王都へ勉強しに行くらしい。
両親の突然の訃報の知らせを受け、酷く落ち込んだサードを看かねた元侯爵様は、サードに対して王都への留学を進めた。
サード自身、色々と思う事はあったのだが、生前の母親の忠告に従い、王都行きを決断したのだった。
サードの両親は、生前、サードに色々な事を教えていた。
生活に必要な技術や知恵ではなく、自分達が万が一にも仕事で命を落とした際の、サードの身の振り方をである。
一つ、いつまでも悲しんでいてはいけません、前を向きなさい。
一つ、私達に何かが有った際には、トーマ元侯爵様を頼り、色々と相談をしなさい。
一つ、王都で学園に入学して知識を身に付けなさい。
一つ、学園を卒業して大人になったら、あなたも大切な家族を作りなさい。
そして最後に、私達はいつもあなたの側で、あなたの事を見守っています。
・・・・・・・と、自分達に何かあった際には開封する様にと言われていた。蜜蝋で封緘され、その上に何処かの紋様を押し付けられた封筒の中の便箋には、そう書かれていた。
そして、サードが王都の学園に通った4年間は、村と言う小さな世界しか知らなかったサードに、自分達が住んでいる世界がいかに大きく! いかに広大なのか!を知らしめる良い機会にもなった。
無論、サードは在学中に多くの知識を吸収し、学業でも優秀な成績を残し、学園を卒業する際には、
『ぜひ我が商家で働いてほしい!』
『いやっ! 我が領地でこそ、その手腕を振るって欲しい!』
『イヤイヤ! 王城に文官として勤めて欲しい! 後々は大臣職も夢では・・・』等の多くの誘いがあったが、彼が学園を卒業した20日後、彼の姿は冒険者ギルドの冒険者登録用の受付窓口の前にあった。
サードが王都に引っ越して来てから色々とあった。
先ずは、サードの父と母の両親との面会、そして色々と知らされた事実、でもサード自身はそんな事は一向に気にはしなかったが、サードが色々と勉強したり、体を鍛えるには、その環境は思っていた程には悪くない環境だったのも事実で、その事に関してはとても感謝していた。
王都に出てきて、サードは父親の実家に住む事になったのだが、サードはそこで父の若い頃の日記を見付け、そして、その日記の一番最後には『さらば退屈な日々、明日、私は冒険者になる。』と書かれていのを見て、自分も父や母と同じ様に冒険者になる事を決めたのだった。
そして、サードが冒険者に成って4年が過ぎて、サードは今年で22歳を迎える。
サードが空船を手に入れたのが3年前、本来ならば、空船なんて物は欲しいと思っても簡単には手に入れる事が出来ない物らしい・・・・
空船を欲して冒険者に成る者も多く、ある程度の大きさの空船を発掘する事が出来た冒険者は、一生遊んで暮らせるとは言われているが、実際は、多くの者はその空船に乗って色々な商売をするらしい、
巨大な空船を豪華な宿泊施設へと改装し、豪華客船として貴族や金持ちの商家を相手に商売をしたり、小型の空船をレストランに改装して、リゾート地の空に浮かべて客に絶景の景色を見せながら食事をさせたりするサービス業の施設として使う者も居るが、空船を手に入れた人達の多くが、その巨大さを有効に活用して輸送業を営む者が大多数だった。
陸や海の上を、荷車や馬車、船等で物資を運搬するよりも安全で遥かにリスクも少なく、一括で大量の物資の運搬が可能で、偶然にも1000M級オーバーの空船を発見出来た冒険者は、幸運にも翌日には大金持ちの仲間入りは間違いは無いだろう。
そう、ただ、その発見した空船を稼働させる事が出来たならば・・・・
その頃、冒険者と成って1年目のサードは、第3副都市に近い、中規模の街を活動の拠点として生活していた。
活動拠点と言えば聞こえは良いが、早い話し、安宿を転々としながら冒険者としてのレベル上げをしている最中だ、初心者扱いされるFクラスは卒業出来たものの、一応は一人前十みなされるDクラス入りは、まだまだ先の事に思える。
幼い頃から両親に指導されていた格闘術や剣術の基礎に加え、王都に引っ越した事で、父親の実家で剣術を本格的に習う事が出来たおかげで、簡単な10匹以下のゴブリン討伐には、何回かは成功する事が出来たが、20匹以上の中規模討伐はまだ達成出来ていない、中規模討伐を成功させるには、今のサードの実力では無理だし、そもそも、中規模のゴブリン討伐は3人以上で組んでいるパーティーが推奨なのだ、無論、単独で中規模以上のゴブリンの集団を討伐する冒険者も居る事には居るが、その冒険者のランクはAランク、今のサードからみれば、その冒険者は雲の上の存在に思えた。
今のサードにとって、冒険者生活を送る上でのバイブルとして、父親が冒険者に成ってからの日記を参考にして、サード自身も研鑽を積んでいる。
その日記には、冒険者に成ってから2年間はソロで小規模のゴブリンの集団を討伐して経験を積んだと書いてあり、そこにはゴブリンの集団を上手く討伐する方法も詳しく書いてあったが、それに併せて、活動の拠点として過ごしている街での生活や、冒険者ギルドを活用した剣術や弓術の鍛錬方法、それ以外の自分に合った格闘術の習得の勧めや、街の何処の食堂が安くて旨いとか、武器を探すならどの店がお勧めだとか、父が冒険者として登録してから、Cランク冒険者にランクアップするまでに過ごしたこの街での出来事が事細かく日記には綴られていた。