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壊レタ技師ト壊シタ使用者  作者: 塵無
壊レた時

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23/42

センスヲ持っテいタ少年

最近の話と比べると若干短いです

 シンヤからハンスへの(なま)めいた誘いに理解できなかったアイリと周りの使用者たちだったが、その直後、ハンスとそれ以外とで見ている物が全く異なっていた。


 ハンスがシンヤの舌をついばんでいる時、シンヤのナイフから刃が射出されたからだ。だが射出された刃はハンスの横を通りぬける。


 皆が一瞬何をと思っていたが、またもやその直後に合点がいくこととなる。射出された刃が二本、二人から離れていく途中で少しずつ向きと軌道を上へと変え始めた。


魔遠操作(プログマ)か!」


「でもあの角度じゃ壁に刺さって終わりだろ?」


「それ以前に魔遠操作でどうにかならねぇだろ、現に段々離れてんじゃねぇか」




 超歪兵器は遠距離の武器も存在するが、込めた魔力による性能や威力の増強具合は近接武器の方がはるかに高いことや近接武器以上にセンスが問われるため、使う者を選ぶ。


 射出物に魔力を通し威力を上げること自体は以前から行われていたことだが、遠距離用の超歪兵器をより多くの人間が使えるよう活路を見出そうとして考えられたのが、威力ではなく技術面での向上、つまり魔力による射出物に対しての様々な操作、俗に魔遠操作と言われる物だった。


 これにより若干の方向修正や、射出後に移動した対象に当てることができる割合が以前よりも増し、それを知った使用者候補からの遠距離用兵器の製作依頼が集中していた。


 しかし、この魔遠操作には難点があった。


 一つ目は、通常よりも多くの魔力を射出物に注ぐ必要が出てきたことだ。


 今までは威力向上のための分だけ魔力を注げばよかったが、魔遠操作を行うためにはそれとは別の魔力も必要となる。しかも一度魔力を注げばそれで威力を上げられるのとは違い、魔遠操作となると魔力だけでなく、敵に当てるため射出後にも意識を射出物に向け続ける必要がある。


 同じ一発分に使用していた魔力が多くなり敵以外にも集中する対象が分散されるという結果は、使用者にとっては中々考え物な問題だった。


 二つ目は、魔力を調整する技量が大きく求められること。


 威力と操作、二つ分の魔力を備えた上で射た場合でも、今度はどのように操作を行うかをリアルタイムで、極めて繊細に行わなければならなかった。逆にミリ単位の調整を上手く行えさえすれば、余計な魔力の負担も軽減できるため無駄に魔力を消費することなく、効率よく威力向上と魔遠操作に魔力を使うことができる。


 事実上、魔遠操作を行う問題は調整の一点に尽きる。


 だが魔遠操作の調整には想像以上に、そして遠距離兵器を使用する以上にセンスが問われる。しかも戦いながら、動く敵を狙っての操作となると困難を極める。できても少しだけ曲がる、また曲がる方向が異なるなど上手くいかない場合の方が耳にすることが多い。


 今では魔遠操作を行わず今まで通り威力にのみ注力する使用者、固定砲台のように極力動かず射出と魔遠操作に専念し、射出物に別の仕掛けを備える使用者に分かれてしまった。


 中には思った通りに方向を曲げたり、速度を操作することのできる使用者もいるが、当然その数は極めて少なく、いずれにせよ卓越した才能や技術、日々魔力調整を行い細やかな作業を行っていない限り、魔遠操作を十分に行うことは難しかった。


 裏を返せば、常日頃から当たり前のように微細な魔力調整をしてきている人間であれば、この問題を解決するのは遥かに速い。そこにほんの少し才能や技術が乗れば極めて容易いことだった。


 そう、例えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の場合――。




「! オイ! 刃の方向が一気に曲がってくぞ!」


「何だありゃ!? 急に上を向いて……」


「いや、反り返ってく! 二人の方向に向き始めた!」


 射出されたナイフの刃は、まるで逆上がりをするかのように急激に刃先を上に向け、刃自身も高さを上げる。その直後に更に刃が裏返り、二人のいる方向に一直線に飛んでいく。


「拠点長! 後ろです! 後ろを確認してください!」


 イレーネが再び声を上げてハンスに忠告するが、全く耳に届いていない。当人はそれどころではなかった。


「……これを、操作してるってわけ?」


 今まで魔遠操作を行う使用者を見てきたアイリだったが、ここまで大きく思い通りに動かせるのは見たことがなかった。おそらく今向かっている場所も明確に意図した場所だろう。


 技師として魔力の調整をしつつ武器を製作し続け、若くして高位技師の肩書を得、アイリと出会ってから戦う側の視点に立って書物や資料を見ていく中で、シンヤは自身の非力さと魔遠操作を行える超歪兵器が自分に適していると早い段階で答えを見つけていた。


 それだけではなく、魔遠操作を行う才能、つまり魔力をミリレベルでの調整をこなせる才能も持ち合わせていた。


 加えて彼の「家系的」「遺伝的」な理由によって魔力量が従来の使用者よりも多いことから、威力を十分に乗せた上で魔遠操作が行える。


 何より彼は、旧廃棄所でアイリと別れてから昇格試験までの一か月弱でその全てを形にして見せた。兵器も、自身の戦闘スタイルも。そして戦闘における魔遠操作も。


 シンヤは元来の性格に反して、戦うことにおいてのセンスが高かった。ただ単に、技師として生計を立てていたことと、優しい彼には戦うことができないでいただけだった。


 しかし今や彼は以前の彼ではない。心を壊し、全てを笑い、自身の命を奪う者を望む。戦闘への恐怖もなく他者への慈しみもなく、何より命を尊ぶ思いをなくしてしまった今のシンヤは、その才能をある意味最高のコンディションで発揮していた。


