表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

1話 後編


所要時間:??


比率:♂4 ♀2





アーサー ♂:33歳。大国パルデンス・コロニーで一番と呼び声高い賞金稼ぎ。クールで気怠げ、皮肉屋なところがある。自分にとっての利益は金と"楽しめる事"


ドク ♂:32歳。国家錬金術師。アーサーと昔からの腐れ縁。基本陽気な優しい性格だが、いざと言う時は人が変わったかのような威圧感を持ち凛とした表情となる。


アリス ♀:23歳。ケーキの異形頭。いつもアーサーの隠れ家で世話役をしている。元気な性格で礼儀正しく、一生懸命だが、それ故空振ってしまう事も多々ある。


クラーク ♂:27歳。アーサーを探しパルデンスにやってきた。弱気で冴えない男。


ノア ♀:30歳。パルデンス王国騎士団レナード・イージスの団長。才色兼備、聡明、基本的には物腰柔らかく、強気な面も併せ持つ。





役表


アーサー ♂:


ドク・父親 ♂:


アリス・彼女 ♀:


クラーク・男・ワグナー ♂:


ノア・母親 ♀:


狂信者・K・団員 ♂:






男:彼の周りには、いつも必ず誰かがいた


男:僕の周りには、気付けば誰も居なかった


男:彼は誰からも好かれていて、僕は誰にも好かれなかった


男:彼にあるものが、僕には無かった


男:彼には元からなんだってあったのに、なんにもない僕から彼は全てを奪ったんだ


男:だが、なぜだか彼が奪っていったあと僕には活力が満ち溢れてた。これがなにからくるものなのか、僕は分かっていた


男:このどうしようもない程の生きているという実感が、”狂気”からくるものだと


男:僕は、分かっていたんだ





<ザクセルム。ダズロ通り>


アーサー:......なぁ


ドク:ん?


アーサー:あいつ...本当に止めたいと思ってるのか?


ドク:やめろ。それは出発してから今の今までずっと思ってるが、きっと彼も暗殺を止めたくて仕方がない筈だ


クラーク:うっっわぁこれテレビで見たやつだ...!あ、これも!!すんごい!!


ノア:そうは見えんが...このダズロ通りに入ってからというものずっとこれだぞ


ドク:ま、まぁ、このザクセルムの中でも上位に入る名所だしな!いいじゃないの、まだ時間もあるし、この大通り抜けたらすぐそこが目的地のテリアム大病院だしさ


ノア:そうはいかない。早く対処しなければ、奴がパレードの前にこの街でなにをしでかすか分からん


クラーク:その心配はないと思います


ドク:うぉびっくりしたぁ!いつの間に横にいたんだ!!


クラーク:そんなに存在感無いですかね僕...


アーサー:あぁ


クラーク:ひどい!!とっても酷い!!


ノア:どうして心配はないと断言できるんだ


クラーク:彼は僕の本に書いてある事しかやらない...というか出来ない筈です。彼のテロ行為は僕に対しての狂信的な作品愛からくるものだから


ノア:だとしてもだ、分かった気になっていても奴は大罪人なんだ。警戒しない訳にもいかない


クラーク:...すみません。浮かれてました


アーサー:分かったらさっさと行くぞ


ドク:......まぁそもそも、依頼人が依頼の決行に着いてくる事普通無いんだけどな


アーサー:全くだ


クラーク:だって...!元を辿れば僕が彼に与えた影響のせいじゃないですか...それなのにただ、おとなしく彼が捕まるのを待ってるなんて出来ません


ノア:私もだ。我が騎士団の勇敢な団員を大勢殺されて黙っているつもりはない


アーサー:まぁ良いけど、俺は万一の時あんたらを助けてる余裕ないからな


ノア:問題ない。我々は我々でなんとかする


クラーク:そ、そうですよ!だから大丈夫です


アーサー:団長さんはまだしもあんた街のチンピラにやられてたろ、よく言えたな


クラーク:やめて!その話はしないでください!!


ノア:そうだ、アーサーさん


アーサー:アーサーでいい。なんだ?


ノア:では、アーサー...今から会いに行く子は少々難しい子でね。言いにくいんだが、その子は賞金稼ぎという職業に過剰な偏見を持っている...とてもじゃないが貴方が質問をして彼女が答えてくれるとは思わない


アーサー:ほう...じゃあどうする?俺が罵倒されながらその子を尋問するか、団長さんが説得するかしかなさそうだが


ノア:迷わず後者だ、私が説得しよう


アーサー:クライアントに協力してもらうのも忍びないが、今回ばかりは仕方ないな...頼んだ。俺たちは病室の外で待ってるよ


クラーク:えぇアーサーさんの仕事してる所見れないんですか!?


アーサー:なんだよ急に...


ドク:お前さんさては最初からそれ目当てで着いてきたな...?


クラーク:いや!!いやいやいやそんな事ないですから!責任を感じているからここにいるんです...!


ドク:へぇ...よっ!


クラーク:はい、その通りですその目的もありました。ですが、責任を感じているのも確かです


ドク:...ん?


ノア:どうした?


ドク:いや...なんでもない


アーサー:おい、こんな街中で魔法使うんじゃないよ


クラーク:な、なんですか今のちょっと!


ドク:今のは曝露の魔法だ!久しぶりに使ったら魔導に歪みがかかっちまったが成功したな...でやっぱり思ってんじゃねぇか!


アーサー:その魔法使えば良いんじゃないかその子に


ノア:ダメだ、私の団員に手荒な真似はさせん


クラーク:そりゃだって、僕にとって賞金稼ぎというのは自分の話に出すくらい憧れの存在ですから...ね...


アーサー:...こいつ仕事の邪魔になるから置いていくべきだと思う


ドク:賛成


ノア:賛成だ


クラーク:ごめんなさいって!!


ノア:そろそろテリアム大病院に着くぞ


アーサー:(小声)......ドク


ドク:(小声)ん?どした


アーサー:(小声)頼みたい事がある


ドク:(小声)頼みたい事?


