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俺が良ければ全て良し  作者: ギアマスター
「山岡ももの章」
17/58

17「帰路」


何とか事情を説明して納得して貰うことができた。

話の要所要所で「警察」という言葉を使うもんだから言葉に窮する場面も多々あったがこれくらいで負けるほどの俺じゃあない。


今後二度と不審な行動は慎むようにとの助言を頂き、俺は去っていく運営スタッフの後ろ姿に向かって深々と頭を下げ続けた。



「先輩」




「うお、びっくりした!なんだおどかしやがって」


「なんですか、その完璧なまでに精錬されたお辞儀は。どこかで実践済みとしか思えない完成度です」


「まあな。妹に金を借りるときにいつもやってるんだ。そんな褒められるとさすがに照れる」


「……天性のクズなんですね。」


呆れた顔でこちらを睨む。


「そんなことより催し物は済んだのか」


「そんなお祭りみたいな言い方しないでください。」





そんな会話をしながら歩いていると、いつの間にか会場を抜け体育館の外に出てきていた。


「うー!なんだか久々にお日様の光を浴びた気分です。」


「ニートみたいだな」


「うるさいですよ!」


富有は先輩であるはずの俺に軽くローキックを入れ、得意げな顔をした。


「帰りましょう先輩。もちろんちゃんと家まで送ってくれるんですよね?」


悪魔みたいな笑みを浮かべてこちらを覗き込んできた。


こんな明るいんだし1人で帰れるだろと言おうとしたのだが、俺の頭の中に突如『大天使コトリエル』が現れて今までに見たことない怖い顔をしたもんだから俺は仕方なく彼女を送ってやることにした。


「あ、当たり前だろ。さあ帰るぞ」


満足そうに彼女は微笑み返してきた。

正直堪らない笑顔だった。



それからの会話は正直あまり覚えていない。

なんだか取り止めのない話をしていたような気もするのだが、俺は栗宮とももにメッセージを返すのに必死でそれどころではなかった。


栗宮からは『今日のことは明日きちんとお礼を言う』と連絡が来ていた。

何回かやり取りをしたらそれで終わったのだが、問題はももからのメッセージだ。


『忘れ物あった!?』

『ごめん私気付かなくて。忘れ物ってなんだったの?』

『スタッフの人に女の子がどうとか言ってたよね?あれってどういう意味?』


もちろん真実を全て伝えるわけにもいかないので適当にごまかしながら返事を打った。


「くそっ!なんでこれで納得してくれないんだ?ももの頭ならこれで充分言いくるめられると踏んでいたのにっ!」


「清々しいほど最低な事言ってますね、先輩」


「んあ?まあな。まったく変なところで勘がいいんだよな、こいつ。くそっなんで」


「すいません、私のせいでこんな事に。」


「まったくだ。お前の件がももに知れたらあいつがどんな行動に出るのか想像もつかん。ももが笑い続けてくれるなら俺は平気で嘘をつくぞ。…はあ?だからそれはさっき説明したのに…」


「先輩、優しいです」


「あ?なんか言ったか?」


「いえ、もも先輩が羨ましいなって思って」


「…べつに栗宮以外にもいい男なんていっぱいいるだろ。富有ならあいつよりもいい奴に出会えるはずだ、安心しろ」


「…そういうことじゃないんですけどね…」


ふう、ようやくももが納得してくれた。

ああ見えて頑固な所もあるんだな。


「それじゃあ先輩、また学校で」


「え?」


気がつけば俺は見知らぬ家の前に立っていた。


「ここ、私の家です。送ってくれてありがとうございました」



「あ、ああ、そうか。じゃあまたな」


門扉を開け、彼女は玄関先へと向かっていった。途中、くるりと翻りお辞儀をする。


「その、先輩、今日は色々ありがとうございました。帰りも色々話聞いてくれて嬉しかったです。先輩も金庫開けるの頑張ってくださいね」


「ん?ああ」


金庫のことなんて話したっけ?

よく覚えてないな。


俺は来た道をまたゆっくりと歩き出した。

後ろからかすかにただいまという声が聞こえたような気がした。




俺の今日の役目がようやく終わった。

とても長い1日だった。


「帰ってことりに褒めて貰おう、そうしなければ割に合わないよな、いや、そうしたとしても割に合わないか」


ふと地面に何か落ちているのを発見した。


「ん?」


それは何やら布切れのようなーー。


「こ、これって…」


歪な形のバスケットボール。そしてその上に雑草でも添えてあるような変わったワッペンがしてある布だ。

よく見ると漢字で「御守」などと書かれている。


「あいつ、本当に家に出た直後に落としてたんだな。それになんだこの小学生のはじめての家庭科みたいな出来栄えは。」


布切れのようなものを探してくれればいいと言っていたが本当に布切れみたいなものが出てくるとは思わなかった。あれは謙遜の言葉ではなかったのか。


「んー、明日でいいか」


なんとなく家を訪ねてもう一度彼女を引っ張り出してくるのは違う気がした。

無理をして笑ってはいるがきっと彼女の傷はまだ完全には癒えていない、そう思ったからだ。



それにしても今日の俺の功績は俺史上最も輝いているかもしれない。


なにせ女の子を2人も助けたのだ。

これで何の見返りもないのだとしたら一体世界の神はどんな神経をしているんだ。

せめてえっちなハプニングの一つでも起きてくれないとおかしい。


そんな文句を言いつつも、その実俺はわりと満足していた。

こんな日もたまには悪くなかったかもしれない。


それに今日までに起きた一連の出来事。

これは俺の理想とする未来を少し歪めてしまったが多少の修正を加えればまだどうにかなる範疇だ。


多少の修正ーー。


そう、失恋中の柿沼富有の存在だ。

確かにももには彼氏がいて俺を取り合う女性陣の枠からは外れてしまったが代わりとしては充分なほど可愛い後輩の富有と知り合えた。


そもそも自由恋愛の許されるこの現代日本において、1人くらい彼氏がいることなど考えてみれば当たり前だ。

この程度のトラブル、俺の前では無力に等しい。


新たなヒロイン、柿沼富有を迎え俺の青春物語はさらに充実したものとなるだろう。


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