 ハンスに口を吸われて強制的な唾液交換をさせられている間にも、シンヤはしっかりと、ハンスの頭越しに微かに見える背景を頼りに刃の位置を調整し、そしてハンスの頭に刃を突き刺すことに成功した。




 誰に聞こえるでもなく小さく自らの勝利を笑みと共に呟くシンヤの周りで、使用者とイレーネは固まっていた。


 シンヤが、拠点長を倒した? いや、殺した?


 あんな方法で、拠点長を倒したというのか?


 あのシンヤが……自分たちが今まで蔑んでいたシンヤが……。


「……認められません」


 眼鏡を直すのもひきつった顔を隠すこともせず、イレーネが小さく声を上げる。


「今の試験は認められません。卑怯な手段で拠点長を誑かし、死に至らしめた。そのような行為は不当です!」


 拠点長亡き今、この場を抑えられるのは副長の自分だけだと、イレーネははっきりとシンヤに対して試験は無効だと告げる。だがその意思はともかく、話している内容は何とも都合のいい物だった。


「…………」


 虫のいい話をしているイレーネに対し、こめかみに血管が浮き出んばかりの怒りが沸きあがるアイリだったが、無言を徹して撮影を続ける。アイツはまだ来ないのか。


「……そ、そうだ! シンヤ! お前なんかが拠点長とまともにやり合って勝てるワケねぇ!」


「卑怯な手使いやがって! 使用者の風上にもおけねぇ!」


 イレーネの言葉に我に返ったかのように、次々と罵声を浴びせる使用者たち。無論彼らも、今までシンヤを虐げていたことは完全に棚上げしている。


 この罵声で更に勢いづいたイレーネは、言葉をつづけた。


「そう、今回の試験は不当なものである、つまり! シンヤ・マサキさん。貴方が拠点長を「何の理由もなく」その卑怯な手段で殺害したのです! これは拠点に対しての敵対行為と見なします!」


「何の理由もなく? アハハハハハハハ! おかしいこというね! ちゃんと事前に同意書まで署名したのに。やっぱり端末の見過ぎじゃないかな? それとも書類かな? もうちょっと周りをよく見ようよ! アハハハハハハハハハハ!」


 試験の展開はどうあれ、シンヤの言う通り同意書に書かれていることと何ら反しておらず、ハンスも了承と署名の上で試験は行われている。そうでなくても、イレーネの発言はあまりにも強引だった。


「黙りなさい。シンヤ・マサキさん……いえ、シンヤ・マサキ。貴方を拠点長殺害という反逆行為によって、拠点の名をもって処分いたします。さあみなさん、彼に対して正当な処分を!」


 声を張り上げて周りの使用者を促すと、一人二人と次々に閲覧席から中央エリアへと入っていく。様子の違う、そして拠点長を倒したシンヤではあるが十数人を超える使用者を一度に相手にはできないだろうと、中央エリアが下卑た笑いが満たされる。


「うーん、やっぱりこうなっちゃうかぁ……」


 シンヤはそう小さく呟いた後。


「アハハハハハハハハハハハハハハハハ! ウンウン! そうだよね! キミたちがボクにとって都合のいいことなんて、どれだけちゃんとやっても受け入れるワケないもんね! アハハハハハハハハハハ!」


 急に笑い出すシンヤに使用者たちは一瞬ビクリとする。その様子を見てシンヤの口から再び笑い声が上がる。


「え? クスクスクス……アハハハハハハ! なんでビックリするのさ! いつもみたいに……フヒフフフフ……ボクをいじめるだけの人数が揃ってるんだ! さっさとくればいいじゃないか! まあボクも流石にキミたちなんかに殺されたくないからがんばるけどさ! アハハハハハハハハハハハハ!」


 シンヤとしてはそのつもりはなかったが、煽りだと思った使用者が怒り出す。


「! テメェ言わせておけば……お望み通りブッ殺してやる!」


「卑怯な手で拠点長を殺りやがって! 殺す、オメェは今殺す!」


「オイどうせならそのケツらせてくれよぉ。死ぬ前にイッパツよぉ」


「やめてよ、気持ち悪い。あんな気味の悪くなったヤツなんて早く始末するべきよ」


 今にも使用者たちが襲い掛かろうとしている中で、シンヤは相変わらず笑っている。


「キミたちじゃないんだよなぁ」


 そう言ってナイフを握ろうとした時、閲覧席の端の方からけたたましい轟音が響いた。


「!」


「ちょ、何!?」


「何事ですか……! あれは……」


 全員が轟音の起きた方向を見ると、そのまま固まる。ただ一人、アイリを除いて。


「遅いって」


 少しばかり恨みを込めた目線を送った先にいたのは、黒いヘルメットに黒いローブを身に付け、持っていた大きな天秤のその先を壁にたたきつけていた人物だった。

【追加】

一部文言修正、変更しました


シンヤの家族(過去)の話は

当人が壊れた理由の多くにあたるのでいずれ書く予定です


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