アーサー:(小声)恐らくだが、この依頼が滞りなく成功するかはそれにかかってるんだ





<アーサーの隠れ家にて>


アリス:ふぅ、やっと...やっとお掃除終わりました〜!


アリス:あとは!アーティの復帰祝いの準備をしておかないと...!


アリス:アーティが買ってきたお酒も冷やしたし、ご馳走の準備もしたし!あとは帰ってくるのを待つだけ!


アリス:まだかな〜まだかな〜!


アリス:ん、電話だ


アリス:...はい!もしもし


アリス:はい!はい...え、あ、そんな急に!?あ、あぁはい、分かりました...!


アリス:いや、でも...出来るかな...


アリス:え!?ほんとですか!?やります!!もちろんやります!!


アリス:...はい、は〜い了解です!あ、そうだあの人に、お酒冷やしときましたっていうのと


アリス:お気をつけて。とお伝えください


アリス:...はい!では、失礼しま〜す!


アリス:...さて、準備は帰ってからですね


アリス:ふふ。私も、久々のお仕事です...!





<アーサー達御一行、テリアム大病院にて>


クラーク:うわぁ......広い......


アーサー:この国でも一番の規模の病院だそうだ、どんだけの金がかかってんだか


ノア:...部屋番号は152だそうだ。ここで待っていてくれ、話を聞いてこよう


アーサー:はいよ、頼んだ


 

 ノアが立ち去る



クラーク:そういえば、ドクさんは?


アーサー:あいつはこの病院に友人が入院してるらしくてな、見舞いに行ったよ


クラーク:そうですか


クラーク:......賞金稼ぎって意外と地味な仕事なんですね


アーサー:勝手に期待して勝手に落ち込んでんじゃないよ


クラーク:だって、ねぇ...もっとこう、派手な感じの仕事かと思ってたので


アーサー:もちろんあんたの言う派手な感じの仕事ももちろんあるが、全てがそうって訳じゃない


クラーク:そうですか...まぁ、そうですよね...


アーサー:すまんね、俺はあんたの本の主人公じゃねぇんだ


クラーク:でも、僕を助けてくださった時のあの強さはまるで、僕の物語の主人公のようでした...!


クラーク:あんな流れるように、あの大きな男の人を瞬く間に制圧...格好良かったなぁ...!!


アーサー:勢いがすごいな...そりゃどうも


クラーク:あの...純粋に気になってたんですが、あのケーキ頭さんはどういう立場の方なんです?


アーサー:ん?あぁアリスか。あの子は隠れ家で俺の世話役のような事をしてくれたり、他にも諸々、俺に出来ないことをこなしたり手伝ったりしてくれてるのさ


クラーク:なるほど世話役の方...!こう言ってはなんですが、彼女のような華奢な方がいるのは何故なのかと思っていたので!納得しました


アーサー:あ〜...華奢ね...まぁ、そうだな


クラーク:?


ドク:戻ったぞ〜!お、ノアはもう行ったか


アーサー:あぁ、今説得して話を聞いてるところだろうな。ご友人さんはもういいのか?


ドク:あぁ大丈夫だ。問題ないよ


ドク:結構時間かかりそうだよな、うまく説得できればいいが


アーサー:まぁ、自分が命懸けて守っていた国の命運が自分の大嫌いな賞金稼ぎに委ねられるんだ。そりゃそう簡単に話は聞けないだろうよ


ドク:ははっ!それもそうか!久々の依頼、割と突飛な展開もなく緩やかに事が運びそうで安心してるよ。次は左腕を飛ばす事になるかと思ってたが


アーサー:うるせぇ!あんな失態二度としねぇさ


クラーク:...ん?あれってノアさんじゃないですか?


ドク:あれ、ほんとだ。えらく早いな


ノア:はぁっ...!はぁっ...!!


ドク:おいおいどうしたよそんな全速力で走ってきて


アーサー:...なにかあったのか


ノア:......死んでいた


クラーク:えっ...!?


アーサー:(舌打ち)手を打たれてたか


ノア:(クラークに掴みかかりながら)...っ!!この事は!貴様の本に書かれていたのか!?


クラーク:い、いや、そんなシーンは無かった筈ですっ!!


ドク:俺も出発する前にその本を確認したが、そんな描写は無かった


ノア:だから言ったんだ!!何をしでかすか分からないと!!あと少し着くのが早ければ救えた命だったかもしれないのに...!!


クラーク:ぐっ...!!く...るしっ...!!


アーサー:気持ちは分かるが離してやれ、依頼人に死なれちゃ困る。病院の封鎖は?


ノア:......すまない、取り乱してしまった。既に封鎖済みだ...VIPエリアは隔離されていたから、恐らく警備になりすましていたんだろう。他の警備は皆殺されていて、私が急いで病室に入った時には彼女はまだ息があった、奴はまだここに居るはずだ


ノア:救えなかった。また救うことが出来なかった


アーサー:喪に服すのはあとにしな。まだこの院内にいるなら奴が騒ぎを起こす前に見つけ出すぞ


ドク:あ〜...いや、自分から出てきてくれたみたいだぞ...?


 

 人質をとり壁際に立つ狂信者



狂信者:皆そこを動くな。動いたものは皆殺す...!


アーサー:(笑みを浮かべながら)へぇ...そりゃあ良い。探す手間が省けたな





アリス:ふぅ〜!ただいま〜!疲れた〜!思ったより早めに終わりましたね...とんだ無茶振りでした...


アリス:でもこれも、新しい研究材料の為...


アリス:ずるいですよもう!そんな良いものくれるとなったらやるしかないじゃないですか!


アリス:(ソファにぐったり座る)はぁ〜〜


アリス:にしても、なんでこんなの頼んできたんでしょう...


アリス:まぁいいか!さて、今夜の準備を再開しないとですね...!


アリス:よぉし!また頑張るぞ〜!!


アリス:あ、そうだ。アーティ、コートに入れたあれ気付いてくれるかな


アリス:まぁ使うような事にならないのが一番ですけど...





