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0話

所要時間:〜50分


比率:♂3 ♀1





エマ ♀:13歳。ヴァングレイド王国の姫。ある事をきっかけに、国王に投獄され囚われの日々を送る少女


エマM ♀:23歳。エマの十年後。語り。


アーサー ♂:23歳。ある日エマのもとに突然現れた賞金稼ぎ。クールで皮肉屋。


看守2 ♂:22歳。新人看守...?





役表


エマ・エマM:


アーサー:


看守2・ドク・囚人A:


ナレ・看守・囚人B・男:









ナレ:技術が発達し、異形の者や獣人が共存、魔力がエネルギーとして動力源になっているのが当たり前の世界

ある日、世界一の大国パルデンスの国王が暗殺された

暗殺者は、今までなんの脅威もなかった人狼

それ以降魔法が扱える者、異形の者、獣人など、魔力によって生まれた存在は悪魔の使者だと世界から迫害され隠れながら生きている


ナレ:これは、闇を背負った退廃した世界の片隅で囚われた、一人の少女の物語





エマ:人というのは、忘れていく生き物


エマ:遠い昔の事など、大人になれば忘却の彼方。そんな非情な生き物


エマ:私も過去、その非情な生き物に忘れ去られていたから分かる


エマ:ある日、そんな哀れな私に、自分もその”人”という生き物だった事を思い出させてくれる出来事があった


エマ:人として扱われていなかった私のもとに、ヒーローがやってきたのよ


エマ:あの一日の記憶は、これから先何があっても忘れることはない。この思い出だけは鮮烈で、私を非情な生き物にはさせてくれない


エマ:彼はとても物語で出てくるようなヒーローには見えなくて。記憶には、爆発音、鳴り響く銃声、彼の傷だらけの身体、彼が言った皮肉、彼の顔、それらがずっと焼き付いているわ


エマ:彼は...えぇ、彼の名前はアーサー...!私を救ってくれたヒーローであり


エマ:一流の賞金稼ぎよ...!





エマ:もう...10年くらい前になるかしら。あの頃の私は、人としての名前ではなく番号で呼ばれていた





看守:150番!!!!!!


エマ:...っ!!


看守:起きたか、早くしろ。自由時間は房を出て広場に行く決まりだ


エマ:...なにが自由時間よ。自由なんてどこにも無いくせに


看守:なにか言ったか、穢れた子


エマ:いいえ...なんでもないわ


看守:はっ!(つばを吐く)


エマ:なんでそんな事するの...!


看守:黙れ、貴様が穢れた子だからに決まっているだろう


エマ:私は普通の人間よ。あんさつ?をしたのは違う狼さんでしょ!?私じゃない!!


看守:黙れ!!同類だ!お前らのような穢れた生き物、こんな場所でなければタコ殴りにして道端に磔にしてるところだ


エマ:...どうしてそんなひどい事が言えるの


看守:あ?


エマ:あなたのような人の方がよっぽど穢れているわ!


看守:クソガキが...調子に乗るなよッ!(エマを打とうとする)


看守2:(被せ気味)先輩!今日からお世話になります!!


看守:...おぉ、新人か。(小声)新人看守に助けられたな、狼


エマ:......


看守:よし!まずここの案内してやるよ


看守2:了解です!あの子は...?


看守:あぁ、あいつか。あいつはああ見えて


看守:国一の大罪人なんだよ





エマM:当時私は、ヴァングレイド王国という小さな国の片田舎にある刑務所の地下牢で囚人として暮らしていた


エマM:といっても、なにか罪を犯したわけじゃなくて...そうだな。強いて言うなら、産まれたことが罪だった





エマ:......


看守:何をそんなまったり歩いている...!さっさと進め。殴られたいか


エマ:...ごめんなさい


看守:(舌打ち)のろまな狼め





エマM:ヴァングレイドの王子と姫の間に産まれた私は、産まれたその瞬間から次期王妃としての将来を約束されていた。良い教育を受け、国で一番の学校に通い、ダンスや歌を学んだりして、親からも愛されて順風満帆に暮らしていたわ。


エマ:でも...13歳となったある日、パルデンスであの国王暗殺事件が起こって...同時に父が忽然と姿を消し...その日母から、父が人狼だという事と、私にもその父の血が流れている事を聞かされたの


エマM:そして後日、失踪した父の隠し部屋から人間の肉を含む大量の捕食の”跡”が見つかって、私にその血があることがすぐにばれてしまった


エマM:ヴァングレイドは元々差別大国として有名で、パルデンスの国王が人狼によって暗殺されたあの事件以降さらに激化してしまった差別主義の前では為す術もなく、私を可愛がってくれていた叔父...国王に忌み子と言われ刑務所に投獄


エマM:そう、私の罪はこの世に産まれ落ちた事だった





エマ:......


