この世界の今
他の作品同様話の展開や進行が重めです。
世界観や人物の背景などをしっかり入れた方が良いかと思いそうしています、ご了承下さい。
この世界は少々歪んでいる。
自分たちの生きる星の名前を知ろうとすらしなくなってから数百年が経ち、度重なる天変地異や規模の異なる数百にも及ぶ争いにより世界の地形が大きく変わってしまい、その結果築かれていた文明や技術が歪な形であるいは進化し、あるいはそのまま引き継がれ、あるいは停滞し、そしてあるいは廃れていった。
また過去にあった「国」という分け方も繰り返しあった地形変動により崩壊し、今では一部の例外を除いてその規模によって【都】【町】【村】と呼ばれ、その総称として【居住地】と呼ばれるようになった。
長い年月をかけて変化を遂げてしまった影響からか、いつしか世界全土に渡って黒い霧が漂うようになった。ただの霧と呼ぶには密度があり、煙と呼ぶには朧気なそれは【黒霧】と呼ばれ、この世界に大きな変化をもたらした。
一つは黒霧に一定以上触れていたり呼吸とともに吸い込み続けた獣が、場合によって凶暴化し人々を襲うようになったこと。「魔物」とカテゴライズされたそれらの体からは魔石が取れ、今の世の生活に幅広く使われるようになった。
魔物に変わる条件は判明したが、同種の獣でも魔物化しない、また魔物化するまで黒霧との接触時間や量が異なったりするため、純粋に個体ごとに異なっている。
二つ目は霧の濃度が高まった場所から、黒い霧でできた人や獣が現れるようになったこと。かたどられた従来の生物よりも強く、魔物を除く生物全てに対して明確な敵意をもつそれはいつしか【黒霧産物】と恐れられるようになった。
黒霧産物が現れる条件は黒霧の濃度が極めて高まった場所【黒霧塊】に限定されるが、濃度が高まる場所、時間、天候などには法則性がないため事前に黒霧塊を察知することは難しく、また事前に見つけられたとしても黒霧塊を霧散させることはそれ以上に困難を極める。
人々の往来が頻繁な居住区には黒霧も発生することは少ないが、移動の際にいついかなる場合で遭遇しないとも限らない。元々ただの獣ですら脅威となる力のない人々にとって、黒霧や黒霧産物はまさに具現化された悪夢だった。
だが、その黒霧よる「恩恵」も存在した。
「オラアァァァァッ!」
自らの掛け声とともに、短髪の男は手にしていた大槌を人型の黒霧産物の頭に叩きつけ、衝撃を受けた人型は大きくよろめいた。
戦闘が始まってから大分経つのか、なんとか倒れまいとしている人型はまるで息を切らしているかのように体が一定のリズムで上下に動き、体の所々から黒い霧が漏れ出ている。
「よし、結構ダメージ入ってるよ!」
「ッシャ! とどめかますから足止め頼む!」
足止めを頼まれた金髪を襟足で結った猫耳の女が「わかった」と手にしていたリカーブボウを構え人型に向け、金属製の矢で狙いを定める。するとそれぞれを掴んでいた部分を始まりとして弓には幾何学的な淡く青い光の線が走り、矢は同じ色の光に包まれている。
「……シッ!」
手を離したとほぼ同時に光の矢が人型の左膝を貫いたかと思うと、その部分を中心に左足の半分が吹き飛び、バランスを崩した人型は四つん這いの形に倒れる。
その横で短髪の男が大槌を大きく振りかぶり人型の頭に狙いを定める。ついさっき人型の頭を殴った時と違い、大槌全体に黄色い光の線が走り、槌の面が平面から円錐の形に変わっていた。
「これで終わりだァァッ!」
再び掛け声をあげ、振り上げていた大槌を人型の頭に振り下ろし、円錐の頂点の部分を人型の頭に叩きつけた。接触部分が面から点に縮小された分、その威力は先の比ではない。
密度があるとはいえ霧に当たったとは思えないような鈍い音を響かせ、人型は頭を地面と大槌に挟まれるように突っ伏した。痙攣のような動きをしてから動かなくなると、人の形をしていた黒霧は瞬く間に霧散し、後には親指の第一関節位の大きさをした黒い球体が残されていた。
「フゥゥ、これで依頼と黒霧産物3体の討伐は完了ね」
「だな。しっかし、新調したとはいえスゲェ威力だぜ、この【超歪兵器】は」
「だから言ったでしょ? 自分の魔力を通すだけでギミック操作ができるんだから、そっちの方が楽よ」
手にしていた大槌をまじまじと見る男に対し、女は黒い球体をつまんで言う。腰につけてある小さなポーチを開けると同じ球体が2つあり、つまんでいた球体を入れて数を確認して小さく「ヨシ」とポーチを閉めた。
「ギミック操作も大したモンじゃねぇから、【劣歪兵器】と変わんねぇんだけどな、オレとしては」
「流せるだけの魔力があるなら超歪兵器の方がいいわよ。楽なのもあるけど威力も上がるし、よく分からない劣歪兵器を見下す使用者には露骨な嫌味言われなくて済むし。それにアンタの頭で咄嗟にギミック操作できるか怪しいし」
「ンだとぉ!? オレがバカだってか!!」
「バカでしょ? ホラもう行くわよ」
手慣れているのか難なくあしらい先を行く女に「ったく」と小言を口にしながら、男もその場を後にした。
黒霧に触れた獣は時に魔物へと変わるが、人が黒霧に触れても凶暴化せずに「魔力」という新たな力が生まれることとなった。魔物化同様に魔力を得られるか得られないか、得られる魔力量は人によって個体差はあるが、この魔力は黒霧産物を倒すための力に大きく関わっている。
獣や黒霧で凶暴化した魔物には通用していた従来の武器が、黒霧産物にはほとんど通用しない。全く効かないわけではないが、力も耐久性も従来の人や獣を上回る存在に対してはまともにダメージを与えることすら難しかった。超歪兵器は、その黒霧産物に対しての最大の牙だった。
超歪兵器、通称【超器】には武器ごとに異なるギミックと、武器に魔力を通すための回路である「魔回路」が搭載されている。魔力を通すことで複雑な操作を省略して直感的なギミックの操作が可能なだけでなく、武器全体に魔力を通すことで純粋に威力を上げることもできる。
人によっては黒霧による魔力の恩恵が得られない場合もあるが、差はあれども魔力を持っている割合の方がはるかに多い。魔力を通して操作と強化を行い黒霧産物を倒す。そのための武器として最も世に広まっているのが超歪兵器となる。
魔力のない、武器に流せるだけの魔力量がなければ使うことはできないが、その場合は手動でギミック操作を行う設計になっている劣歪兵器、通称【劣器】を用いて討伐を行う。魔力による威力向上が行えない分ギミックの量が多く、操作も複雑になっているためまともに操作ができるまで時間を要する。
超歪兵器、劣歪兵器を用いて黒霧産物を倒す者たちのことを【使用者】と呼び、それら兵器を製作や修理、改良ができる者たちは【製作者】と呼ばれていた。
【追加】
文字変更しました
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