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壊レタ技師ト壊シタ使用者  作者: 塵無
壊レるマで
17/42

ソシテ彼ハ壊レタ

この話を上げるより前にタイトル名とあらすじを一部変更しました。

先に書いてしまいますが、それぞれの動きが制限されないよう、一緒ではなく別々に旅立つ方向に変換しています。

「…………え……?」


 なんのことですか?


 そう言葉を続けたかったが、あまりにも冷徹な視線と声を当てられてしまいシンヤの口からはその言葉が発せられなかった。


「あたしが龍人(ドラグーン)だと知って、あのギミックを入れたのか聞いてるの」


 冷たい言葉はなおも続く。アイリの言葉を聞くたびに、氷柱を背中に入れられるような感覚を覚えてしまう。その中で珍しい名前を耳にした。


 龍人。その名の通り、龍の亜人だ。


 この世に多くの亜人が生まれるようになり亜人の存在が当たり前になりつつあった頃、再び周囲を驚かせるような事態が発生した。


 実在しない存在、つまり想像上の生物を基とした亜人が誕生したのである。


 詳細な経緯は今の時代には伝えられておらず、またその存在している数が圧倒的に少ないため、その存在は殆ど謎に包まれている。言わば亜人の突然変異だった。


 数少ない報告例から、突然変異の亜人は共通して大量の魔力量を保持し、魔力による身体能力と攻撃力や機動力の爆発的向上、そして各々モチーフとなっている存在を基とした魔力でできた部位が生える。アイリであれば龍をモチーフとして生えた魔力の角と尾がそれになる。


 そのきわめて存在が少ない亜人、龍の亜人がアイリだった。


 だが当然シンヤはアイリがそれだとは知る由もない。少なくとも小さな黒い角以外アイリには亜人の要素は見られず、その角も髪とカチューシャで隠している。今まで関わってきた限りでは見つけようと思っても見つけられない。


「……し、知りませんでしたよ。だって、今まで分かるようなことは見ても聞いても」


「あのギミックは相当の魔力量を持っていて初めて使えるものでしょ。あたしの魔力量が多いことを分かってないと組み込めない。ましてやあんなに大きな刃なんて出るわけがない」


 魔力量に関しては一緒に依頼に向かい直接戦闘を目の当たりにしたことと、幾度と武器の調整をしていく上で話を聞いていた内容で、シンヤは大体ながら把握していた。魔力の刃のギミックも、その把握していた魔力量を想定してのものだった。


 だが実際アイリが保有していた魔力量はシンヤの想定を遥かに上回っていた。重病者の大きな胴体を一撃で切断できるほどの大きな刃になるなど、それこそ想定外のものだった。


 アイリの戦う姿に見惚れたのもあるが、自分の判断で組み込んだギミックで重病者にとどめを刺したこと、そのギミックが刃の巨大化という自分の想定以上の働きをしたことで、気持ちが盛り上がっていた。先ほど自分が上げていた弾みの入った声を思い出す。


「あのギミックは……今までのアイリさんの魔力量から判断して組み込んだもので……あそこまで大きくなるとは思わ」


「変身のリミットが思ったより早いと思った。アンタが勝手にあのギミック組み込んだせいでしょ? ペース配分が狂ったと思って焦ったわよ。上手くいかなかったらアンタどうするつもりだったの」


 魔力の刃のギミックには、武器に魔力を注いだ際少しずつ魔力が蓄積するような機構も備え付けていた。これはシンヤが戦闘が長引いたことを想定して独自に加えたものである。


 戦闘が長期化し、アイリ自体に魔力がほぼ残っていない状態でも、武器に注ぐだけの最低限の魔力があれば発動できるような措置だった。だがシンヤの予想よりもアイリの魔力量が多かったため、相対的に攻撃を与える毎に武器に注がれる魔力量も多くなっていた。


 加えて初めて単独で行う重病者(ナイトロ)との戦闘、元々魔力の調整に不得手なことも重なり、武器に注ぐ量が更に多くなったことでアイリ自身の魔力の消耗が想定より早まってしまっていた。だがそれ故に、シンヤも想定していなかった巨大な刃が構成されたのも事実である。