<場所はもどってテリアム大病院>


狂信者:動いた者は自殺志願者として全員殺す。俺が銃を突きつけてるこいつも抵抗すれば地獄行きだ


クラーク:人質とられてますよ...どっ、どどどどうしますアーサーさん!!?


アーサー:...鏡、あるか


ドク:あぁ、覗き見させてもらおう


 

 ドクが隠れた遮蔽物の横から鏡を出し狂信者の様子を伺う



ドク:...さっきあいつがローブを脱いだ瞬間、あたりに魔力の匂いがばらまかれたんだ。もしかしてと思ったがやっぱりか...ほらあの銃、見てみな


 

 続いてアーサーも鏡に目をやり鏡越しに狂信者を見る



アーサー:っ!あれはヴァルツヘルゲンの魔銃か。グリップに国紋が刻まれてるって事は


ドク:あぁ、だな


クラーク:って事はなんなんです...!?


ノア:ヴァルツヘルゲン特殊作戦部隊...あの銃は、そこに所属している隊員にしか支給されない代物だよ。あの部隊の詳細は未だに不明だが、その力と彼等の愛国心だけは有名なんだ...あそこに属していた人間とその仲間であればエイダン東の件も、悔しいが納得できてしまう


アーサー:まぁ流石に”元”隊員だろうがな。現役なら、いくらクラークのファンとはいえこの数十年戦争もほとんどない世の中で、突然自国と他国との戦争の火種になりかねないような事しないだろ


ドク:ったく...とんでもないファンつけたなあんた...!


クラーク:い、今心からそれを感じています


狂信者:さぁ、担当者は騒がずここのゲートのロックを解け。この病院が血祭りになる前にな...!


ドク:こりゃ厄介な相手だ...どうする?


アーサー:ん?決まってんだろ。相手してやろうじゃねぇか


ドク:はいはい知ってた、楽しそうだなお前!!俺達も行くぞノア


ノア:ちょっと待て!はぁ...クラークさん、貴方はここで隠れていてください


クラーク:は、はい...





狂信者:おっと...早速死にたいやつが出てきたか


アーサー:まぁまぁ落ち着けよクソ野郎。高血圧で倒れちまうぞ?


狂信者:お前...赤眼の賞金稼ぎか。お前の噂は耳に入ってるぞ


アーサー:そりゃ嬉しいねぇ。あんたのような精鋭に知ってもらえてるとは...おっと失礼、”元”精鋭だったな


狂信者:...あの部隊の事を知ってるのか。懐かしいねぇ、あの頃は楽しかったよ...今はただの信者さ


ノア:何が”ただの”だ。我が部隊の優秀な団員を大量に殺しておいてよくもそんな戯れ言をぬかせたな...寝言は寝て言え腐れ外道...!


狂信者:へぇご挨拶だな騎士さん。我が部隊ってことは、あんたがあのレナード・イージスの団長か


狂信者:じゃああれか、あんたがその賞金稼ぎに依頼したのか。ははっ流石に天下の騎士団長もお手上げだったか?


ノア:......


狂信者:あんたの部下、さっきのやつも含めて


狂信者:(嘲笑いながら)大した事なかったぞ


ノア:...アーサー


アーサー:ん?


ノア:報酬は約束通り払うから、今から私が剣を抜き奴を叩き切るのを止めるな


ドク:おぉっとっと待てノア!!冷静に考えろ、今奴に感情のまま向かっていけばいくらお前でも死ぬぞ


ノア:しかしっ...!!


アーサー:大丈夫だ。必ず依頼通りこなすから、下がってろ


ノア:...すまない


アーサー:にしても、助かったよ。あんたから出てきてくれたおかげで探す手間が省けた


アーサー:さて...俺達はお前を逃がす気が微塵もない訳だが、この状況をどう切り抜けるつもりだ?


狂信者:そうだな...3対1で、相手の三人はそれぞれレナード・イージスの騎士団長にパルデンスの国家錬金術師、そしてパルデンスで一番の賞金稼ぎときてる。流石に殺し合いをしても勝てる可能性は僅かだろう


狂信者:だから、頼む


狂信者:見逃してくれ


ノア:......貴様、正気か?


狂信者:あぁ、大真面目さ。為さねばならない大義があるんだ、だから、頼む


狂信者:見逃してくれ





男:彼は、僕と似ている


男:彼のあの行動力も狂気的な信仰心から生まれているものだ


男:はっきりと分かる


男:だから、だからなのだ


男:だから、彼なんだ





アーサー:っははは!!


狂信者:...?なにがおかしい


アーサー:っははは!!なにがっおかしいって?ぅはっぷっははは!!


アーサー:はぁ...いや、ここまでイカれたやつは久々でな!


狂信者:...私は至って真面目だが


アーサー:だから面白いんだよ。なんでこの状況で見逃してやると思ってるんだ?


狂信者:...あんたは雇われた身だろう?この国の命運なんて興味あんのか


アーサー:この国の命運に興味なんてないさ


狂信者:なら何故見逃してくれない?


アーサー:俺はお前にも、この国にも興味はない。俺が興味あるのはこの依頼だ


狂信者:ヒーロー気取りか。賞金稼ぎ風情が


アーサー:ヒーローなんてとんでもない!俺は大義もなにも持っていない。仕事をしているだけさ


狂信者:(舌打ち)アァめんどくせぇなぁ!!お前みたいな奴が一番相手するとめんどくせぇんだ...!!この物語にこんな展開いらないのに...!!

  

ノア:貴様を逃がすという選択肢はない...本当はそのくだらない物語を今すぐ終わらせてやりたいが、死んでいった同志達の事を思えばここで殺す事すら生温い。貴様に許されているのは我々に捕まり、一生牢獄で罪を償うことだ


狂信者:はぁ......はは、そうか...なら仕方ない。この崇高たる魔銃の力を以って、ここを血祭りにしてやる。


狂信者:手始めに...まずはこいつからだ...!



 狂信者が引き金に指をかける



狂信者:っ!!かっ...らだが...謀ったな錬金術師...!


