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俺が良ければ全て良し  作者: ギアマスター
「山岡ももの章」
18/58

18「当たり前の未来」


月曜日。

長かった週末も終わり、今日からまた新たな1週間が幕を開ける。


「おはようございます、先輩。」


柿沼富有が横からひょいっと顔を出す。


「ああ、おはよう。ん?なんだか荷物多いな」


「はい。昨日試合を見届けられなかったこと、とても悔しかったので謝罪も込めてお守りを部員全員分、つくってきたんです」


「そうか、そいつは頑張ったな。ってそうだ、昨日家で別れた後、こいつが家の前に落ちてたんだ。富有が言ってた栗宮へのお守り、これだろ?」


「わあ!拾ってくれてたんですか!ありがとうございます!でも栗宮先輩のも含めて全員分作ってきちゃったんでもういらないんですよね…。それにこれはもう…」


「持っておけよ。せっかく頑張って作ったんだから。最初見た時はきったねえボロ雑巾かと思ったけどな」


「え、普通にひどい…。先輩は恋愛成就で有名な神社のお守りとかじゃないと満足できなさそうですもんね…」


「馬鹿、そのボロ雑巾だから価値があるんだろ。綺麗に縫われた機械編みのお守りなんか所詮は量産品だしな」


俺はあの時ももに言ったのと同じようなことを富有にも披露した。


「あはは!そんなこと言ったらバチが当たりますよ。」


「あたらねーよ」


「では…そんなあなたに…はい!」


富有は俺の手に何かを無理やり握らせた。


「おい、これは…」


「勘違いしないでくださいね、これは昨日のお礼です。」


「あ、ああ。ありがたく貰っておくよ」


オーソドックスな鍵のマークと美味しそうな柿が横並びに刺繍されている。鍵は俺、柿は富有を模しているといったところか。いや、これで勘違いするなと言う方が無理ないか?


「じゃ、じゃあまた!」


「ああ、またな」


俺は手を振り、駆けていく彼女を目で追った。

さすがにこれはあざと可愛いだろ馬鹿野郎。


「へー先輩、ふーちゃんと仲良かったんですね」


「うお、みかんか。びっくりした」


ふと気がつくと横並びでみかんがイヤホンをしながらカーディガンに手を突っ込んで話しかけてきた。


「『昨日家で別れた』『お礼』。これでなんかないわけないですよね、先輩?」


「なんにもねーよ本当に!説明すると面倒だけど本当に何にもないから!」


ここで俺と富有が特別な関係だと勘違いしてしまうとみかんルートが絶たれてしまう可能性大なので必死に弁明する。


「ま、先輩に限ってうちのクラスのマドンナとどうこうあるわけないか。」


とても失礼なことを言われた。



「へー、あいつがクラスのマドンナなのか。てっきりみかんだと思ってたよ」



「な!ま、まあ確かに私も可愛いですけどねっ!」


頬を赤く染めながらみかんは強がってみせた。


「でも私たち、男子たちから「だいだいがーるず」って呼ばれてるんですよ!クラスの二大巨頭なんですっ!」


なるほど、みかんと柿だから橙ね。

富有の奴、「三色兼美」に敵わないとか言いながらそのうちの1人と肩並べてんじゃねーか。

やはり俺の見立てに狂いはなかったんだな。


「それよりもも先輩のこと、ちゃんと背中押してあげられたみたいでよかったです。先輩ならできると思ってましたから。ちょっと…見直しました…」


「ちょっと、か。」


「これでも甘めに評価つけてるんですよ〜。それじゃあまた生徒会室で!」


みかんも爽やかに手を振りながら駆け出していく。



「おはよう、加護野くん」


「りん先輩。おはようございます」


今度はりん先輩が横にいた。

歩くたびに大きな胸が上下に弾む。


「言っておくけど男子の視線って思っている以上に女子にはバレているものよ」


「…ごめんなさい」


「まあいいわ。もものこと、本当にご苦労様」


「あ、ありがとうございます」


なんだ、この人は俺の上司か何かか?


「もももすっかり自信をつけたみたいでとうとうあの問題に切り込むつもりらしいわよ?その時はまた力を貸してね、生徒会の臨時メンバーさん。」


「あの問題?どの問題ですか?」


「知らないならそれでいいわ。いずれももから詳しい話があると思うから。せいぜい生徒会活動を楽しみにしておくことね。じゃ」


生徒会に代々受け継がれし未解決事件でもあるというのだろうか。確かに興味深い話ではあるが、もう少しゆっくり事を進めたらどうだろう。みんな生き急ぎすぎなんだよ。


「お」


俺の前を山岡ももが颯爽と歩いていた。


「よう」


「きゃあ!!」


ももはびくっと体を震わせた。


「あー悪い、びっくりさせちまったか?」


「そりゃびっくりするよ、もう!」


ももは口を尖らせて俺を睨んだ。


「悪かったって。それよりもも、さっきりん先輩に聞いたんだけど『あの問題』にとうとう踏み込むらしいな」


『あの問題』とは何なのか俺にはよくわからないが、こうして話を合わせていればいずれ何の話かわかるだろう。


「お、足が早いねえ、はるくん。そうなんだよ、とうとう私たちも本気を出そうと思ってね!」


それを言うなら耳が早い、だ。

腐っちゃってんじゃねーか、俺。


「詳しい話はまたあとで!じゃあ私今日日直だから先行くね!」


「ああ」


楽しそうに手を振って駆けていく。



『あの問題』ーー。


結局なんの手掛かりも得られなかったのだが焦ることはない。いずれ生徒会長から正式な話があるだろう。


それがどんな問題なのか、まったく検討もつかないが今の俺にはなんだってやれそうな気がしている。




思えば色々あったこの数日間。


自らの殻を破り成長を見せた者ーー。

残酷な真実を知ってしまった者ーー。


繊細な感情に間近で触れて一喜一憂し、辿り着いたただひとつの未来。


それは俺が望む未来からは遠くなってしまったはずなのに、いま立っているこの場所は確かに俺が望んだものだった。


これからも俺は数々の苦難にぶつかり、そのたびに強くなっていって、とある未来へ到達するのだろう。


それがどんな未来なのか、今の俺には想像もできない。今よりももっと楽しくなるかもしれないし辛いだけの結果になるかもしれない。




だが俺はそんな当たり前の未来を少し楽しみにしているのだった。



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