 当然、魔力蓄積を加味した上でシンヤは機構の追加を行っていた。多くの要素が重なり、結果的にアイリの魔力消耗が早まる形となってしまった。


「それも……ちゃんと想定して」


「あと何でギミックを勝手に入れたのよ。何考えてるの」


 シンヤの話を遮っては、感情を乗せて意見を告げる。シンヤに対する苛立ちが、話を聞くということを少なからず拒絶しているようにも思えた。


 肉体的にも披露している今、精神が成熟していない少女の感情が理性を超えてしまうのはどうしようもない部分でもあった。


 伝えようとしていたことすら(とが)められ、ついシンヤは声を荒げる。


「! い、言おうと……言おうとしましたよ! でも全然」


 聞いてくれなかったじゃないですか。その言葉はまた機械の山間を通る風に遮られ、アイリは聞こえていないのか反応がなかった。


 シンヤは今自分がいる環境にすら、自らの言葉を紡ぐことを拒否されている感覚に陥ってしまう。


「勝手にギミック入れられるほどアンタのこと信用してないんだけど」


 風が止み一拍してから吐き出されるその言葉にシンヤは止まった。だが今回のそれは言葉を遮られたからではない。関係を築けていたと思っていたのは自分だけだったのだと、正面から否定されたからだ。


 同時に心臓に杭を打たれたらこんな感じなんだと、場違いなことを考えた。それほどまでに今のアイリの一言は、シンヤにとって衝撃が大きかった。


 黙ってしまったシンヤを気に掛けることもなく、アイリが言葉を続ける。


「……あと、契約だっけ。あれ今日で終わりね」


「……え?」


「目的は達したからあの町にいる理由もないし。ただでさえ気に入らないヤツばっかりの所になんて長居したくないもの」


 確かに仮契約時に期間限定で、という話を受けていたことと、明確に契約終了のタイミングについて話をしていなかったことを思い出す。


 契約と異なり形式に則った手続きをしていなかったのもあるが、初めて仮とはいえ契約の話を出されたことでシンヤも明確な手続きを取る、という考えが抜けてしまっていた。


「それにあたし嫌いなのよね」


 漸く整い始めた息を大きく吐きながらワンピースについた土埃を払う。アイリが話を終わりに向かわせようとしているのが、その様子から伺えた。


 ワンピースをはたいた手で、高位(セカンド)使用者(プレイヤー)のタグを吊るしているチェーンを掴み見せつけるように少し前に持ってくる。


「龍人とか、あたしのランクを知って言い寄って来るヤツ」


「? な、分かっ……え?」


 アイリの言葉の意味がシンヤには理解できなかった。龍人であることもそうだが高位使用者であることも知らなかったからだ。


 ずっとタグはワンピースの中に入っていて、今しがた終えた重病者との戦闘の拍子に服から出てきたばかりだ。


 シンヤがタグを見る機会は皆無に等しく、実際今初めて目にしたのだが、今タグが外に出ていることでランクを既に知っているとアイリは勘違いしていた。無論、今それを伝えた所で信用されないだろう。表に出さないながらも、彼女の怒りは想像以上高い所まできていた。


 話を遮り続けていたアイリの中では、シンヤは「自分が龍人と高位使用者であることを知った上で仮ではない契約を結びたがっている」と結論付けていた。


 誤解をそのままに、アイリは苦い顔をしながら話を続ける。


「あのイレーネとかいう副長(サブホーマー)もそうだし、今までいった拠点でもあたしのタグを見た途端に手のひらを返すヤツが多かった。使用者にもおこぼれに預かろうとして、そいつらの身の丈に合わない依頼に付き合わされそうにもなった」


 また風が吹いたが、声が通るのか遮られることなくシンヤに届く。辟易とした感情が思い出しながら話をする彼女の言葉から十分に伝わる。


「龍人も珍しいだの魔力が多いだので色々な意味で興味本位なヤツが何度も何度も何度も何度も……うんざりする」


 変身も解けいつもの色に戻った赤い髪を気持ち強めに掻き、シンヤを横目に見る。その目にも感情が乗ったのか、射るような冷たさが増していた。


「アンタもそうだったんでしょ、どうせ」


 違う。自分はそんなことはない。使用者も龍人も、たった今知った。それとは関係なく、アイリの戦う様に惹かれていた。最後に重病者を倒した時の姿を。


 美しいと思った。


 この人のために超歪兵器を少しでも良い物に、優れた物にしていきたい。毎日の調整も、改良も、自分にできることは何でもしたいと思った。だからちゃんとした契約を結びたいと、そう思っていた。


