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青と赤と白色と

前話を若干修正してます。ノアの容姿を入れ忘れてました。服の描写も……さくっとこれから修正いれときます。

あと評価ブクマして下さった方々ありがとうございます。

 カツカツカツ……と、チョークの黒板を叩く音が教室に響いていたのは一世紀以上昔の授業風景だった。


 現代の小中高はどこぞの研究室かと勘違いしてしまいそうな白い教室に、部屋の一面を占める大画面の電子黒板。生徒用の机には紙のノートより少し大きいタッチパネルとタブレット端末などの接続用無線と有線端子まで用意してあるハイテクな勉強机になっていた。


 この世間では極々一般的な教室は白上圭哉の通う高天原第三高等学校。


 高天原では義務ともいえる異能開発を行なう高校の一つで、在校生は六〇〇人ほど。その多くがクラスDの異能者――異能都市では一般人の通う高校と言えるだろう。



 補習に遅刻した圭哉は自分の席である窓際の勉強机(ハイテクデスク)の前に座って補習用の授業動画を流している。


「白の字、遅刻の理由は本当か?」


 前の席でヘッドセットを外し小声で話しかけてきたのは赤髪の――いかにもな不良男子。耳にはピアス、白い半袖のスクールシャツのボタンを全開にして真っ赤なシャツがその下から顔を見せている。


「行き倒れの女の子とラブコメってたんやって? ええご身分やで」


 赤髪が話しかけるのを見て、右隣の青髪糸目もヘッドセットを外した。赤髪がヤンキーなら、こちらは詐欺師。胡散臭いが服を着て話しかけてくるような信用とは真逆の友人だ。


 赤髪の名は赤羽竜司(あかばりゅうじ)、青髪糸目は青葉修二(あおばしゅうじ)だ。三人とも名前に色が入ってることから、クラスメイトに三馬鹿(サンバカ)ラーなんぞひとまとめにされている。


 そんな中学からの付き合いである悪友に話しかけられ、圭哉もヘッドセットを外し電子黒板の前に座る監視をチラリと確認する。


 教室の片隅にある教師用のデスク端末に担任の女教師が座っている。彼女が赤点者(負け犬ども)監督官(看守)であり、三馬鹿ラーの担任も務める天海美鈴である。


 彼女はスリムで背が高く、キリッとした目鼻立ちの美形。特に男装を意識しているのではないだろうが、パンツスーツ姿がデフォで、一部の女子生徒からは熱狂的な人気を誇る。実は同性にしかモテないのを密かに悩むヅカ系麗人だった。


 今も補習に集まった生徒の中に授業そっちのけで、教室の前に熱い視線を向ける女子生徒も少なくない。天海はそんな視線に悪寒を感じながら、持ち込んだノートパソコンで一心不乱に仕事をしている。


 それを横目で見ている圭哉は「大変そうだなあ」と他人事に思うが、自分も赤いのにムカつく顔で絡まれいるのに辟易する。


「バカ言うなよ。魔女っ子コスプレしてる不審者の相手なんて面倒ごとしかないだろ」

「なんやなんや、何面白そうなことに顔突っ込んでるやん。――で、美少女やったん?」


 赤髪は圭哉に向かって、「お気の毒に」と口だけを動かす。


(こいつ、止める気なんてさらさらないな)


 こうなった青髪が面倒なことはお互いよく知っている。自分も巻き込まれる前に、前へ向き直った赤髪はヘッドセットも付けず私物の端末で暇つぶしを始めた。


「はよ答えてえや、白っち」


 出会った女の子がどんな子だったかしつこく聞き出そうとする青髪に、白の圭哉は一度今朝の事を思い出す。


 たしかに日本人とは雰囲気の違う美少女であったことは確かだが、それを「白っちずるいわー。自分、出会いなんて画面の向こうだけやのに」なんて言ってる奴に素直に答えるのは癪である。


 赤髪は色恋に興味が無いってのが大きいだろうが、青髪はその胡散臭い話し方を直せばどうにでもなる程度には整った顔をしているのだ。なぜ、エセ関西弁みたいな話し方をするのか、疑問である。


「――イギリス産だそうだ」


 それを聞いた青髪はおっほぉ! と気持ち悪い歓声を上げた。当然ながら監督員の天海女史からは注意と一緒にお仕置きが飛んでくる。


「へぶっ! 美鈴ちゃん先生、異能飛ばすのは勘弁してえな――」

「黙って補習を受けてろ!」

「へーい」


 これで話を切り上げられる。そう思った圭哉はヘッドセットを付けなおすが、今度はタブレット端末にメッセージを飛ばしてきた。


『金髪美少女ちゃん?』

『……そうだが?』


 横を見ると青髪が拳を握り天を仰いでいる。


 圭哉は思う、なぜ俺がこいつと同じカテゴライズに入れられねばならん、と。


『外の人間か。許可証は?』


 これは赤髪のメッセージだ。このグループは白上、青葉以外に赤羽も入っている。当然ながら二人のメッセージは青髪も見ることができる。


『確認してねえ』

『なるほど――「それは面倒ごとだな」』


 はあ……。これはメッセージではなく、前後並んだ圭哉と赤髪のため息だ。


『本人はイギリス魔術結社から来たって言ってたな』

『まじかいな? それはまた随分古いネットの都市伝説を持ち出してきたもんや』

『知ってるのか?』

『よくあるオカルト話や。六〇年前、異能者が現れた時にネットの一部で盛り上がった仮説――いや与太話って言った方がええか。「異能者の存在が証明されたってことは、世界各地の伝承にも真実が含まれてるんやないか。もしかしたら世界の裏側には魔術が存在してるかもしれん」――って都市伝説にすらならんこじつけや』


 あの子は筋金入りのオカルトオタクだったのか。あるいは本当に魔術師だったのか。


 圭哉の胸で補習を邪魔するように魚の小骨が突き刺さったような不快感が存在を主張してくる。一度頭の中をリセットしようと頭を掻きむしるが……、ふとノアの見せたカードを思い出す。


『なあ、タロットカードの「ⅢⅩ」ってどういう意味か知ってるか?』

『ⅢⅩ――? ああ、十三番のことか。それこそネットで調べればええやん。まあええか、たしか『死神』のカードやったと思うで。意味は停止、強制終了、清算、別れ、離別、消滅、望まれない結果、終焉(ゲームオーバー)。つまりは悪いことが起きるのを意味するタロットやったか』


 死神……、終焉をわかっていて彼女はここにいる?


 思考に突き刺さった小骨はさらに奥へと突き刺さる。


『それより例のゲーム、オンラインでやろうぜ。白の字も昨日買うとか言ってただろ?』

『ええね』


 最初から補習を受けるつもりのない赤髪と青髪は音量をゼロにしてゲームを起動させる。


 そして圭哉の脳裏に蘇るのは溶けたパッケージ。


 今朝の出来事で頭が一杯だったが……そういえば昨日も昨日で女子中学生に襲撃され、一度も起動させることなくゲームソフト(一万円)が燃えないゴミになった。


『もうクリアした。異能者に絡まれて』


 それだけで悪友二人もどういう意味か察し、メッセージはそこで途切れた。



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