エマ:...(小声)消えてなくなりたい


囚人A:なぁおい、あいつあの人狼の姫じゃねぇか...?


囚人B:うわまじだ...ヒヒッ...美人だし良い身体だなぁ、人狼とはいえ流石王族だぜ...


エマ:(貫くような眼光で囚人達を睨みつける)


囚人B:ひっ...!お、おい見るな見るな、喰われちまうよ


囚人A:そっ...そうだな...気味悪ィ


囚人A:薄汚い狼女め...


エマ:......桜...きれい


エマ:ママが好きだった桜...


エマ:帰りたいよ





エマM:囚人達に許された限りある、自由とは名ばかりの自由時間。少し聞き耳をたててみると、誰かが今日"新人"が来るだとか噂をしていた。今日は新人さんがたくさん来る日だなぁと思いつつ、その噂を耳に入れた直後だったわ、あの人の皮肉が少し遠くから聞こえたのは。


エマM:彼がやってきたのは、あの自然溢れる陽が差す監獄に、満開の桜が咲く時期だった





看守2:ようこそ、歓迎するよ薄汚い賞金稼ぎさん


アーサー:......その磨いてない歯と汚れた眼鏡を見る限りそちらの方が薄汚く見えるぞ看守殿?


看守2:(舌打ち)おとなしくしてろよ。ここでお前のような人間が騒動を起こせば平和なブタ箱暮らしを終えてお前は地獄への片道切符を手に入れる事となる


アーサー:言われなくても分かってる。こっちも厄介事を起こしたくてここにいる訳じゃねぇ


アーサー:お望み通りおとなしく罪を償ってるよ


看守2:ふん...今は自由時間中だ、お友達を作っておけよ?心細くないようにな


アーサー:はっ...ほっとけ





エマ:あの人傷だらけ...


アーサー:......?(遠くから見ているエマに気付く)


エマ:(小声)あ...!目あっちゃった...





エマM:彼は私に気付くと、その長身を起こしゆっくりとこちらに歩いてきた





エマ:えっえっ、なんでこっちに...!





エマM:目の前まで来ると、彼は表情一つ変えずゆっくり横に座り込んだ





エマ:......


アーサー:...君の名前は?


エマ:...え?


アーサー:...名前だよ。数字じゃない方


エマ:えっあ......エマ、です


アーサー:エマ、ね。覚えておくよ


エマ:あの...えっと...


アーサー:そんな怖い奴に見えるか?


エマ:え...はい...


アーサー:......子供の正直さは凶器だな...まぁ、このなりじゃ否定も出来ん


エマ:ごめんなさい...


アーサー:歳は?


エマ:13...


アーサー:その若さで投獄とはすげぇ。なにした?窃盗か


エマ:ものは盗んでない...!


アーサー:じゃあ、人狼だからってだけでか


エマ:え...!?


アーサー:ほう。噂には聞いてたが流石差別大国って感じだな


エマ:な...


アーサー:ん?


エマ:な、なんでその事を知ってるの...?


アーサー:さっき俺が看守としてた話聞こえてたろ


エマ:!?なんで...!


アーサー:やっぱり聞こえてたのか


エマ:は!?


アーサー:すまん、当てずっぽうだった。一か八かだったが、やっぱり君が人狼だったか


アーサー:本当はさっき君から逃げてきたであろう腰抜け達が君の話をしてたのを聞いた。で、その話の子はこっちを不思議そうに見てる君なんじゃないかってね


エマ:なんなのあなた...


アーサー:悪かった。人狼の聴力は

普通の人間よりもはるかに優れてるって噂は本当だったんだな...


エマ:突然話しかけてきたと思ったらなんなの!!他の人達みたいに私をからかいに来ただけならどっか別のところに行っててよ...!


アーサー:なんであの腰抜け共みたいな事しなきゃいけないのさ、そんなめんどくさい事しねぇよ


エマ:じゃあなに...


アーサー:君、ずっとこの桜の木の下で頭伏せて体操座りしてるだろ。花見してる訳じゃないだろうし、暇そうだったから話しかけに来た


エマ:え...それだけ...?


アーサー:そんだけ


エマ:そんな人いるの...?


