あらしがさっておもいだす
カルラがドタバダと出て行った後、改めて食卓に残った少量のサラダと、スクランブルエッグをロールパンに挟んで、冷めた紅茶で流し込むと、カルラのメイド長と入れ替わりに付いた『いつもの給仕係り』の女性が、新しい紅茶をテーブルに置いて、静かに部屋を出て行く、この区画の『メイド用の詰所』に戻るのだろう。
王都に来て以来、何故か?この医療区画のこの部屋(一応は病室)を、サードの私室として充てがわれていた。
俺としては、ココを出て、父親の実家(本当は偽装されていた偽物)に行っても良かったのだが、今は誰も住んで無い空き家だとの事だったし、父と母の両親だと紹介された人物も、全くの他人だったと、この区画で目覚めた時にジーク兄ちゃんから聞かされて、まあ何となく納得も出来たし、あの祖父母の代理人は、俺の目から見ても、極力関わら無い様にしていたのが、見え見えだったから・・・
だからこそ、冒険者を職業に選んで、王都から遠い場所に有る。第3副都市の中規模な街を活動の拠点として選んだのだが、コレも、今と成ってみると『王家情報部の裏工作』の結果なのでは?と疑ってもいる。
第一、俺があの街に行ったのも、親父が書いた『日記』を発見したからだ、まあ今更なのだが・・・ と、移動したリビングでソファーに背中を預けて、ボ〜っとしていると、昨夜観た『古いデータの記録映像』と、目が覚めたらカルラがベッドの中で一緒に寝てた事の衝撃が大き過ぎて、すっかりと忘れていた『昨夜観た夢』が、急にフラッシュバックして来た。
昨夜観た古い記録映像のデータに残って居た『何処なのか分から無い場所の、農村の風景』と、夢で観た風景が良く似ていたのだ・・・
夢の中で、俺が辿り着いた先は、谷間を縫って歩いた先に在る盆地で、其処には小さな農家が数軒ほど点在する他は、視線の先に見える大きな門構えの、武家屋敷だけった。
そして、この盆地の中の見渡す限りの田圃は、全て俺の土地で、雇い入れた小作人達を、点在する小さな農家に住ませて、米作りを任せている。
俺の屋敷は、山の麓近くの低い丘の上に建っており、その低い丘の周りをぐるりと土塀で囲まれた作りの屋敷だった。
屋敷の側には、水田用に作ったため池が有り、春になると、ため池の横に植えた桜の木が満開となり、配下の武士達や、家の者や小作人達を集めて、良く酒を呑んで騒いでいたのを思い出す。
騒いで飲むのも好きだったが、また夜の田園風景も美しく、陽が落ちて辺りが真っ暗となり、夜空に満点に輝く星空を、見上げ眺めるのも好きだったが、
月夜の晩に、ため池に映る桜と月を、屋敷の縁側から眺めなが飲む酒が特に好きだったのを・・・ 思い出す・・・
ああ、不思議だ・・・
夢のはずなのに『思い出す』なんて・・・
・・・・・・・・・
ああ・・・ 縁側で、月夜の晩に呑む時には・・・ 彼女が良く現れて・・・
?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あれ? 彼女の顔だけが・・・・・・・
どうしても・・・・・・・・
はっきりとは、思い出せない・・・・・・・・・・・・・
俺は大徳利に並々と入った酒を出し、彼女が取って来た川魚を串塩焼きにしてツマミにして、2人で空と池に浮かぶ夜月を眺めて呑む・・・・・
時には、大きなイノシシ肉を、庭で焼いてツマミにしたのも思い出したが・・・
やはり、彼女の顔だけが思い出せない・・・
楽しそうに笑っている様子も・・・・・・
嬉しそうに喜んでる様子も・・・
怒って泣いてる様子も思い出せるのに・・・
どうしても、彼女の顔だけが・・・
彼女の笑顔も・・・
泣き顔すら思い出せなくて・・・・・・・・・・
そしてハタと気付く、自分の頬が湿っている事に・・・・
あれ?・・・・・
「決めた! 空船の、あの昇降機付き格納庫の一つに、アレを作ろう!」と、突然、誰も居ない部屋の中で言い出したサードは、アルカティア号に残っていた古いデータを、物凄い勢いで精査し始めた。
1週間後・・・・・・・・・
「良し、コレで完成かな?」とリビングのソファーに座って、目を瞑ったまま軽く左腕の義手を振っていたサードが、嬉しそうに目を開いて笑った。
この1週間ほど、義手の、視覚野に直接的に干渉して画像等を投影する機能を使い、擬似的な仮想空間を作り、あの夢で観たと云うか?記憶に残っていると云うか?朧げな記憶を、アルカティア号に残っていた映像を参考にして、あの屋敷を仮想空間の中に再現したのだ、まあ実際に、コティアの昇降機付き格納庫の中に、あの大きな屋敷を全て再現するのは無理なので、特に好きだった、桜の木とため池が見える西側の縁側と、その隣に設置していた檜作りの風呂と、岩作りの露天風呂を作る事にした。
後は、昇降機の上に建てた屋敷を、艦内に収納した状態で、格納庫内にあの景色をCG投影して合成すれば、記憶にある屋敷の完成である。
ちなみに、調子に乗って、古いデータ内にあった小さな東屋を再現してみたのは、ご愛嬌って事で!( ^∀^)




