嫌な予感!?
ゴブリンに転生してから数日が経った。
身の回りのお世話をしながらエリス様に魔法の指導を受けていた。
因みに様付けをしているのは使い魔だからだ。
最初はご主人様と呼んでいたが恥ずかしいからエリス様にして欲しいとの事だ。
周りが王族だらけなので基本的に敬語で喋る事にもなった。
なった、って言うより汚い言葉遣いで癪に障るといけないから俺から変えた。
豪に入れば郷に従えってね。
「火の精霊よ我に炎を」
そして今は城にある中庭で火属性の魔法を学んでいる。
火が他の属性に比べて簡単だとか。
俺の出す火は、アルコールランプくらいには熱くなることが出来た。
肉は焼けそうだ。
「うん、ゴブ太郎良い感じです。これなら他の属性も教えても良さそうですね」
「ほんとですか!? ありがとうございますエリス様!」
魔法の指導を始めて一週間だ。
ゴブリンの体だからか才能なのか分からないが習得が早いらしい。
「次は何の属性を練習したいですか?」
エリスは聞いてくるがそもそもどんな属性があるんだ?
いきなり言われても分からないぞ。
「魔法ってどんな属性があるんですか?」
「すいません記憶喪失でしたね。魔法は、火・水・風・土の基本四属性。光・闇の相反する二属性の六属性です」
多いな?
でも一番最初に覚えたい属性があるのを思い出した。
「空を飛べるように風属性を覚えたいです!」
この前脱臼しかけたからな。
一人で飛べるようになっておきたい。
「空をですね。分かりました」
「ありがとうございます!」
火属性の魔法を覚えた要領で風属性の魔法も練習していく。
次は三日掛けて習得した。
まだ長距離を飛ぶには自信が無いが、この前の鍾乳洞までなら一度も休まず飛んで行けるようにはなった。
その次は水属性を覚え、土属性を覚え、闇、光と全属性を覚えた。
一ヶ月掛けて全ての属性を使えるようになった。
「驚いたわね。まさか全属性使えるようになるなんて」
頑張れば全属性使えるようになるらしいが、ここまで早く覚えた人は居ないらしい。
まぁ人じゃないからな今は。
ある日の事、エリスは国王に呼ばれて王室へと向かった。
もちろん使い魔である俺も同行している。
「おと……国王様、お呼びでしょうか?」
今日は側近もいるので国王と呼んでいるみたいだ。
「よくぞ参った、エリスよ。お前を呼んだのは他でもない。今回は隣の王国に外交に向かって欲しいのじゃ」
国王がエリスにお願いをしている。
外交? この世界でもそんな事があるんだな。
「分かりました国王様。してどちらの国でしょうか?」
「レヌイルフじゃ」
「レヌイルフと言うと北にある雪国ですね。承りました」
異世界でも北が寒いんだな。
「出立は明日、儂の側近も外交に当たらせるから何かあったら頼ってくれ」
「ありがとうございます。では、失礼します」
俺とエリスは国王にお辞儀をしてその場を去る。
エリスの部屋に戻ってくる。
「レヌイルフってどんな所なんですか?」
「雪国って言うのはさっき聞いたわね? 一年中雪で覆われていてお酒が美味しいの」
一年中雪って事はロシアみたいなもんか?
確かにあそこもお酒が美味しいって聞いた気がする。
寒い地方だとみんなそうなのかもな。
「それは楽しみですね!」
ゴブリンってお酒飲めるのか分からないけど飲めるなら飲んでみたい。
「そうね……」
エリスはどこか元気がない。
「エリス様、どうなされましたか?」
「ううん、何故か分からないけど嫌な予感がしてね」
「嫌な予感?」
「お父様は外交と仰っていたけど、私も二十歳になった事だし、婚約を進めようとしてるのだと思うわ」
初めてエリスから聞いたがレヌイルフに許嫁が居るらしい。
エリスは乗り気じゃないので断り続けているようだが、両国王の親は国家拡大の為に関係を築きたいのだとか。
後エリスの父親は大のお酒好きだそうで、良好な関係を続けてくれるなら脾臓のお酒を分けてあげると言われているそうだ。
「来て?」
エリスがベットに俺を呼んでいる。寝る時はいつも別々で寝ているので珍しい。
「いいんですか?」
「もちろん、あなたは私の使い魔よ」
ツルツルとしたタオルケットを広げて俺が来るのを待っている。
では、失礼して。
はぁ、暖かい。人に触れたのは久しぶりだ。
気付けば俺とエリスは抱き合って眠ってしまっていた。
幸せがこのまま続けば良いと願う。