アーサー:ここに


エマ:私人狼なのよ?


アーサー:あぁ、で?それが君に話しかけちゃいけない理由になるのか?


エマ:い、今までそんな人見たことなかったから、びっくりしてる


アーサー:俺はこの国の現状にびっくりしてるよ


エマ:今まではずっと...会う人皆、私が人狼と知るとすぐ離れていったから...罵声を浴びせたり、殴ったりしてきたから...


アーサー:今のところ、君を罵る理由も殴る理由もないんでな


エマ:理由があったら殴るの?


アーサー:よっぽどの理由があれば


エマ:怖い人ね


アーサー:はは、よく言われるよ


エマ:でも、わ、私と...話してたら、ほら今も...周りから変な目で見られるわ


アーサー:それが?


エマ:それが?って...嫌な気持ちになるでしょ...


アーサー:いいや、慣れてる。この仕事やってたら何度も経験するからな


エマ:どんなお仕事をしているの?


アーサー:...質問攻めだな


アーサー:賞金稼ぎだ


エマ:賞金稼ぎ...?


アーサー:そう


エマ:私知らない。どういうお仕事なの?


アーサー:あ〜...そうだな。同じ賞金稼ぎでもそれぞれ仕事内容が違ったりもするが、基本的には...人から、もしくは街の至るところに貼られた手配書の依頼を受けて特定の人間を見つけ出し、連れてきて、依頼主から報酬を貰うって感じの仕事だな


アーサー:俺を例として、半ばなんでも屋みたいな事をやるとこもある


エマ:そんな仕事があるのね。教わらなかったわ


アーサー:裏と表の間にあるような仕事だから、どこも教えないんだろうな


エマ:人の為にやってる事なのに、なんでそういう目を向けられるの...?


アーサー:さぁ。普通の人間が進まないような、道を外れた仕事だし依頼によっては人だって殺すような仕事だから、好かれちゃないんだろうな


エマ:人を...


アーサー:まぁ、どう見られようが構わんさ。俺は俺が楽しければそれでいい


エマ:なんでそんな危険な仕事を?なんで...そういう目を向けられても耐えていられるのか、分からない


アーサー:......耐えてる訳じゃない。最初から目の前から伸びていた道がこの、世に言う"普通"から外れた道だったから、前に進んだだけさ。周りに興味がないだけだよ


アーサー:俺含め、皆それぞれの道を進んでいるだけなんだ。残念ながら差別主義者だってそう、だから君も君の目の前にある道をただ進んでればいいんだよ。道を作ることだってできる


アーサー:他の奴の道を覗く事が出来ても、交わろうとしない限り他の奴の道に自分の道が交わる事はない。勝手に覗いて自分の道にいちゃもんつけてくるような奴等はほっときゃいい


エマ:貴方のように強くなりたい...


アーサー:なんで今強くなる必要があるんだよ、これから時間かけて強くなりゃいいんだ


エマ:でも、私にはもう道が無いのよ


看守:自由時間終了!!自由時間終了!!速やかに自分の房に戻れ!!


アーサー:おっと、時間みたいだな


アーサー:(立って伸びをしながら)まぁ...ここにいるうちは、無いだろうな道なんて





エマM:彼は囚人達の喧騒の中、舞い落ちてくる桜の花弁を身に受けながら私に背を向けた


エマM:そして微かに、こう言った





アーサー:...だから、俺が道を作る手伝いをしに来た


エマ:...え?今なんて


アーサー:さてと、自由時間は終わりだとさ。(あくびをしながら)ねっむ





エマM:これが、私にとって最後の自由時間となった





<その日の夜、房にて>


エマ:......


エマ:......あの...もう寝てる?


アーサー:...どした


エマ:あっごめんなさい起きてたのね...!


アーサー:あぁ、どっかの誰かさんと同じく起きてるよ。ここの壁薄いんだな...


エマ:こんな時間にごめんなさい。隣のお部屋だと知ってあなたに聞きたい事があって


アーサー:聞きたい事?


エマ:貴方の名前、聞いてなかったから...


アーサー:名前?知ってどうする


エマ:どうもしないわ、知りたいだけなの...私に向き合ってくれる人なんていなかったから


アーサー:知る必要ないよ、ただの囚人の名だ


エマ:ねぇお願い...!教えて...


アーサー:......


アーサー:......アーサー。


エマ:アーサー...!素敵なお名前ね!


アーサー:はははそりゃどうも。君こそ良い名前してる


エマ:本当...?うん、ありがとう。大好きな名前なの


エマ:ママが付けてくれた、大切な名前


アーサー:......


