第二話 始まりは君の声
その声は勇気をくれた。その声は私の夢を叶えてくれた。
楓、私のプロデューサーと出逢ったのは中学の頃。アイドルとしてまだまだだった私はクラスのみんなから馬鹿にされていた。いくら事務所に入っていても活動してなきゃ居ても居なくても一緒だもん。当たり前のことだから仕方ない。出来るはずのない無謀なことを全力でしているんだもん。誰だってそんな人を見たら馬鹿にせずにはいられない。でも、私は桜ちゃんの応援があるって希望の方が遥かに強かった。そんな私が楓をプロデューサーとして誘おうと決意する出来事があった。
「プロのアイドル目指してるんだって? お前なんかがなれる訳ないだろ」
「そんなバカみたいな夢目指す馬鹿って本当に居るんだな」
いつも通り。何も変わらない日常に鳴り響きく衝撃音。その時、私は楓の存在を誰よりも色濃く認識することになる。
机を勢いよく蹴り倒して楓が立ち上がった。いつも本ばかり読んで無口だからクラスの人たちは楓に話しかけようとすらしなかった。そんな楓が急にそんなことするから驚いて声も出なかった。
「僕が保証する。星月がプロのアイドルになるって僕が保証する。文句のあるやつは今すぐかかって来い。お前らを殴ってでも叫んでやる」
楓は私の目を真っ直ぐに見つめて笑ってくれた。アイドルとしての目標なんて知らないはずなのに。一番にアイドルとして見てくれたのは楓だった。
「自分で何言ってるか分かってんの? 夢原みたいなやつが俺らに勝てるとでも思ってんの?」
「僕は何でも出来る。星月を日本一のアイドルにすることも、お前らを殴り倒すことも。僕に出来ないことは無い」
その発言に腹を立てた男子が複数人で殴り掛かって行ったけど、誰一人として楓に膝を付かせることが出来なかった。私よりも身長低いくせに、私より地味なくせに。誰よりもカッコ良くて輝いて見えた。
「人よりも人を思う気持ちが強い僕にとっては簡単すぎるよ」
表情一つ変えずに呟くように言った楓は私の前で跪いて真っ直ぐに私の目を見て言ってくれた。
「僕なら君を日本一のアイドルに出来る。絶対出来るから一緒に居ても良いですか?」
「……うんっ!」
その日から私たちは一緒にお昼を食べたりしながら色々話した。プロになるなんて程遠い私の現状や、楓としての考え方。事務所に楓の話をすると当然反対されたけど、それでも頭を下げ続けた結果、私のプロデューサーになった。でも、プロデューサーになるってことは学校もままならないって事で、やっぱりやめた方が良いんじゃないかって楓に話したら、
「勉強は一人で出来るから」
なんて笑いながら話してくれた。どうして楓がここまでしてくれるのか分からないけど、今の私がみんなを笑顔に出来るアイドルになれたのは楓のおかげだ。今じゃ日本一だなんて評判が立ってるけど、それもこれも楓が日本一のプロデューサーだったから。
「パソコンのお勉強もするの? どうして?」
「いつかきっと星月の役に立つ日が来るから」
「ねぇ、輝夜って呼んでよ」
「………また今度ね」
参考書を真剣に読みながらパソコンを触り続ける楓。その次は全国の高校紹介の分厚い本を二十冊くらいパソコンに打ち込んでいた。それは何をしてるのか尋ねると、
「星月のわがままをいつでも叶えられるようにしてるんだ」
「どうしてそこまでしてくれるの?」
「それは、す……自己満足だよ」
そう言いながらノートパソコンに高校の名前と住所と名簿を一つずつ打ち込む変えの真剣さに、私も頑張ろうって感化されたのは別の話。
そこまでしてくれて惚れない女の子はどこにも居ない。あの日、私を庇ってくれた時から少しずつ芽生えた感情は、今じゃ大きな大木になっちゃった。
「楓、好きな人とかいるの?」
「居るよ」
思わぬ即答に心が張り裂けそうになった。
「隣に座ってるアイドルなんだけどね」
思わぬ返答に胸が爆発しそうになった。一瞬聞き間違いかと思ったけど、そんなはずもなく真っ赤に染まった頬を両手で隠すことが精一杯だった。そんな私の反応を見た楓は今まで見たことが無い表情をしていた。楓でも恥ずかしがることってあるんだ。初めて見せてくれた表情。すごく嬉しかった。