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壊レタ技師ト壊シタ使用者  作者: 塵無
壊レた時
21/42

試験ト闘技場

今の所冒険者について話を出す機会を考えていないので、冒険者に関する説明も加えています

 拠点で行われる試験は共通して二つあり、その内の一つは更に二つの方式に分けられる。


 一つは冒険者となるための「登録試験(インストール)」、もう一つは使用者になるための「昇格試験(アップグレード)」。


 使用者となるための絶対条件である超歪兵器(ディルギィア)及び劣歪兵器(ロゥギィア)――超器(ハイ)劣器(ロゥ)の所持をしていない者、あるいは戦闘経験がない、または極めて浅く最低限の経験を積ませる必要があると判断された者は、使用者の手前に位置する「冒険者(リーヴス)」として登録される。


 戦うこともままならない新米、兵器を手に入れるだけ稼ぐこともできない半人前、という意味合いで文字通り「若葉(リーヴス)」である彼らが受ける主な依頼は、各拠点からさほど離れていない場所での採集や調達、そして黒霧を浴びて魔物へと変貌した存在の討伐となる。


 通常の武器では討伐することが極めて困難なため、黒霧産物の存在が確認されている場所から極めて近い場所の依頼は、そこでの討伐が完了されるまで冒険者が受けられるものから除外される。


 万一依頼中に黒霧産物を発見、遭遇した場合は即時撤退が義務付けられているが、その上でも慢心から愚かにも通常の武器で挑んだ者や逃げ遅れた者が犠牲になったという話は少なくない。


 冒険者が使用者になるための一番の近道は、冒険者の段階で受けられる依頼を受けてそれをこなし、依頼達成で得た報酬を貯めていずれかの兵器を製作者に製作してもらうという極々シンプルな物だった。


 その冒険者になるために行われるのが、試験の一つである「登録試験」だ。


 拠点に申請の上、拠点長か副長もしくはそれに次ぐ立場の職員立ち合いの下、その拠点にいる階級と信用のある使用者との模擬戦闘を行い、使用者と立ち会った者両方から問題ないと判断され初めて冒険者となれる。


 逆に各兵器を所持しており、また戦闘面でも問題ないと判断され黒霧産物と戦うだけの戦力、つまり使用者となるための試験が、種類のもう一つである「昇格試験」。


 昇格試験は内容が二つに分けられており、半人前と扱われていた若葉が成長し一人前と認められる場として設けられる場合と、使用者が階級を上げるにあたり信用と実績を積み重ねた上で面接を受け厳正な審査が行われる場合だ。


 使用者になった者が受ける依頼のバリエーションは一気に増え、報酬も上がり、その振り幅も大きい。


 同じ採集や調達でも黒霧産物との遭遇率が上がるより広範囲のものとなり、他にも探索や偵察、長距離の物資運搬や護衛。そして最も多いのが黒霧産物の討伐となる。


 使用者を目指す者の目的の多くは金の一言に尽きる。そして最初は兵器の製作を頼めるだけの金銭を持ち合わせていない場合が多い。そのため昇格試験は冒険者が受けるのが通例のような物になっているが、一部例外も存在する。


 例えば、最初から兵器を所持した状態で試験に(のぞ)む場合がそれに当たる――。




「♪~」


 数少ない例外に該当するシンヤの昇格試験は、ハンスと笑い合って落ち着いた後すぐに行われることとなった。


 各種試験を受けるための闘技場は拠点と隣接する形で設けられており、拠点の一階から直通で向かうことができる。因みに階級を上げる際に行われる面接は拠点二階にある専用の部屋で行われる。


 その闘技場への道を、シンヤは職員に先導されるまま歩みを進めていた。これから行われる拠点長との模擬戦闘に緊張するでもなく、不安に駆られるわけでもなく、鼻歌混じりで普段と変わらないペースで歩く。