エマ:アーサー?


アーサー:いや、なんでもない。もう遅い時間だ、夜更しやめて寝たほうがいいぞ〜俺はもう寝る


エマ:待って!もう一つだけ、聞きたい


アーサー:ん?


エマ:自由時間の時言ってた言葉はどういう意味?


アーサー:......明日分かる


エマ:なんで今教えてくれないの...!


アーサー:ネタバレされるのは嫌いなんだ。だから俺もしないだけ


エマ:ねたばれ...?


アーサー:とにかく、もう寝な


エマ:う〜ん......分かった。おやすみなさい


アーサー:おやすみ


エマ:(少し間を開けて)あのね


アーサー:まだなにか用か?


エマ:ごめんなさい、少しお話したいだけなの。ここに来てから一人っきりじゃない夜は今日が初めてだから


アーサー:...気が済むまで話せばいい


エマ:...優しいのね


アーサー:君なりのジョークか?


エマ:違うわ、本気で思ってるの!


アーサー:(少し笑みを浮かべながら)はは!ありがとよ


エマ:もう...!


エマ:......昔からこの季節になると、満開に咲いた桜でいっぱいになる秘密の場所があってね


エマ:家族で毎年そこに行って、大きな桜の樹の下でお花見をしてたの。たくさんお話をして、たくさん笑って、綺麗だねって言い合って


エマ:パパはずっとお国の仕事で忙しかったしママは持病が悪化してもうずっとは動いてられなかったから、なんでもない時間だったけれど本当に、幸せだった


アーサー:......


エマ:ここに入る直前、ママと約束をしたの。ここを出たら、必ずまたあの桜の樹の下で笑おうねって


エマ:でも、今年はダメみたい。もう...約束守れないかも


エマ:あの頃みたいに笑うことも、もう出来ないや


アーサー:......


エマ:......


エマ:...ここから出たいよ


アーサー:あぁ


エマ:寂しい


アーサー:...あぁ


エマ:いなくなりたい


アーサー:......


エマ:ねぇアーサー?


アーサー:ん?


エマ:......ありがとう


アーサー:お礼を言われるような事はしてないよ


エマ:いいえ、した。希望をくれたわ


エマ:私ずっと、あの事件から今までずっと一人だったの


エマ:話しかけてくれる人なんていなかったわ


エマ:皆私を嫌ってて、人と思ってさえくれないのに、あなただけは人として私に向き合ってくれた


エマ:あの一本だけ生えてる桜の樹の下であなたと話してて、寂しくて暗い気持ちに少し陽が差したの


エマ:だから、ありがとう


エマ:突然でびっくりしたけれど、私に話しかけてくれてありがとう


エマ:おやすみなさい。アーサー


アーサー:......あぁ、また明日。エマ





エマM:次の日の朝、私は爆発音で目を覚ました


エマ:...!?今の何っ!?


アーサー:(いびきをかく)


エマ:ね、ねぇ!アーサー...!


アーサー:んが...ん...?


エマ:アーサー!!アーサー!!ねぇ起きて!


アーサー:壁越しに起こすやつがあるかよ...起きたよなんだ...


エマ:なんだって...聞こえたでしょ今の大きな音...!


アーサー:あぁ、始まったか


アーサー:...エマ


エマ:なに!?


アーサー:そこ、鍵が開いてる筈だ


エマ:え...あ!ほんとだ!なんで...?


アーサー:まずはこのきたねぇ牢から出るぞ〜


エマ:で、出るって見つかったらどうするの!?


アーサー:見つからないよ。ここの区画は俺達しかいないし担当の看守は一人だけだ


アーサー:で、そいつの心配はない


エマ:は、はぁ...


アーサー:よし...とりあえず二人とも出れたな


エマ:どうやったの...?魔法みたい...


アーサー:おう、大正解


エマ:えっ


アーサー:いいか、まず今から何秒か経ったら昨日俺と皮肉を言い合っていたここを担当する看守が来るが、わざわざまた皮肉を言いに来るわけじゃない。お、来たな


看守2:......よぉ、薄汚い賞金稼ぎさん、鍵は上手いこと解けてたみたいだな


アーサー:おかげさまでな。助かった


看守2:そりゃ良かった......ふぅ......


看守2:おいこらお前!!!(こめかみをぐりぐりする)


アーサー:あがっ...痛っってぇ痛てぇ!!