ドク:鎖の魔法さ!捕縛魔法の応用で、体内にだけ魔法を通し一部の筋肉の動きを止める...上級魔法なもんで普通の人間だったら扱えない魔法だが


ドク:(笑みを浮かべながら)すまんな。俺は普通の人間じゃないんだ


ドク:(小声)とはいえ、ずっとは保たないぞ...なにか案はあるのかアーティ


アーサー:さっきな、このコートの中に良いもんを見つけたんだ


ドク:これは...銃弾か?


ノア:それで何が出来る?殺したら報酬は0だぞ


アーサー:うちのケーキ頭さんは発明家でな。これはただの銃弾じゃない


アーサー:アリスにはまた借りが出来たな


狂信者:ぐっっ...!!早く解魔の術式を...!


アーサー:おい”元”精鋭さんよ!


狂信者:...!


アーサー:ケーキは好きか?


狂信者:は...?


アーサー:ほら、やるよ...!



 アーサーのリボルバーが火を吹き、まっすぐ銃弾が飛んでいく



狂信者:がァ!!


アーサー:よ〜しヘッドショット!腕は鈍ってなかったな


狂信者:......こ...これは?


狂信者:かっ解魔が効かない...!?


ドク:まさか奴の魔力を消したのか...!!アリスちゃんいつの間にそんなもん作ってたんだ...


アーサー:恐らくだが、消すってより”限りなく少なくする”が正解だろうな。前に言ってたんだよ、趣味で相手の魔力を長い間無力化できる弾を作ってるって...


ドク:待って趣味でなんてもん作ってんのアリスちゃん


アーサー:で、コートのポケットに違和感があって...見てみたらケーキの刻印が入った弾を見つけたんで、撃ってみた


ノア:それでもし死んでたら...!


アーサー:賭けだったが...実際その弾だった訳で、奴も死ななかっただろ?


ノア:...そうだがっ!!


アーサー:着弾した瞬間弾けてケーキを液体に溶かしたものが対象に付着する。そしたらそいつの魔力はお釈迦になるって代物らしい、まぁどうやってそんなの作ったかは知らんがアリスが仕込んでくれて助かった


ドク:すまん、こいつこういう奴なんだ


ノア:恐ろしいなお前たち...





アリス:くしゅんっ!


アリス:あ〜風邪引いたかな...





狂信者:わ...私にはっ...まだ為さねばならない事が...


アーサー:よ、ケーキの味はどうだった?


狂信者:ぐ、ぁ...きさ...ま...!


ノア:...私が見えるか、腐れ外道。私はノア・イリーダ・ルドヴィクス...貴様らが殺した団員達の長だ


ノア:今、突きつけているこの剣が貴様の首を刎ねて(はねて)いないのは慈悲ではない。報復だ...一生罪を償ってもらう


狂信者:た、助けてくれよ賞金稼ぎ...な?頼む!!


アーサー:この際だから教えといてやるよ。俺の名前はアーサー、悪いがお前の大義はここで幕引きだ


狂信者:くそったれぇ!!!


ノア:ん、応援がきたか。こいつを連れて行ってくれ!!


ノア:ふぅ......本当にありがとうアーサー。これで明日のパレードも不安なく開催できる...報酬はすぐにお送りするよ


アーサー:復帰後初の依頼で国を救う事になるとは思わなかったけどな、楽しかったよ


ドク:はは〜ん!本当はちょっと物足りないと思ってんだろ!


アーサー:うるせぇ!


クラーク:お、終わりましたか...!


ドク:おう〜終わったぞ出てきな〜


クラーク:良かった...彼捕まったんですね...


アーサー:あんた本当になんもしなかったな、イカれたあんたのファンに挨拶しなくて良かったのか?


クラーク:しなかったんじゃなくて出来なかったんですよ!だって怖いでしょ!


ノア:本当になんでついてきたんだ貴方は...宿にいればよかっただろうに


クラーク:だ、だって...


ドク:ま、ともあれ無事何事もなく終わって良かったよ。この後呑み行かねぇかアーティ、久々に...


アーサー:......


ドク:ってどうした


アーサー:...いや、なんでも


アーサー:そういや宿の目処はついてんのかクラーク


クラーク:あぁ、はい!もう部屋をとってあるので大丈夫です!本当にありがとうございました、アーサーさん...!


アーサー:...あそう、じゃあ帰るか。呑みに行くぞドク


ドク:はいよ〜


ノア:あ、アーサー!!


アーサー:...ん?


ノア:すまない...最後に折り入って頼みがあるんだ


アーサー:頼み...?





<アーサーの隠れ家、廃れた遊園地にて>


アリス:それで、こうなったと?


ドク:ははは...


アーサー:あの、すまん


アリス:あのねぇ!この隠れ家である廃れた遊園地の一角は!拷問部屋じゃないんですよ!?分かってますかアーティ!!?


アーサー:いや、報酬の値を上げるっていうもんでさ!


アリス:だとしてもでしょ!!


ドク:まぁ天下のレナード・イージスの団長様の依頼だから、追加の報酬額も馬鹿にならんしなぁ...


アリス:だから!だとしてもですよ!ここの地下倉庫をその狂信者の拷問の為に貸すなんて!


ドク:まぁまぁ...!言ってた研究材料、すぐに用意するからさ


アリス:許します


アーサー:ちょろすぎ


アリス:うるさいです!!


ドク:...にしてもあの騎士団の拷問、地獄のがましだとかなんとか言われてるが、実際どうな...


狂信者:(被せ気味)ぅがぁぁぁぁぁァァア!!!!!!


ドク:ん...だ......


アーサー:間違いじゃなさそうだな


アリス:はぁ...





ノア:さぁ、その辛抱強さは評価するが、次の薬を打てば身体全体に激痛が走る。訓練された人間でも耐えられない程のだ


狂信者:もう...仲間の居場所はっ!ぐふっ...!!吐いただろ!!全員だ!!


ノア:まだだ、貴様にはまだ余罪がある。今までにやったテロ行為を白状してもらおう


狂信者:だ、だからやってないって...!本当だ!


