何処に行くの
激しい振動が収まったと思うと、ズッ!ズズ!・・・
ガッ!ガガガガガ〜〜〜ッ!と、激しい振動と音と共に、その船体を半分以上も大量の土砂の中に埋もれさせていた空船が、長い年月を経て再び動き始める。
「もっ、もしかして・・・ おっ、俺がこの空船の所有者って事で良いんだよな?!・・・ なっ!?」
基本的にと言うか?原則的に、サードが住む、このナナシャ王国では、空船を稼働させる事が出来た者が、男性だろうが女性だろうが、亜人だろうが老若男女関係無く、ごの権利が認められる。
一度その空船に所有者として認められれば、その空船は、その所有者の指示しか受け付けないし、その所有者が死亡してしまった場合、その空船は活動を停止して再び眠りにつく、故に、空船の主人と認められた場合、その者は例外なく王家直轄の運輸ギルドの会員となり、王家の庇護を受ける事となる。
空船の有用性を考えれば当然の事だと思う。
空船を運用出来るが故に、王国もこの広大な領土を維持出来るのだ、王都から一番近い第1副都市まででも、馬車を使って最短で10日、道中の天候が悪かったりすればそれ以上掛かるし、空船の山賊や盗賊達に襲われる心配もあるが、空船の心配も無く2〜3日もあれば着く、ただ、空船を悪用した空賊や野生のワイバーンに襲われる心配もあるが、その為に王家が直轄して運用している運輸ギルドが存在する。
運輸ギルドが空賊やワイバーンの出現情報を会員に提供すると共に、率先して討伐し、王国内の空の安全を図っている。
それに、運輸ギルドが王家の直轄なのにも理由がある。
その王国が保有する空船の数=その王国の力と言える。
空船のタイプにも色々とは有るが、どの王国でも基本的に、50m級/100m級/400m級/800m級と、4クラスに分類されているが、同じクラスの空船でも、大量の物資のを搬送する事が出来る貨物船タイプ、戦闘を得意とする戦艦タイプ、土木作業等を得意とする作業船タイプ、工業系を得意とする工廠船、医療系の病院船と様々で、その王国が保有する空船のタイプの船種で、国家間の力関係にも大きな影響を及ぼすからだ、そんな空船を偶然にも手に入れたサードはと云うと、喜びのあまりに全裸のまま空船の甲板上に出ていたが、もう眼下にはサードが活動の拠点としている街が見えて来た事と、空の上が思った以上に寒かった事で我を取戻し、装備と服と荷物を回収して来た頃には、既に街の上空を通過した後だった。
そして、何となく気になる事はあったが・・・
「あれ? この空船って誰がどうやって操ってるんだ?・・・ でもどうにかなるか? 今までに空船を手に入れた人達もどうにかなったんだろうし、そう言えば・・・昔、元侯爵様の爺さんと空船で旅をした時に出会った。空船を手に入れた人が『いや〜 あの時は驚きました。偶然発見した空船が突然動き出した!と思ったら、今度は何もしないのに空船が第2副都市に向かって飛んで、自分で勝手にターミナルへ横付けするんですから・・・』と、爺さんが食事の席に誘われた時に話してたよな〜 多分、この空船が向かってる先は第3副都市のターミナルだよなぁ〜」と、本来なら馬車に乗って大きな山を迂回し、山を越えて谷を越え、川を渡って移動して7日前後も要する距離を、この空船は、僅か小1時間で山も谷も川も一直線に飛び越え、直径約2Kmに及ぶ巨大なターミナルが微かに見えて来るのを、割と暢気に構えながら眺めていた。
サードが乗る空船が、第3副都市を囲む外壁に近付いた頃、ターミナルから一隻の50m級の空船が飛んできた。
「よう!おめでとう! 私は第3副都市警護隊所属のルカだ、少し君の話しを聞かせて貰いたいが良いかな?」
「はい、構いません。」