看守2:おい??誰の歯が磨いてないだ??誰の眼鏡が汚れてるだ???ちゃんと毎日磨いとるし眼鏡もちゃんと手入れしとるわおら!!


アーサー:痛い痛い!悪かった!悪かった!周りから疑われない為には必要だったんだ...!


看守2:にしても言い過ぎじゃないか!?あそこまで言わなくたっていいだろ!


エマ:あ、あの...?


アーサー:あぁ、説明が遅くなった。こいつは仲間だ


エマ:仲間って...どういう...


看守2:どうも、えぇと...エマちゃんだっけか?


エマ:え、はい...


ドク:はじめましてエマ!俺の事はドクって呼んでくれ


エマ:ドク...?


ドク:そう、ドクだ。以後お見知りおきを


アーサー:よし...自己紹介は済んだか、じゃあ進めるぞ


エマ:ちょ、ちょっと待って頭が追いつかない...!進めるって何を?


アーサー:昨日言ったろ?君の道を作る手伝いをする。脱獄するんだよ


エマ:脱獄って...どうやって?ここは国で一番の警備体制だっておじいちゃんが...


アーサー:こんな粗雑な警備で国一番?はっ笑えてくるな。計画はある...おとなしく言われた通りについてくれば無傷でここを出られるから、心配すんな


ドク:おい、誘拐犯みたいになってるぞアーサー


ドク:大丈夫だよ、お譲ちゃん。こう見えてもこいつはプロの賞金稼ぎですごく強いし...俺は新人看守じゃなくて錬金術師ってのをやってる、安心して付いてきて


アーサー:なにが”こう見えても”だこら


エマ:で、でも...あまりにも突然過ぎて怖い


アーサー:じゃあ、ここに残るか?ここにいるうちは君の道はないままだぞ


エマ:......


アーサー:これはチャンスだ、エマ。このチャンスを生かすも殺すも君次第、決めるのは俺達じゃない君だ


エマ:...


アーサー:どうする?強くなりたいんじゃなかったのか?


エマ:貴方達が、ここから連れ出してくれるの...?


アーサー:あぁ、連れ出そうじゃねぇか。突貫工事の道になるが、今よかましな筈だ

                           

エマ:...分かった!貴方達と一緒に行くわ


ドク:よし来た!早く進めるぞアーサー、あの子も待たせてる


エマ:まだ仲間がいるの? 


ドク:そう、あの爆発を仕組んだ恐ろしいケーキ頭ちゃんがな


エマ:ケーキ頭...!?


アーサー:そのケーキ頭さんに連絡しろ。で、二度目の爆発が起こったらスタートだ


ドク:はいよ。あ、エマ!


エマ:はいっ!?


ドク:遅れないようにね


エマ:わ、分かった!


ドク:(通信機を起動する)よし聞こえるかアリスちゃん、やってくれ


SE:大きな爆発音


エマ:っうわ、すごい音...!!


アーサー:よし行くぞ...!まずは一階に上がって武器庫へ、武器の奪還だ


エマ:人を殺すの?


アーサー:邪魔する奴がいたら撃つ。が殺しはしない、急所は外す


アーサー:人を殺しに来てる訳じゃない、俺の目的は2つある。君を救い出すのと、あとは


アーサー:”ここを”陥落させることだ





エマM:彼から聞かされた計画は、当時の若い私でも分かるほど、大胆不敵な内容だった


エマM:まず早朝、刑務所の看守寮と警報を爆破し増援を絶ち、刑務所内部の看守の数を減らし潜入していたドクの魔法で監獄内の房の全ての鍵を開けて囚人を解放する。ここまでは成功していた


エマM:そしてあとは最後に、監獄の制御室の管理権限を持つ看守長を見つけ出し刑務所の出口を開けさせて、囚人を一斉に脱出させその混乱に乗じて、私を連れ出す


エマM:そんな漫画や小説で見るような脱出劇が本当に成功するのかしらと思ったわ


エマM:でも...私の不安を背に彼は


エマM:最後のピースを嵌めようとしていた





看守:コード・レッド!!コード・レッド!!緊急事態...!!何者かによって看守寮、警報装置が爆破!!その上全ての牢の鍵が開き囚人が次々に脱走...!!


看守:くそったれどうなってやがる...看守寮の入り口が瓦礫で塞がってて増援の要請もできん...あのデブ所長に報告しなくちゃならねぇじゃねえか


ドク:先輩!無事ですか...!!