ノア:今更自衛か、見苦しい。貴様がクラークの小説に擬えて起こしてきた事だろう...!エイダン東の奇襲だってそうだ


狂信者:確かにエイダン東の件は仲間とやった!だが他の事件は全てやってない...!


ノア:よくもこの期に及んでそんな言い逃れができたな


狂信者:だから!あのお方に託された大義は、エイダン東の殲滅と国王の暗殺だけだって...!


ノア:待て。今”あのお方”と言ったか


狂信者:あ!?言ったよ!!


ノア:あのお方とは...誰の事だ





アリス:あれ、声が止みましたね...


ドク:...だな


ノア:入るぞ


アーサー:ん?あぁ...どうした。なにかあったのか


ノア:......


ドク:なんだよ暗い顔して


ノア:...尋問で、奴の味方の居場所は全員掴んだ。だが、奴は頑なに他の事件はやってないと言い張った


アリス:もう動機もクラークさんの依頼で分かりきってて、逃げ場なんてないはずなのに...みっともないですね


アーサー:......奴はそのあとなんて言った


ノア:あのお方に託された大義は、エイダン東と国王暗殺だけだ...と、奴はそう言った


アーサー:...!


ドク:あのお方...?


アリス:あのお方って...?


ノア:...クラーク。一緒に行動していた作者本人だ


ドク:は?


アリス:え?


ドク:アーティ...!!


ドク:あれ...あいつどこ行った





男:正義のヒーローは、どの物語でも悪役がいないと成り立たない。そして反対に悪も、正義がないと成り立たない


男:僕の物語だってそうだ。正義があって悪がある


男:この狂気は、僕の物語を現実のものにしようと考えたんです。その為なら、なんだって出来ました


男:物語の実現に必要な費用は汚い金であろうと用意したし、人も沢山利用しました


男:ただ、悪役が足りなかったんだ。だから...僕が悪役になった


男:人を殺し、街を壊し、物語の完成に必要な出来事は全て僕が起こしました


男:線路の爆破も、やったのは僕です


男:あなたが真っ先に辿り着いているんでしょう?正義のヒーロー。流石、貴方を主人公にして正解だった



アーサー:...やるじゃねぇか。悪役さん



男:僕は国王の暗殺には最初から興味なんてありません。僕の物語の結末ではないから


男:下記の場所に来てください。そこで、全てをお話します






<ザクセルム某所、ある教会跡地にて>


アーサー:(タバコを吸う)......よう。来たぞ


クラーク:あぁ、どうも。早かったですね


アーサー:なんで教会の跡地に?


クラーク:そうですね...今から話す事は、言わば懺悔のようなものだから、でしょうか


アーサー:はっ!懺悔ねぇ。神様ってやつも大変だな


アーサー:で...?俺達はあんたにまんまと騙されてた訳だな...?そこまで頭が回る奴とは


クラーク:そんなに褒めないでくださいよ、照れてしまいます


アーサー:その頭の良さなら別のところに活かせたろうに


クラーク:いえ。僕はこの物語を作る為にしかこの頭は使いませんし、使えませんよ


クラーク:...あ、そうだ。先程結末に向けて最後の大きな展開が終わったところなんですよ、ここは高台だからよく見えますね...ほら、あそこ


アーサー:あれは...テリーズ大聖堂を燃やしたのか、何故だ


クラーク:......僕はこの計画を始める前、ある一人の作家を殺しました


クラーク:その作家のペンネームはクラーク。周りに恵まれ、表づらもよく、どこをとっても優秀で、そして...僕を這い上がれない程のどん底に突き落とした男です





ノア:はぁっ!はぁっ...!!はぁ...


ドク:待てノア!おい待てって...!


ノア:待つ時間はない!一刻を争う...!あそこには、明日のパレードの為に団員達が集まっているんだ...!!


ノア:また..勇敢な団員達を!私はまた...!!



ノアM:また、救えないのか



ドク:あっつ...なんだこれ、おいあんた!状況は!!


団員:ドクさん!?い、いえそれが、中の団員の救出は何度も試みているんですが火は強くなる一方で...恐らく、もうっ...!!


ドク:......安心して退避してな、大丈夫だから


団員:え、あの、大丈夫って!?


ドク:この世の中、結構狭くてな。案外近くに...


ドク:ある分野において俺よりもすごい魔法を使える子がいたりする


団員:......は、はぁ...


ノア:ぁ...あぁ...ぐっっ...うぁぁぁああ!!!!!!


 

 ノアは跪き、泣きながら、怒りを込めた拳を地面に叩きつけた



ノア:くそぉっ!!くそっ...!!くそくそくそ!!くそっ...!!


ノア:また、まただ......また...救えなかった


ノア:いつまで経っても私は...!!私は弱いままだ...


ドク:ちょぉっと通してくれ〜!ごめんよ〜?


ノア:なんだ、無様な私を憐れみにきたか


ドク:はっまさか!そんな真似しねぇさ。うっし!久々にやるな......ふぅ......精霊よ、呪縛から放たれよ...!!


ノア:......は?な、なにをして...?


ドク:解いた。特殊結界を


ノア:特殊、結界?


ドク:...ノア、いいか?頼むから今から言うことを聞いても、俺を恨まんでくれよ?


ドク:(咳払い)実はな......





アーサー:あんたが、その本物のクラークを恨んでて......クラークを名乗ってた別人だとして、何故クラークになり変わって俺に嘘をついてまで依頼した?何もせずにいればこうはならなかっただろ


アーサー:目的はなんだ


クラーク:......人ってね。光が見えない程の暗闇まで落とされると、狂っちゃうんですよ、おかしくなってしまう


アーサー:......


