終わり、地上交通機関が乗降場から遠ざかっていく。
「アハハハ! やっぱり思った通りだ!」
間の悪いことに関しては本当に当たる。嬉しくない当たりを引いて笑うシンヤは、変わらぬペースで乗降場に向かい、中にある椅子に腰かける。表示されている直近の発車便を見ると、シンヤの予想通り次が来るのは暫くかかる。
次の便は約一時間後、向かう先はハンス町から最も遠く北東に位置するジェロ都行きだった。移動時間は何も問題がなければ約五時間。宿や拠点は深夜帯から明け方まで閉まっている所が多い。今から行けばちょうどそれらが開いた頃に到着するだろう。
椅子に座りながら、シンヤは今後のことを軽く想像する。
「都かぁー。大きい所だから下位が受けられる依頼でも数が多いだろうなぁ。あるかなぁ、ボクを殺してくれるようなモノ! クフフフ……アハハハハハハハハハ!」
誰もいない乗降場にシンヤの笑い声が響く。そしてしばらくしてから、笑い声がピタリと止まる。
「…………」
その時の顔は、今のシンヤでは初めて見る全くの無表情だった。
一時間後、シンヤはハンス町から姿を消した。
◆◆◆◆◆
「……あぁぁもうっ!」
主のいない工房を見たアイリは頭を掻いてかすかな怒気を吐き捨てる。昨日伝えたにも関わらず、シンヤは自分を置いて既に町を出ていた。
自分と行きたくないから敢えて先に出たのかと自問するが、今のシンヤはおそらくそういった考え自体出ないだろうと返す。体力が回復して支度を整えてから適当な時間に出たのかもしれない。これがアイリの出せる最も自然な回答だった。
速足で地上交通機関の乗降場へ向かいながら、シンヤが何処に向かったかを言葉に出して推察する。
「やっぱり単純に考えたら、死ぬ可能性のより高い所になるかな。でも下位で受けられる難しい依頼はそうそうないし……となると依頼の数が多い所……」
足は乗降場へと動きながら端末を操作する。ハンス町から地上交通機関で行ける居住地は四つ。
最も近いのは東の方へ一時間位の場所にあるヘイム村、南西に二時間程で行けるルーディー町、西側に四時間かかるドルイド都、そしてシンヤが向かった最も遠い北東のジェロ都になる。
拠点で受注できる依頼の数は居住地の規模に比例する。先の理屈で考えればシンヤが向かったのはドルイド都かジェロ都の可能性が高い。
二つにまで絞れたものの、足を向けるに足る決定打がどちらも出てこず、何かないかと顎に手を添えて頭を悩ませる。
シンヤとの会話、行動、何か参考になる物があれば――。
「……そういえば、山を越えてきたって……」
元いた所に帰るのかもしれない。記憶から引き出した一筋の光明。正直これでも根拠が薄くあまり期待できたものでもないが、頼りになる情報はそれ位しかない。
「となると……ジェロ都かな」
端末で次のジェロ都への発車便を確認すると、一番早くて十分後発車予定のものになる。今のペースで乗降場へ向かえばギリギリで間に合う速さだ。
足の回転数を上げて向かう道中で拠点が目に入ったが、いつもと様子が違っていた。
歩く速さをそのままに顔だけ向けてみると、入り口や拠点内は多くの職員が忙しそうにしているが、朝の時間帯なら依頼を受けようとするためごった返すはずの使用者の姿は一人も見られない。よく見ると多くの職員の顔も制服も、アイリが見てきたハンス町の職員たちとは違う。
「仕事が早いな本当」
職員の制服は全世界共通だが、一ヶ所だけ例外となっておりデザインが若干異なる。全拠点で唯一の例外、最高峰を示すための装いを許された拠点、拠点本部。
拠点本部は全ての拠点の総括であり全職員、全使用者、全製作者の情報を網羅し、何か変更があれば即座に共有され、拡散が必要な情報も即座に広まり共有される。
それ以外にも、不正行為を働いた拠点に対して厳しい処分を下し、新たに拠点長や副長にふさわしい者を派遣し、今のように後処理が必要と判断されれば本部からきた職員に粛々と整理される。それがたとえ後ろ暗い物であろうが恥を煮詰めたような物であろうが、淡々と整理し白日の下にさらされたうえで処分される。今はどうやら拠点内にあった不当な内容の証拠を整理して外に出しているようだ。
今回はシンヤの昇格試験時に副長イレーネが行った不正行為だけではなく、イレーネの介錯人への行為により、過去に拠点全体で行われていた不当行為の期間や内容を洗い出すこととなった。拠点の職員は本部職員の対応に追われるだろうし、使用者も依頼を受けられる状況ではない。
そう遠くない内に新しい拠点長と副長が配属されるはずだ。拠点の様子を見るに職員も異動になり根本から改善されるかもしれない。
いずれ端末に、ハンス町に新しい拠点長が就くことと町の名前が変わる通知がくるだろう。拠点を見ていた顔を正面に向き直す。
しばらく歩き続けて乗降場について発車便を確認する。思った通り、ジェロ都行きの便が付く直前だ。
「……まだ生きてるわよね」
自らが追う者が既にこの世にいないのではと不安を抱きながら、大きな音を立てて到着したジェロ都行の地上交通機関に乗り込む。
「ついたらまずは拠点や工房に行って、あとはめぼしい依頼もあれば並行して受けて……」
考え込み空席に座ることも忘れたアイリを乗せて、北東の居住地ジェロ都を目指して地上交通機関は走り出した。
◇◇◇◇◇
「……久しぶりね、ここに来るのも」
太陽が真上から西に傾きだした頃、アイリを乗せた地上交通機関はジェロ都に到着する。
「さて、と。早速探さないと」
伸びをして乗降場を出るアイリは、すぐさまその足でジェロ都の拠点へと向かった。
そして――。
「あー。いい天気だなぁ。この町でいい出会いがあるといいなぁー。アハハハハハハ!」
自分に死を与える存在との出会いを求めて、シンヤはジェロ都の西にあるスタンド町に着いていた。
次回から新章に入り、シンヤとアイリそれぞれの話を展開させます
合流もしますがそれはいずれ
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