看守:あ?あぁ新人か。さっさとあの檻から飛び出したクソ共を制圧してこい


アーサー:(被せ気味)よう、その”クソ”だ。クソに後ろから銃を突きつけられる気分どうだ?


看守:っ!!お前...昨日入ってきた賞金稼ぎか...


アーサー:お、覚えてくれてたか。嬉しいねぇ


ドク:いや〜ここの武器庫えらい高価な武器あったな。国直営ってだけあってさすがの品揃えだ


看守:新人!!モグラだったのかてめぇ...!


ドク:あぁすみませんね先輩。ところで、クソを制圧してこいとの命令でしたがあんたを制圧すればいいんですか?


看守:くそが......!!


エマ:......ねぇアーサー


アーサー:ん?


エマ:その銃貸して


アーサー:リボルバーだぞ。反動で吹き飛んでも知らないからな


エマ:いいの、この人には散々な目に遭わされたから


看守:は...はっ!銃の撃ち方すら知らないガキが調子乗ってんじゃ...



SE:銃声



看守:がっぐ...ぁ...ぁあ撃ちやがったなくそぉ!!クソクソ!!


エマ:私の事を舐めないで


ドク:すげぇ。正確に脚撃ち抜いたよこの子


エマ:返す


アーサー:お、おう...


看守:がっ...てめぇ何が目的だ


アーサー:あんたが知る必要はない。ところで、協力して欲しい事があるんだ看守さん


看守:応じなかったらどうなる


アーサー:あんたの頭に風穴が空く


看守:俺に出来ることなんてねぇよ...俺はただの看守だぞ!


アーサー:いや、あんたにしか出来ないことがあるぞ。それにあんたは看守長の筈、ただの看守じゃない


看守:なんでそれを!?


アーサー:俺はお前の事をな〜んでも知ってる、リサーチ済みだ...返答によってはあんたの愛しのママに会いに行って銃弾をプレゼントしてやってもいい


看守:やめろママに手を出すな!!


アーサー:じゃ協力しろ


看守:...何をすればいい


アーサー:......あんたには、最後の大仕事を担ってもらう


看守:なんだよ大仕事って


アーサー:この刑務所の看守用通路をあけ、囚人達を全員残らず解放しろ


看守:は!?無理だそんなの俺が所長に殺されちまう


アーサー:いいや出来る。囚人達の逃走用に用意してある大きな荷馬車があるんだ...やってくれるなら、その中に突っ込んであんたを逃してやれるぞ


アーサー:まぁ断れば、二度と愛しのママに会えなくなるだけだな


看守:分かったよ!!やればいいんだろやれば!!


エマ:うわ必死だ...気持ち悪い


ドク:おいやめたげろ。子供の純粋な悪意は何よりも刺さる


アーサー:よし決まりだ。じゃ、早速始めるぞ


アーサー:ドク、作戦通りだ。通路が開いたらエマを連れ出してくれ


ドク:了解


エマ:アーサーは一緒に来ないの?


アーサー:俺はまだやる事があるから、先に行っててくれ


エマ:...うん、分かった





エマM:あの時、あの監獄を出る直前、私の中で封じていた疑問の数々が一挙に駆け巡っていたのを覚えてる


エマM:何故アーサー達が突然現れて、私を監獄から連れ出してくれるのか。ただの親切だとは思わなかったし、アーサーの素性を知ってきっと誰かが依頼したんだと察しはついていた


エマM:でも、私の周りに私を助けてくれるような人間なんて一人しかいない


エマM:私の、お母さんしか





エマ:ねぇ、ドク


ドク:大丈夫だエマ!もうすぐで出れるぞ


エマ:違うの、そうじゃなくて...!


ドク:ん?なんだどうした


エマ:なんで...私を助けてくれるの?ここから出してくれるのは嬉しいけど、このまま理由も知らずにただ助けられたんじゃもやもやしたまま...!アーサーは教えてくれなかったし...


ドク:あいつ、話さなかったのか。らしいといえばらしいな


エマ:依頼、なんでしょう?ただの親切にしては大掛かり過ぎるもの


エマ:でも、誰が依頼したのかは分からない...


ドク:......


エマ:......ママ...なの?


エマ:ママが依頼したのね!?


ドク:...お母さんは心から君を愛していたよ。この国以上に


エマ:やっぱりそうだったんだ...!ママ...


ドク:...君はこの囚人共と一緒には行かない。ある場所に連れていくって君のお母さんと約束したんだ


エマ:ある場所?


ドク:そう。それにあたってエマちゃんには俺の特製の馬に乗ってもらおうと思う!お、見えてきたぞあれだ


エマ:と、特製の...馬...?