クラーク:...目的を教えるにあたって、僕とクラークとの思い出話をしましょう。今回は自慢話じゃないですから...聞いていただけますか


アーサー:...話せ


クラーク:彼と、クラークと初めて会ったのは、一年ほど前の...確か夏の日でした





<田舎町、ある夏の日>


ワグナーM:当時、僕は父と母との三人で、田舎町に居を構え暮らしていました。

とても普通に暮らせているとはいえない程貧乏な家庭で、父は魔石採掘...母は郵便配達員としてなんとか家族の生計を立ててくれていたんですが、なかなか綱渡りのような生活からは抜け出せず...かくいう僕は、魔導体質、要は魔力が人よりも大量に作られるこの身体のせいで...差別が根付いていたこの世界ではまともに就ける職なんてなく、なんとか就けた母との郵便配達をしながら親には内緒で作家活動に勤しむ毎日


ワグナーM:そんなある日。公園のベンチで座ってメモ帳とにらめっこしていたら、僕の眼前に見覚えのない顔が現れたんです





ワグナー:......う〜ん、この設定だとちょっとインパクトがないか。どうする...


K:やあ


ワグナー:ぅわぁ!!っとと...!!


K:あぁごめんよ!怪我はないかい?まさか吹っ飛ぶ程驚くとは思わなくて...!


ワグナー:な、なんなんですかいきなり...貴方は?


K:おっと失礼、僕の名前はクラーク。クラーク・テイラー・アデルスベルト!よろしく!一人でベンチに座ってブツブツ言ってたから、何してるんだろうなって興味持ってしまってね


ワグナー:あ、アデルスベルトって...!もしかして領主様の御子息!?


K:知ってくれてたとは光栄だ!君の名前は?


ワグナー:ワ、ワグナー。ワグナー・イズノフ...です


K:敬語はいらないよ!身分なんて関係ない


ワグナー:あ、嵐みたいな人だね、君...


K:そうかな...?自覚はないけど


ワグナー:変な人だな...


K:ん?なんか落としてるよ...?”創作メモ帳”?


ワグナー:あっ!!待ってそれは...!!


K:面白い


ワグナー:...え?


K:こ、これ...!!面白い!!


ワグナー:えっ、ほ、本当に...?


K:本当!!色々話聞かせてよもっと知りたい!


ワグナー:う、うん!ありがとう...この話は...





ワグナーM:彼は唐突に現れて、はじめはもちろん戸惑ったけれど、時を追うごとに光を失っていた自分の人生に少しだけ陽をもたらしてくれる...大切な友人になったんです


ワグナーM:クラークと出会ってから、何度も彼の邸宅に招かれて僕の小説の話をした。僕の小説に興味を持ってくれた人は今までいなかったから、すごく嬉しかったのを覚えています





K:ありがとうワグナー、今日も来てくれるとは...!


ワグナー:いやいいんだ!今日は郵便の仕事も少ないから母親が任せてくれ〜って言ってくれてさ、暇になってたんだ


K:それならよかった、最近仕事がない時毎回来てくれてるよね!嬉しいよ


ワグナー:そりゃね!最初こそ戸惑ったけど、こんなに楽しく話せる人は初めてだから...


K:なんだなんだ!照れるじゃないか!でも、他の友達からのお誘いとかは大丈夫なのかい?


ワグナー:あ、えぇと、うん...大丈夫!


K:そう?ならいいんだけど


ワグナー:そ、そういえば!前に書いてみるって言ってた小説、題材は決まったの?


K:それがまだ決まってなくて...英雄譚みたいのがいいかなぁとは思ってるんだけどね


ワグナー:おぉいいね!楽しみにしてるよ...!


K:ありがとう!君に影響されて書く事を思い立ったから、君の作品と同じくらい最高なものにしたいな


ワグナー:(微笑みながら)実力で越されないか不安だなぁ


K:(笑いながら)ないない


ワグナー:あっ、そうそう。ついに完成したんだよ!


K:えっ、完成したって、あの賞金稼ぎが主人公の小説!?


ワグナー:そう!それで、よかったら...出版する前に読んでみてくれないかな


K:え!?い、いいの...?


ワグナー:もちろん...!


K:やった!





ワグナーM:仲が深まるたびに実感する彼の恵まれた環境への嫉妬も、家を訪れるたびに感じていた劣等感も受け入れようと思っていた、その矢先です


ワグナーM:僕の全てが、突然音を立てて崩れ去ったのは





ワグナー:は...?な、なんで、!


彼女:ごめん


ワグナー:ごめんって...なんだよ。理由を教えてくれ...!じゃないと納得できない、僕は誰よりも君に尽くしてきたじゃないか!!


彼女:...正直、もううんざりなの


ワグナー:は...?


彼女:うんざりだって言ったの...!!貴方のその家庭状況のせいで将来の目処もたたない!貴方のその作家活動ってのも全然稼ぎにならないし!


ワグナー:...君の為になんでもしてきた。君の求めるものはなんでも買ったし、行きたい所には一緒に行った!!このなけなしの生活状況でもだ...!!不自由はなかったはずだろ!!仕事だって、まともな給料のとこをずっと探してる...!


彼女:その体質のせいでうまくいった試しないじゃない...


ワグナー:それは...!


彼女:もう終わりにしましょ、貴方とはもう付き合っていけない


ワグナー:......


彼女:貴方には、なにもないのよ。才能も、お金も、人望も...一緒にいて楽しくない


彼女:......彼とは大違いよ


ワグナー:は?彼って誰だよ


彼女:貴方には関係ないでしょ!さよなら、ワグナー


ワグナー:くそっ...!!なんで!!


ワグナー:...電話?はい、もしもし


K:やぁ、夜分遅くにごめんよ。元気かいワグナー!小説のネタが決まって、報告したくて電話しちゃったよ!


ワグナー:はは...すごいタイミングだな。さっき彼女に別れを告げられたばかりだよ


K:ああ!ごめんね?彼女盗っちゃって


ワグナー:...え


K:それじゃ、また会おうね〜!





ワグナーM:自分にとって初めてで唯一の友人に裏切られた。その事実をその場で受け入れるのが怖くて、それからしばらくクラークの家にも行かず連絡も取らず数カ月経ちました





父親:そういえばお前最近まともに食ってないじゃないか。大丈夫か


母親:そうよ!ちゃんと食べなきゃ、仕事もやってけなくなるわよ〜?


