とうろくまえに
「バッカス! 一介の『新人空船乗り』の登録の為に、何故、運輸ギルドのナナシャ王国支局長たる儂が! 態々出向く必要があるのじゃ! 第一、そんなもんギルドの受付の仕事じゃろう! しかも!支局長たる儂を個人所有の倉庫区画に、しかも15階層の個人所有区画に呼び付けるとは! なんたる事かッ!」
「まあまあ支局長、そんなにカッカしないで少しは落ち着いて下さい。」
「はあぁ~?! 貴様!何を寝惚けておる?! 儂を呼び付けて『新規加入登録と空船の内検と登録もだぞ?」このナナシャ王国の運輸ギルド支局長がだぞ! 空船の内検は兎も角、新人空船乗りの登録手続きなぞ、運輸ギルドに就職したての新人がする仕事じゃないかッ!」
「まあまあ支局長、そこはあのゼット商会からの紹介ですし、来年の支局長会議と、次期南部方面統括支局長の選挙も近いですし・・・ね?! それに『新人登録と空船の登録は、支局長が直々に登録した。』と云う箔付けが目的の様ですし、ここでゼット商会に恩を売っておくのも・・・・」
「うむぅ~~~ ・・・・・・・・」
「ああ、あの1522区画庫が、今回の登録者の待っている区画倉庫の様ですね?」と、バッカスと呼ばれた男が、ナナシャ王国運輸ギルド支局長の勘気を逸らしながら、指定の区画庫に支局長のソーマを誘導する。
指定された個人所有区画庫の入り口の端末に、ソーマが自分の運輸ギルドの会員証を押し付けると、ポーン♪という軽い電子音がすると同時に、プシュ~♪と音を立てて専用扉が開くと、そこには長いプラチナブロンドの髪を後頭部で結えてポニーテールにした美女が待っていた。
「ようこそ、お待ちしておりました。 ナナシャ王国運輸ギルド支局長ソーマ様、副局長のバッカス様、主人はこちらでお待ちです。」と、案内に出て来た美女が優雅にお辞儀してソーマ達を先導して歩き出すと、案内されるソーマは、それまでの不機嫌さが嘘の様にその美女の案内に従って廊下を歩き始める。
この美女がお辞儀をした際にユサリ♪と揺れた大きな胸と、今も目の前で揺れている型の良い尻に、目が釘付けに成って、先ほどまで不機嫌だった事も忘れてしまった様だ・・・
美女の胸と尻に見惚れ、ソーマが案内された先のドックには、空中庭園型の空船が浮いていた。
「なっ・・・ 何だこの空船は! 貴族達の様な一部の金持ちが、この様な空船を作って遊興しているのは知っているが、この様な仕様で運輸ギルドに登録しようとは・・・ ワッ、儂をバカにしとるのかッ!」と、その空船を見たソーマの第一声がこれだった。
「支局長様を別にバカになどしていませんよ!」
「キッ、貴様が儂を呼び付けた。サードと申す者かッ!」
「はい、私がサードです。今回、色々と事情がありまして、少々伝手を使って支局長様にお越し頂いた次第です。普通に考えて、この手の空船は運輸ギルドに登録させて頂きたくても、何かと問題が多いと聞いてますので・・・」
「なら、何でその伝手を使って貴族に取り入らん?!」
「私は、つい先日まで冒険者をしていました。そんな人間に貴族の飼い犬と成って一生使えろと?」
「それはそれで安定した生活を送れるのでは無いのかね?」
「私には無理です。第一、せっかく空船を手に入れたのに、自由に空を旅出来ないなんて・・・ 私には、他人に指図されて送る人生は性に合いませんし、冒険者生活なんて送ってませんでしたしね!」
「ほう? それが王都の学園を優秀な成績で卒業し、数多の貴族や大商人、果ては軍や官僚からも誘いが有ったが、全て蹴って冒険者に成った理由か?」
「はい・・・ しかし、既に私の事は?・・・・」
「ああ、仮にも運輸ギルドの支局長様を呼び出す程の男だ、こちらとしても少しは相手の事を調べるさッ! しかし、貴様が希望する様に運輸ギルドに登録したらしたで、運輸ギルドのルールに縛られる事になるぞ!?」
「それは冒険者も同じ事でした。 要は、私は『自分が仕事をしたい時に仕事を受けて、遊びたい時に遊び、食べたい時に食べ、寝たい時に寝る。』 そんな生活が送りたいのです。」
「ほう。呑気なものだな、しかし、そんな呑気な考え方では、無理だな!」
「ええ、ですから私は怠ける為の苦労は厭いません。 先ずは私の空船の船内を案内します。その後、私の『運送屋』の計画を聞いて頂いて判断して頂ければ良いか?と・・・」
「ほう!えらい自信だな! しかし、儂がこのまま帰ったらどうする?」
「どうもしません。 私は別の国の運輸ギルドで登録するまでの事です。それに、支局長は帰りませんよ!」
「ほう?! 何故そう言い切れる?」
「今回はゼット商会の会長の口利きだからですよ!」とサードがニタリと笑って悪い顔をしながら、ナナシャ王国運輸ギルド支局長を、コティアの搭乗口へ続くタラップへと案内した。
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by:八葉