ドク:そう、俺が作った機械馬さ!言ったろ、錬金術師だって。あ、「一流の」忘れてた!さぁ行くぞ、こいつ走りたくてうずうずしてるんだ





エマM:脱獄は成功。その時はまだ夢を見てるようだった。


エマM:漫画みたいな作戦を突然持ちかけられて、藁にも縋る思いで彼等について行ってあの地獄のような所から抜け出せて...そして、機械の馬に乗せてもらって田舎道を走り抜けて


エマM:未だに夢だったんじゃないかって思う時があるわ!あの時間、世界が自分を人間であると認めてくれているように感じたの...!


エマM:本当に、楽しかった。ふふ!あんな体験して、怖かった...じゃなくて楽しかったって感想が出ちゃうんだから不思議よね


エマM:...ドクの馬に乗って、私は思い出の場所に着いた





ドク:さぁ、着いたよエマちゃん


エマ:ここって...


ドク:君はよく知ってるだろ?


エマ:なんで、私をここに...?


ドク:依頼が成功したらここに君を連れてこいと頼まれたんだ。ここが君にとってどんな場所かは分からないけど、きっと大切な場所なんだろ?確か、私とエマの...


エマ:秘密の場所


ドク:そう!そう言ってた。にしてもここは桜が綺麗だな...今まで色んなとこ行ったけどここまで綺麗に咲き乱れてるところ初めて来たよ...


エマ:ママ...


ドク:あの樹の下の手紙入った瓶があるだろ?お母さんからだ


エマ:ママは来てないの...?


ドク:...いや、ここにいるよ。ほら!手紙、見といで!


エマ:うん...!





エマ:......これって...





エマM:瓶には、母さんからの手紙と母さんがいつも着けてたネックレスが入っててね


エマM:ん?あるわよ。確か...この辺に...あった


エマM:よし...じゃあ読むわね


エマM:「エマ、愛しのエマ。あなたがこの手紙を読んでいるという事は、成功したのね...彼に頼んで良かった。ママね?あなたが行ってしまった日から、毎日泣いて、泣いて、きっと一生分の涙を流したわ。あなたを失った悲しみと、何も出来ない自分が情けなくて...」


エマM:「でも、そんな時風の噂でアーサーさんの事を知ったの。彼なら、あなたを救ってくれると信じて...彼に託した。心から、信じて良かった」


エマM:「私を許してエマ...こんなお母さんでごめんね。あなたは本当に強い子よエマ。沢山ママに似てるところがあるけど、その強さだけは私とは大違いね」


エマM:っ...ごめんなさいっ...思い出しちゃって...続きを読むわ


エマM:「約束、守れなくてごめんね。本当は...





エマ:「本当は...今ここであなたを抱きしめてる筈だった。寂しかったよね、辛かったよね、辛い思いさせてごめんね」


エマ:「私は、もう」


エマ:......え


エマ:そんな...うそ...ママ...


エマ:...っ!!(走り出す)





<街の外れ>


アーサー:......


ドク:よ、終わったか


アーサー:あぁ、あの間抜けな看守に場所を吐かせてしっかりかっさらって、さっき記者に渡した。そっちは?


ドク:しっかり送り届けたよ。お前言わなかったんだな、あの子の母親が亡くなったこと


アーサー:(タバコを吸う)...頼まれたからな、言わないでくれって。それを守っただけだよ


ドク:あの子どうするんだろうな


アーサー:道を作る手助けはしたんだ。ここから先をどんな道にするかはあの子次第さ


ドク:...そうだな


エマ:はぁっ!はぁっ...!アーサー!!


ドク:エマちゃん...!


アーサー:......来たか


エマ:っ...!なんで言わなかったの!!


エマ:ママがもうこの世にいないって、なんで言ってくれなかったの...


アーサー:言えばなにか変わったのか?知ってあの監獄でずっと悲しみに浸ってたかったか


エマ:......でも、やだよ、こんなのってないよ


アーサー:君のお母さんは、最後の最後まで君の事だけを思ってた。強い人だったよ


エマ:だったら、私はママに似なかったんだ。あの監獄を出ても私は弱いままだ!!


アーサー:いいやそんな事はない。お母さんの事を知って、ただ悲しむんじゃなくてここまで走ってきたじゃねぇか


エマ:私...これからどうすればいいの


アーサー:君が決めることだ。俺はただの賞金稼ぎだ、決める資格はないよ


エマ:違う...!あなたはただの賞金稼ぎなんかじゃない!私にとってあなたはヒーローよ...!!