ワグナー:ほっといてくれ


父親:......


母親:...あ、そ、そういえば!前に領主様のご子息と友達になったって言ってたじゃない?その子が小説を出してたわね!


ワグナー:そうなんだね。それがなに?


母親:それがね!私もあまり読まないジャンルではあるんだけど、主人公が...あの、なんだっけ


父親:賞金稼ぎ、だろ?


ワグナー:...え?


母親:あ、そうそう!賞金稼ぎって仕事をしてる主人公が悪をやっつける〜みたいな、ありきたりなストーリーだけどこの世界がモデルになっていて...あの有名なパルデンスや実際の街まで出てくるのよ。流石領主様のご子息!なんでもできる人なのは知ってたけど文才まであるだなんて


父親:血ってあるんだな。才能あふれる領主様の血をしっかり継いでる


母親:ワグナー、貴方も彼を見習いなさい


ワグナー:...ふざけるな


父親:ん?どうした


ワグナー:ふざけるなぁあ!!!!!!





ワグナーM:僕は半狂乱のまま家を飛びだし、奴の家に行った


ワグナーM:既に怒りで自分を見失っていた僕のその腕には家にあったナイフが握られていた





K:いらっしゃい。どうしたの?ワグナー...っ!な、なんでナイフを持ってるの...?


彼女:ひっ...な、なんで


ワグナー:何故だ


K:な、何故ってなにがさ!?


ワグナー:僕の教えた作品の構想をパクったろ、あと君も、やっぱりそういう事だったか


彼女:ゆ、許してよ...殺さないで


ワグナー:さっさと消えてくれ。クラーク、君は逃さない


彼女:ひっ!!(走り去る)


K:ま、待ってくれよ...悪かったって


ワグナー:君は...友達を裏切ったんだ。上手いことやったね、最後あたりの展開だけ変えて世に出すとは...しかも良い評価をもらってるみたいじゃないか


K:け、警備!警備はどこだ!


ワグナー:呼んでも誰にも届かないよ、軽度だけどこの部屋だけ特殊結界を貼った。周りからは何も起こってないように見えてるし僕らの会話も聞こえない


K:...ふ、は、ははは!そうだよやったよ、あんたの小説をパクって世に出した!貧乏で影響力もないあんたが世に出すより数倍良いと思ってね...!!そしたら僕のパパのおかげであっという間に世に広がって沢山褒めてもらえた!!君のとこの元彼女も僕の方が良いってさ!!はははっ!ざまあないなぁっ!!


K:君が後にだした方は酷評の嵐!僕の作品を盗作しただとか散々な言われようだったよ!!


ワグナー:...友達だと思ってた


K:は?


ワグナー:初めてだったんだ


K:聞こえねぇよ!!


ワグナー:お前だけは絶対に許さない


ワグナー:こんな人生...くそくらえだ





ワグナーM:そのあとはっきり記憶に残っているのは...ズタズタになった奴の身体を運んで隠して、アデルスベルトの邸宅にあった金庫から金を盗んで家にも帰らずひたすら逃げた事。

彼を殺した時に頭の中でなにかが弾けた...あの感覚も覚えています


ワグナーM:それから僕は、アーサーさんの事を知り国を出て、顔を出さず行方不明という事になっていたクラークに成り代わり...ある森の奥深くに住んで計画を練りました


アーサー:それが...”これ”か


ワグナー:えぇ...人間一度堕ちるところまで堕ちて狂気に染まれば、前は考えられなかったような事を思いついてそれを実行する為ならどんな事だってしてしまうんです。その証拠に、僕はこうやって自分の本をこの世界に還元しようとしている


ワグナー:利用して捕まったあの狂信者もクラークの信者で、クラークが世に出した方を現実のものにしたいと本人のふりをして頼んだんですよ。そしたらまんまと騙されてくれました


アーサー:そしてあんたは俺達のそばにいて疑いの目を向けさせず、その狂信者のおかげで作戦を進める為の時間を稼げた訳か


ワグナー:そういうことです。病院に狂信者が現れたのは計算外でしたがね、自分が一般人扱いで良かったですよ


アーサー:(タバコを吸う)へぇ〜...大層頭のキレる奴だこと。まぁあんたが誰で何故こんな事を始めたのかは分かったが、さっき言ってたあんたの本の結末ってのはなんなんだ?それにわざわざ俺に嘘をついて依頼した理由もまだ教えてもらってない


ワグナー:...手紙にも書いた通り、この物語は貴方が主人公で僕が悪役です。作中では「寂れた教会で主人公と悪役が銃を向けあって相対する」これがラストの幕開けなんですよ


アーサー:......ほう、それはどっちが勝つんだ?


ワグナー:それは...今から分かる事です...!!


アーサー:...っ!!(銃を構える)


 

 互いに銃を構え向かい合う二人



アーサー:手が震えてるぞ。その構え方も慣れてないのが丸分かりだ、


ワグナー:いくら慣れていないからってこの距離なら外しませんよ...


アーサー:面白いじゃないの...!やってみろ


ワグナー:これが結末です。申し訳ないが、死んでください...!!



 教会内を銃声がこだまする



ワグナー:......っ!...ん、こ、これは?


ワグナー:ケーキ...!?まさか!!


アーサー:...やっぱりその銃は空砲、悪役がヒーローに倒されて幕引き。それがあんたの望む結末か


アーサー:悪いが、茶番は終わりだ


ワグナー:魔力...が...


ノア:敵を騙すにはまず味方からという訳か...!!アーサー!!


アーサー:よ、思ったより早かったな。他の団員も無事でなによりだ!アリスに任せて正解だったな


ノア:貴様...!


ドク:どうどう!落ち着けって...!アーティ、ちゃんと説明してもらえるか?


アーサー:...面倒なく黒幕に出てきてもらうには全部に乗っかる必要があったんだ。相手は頭のキレる狂人だからな、団長さん騙すことになってすまんな...だが教えてたらワグナーを殺すのを我慢できないだろ


アーサー:ん、おいおいどうしたよワグナー!まるで幽霊でも見たような顔して


ワグナー:なんで、団員が全員生きてる...な、なにが...なにがどうなって......


