ゴブリンを討伐しに行った帰りに。
この日、サードは活動拠点としている街から、徒歩で3日ほど掛かる村から依頼のあった。
『小規模のゴブリン集団の討伐依頼』を完了し、街へ向かって帰っている途中だった。
この村の、ゴブリン討伐依頼は、若い頃の父が何度も受けた事があるらしくて、討伐依頼が終わった帰り道に立ち寄った天然温泉の事が詳しく書いてあった。
なんでも、その天然温泉が湧き出ている場所の直ぐ近くには、もう稼働していない空船の残骸があり、その天然温泉への目印にもなっているらしく、村人に聞けば場所を教えてもらえるとの事だった。
稼働する空船や、稼働させる事が出来る空船は貴重だが、もう稼働しない、稼働させる事が出来ない空船の残骸は、余り珍しいものでも無かった。
そして今もサードの視線の先には、巨大な空船の残骸が山の中腹に突き刺さったままの姿がみえる。
そもそも、古い文献には、4000年前のこの世界では、大小様々な大きさの空船が、空を覆い隠さんばかりに飛んでいたらしいし、約3000年前に起こった世界規模の激しい大戦争の生き残りは、全員が空船の搭乗員で、その搭乗員の生き残りが地上に降りて生活し始めたのが、我々の祖先であると言われているが、その事を真に受けている人は少ないし、世界の各国を収めている王族達も、その事に関しては肯定も否定もしていない。
そして、その話題は学園生活中に受けた古代史の授業の中でも度々取り上げられ、生徒達が議論する力を付ける為の良い題材にもなっていた。
サードは、在学中は一貫して肯定派の立場を主張してきたが、なぜサードが一貫して肯定派なのか?の本当の理由を、当時、仲の良かったクラスメート達には上手く説明する事が出来なかった。
夢で、宙船に乗って戦争をしている夢をよく見ると・・・・
しかも、その夢の中では空船の事を宙船と呼んでいたなどとは、とても言える事でも無かった。
ただ、前方のはるか先に見える巨大な空船の残骸、この、大きな山の中腹に突き刺さった格好のままの巨大な空船の残骸に、妙な既視感を感じると言うか? 街の安宿の窓から眺める巨大な空船の残骸に対し、何と言えば良いのか?不思議な感覚があるのだ、ただ、この街に住む住人の多くが、夕焼けに染まる巨大な空船の残骸を眺めると、何か胸に来る事が有るのだと言う・・・・
そんな事を思い出しながら、村の人に教えて貰った巨大な岩を目印に、街へと向かう街道から、山と山との谷間に微かに見える小さな空船の残骸に向かって足を運ばせる。
谷間に流れる川筋に沿って、細い山道を辿る事小一時間、やつと小さな空船の残骸に辿り着く事が出来た。
正直、空船の残骸を間近で見るのは初めてで、小さな空船の残骸だと言っても、その全長は70M近くもあり、その迫力と言うか?その空船の持つ存在感に圧倒され、しばし空船な残骸に見入ってしまった。
気を取り直したサードは、父の日記に書いてあった『天然温泉のおススメ入浴方法』を実践してみる事にする。
先ず、源泉の温度はかなり不安定なので、温泉の高い場所と低い場所があるので、注意が必要な事、次に、自分好みの温度になる様に、小川近くの高めの温度の場所を確保する。
そうしたら、河原に転がる石と、窪みを上手く利用して、自分好みの岩風呂を作る!
と、父の日記に書いてあった。
とりあえず、自分好みの岩風呂を何とか作り終えると、今度は、村人に教えてもらった『夕食の支度の準備』を実践する。
方法は簡単だ!
先ず、村人に教えてもらった場所に置いてある網を持ち出し、小川の向こう側の大きな岩に網の端を石と、木の枝を切り出して作った棒を使って固定する。
次に、網の反対側の端を、川の中に突き刺した棒で固定して、川底近くの網を石を上手く利用して固定したら、川の中間に頭を少しだけ突き出している岩に向かって、少しだけ大き目の岩を投げ落とすだけだ、後は、岩と岩がぶつかった衝撃の余波で、岩の下に隠れていた川魚が気絶して、網に掛かるのを待つだけ。
後は、村人が教えてくれた通りに、確保した川魚の腹わたを取り出し、紐をエラから川魚の口へと通して、源泉の温度が一番高い場所に30分ほど浸けておくか?枝で作った串に刺して塩焼きにするか?である。
父の日記にも書いてあったが、ここの天然温泉の横を流れる小川に住む川魚は、身も厚く、しっかりと脂も乗っているため、その味は絶品だったとも書いてあったので悩む所だ・・・
結果的には、網に掛かった50㎝超えの丸まると太った川魚を二匹確保し、それ以外の掛かった川魚は、再び川の中へと戻す事にした。
一匹は塩焼きにして、もう一匹は村人に教えて貰った方法で食べる事にする。
天然岩風呂温泉を、たっぷりと堪能したサードは、村人に教えられたおススメの野宿ポイントへと向かう。
空船の残骸の横っ腹に、ぽっかりと空いた穴を潜ると、その場所は大きく開けており、そして、その上部にも大きな穴が開いてて、そこから薄暗くなった空に浮かぶ黒い月が見えたのが、強く印象に残った。
教えられた通りに奥まで進むと、村人が言っていた場所に、上へと向かう階段を見つけ、階段を上って空船の上部に出ると、大きな岩の様なものに、大きく根を張った木の袂を迂回して、開けた場所に出る。
この場所は、昔から何故か?ゴブリンやオークと言った魔物に襲われる事も無く、安心して野宿出来る場所だとの事だった。