アーサー:依頼を遂げただけさ


エマ:じゃあ、自由時間にあなたがくれた言葉も全部嘘なの...?


アーサー:...らしくないことはするもんじゃねぇな


エマ:っ!!ここにもう私のいる場所はない!!ここでただ悲しんでるぐらいなら...!


エマ:私も!!アーサーのような賞金稼ぎにしてっ!!


ドク:...どうするんだ?熱烈な弟子希望だぞ


アーサー:......


エマ:......


アーサー:...エマ、顔上げな


エマ:...!?...ち、ちか...い


アーサー:いいか?目の前にあるこの顔をよく覚えておけ。いつか君が、今の俺と同じぐらい大人になった時にもし俺を見つけて、俺の名が変わってたとしても俺だと分かるようにな


エマ:......うん


アーサー:人間はすこぶる非情な生き物だから、大人になって忘れちまうかもしれねぇけど


エマ:ううん、絶対に忘れない...!!今日の事だけは、なにがあっても


アーサー:(少し微笑んで)君が来た時に、俺の顔が老けきってなかったらいいんだが


アーサー:行くぞ、ドク


ドク:おう。”またね”エマちゃん


エマ:またね......私のヒーローさん達





エマM:「エマ、あなたを愛してる。この国よりも、何よりも」


エマM:私はその一文で締めくくられた手紙を握りしめて、舞い落ちる桜の花弁を身に受けていた





エマM:本当に漫画みたいな話でしょ?...うん、そう、真実よ


エマM:あの日は一日が過ぎるのがあっという間だった


エマM:あとから調べて知ったんだけど、あの監獄から私を逃がすため囚人を全員脱出させたのは、お母さんの指示らしくてね...あの監獄は国王であるおじいちゃんが造ったもので、元々お母さんはおじいちゃんの国政をよく思ってなかったから、国民からの信頼と他国からの信頼を同時に失墜させて尚且つ私を出す為に、その手段をとったみたい


エマM:でも解放された囚人達は世に放たれた訳じゃなく、あの後月一の国境大規模検問に引っかかって皆捕まったの!びっくりよね...!きっとアーサーの事だから始めから分かっててやったんだと思う


エマM:それと、私が出る前アーサーが残ってやってた事も後々分かったの。監獄の地下にあそこの所長が隠してた日記があるって噂があったんだけど、それを見つけ出してた。

そこには今まで所長がやった汚職の数々が記されてて、いつの間にかマスコミに流されてたわ


エマM:あっという間に情報は広がって、囚人が解放された事もあり世間からのヴァングレイド政府への信頼は底まで落ちた


エマM:お母さんは本当に賢い人だった...それに、最後まで完璧に依頼をこなしたアーサー達も


エマM:どうだった?私が彼に会った時の思い出話


男:えぇ、とても良いお話が聞けました


エマM:取材なんて受けた事なかったから、上手く話せてたかしら...


男:いやいや、とてもお上手でした...!


エマM:ありがとう。にしても珍しいわね、このご時世に一人の賞金稼ぎの事を知りたい〜だなんて


男:そうでしょうか。僕は寧ろ、今は彼の事しか興味はありませんね


エマM:貴方もしかしてそっちの方の人...?


男:違います!!違いますから!!


エマM:あ、そういえば、結局なんでアーサーの事を聞いたか教えてもらってない


男:...憧れの人の事を知りたかっただけですよ


エマM:う〜ん...なんだろ、何か嫌な匂いがするわね貴方


男:え!?匂いますか!?


エマM:いや!そういう事じゃなくて...まぁいっか


男:良かった...では、僕はここらでお暇します


エマM:うん!初めて人にこの話が出来て、嬉しかった。ありがとう


男:お礼を言うのは僕の方です...!お仕事でお忙しい中、本当にありがとうございました


エマM:いいの。次の依頼の決行はまだだしね...!


エマM:そうだ......もし彼に会うなら、気をつけなね


男:......


エマM:貴方の憧れの人...舐めてたら、きっと痛い目見るだけじゃすまないだろうから


男:ご忠告ありがとうございます。さようなら、エマさん





エマM:......気をつけてね、アーサー


エマM:貴方が作ってくれたこの道真っ直ぐ歩いてそっちに行くから


エマM:生きていてね


エマM:ん...?電話だ


エマM:はい...えぇ、そう。私がエマ・ロペス


エマM:賞金稼ぎよ












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