アーサー:...最近読んだ本があってね。ありきたりなストーリーだが、俺と同じ賞金稼ぎが主人公なのもあって良い暇つぶしになったんだ...著者の名前は確か、ワグナーだったかな


ワグナー:そんな...僕の本を読んでいたのか...?


アーサー:最初あんたの依頼を聞いてる時に出てきた二つのテロ、クラークの書いた方にもあった展開だが俺が読んでたあんたの本にも同じ展開があった。だが、あんたの本にパルデンスの国王暗殺なんて展開は無く最後は悪が破られ幕を閉じる


アーサー:だから最初から疑ってかからせてもらった


ドク:それでアリスに頼んで大聖堂に特殊結界を張らせた訳か...!


ワグナー:馬鹿な...大聖堂を守った上で特殊結界の中に幻覚を見せたのか!?そんな事できる人間が...?


ドク:はは...これがな、いるんだよ。ケーキ頭の発明家さんがね


ノア:あの子本当にどうなっているんだ...


アーサー:ま、その発明ケーキさんのおかげで大聖堂の団員連中もこうして生きてる訳だな。でけぇ借りができちまったな


アーサー:いやぁ...あんたも賢いよな。俺が面白い依頼に食いつくのを知っててわざと依頼したんだろ?で、一般人として俺達の側にいながら最終的に自分の求める結末に辿り着くよう仕向けた


ドク:魔導体質の人間は軽度の魔法だと効かない。病院への道中に曝露の魔法を仕掛けた時の、あの魔導の歪みはブランクじゃなくそのせいだった訳か...全く名演だな


アーサー:ワグナー


ワグナー:...っ!


アーサー:あんたの唯一の誤算は、俺があんたの本の読者だった事


アーサー:あとあんたの間違いは、俺達を舐めた事だ


ワグナー:そんな...ここで終わりだっていうのか...


アーサー:病院でも言ったが、すまんな。俺はあんたの本の主人公じゃないんだ


ワグナー:......くそったれ


ノア:......ワグナー。貴様は我々が連行する


ノア:死んでいった団員は、貴様のくだらない大義とやらの為の道具では無いんだぞ...自分勝手を獄中で後悔し償え愚昧(ぐまい)がっ...!!


アーサー:......


ドク:......哀れな男だ


ドク:よぉし終わったな〜!長い夜だった。復帰後初の依頼はどうだった?


アーサー:...そうだな。俺にはこの仕事を捨てることは出来なそうだと改めて思ったよ


ドク:(微笑みながら)復縁おめでとさん


ノア:...奴は我々の管理する監獄に送った、本当にありがとうアーサー。貴方に依頼して良かった


アーサー:(タバコを吸う)今日みたいな面白い依頼があったらまた連絡してくれ。報酬がしっかりしてるなら受けるぜ


ノア:その日が来ない事を祈るばかりだ。今回の報酬は後ほど送金する


ノア:銃の腕前も見事だった...いつか依頼人と賞金稼ぎではなく、共闘者として相まみえたいところだよ。では、またいつか


ドク:...よし!ちょっと呑んで帰ろうぜ。今度こそな





アーサーM:長い夜が終わりを迎え、陽は昇り、落ちて、それでもまだザクセルムの街は祝賀ムードに包まれていた


アーサーM:昨日の事が嘘かのように活気に溢れたパレード当日


アーサーM:街の片隅にある廃れた遊園地では今日もケーキさんが部屋で叫んでいた





アリス:だ〜〜か〜〜らぁ!!!なぁんでこんな散らかるんですか!?ねぇ!!!なんで!!!あと今のナレーションみたいなのやめてくれます!?


アーサー:いいじゃないの今日はパレードだぞ〜


ドク:もう終わろうとしてるんだがな、そのパレードも


アリス:昨日の依頼後からずっと呑んでばっっかりじゃないですか!!ドクももっと言ってくださいよ!大体ね!昨日も言ったけど...


ドク:(被せ気味)おい!花火が上がってるぞ...!


アリス:えっ...あ、本当だ...きれい...


アーサー:見えるんだ...目無いのに


アリス:花火師さん、花火追加で!!!賞金稼ぎ一人打ち上げお願いします!!!


ドク:汚い花火が上がるでしょやめなさい


アーサー:おいこらどういう事だ撃つぞ


アーサー:...はぁ〜パレードももう終わりか〜


アリス:毎日ここでパレードレベルの量の酒呑んでるどっかの賞金稼ぎさんは関係ないでしょうけどね!!


アリス:でも、もう終わりなんですね...なんだか毎年街中が活気に溢れてるから終わるのが寂しくなっちゃいますね


ドク:...いいや、まだじゃないか?


アリス:...?


ドク:これからだよ。パレードは幕開けたばかりだ





<獄中、ワグナーの房>


ワグナー:......


ノア:...ワグナー。手紙だ


ワグナー:...手紙?僕に手紙を送ってくるような人はこの世にいないはずですが


ノア:ファンレターだそうだ


ワグナー:ファンレター...!?


ノア:置いておくぞ


ワグナー:...っ!!(手紙を開く)


ワグナー:......


ワグナー:(泣きながら)......ぐっ...ぅ...やっぱり...ヒーローじゃないですか...!





アーサーM:よ、ブタ箱生活はどうだ?元気にやってるか


アーサーM:手紙なんて送ったの久しいもんで、汚い字ですまん。一つ提案があってな、あんたの本、あのダサいタイトル!あれが駄目だと思うんだ俺は


ワグナーM:封筒には「賞金稼ぎ。アーサー。ファンレター」と書いてあるだけで、中身には慣れていないであろう褒め言葉の羅列と共に、一つ彼からの提案が書き記されていた


アーサー:そこで、俺が考えたタイトル案だ。しっかり償ってそこを出たら、タイトルをこれに変えてみるのはどうだろう


アーサー:「パルデンス・パレード」賢者達の行進だ















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