「では、少し失礼して君の空船に乗船させて頂く」とピッタリと横付けされていた50m級から、上半身を乗り出して声を掛けて来た警護隊員が、ヒラリとサードが居る場所に飛び降りて来た。
「おめでとう!」
「あっ、ありがとうございます。」
「では、改めて自己紹介をしよう。私はナナシャ王国軍 第3艦隊 1番艦 警護部隊 第1中隊所属 中隊長のルカ・フォン・アルジャ、ああ、私の名前にフォンが付いてるからって、別に私に対して敬う態度を取らなくても良いぞ! 私が偉い訳では無い、私の祖先が偉い人だったと言うだけで、私自身は貴族の四男坊で30歳目前なのに、未だに独身の一人寡だしな! アッハッハ! で、君には独身の姉さんか?従姉妹は居るかい?・・・ まあ冗談は置いておくとして・・・ 先ずは君の名前と出身地と職業を教えて貰えるかな? 職業は観た所・・・ 冒険者の様だね? 」と、高身長で、鍛えられて引き締まった身体をしたイケメンが降りて来た。
「はい、ゴーダの街でDクラス冒険者として活動している。サードです。出身は・・・ 」
「出身は?」
「ハチ村です・・・ 」と目の前に立つアルジャと云う苗字の貴族以外に、アルジャと名乗る元貴族に心当たりが有ったので、少し小声で答えた。
「ああ!やっぱりそうだ! 名前がサードと聞いて、もしや?とは思ってたんだ♪ 君がお爺様が言ってたサード君なんだ〜 偶然って凄いね〜! 私も君には一度会いたいと常々思っていたんだけど、仕事柄忙しくてね! これからは同じ空船乗りとして宜しく頼むよ! あっ、でも困ったなぁ〜 これでは簡単に軍には誘えなくなってしまった・・・」
「はぁ? 軍にですか?」
「ああ、君自身は嫌な事だろうが、君には色々としがらみが多いだろう?」
「アハハハハハ・・・ ご存知でしたか・・・」
「ああ、お爺様からね、そして、もしも君と出会って、君が困っている様なら、君の力になってやってくれとも頼まれてた。」
「あ・・・ ありがとうございます。」
「いやいや、遠慮は要らん! 私としては弟が出来た様なものだ!今後は私の事をお兄さんでも、お兄ちゃんでも、兄貴とでも好きに呼んでくれ、私はルカ兄さんと呼ばれる『中隊長〜!』・・・ 何だ!?」
「ハッ! ご歓談中ですが、アレを・・・」と、50m級空船の乗組員らしき女性隊員が前方を指差した。
「ああ、やはり簡単には辿り着けはしないか・・・」
「エッ?」とルカの指し示す方向を見ると、サードか乗っている空船の進路が、第3副都市ターミナルから外れ始めていた。
「良く聞けサード、再稼働した空船の多くが、ノ空船と同様にボロボロの姿のままだ!で、先ずは空船が自分で自分を修理して貰える場所を探すんだがなっ、まあ大体は、ナナシャ王国内の何処かのターミナルの何処かで修理を受ける事になるんだが・・・ 運が悪いと、他国のターミナルで修理を受ける事もある。で、これが取り敢えず1ヶ月分の食料と、水と、燃料と、毛布数枚に着替え用の下着と服だ、」
「1ヶ月分もですか?・・・」
「ああ、運が悪いとそれ以上かな? 私の場合は修理が出来るターミナルに辿り着のに2ヶ月近く掛かったし、コイツが稼働するまでに更に2ヶ月掛かったから、王都に返って来るのが半年後だった。」と、もの凄い笑顔で背後に立つ女性隊員をクイクイッと親指で指し示すルカ、いや、元侯爵様の孫なら、本人の希望する様にルカ兄と呼んだ方が良いのだろうか?
「ああ、忘れる所だった。これが国外に出る事になった時に必要となる書類と、新米兄貴が弟に初めて弟に渡す小遣いだ!」と少し照れ臭そうに腰に装着している小さな革袋の財布から、金貨3枚を取り出して渡すルカ、その顔は真っ赤になっていた。
その仕草が、あの、俺が困った時に手を差し出してくれた元侯爵様の姿と被り、
「ありがとう。行って来るよルカ兄!」と返事を返していた。