 そんなシンヤに対し、先導する職員は我関せずといった風に先を進んでいた。関わりたくない、という方が正しいのかもしれない。


 それもそうだろう。僅かな期間の間に見た目も中身も大きく変わった人間など、知れたものではない。


 加えて彼女は以前、シンヤが依頼を受けたことを示す契約書と破られ端末を壊された際、周りの使用者の野次に紛れて盗撮をしているのではないかと吹聴(ふいちょう)していた。


 あの時は周りに流された形で単純なストレス発散程度に行っていたものだった。実際そこで力なくされるがままになっていたシンヤの姿を見ると、心なしか胸の中のもやついたものが晴れるような気がしていた。


 だが今自分の後ろを軽やかに歩いているのは、同じ人物だが全く違う。


 動じることも臆することもなく、拠点長が皆を黙らせた直後でも怯える様子を見せずごく普通に話をしていた。寧ろあの時あの場所に限って言えば、拠点長に唯一話しかけられる存在はシンヤだけだっただろう。


 この半月近くの間に彼に何があったのだろう。そんなことを知る由も知ろうとする考えも持ち合わせていなかった。ただ自分の後ろを歩いている存在が、自分に何も言葉を振らないでほしいという思いだけが、彼女の頭を占めていた。


 歩くペースを気持ち速めて闘技場への入り口へと向かうと、シンヤの方を振り返り、顔を見ずに手で入場を促した。


 促されるままに、歩く速さを変えることなくすんなりと入り口に向かうが、その際に一言発した。


「アハハ! 今日は言わないんだね、盗撮されたって!」


 そう言ってエリアに入っていくシンヤの後ろで、一気に力が抜けた職員は、誰も来ない場所でしばらくへたり込んでいた。




 ハンス町の闘技場は屋外に建てられた円形の壁に囲まれ、円の中央部分は戦闘用エリアとなっていて、その周りは低めの壁を隔てて段差が高くなった閲覧席のような形状になっている。閲覧席は拠点の二階から直通で来られる仕様で、シンヤとハンスのやり取りを聞いていた使用者は皆、既に閲覧席にやってきていた。


 拠点と闘技場はハンスが拠点長になる遥か前、先々代の拠点長の時代に建てられたもので、当時の拠点長は純粋な戦闘の実績から長となった猛者だった。


 試験に使用する以外にも日々の研鑽や他人の戦い方を見て学ぶ、という考えの下で建てられた物だったが、今となってはこの町にそんな崇高な考えを持つ使用者はおらず、時折拠点や酒場で起こる喧嘩の延長線で利用され、閲覧席はどちらが勝つかで賭け事をしている連中や面白半分で見にくる者たちばかりとなっている。


 無論試験を受け付けていないわけではないが、その度に面白がってやって来る使用者たちから見世物を見ているかのように笑われるため、この町で新たな使用者や冒険者が生まれることはここ数年なく、闘技場も土埃がたまるばかりだった。


 そんな試験と、そして設立した者の意図が、この闘技場では前例のない技師である白髪の少年によって蘇ることになった。




 アイボリーの色をした石を基調として建てられた闘技場は、壁も閲覧席も全体が明るめにできているため、その中に見られる黒く大きな鎌は一際目立つ。


 ハンスがシンヤから受け取った同意書をコピーするように職員に手渡した辺りで、アイリは拠点に到着していた。日程はともかく時間は聞いていなかったので、流石に朝からはないだろうと思い昼の時間にやってきたのだが、ちょうどよかったらしい。


 ただでさえ普段注目される存在が拠点長と一緒にいて話をしている状況なのだ、これ以上依頼を取るなという町の使用者たちの無言の牽制もなければ、眼鏡を直しながらご機嫌を伺ってくる副長もこちらを見ていない。やはりタイミングとしては最高と言っていい。


 シンヤと向かい合っている大柄なスキンヘッドの男をみて、アイリはあれが拠点長のハンスだろうと判断する。筋骨隆々で身長もここの使用者たちよりも抜きんでている。おそらく二メートル近くあるかもしれない。少なくともこの町を統べるに足るだけの実力は間違いなく持ち合わせているだろう。


