第八話 不可思議な日常故に
落ちると降りるの違い
放課後、ダンスの練習を続けて二週間ほどが経った。芽亜ちゃんや幸ちゃんは相変わらず屋上から飛び降りてジュースを買いに行ってる。楓も同じく、何のためらいもなく屋上から飛び降りて飲み物を買いに行ってる。私からすれば日常だったけど、有彩は今も変わらずパニックに陥ってる。
「おかしいって! いや、私がおかしいのかな? 私も行ってくる!」
「ダメだって! 死んじゃうよ!!」
屋上から飛び降りようとする有彩の腕を必死に掴んで止めた。本気で飛び降りようとするからびっくりした。
「ダメだよ! 屋上から飛び降りたら死んじゃうよ!」
「そうだよね! 死んじゃうよね!」
「お待たせ~! 練習の続きしよっか!」
屋上に戻ってきた幸ちゃんと芽亜ちゃんを見て混乱しながら頭を抱えている。何がそこまで混乱する要因なのか分からない。
「死んでないよねっ!? それどころか戻ってきてるよね!? やっぱり私がおかしいんだ!」
「ダメだって!! 死んじゃうっ! 死んじゃうからっ!! 文化祭出れなくなるよ!? お葬式に出る羽目になるよ!!」
有彩って結構力があるから本気で止めなきゃ飛び降りてしまう。それを見て幸ちゃんたちはお腹を抱えて笑ってる。笑ってる暇があるなら助けて欲しい。
「あっ! 青原先生! 天野先生もっ! 止めるの手伝って!」
偶然にも屋上の奥の方でイチャイチャしてる先生たちを見つけて助けを求めた。先生たちは無言で微笑んで校内に戻って行った。あの先生たちは後で痛い目に遭ってもらおう。
「もうっ! 行ってくる!!」
「あっ!?」
屋上から躊躇もなく飛び降りた有彩。なぜあそこまで躊躇いもなく飛び降りれるのか。
「もうっ! 楓っ!」
「はい?」
「助けに行って!!」
間一髪のところで楓が助けてくれたから大事にはならなかった。いくらパニックになってるからって屋上から飛び降りる馬鹿がどこに居るんだ。
「危ないじゃん! 何やってるの!?」
「ごめんなさい……」
正座をさせてひたすらお説教をした。
「屋上から落ちたら死ぬんだよっ!? 分かってるっ!?」
「でも……芽亜ちゃんたちだって……」
「芽亜ちゃんたちは落ちてるんじゃなくて降りてるの! 有彩は落ちてるの! 違いはそこっ!!」
楓が居てくれて助かった。もし居なかったら有彩は地面に叩きつけられて……想像するのも嫌だ。
「まぁまぁ、ボクたちはボクたちだし。みんな違ってみんな良いじゃん」
「いや、個性の限度超えてるからね」
有彩が落ち着くまで練習出来そうにないし、しばらくは休憩時間にしよう。この調子で文化祭大丈夫かな? まだ時間あるから大丈夫だろうけど。
「あ、間違えた」
「え?」
屋上の隅に居る女の子と目が合った。さっきまで誰も居なかったはずなんだけど。いつから居たんだろう? ていうか本当に誰も居なかったのに。怖っ!?
「誰っ!?」
「柊 楓です。お見知りおきを」
なんか不思議な感じがする。外見的にも雰囲気的にも不思議な子だ。しかもオッドアイだ。カラコン入れてるのかな?
「カラコンじゃないですよ? 目の手術で色が変わっちゃったんですよ」
「そうなんだ……え? 何も言ってなかったよね?」
一言も話してないのに、心を読まれたみたいだった。普通に怖い。誰も居なかったところから急に出て来たり、心を読まれたり。もしかしてお化け?
「あ! 先輩方!」
芽亜ちゃんたちの知り合いだったんだ。じゃあさっきのことも特におかしくはないんだ。
「え? どこかで会ったっけ?」
「あ、そうでしたね。『今は』まだ初めましての段階ですね。失礼しました」
よく考えたらこの子、この季節なのに冬服じゃん。マフラーに手袋もしてるし。冷え性だとしてもやり過ぎなくらいだ。