 言いたいことがありすぎてシンヤの口から中々言葉が出てこない。頭の中が整理しきれず、何を言えば伝わるのかが分からなくなっていた。


 同時にシンヤの心の奥で、何かがガラリと音を立てて転がっていく。何なのかは分からない。だが良くないものだというのは分かった。


「おばあさんにもあんな目に合わせて、パッと見無害そうな顔してても、結局アンタも他のヤツらとおんなじ……いや、それ以下だわ」


 言葉を出せないシンヤと対照的に次々と強く投げるアイリ。怪我をしたエルダについてもシンヤが原因であるという誤解は解けていなかった。


 アイリがシンヤに対して抱いている感情は、全て誤解でしかない。しかしそれを彼女は聞き入れない。


 聞き入れないと分かっていても返さないわけにはいかない。首を小さく横に振りながら、細い糸を紡ぐようにシンヤは声を絞り出す。


「……違います……それも、違うんです……僕じゃありません……」


 今度は最後まで言えた。風も弱まっていた。アイリにも聞こえただろう。だが今になって出てきたその言葉は、到底信用に値しないと大きな嘆息で返される。


「……やっぱり、アンタはあいつら以下だわ。さっきも言ったけど契約は今日で終了。あたしの力目当てで寄ってこられるのと組みたくないから」


 暫く話したことで支えがいらないだけ体が回復したのか、杖代わりにしていた大鎌を肩に担ぐ。


 ふと頬に冷たい感覚が触れた。時期に降り出すだろうと、より重苦しさを見せる雲が知らせる。


「メンテナンスに関しては助かった。でもそれだけ。今は出会ったことに後悔しかないわ」


 シンヤの心の奥でまた何かが小さく音を立てる。


 これ以上はいけない。多分戻れなくなる。直感でそう思ったが、アイリには当然分からない。


 頬に振った雨粒を拭うと、アイリは今一度シンヤを見据えて、吐き捨てるように言った。




「アンタなんか、関わるんじゃなかった」




 その一言を聞いた時、シンヤの目が見開いた。


 それを合図に、心の中にあった何かが大きく崩れた。時折機械の山から機械や鉄屑が崩れ落ちるが、その何かが崩れる音は何よりも大きく聞こえた。


 何で? 何でこうなるの? 何をしても、どれだけ考えても、どれだけ相手を思っても、全て無駄になる。全て否定される。全て拒絶される。


 どれだけちゃんとやっても、どれだけ約束を守っても、全て騙される。全て反故にされる。全て裏切られる。


 僕がしたことで返ってくるのは決まっていた。


 誤解。


 不信。


 疑念。


 虚偽。


 差別。


 嘲笑。


 暴力。


 僕が何をしたの? 何がいけなかったの? 何をすればよかったの?


 努力しても色々と考えても、運、タイミング、環境、人……。自分だとどうしようもない部分で全部台無しになる。


 何で? 何で? 何で? 何で? 何で? 何で? 何デ? 何で? 何で? 何で? 何で?何で? 何デ? 何で? 何で? 何デ? 何で? 何デ? 何デ? 何デ?


 ……………………。


 …………………………………………。


 もウ、何をシても無駄なンダ。


 僕がどウシようト、何ヲ考エよウト。


 全部無駄にされレルんだ。


 全部無駄にナるンダ。


 全部否定されルんだ。


 全部信用サレなイんだ。


 全部疑ワレるンだ。


 みンな僕ヲ騙スんだ。


 ミンなボクを裏切ルンだ。


 ミんなボクヲ嘲笑ウんだ。


 みンナボクを壊しタガるんダ。











 コノ世界に、ボクは必要ないんだ。


 コノ世界に、ボクは拒絶されルんだ。











「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」






 ソシテ、シンヤハ壊レタ。

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