 同時にシンヤを舐め回し、明らかに性的な目を向けて口角を釣り上げている顔を見てどんな性格かも予想がつくと、無意識にアイリの顔が歪む。


(……まだ来てないか)


 気を紛らわすように視線を二人から拠点内に移し、周囲を見回す。一週間前、シンヤが今日昇格試験を受けるという話を聞いた直後に端末で連絡した人物。もう来ているのかと周囲を見るが、それらしい人影は見当たらない。


(そもそももしいたら二人の近くにいるか、立場的に)


 そう思い直し視線を二人に戻した直後、二人が息を合わせるかのように大きく笑い出した。その様子に肌にうすら寒い感覚を覚えたのは自分だけではないだろう。


 しばらく続いていた笑い声が収まってから闘技場への移動が始まり、周りの使用者たちも二階へと向かう。闘技場の閲覧席に行けることが分かると、他の使用者や立ち合いに向かうであろうイレーネに倣って二階へ向かい、閲覧席で比較的人のいない所で壁に背を預けていた。


 自分とほぼ対角線上にいる使用者たちから笑い声がここまで届く。おそらくどちらが勝つか賭けでもしているのだろう。試験において賭けが行われること自体、閲覧ができるような拠点ではどこでもあることだった。


 その近くにはイレーネがいるが、特に賭博は禁止しているわけでもない。禁止だとしても何も言わないだろう。アイリはここ数回のイレーネとのやり取りで彼女の人間性を断定していた。


 皆の視線が自然と集まる中央エリアには、ちょうどシンヤが姿を現した。準備があるのだろう、ハンスはまだ来ていない。


 シンヤが現れたことで相変わらずの野次を飛ばす人間も見えるが、その数は極めて少ない。今回拠点に現れてから今までの中で、明らかにシンヤが今までと違う。ハンスと笑い合う様を見た者の中には言い知れぬ物を感じた者もいる。今はまだ触れないでおこうと様子を伺っていた。


 そんな者たちの気も知らず、中央エリアから闘技場を見渡し、あたかも感嘆のような声を上げる。


「うわあぁ、こんな感じなんだ! アハハハ! すごいなぁ!」


 アイリは物珍しそうに闘技場を見るシンヤを確認すると、閲覧席の出入り口に目をやる。呼び出した人物がまだ姿を見せていない。当然閲覧席にもそれらしい人影はなく、端末で呼び出すものの反応がない。


 一体何をしているのか。このままではもうすぐ試験が始まってしまう。終わってからもおそらく従来の試験のような具合にはならないだろう。


 エルダから事情を聞いたアイリは、シンヤに対する使用者と職員たち総意の悪意を既に理解していた。そんな輩が周りを囲んで試験が行われるという状況。とてもまともに終わるとは思えない。そう考えて連絡したというのに――。


「ヨオォォォ! 待たせたなシンヤぁぁぁぁ~。ちょぉぉぉっと準備に手間取っちまってよぉぉぉ~」


 中央エリアの出入口から揚々とハンスが入場してくる。既に勝った気でいるのが、後々の特典を想像しているであろう表情でよくわかる。


「ウウン! 全然いいよ! だけど何でそんなに笑ってるの? 何かおかしいのかな? アハハハハハハハハ!」


「アァア~。これから起こることを考えるとつい顔がニヤけちまうのさぁ~。ガハハハハハハ!」


 再びお互いの笑い声が重なり合う中、呼び出した人物が来ないことに苛立ちを感じつつ、アイリが自分の端末で撮影を始めた。無論、何かと文句を言われそうなのを見越してこっそりと。


「それでは、昇格試験、開始してください」


 眼鏡を直した指でそのまま端末を操作するイレーネの掛け声で、シンヤの使用者昇格試験が始まった。

話全体を通して「階級」と「ランク」と混同しているため、近々「階級」に統一していきます


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