第四話 好きが溢れてしまったら
好きで好きで大好きでどうしようもないくらいに大好きで
楓が本気で怒るのはいつだって私の為。私は楓が幸せになって欲しいって何回も言ってるのに、私の幸せが楓の幸せとか言うから本気だって真剣に伝えた。そしたら楓は私の目を真っ直ぐに見つめて言った。
「僕は本気だ。星月が幸せなら僕も幸せだ。星月が笑って居てくれるから僕は何でも出来るんだ」
夕焼け空と部活をしている生徒の大きな声。まるで私の心をまっすぐ見つめているような楓の瞳。一緒に並んで帰る。それだけのことでも私は嬉しいし幸せだ。楓からすればただのお仕事なんだろうけど、それが分かっていたとしても一緒に居られる時間は何にも代えがたいほどに大事で、この時間が永遠に続けば良いのにって本気で願う。
「決めた」
「何を?」
「楓! もう待てないから言うね!」
大きく息を吸って人目も気にせず大きな声で叫んだ。
「私の特別になってくださいっ!」
分かりやすく恥ずかしそうに顔を真っ赤に染める楓。そしてすぐに慌てたように私の手を引いて走り出した。
「場所を考えろ!」
「ごめんっ! 気持ちが爆発しちゃった!」
笑いながら楓の横顔を見ると、頬にキラキラと光る一筋の雫が滴っていた。そんな楓を見ると余計に笑いが込み上げてきて止まらなかった。
「なんで泣いてるの?」
「泣いてねえよ!」
「泣かないでよ!」
「中学の時から本気で好きで、大好きで大好きで堪らなく大好きな人にそんなこと言われたら泣くに決まってるだろ! さっきは我慢出来たのに何回も言うからっ!!」
そんな感情が極まった言い方をされるとこっちまでつられて泣きそうになる。
「楓! 大好きだよっ!」
「僕は言わないからな。いつの日か僕から告白してやる。星月を世界一幸せなアイドルにしてやれる日が来たら僕から言ってやる!」
そんな真っ直ぐに言われると恥ずかしくなる。ここで照れてしまったら負けた気がするから平然を装って茶化す。
「出来るの?」
「僕は何でも出来る。好きな人の為なら。」
眩しいくらいの満面の笑みと宝石みたいに輝く雫は私の心を鷲摑みするには充分過ぎるくらいだった。どこまで楓のことを好きになるんだろう。今までも大好きだったけど、今の方が好き。どこまでも落ちて行くような感情。だから恋って『落ちる』ものなのか。
どうしよう……楓の目を真っ直ぐに見れない。これは私の負けだ。何かの本で読んだことがあるけど、こう言うのは好きになった方が負けなんだって。その理論じゃ楓に勝てるはずだけど、今回は私の負けで良いや。恋に落ちる感覚。どこまでも限りなく好きになって行く。
「ほら、早く行くぞ!」
「うん!」
楓の目を見れないのは夕陽が眩しいから。そうじゃないと私が一方的に好きになってるみたいだし。