壊サレタ心
仕事に追われた結果体壊したので休んでいる今のうちにと書き始めました。
他にも連載中あったりしますが書きたい時に書けるだけ書きたいと思います。
毎日のように上げられる方々、尊敬します。
「アハハハハハハハハ! アハハハハハハハハハハハハハハハ!」
曇天に顔を向けている黒髪の少年の笑い声が辺りに響く。その笑い声はどこか喉の奥から無理やり出したかのようにあまりにも大げさに聞こえ、次第に雨粒を落とし始めた灰色の雲のように重い。
それを示すかのように少年の口はこれみよがしに開かれ、同じように大きく見開かれた目は雨粒が当たっても意に介さず、全く感情を感じさせなかった。
周囲を囲う山のように積み上げられた無数の鉄くずによって複雑に反響されたそれは、笑声の文字を当てはめただけの慟哭に聞こえる。
不気味な笑いを放ち続ける少年の向かいにいる赤髪の少女は、少年と同じように見開かれた目で笑い続ける存在を凝視していた。少年と違い、その目は純粋な驚愕によって開かれている。
自分の数歩先に見える彼は決して大きな体躯をしているわけでもないのに、暗灰色の空に向かって笑い続ける少年に対して目に見えない不気味な圧を感じていた。
少女の頬や露出している足には無数の汚れや傷、服は汚れており、疲労が溜まっているのか肩に担いでいる機械仕掛けの大鎌が大きく上下に揺れている。
少し離れた所には丸みを帯びた棘が無数に生えた球体が転がっており、機械や鉄屑だらけの辺りの中ではよく目立って見える。
この世界において地面に転がっているそれらは見慣れた光景ではあるが、その中で笑い続ける少年はあまりにも異質で、少女は困惑を隠せずにいた。
「そうだね! うん! もうそれでいい! もうそれでいいよ! アハハハハハハハハハハ!」
黒髪と赤髪が鈍色の風に吹かれてなびいていくが、見開かれた目は閉じることはない。風に乗って鉄と血と油の混ざった臭いが鼻を通り雨粒が垂れる頬に髪が貼りついても、二人の表情は変わらない。
「ボクはキミが使えると思ったから大事にしようとした! キミの実力をみてキミを必要とした! ボクはキミを利用するためだけに契約しようとした! もうそれでいい! もうそういうことでいいよ!」
真上に向けていた顔を少女に向けて言葉を続ける。自分と全く異なる理由で見開かれた少年の目を見て、少女の眉が一瞬だけ歪み、そして再び驚きを見せる。
泣いていた。
雨が降っている中でも、目からこぼれる涙が一筋頬を伝い、目じりと耳の間にも濡れた跡がよくわかった。
だがその涙も気にすることなく、少年は露骨に笑い続ける。
「キミとの仮契約は今日で終わりだったね! ボクなんかをもう見たくないだろうから、仮契約終了で問題ないだろう!? 短い間だったけどどうもありがとう! それじゃあさようなら!! アハハハハハハハハハハハ! アハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
表情を変えないまま後ろを向き、そのまま歩みを進めて少女から離れていく。
「! 待っ……」
一瞬遅れて固まった表情を砕いて少女が声をあげたが、激しさを増してきた雨の中、ずっと歪に笑い続けている少年に聞こえることはなかった。
遠くなるにつれて少年の声は次第に雨風に覆われて消えていく。雨に打たれずにいた赤い髪の一部が頬の返り血に貼りつき乾き始めても、それをはがすこともせずに困惑の表情を浮かべたまま、少女はその場に立ち尽くしていた。
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