ぎろんした
産まれたばかりの新しい王子の顔を見て、全員がほっこりとした表情となる。
今まで、とある事情から、次代の国王となる者の事に関して、ナナシャ王国では悩みがあった。
それも、今日、王家に新しい男子が産まれた事に依り、その悩みも解決したも同然となったのだ、後は大人達の頑張りしだいで、次代のナナシャ王国の基盤も確立させる事が出来るはずである。
ここで一つ『何故、現国王陛下の実子では無く、弟の宰相閣下の子が次代の国王陛下になるのか?』とか、『ならば、次代の国王陛下はサードでも良いのでは?・・・」』と疑問が湧く事だろうが、この事に関しては、後程の展開の中で説明する事となるので、今回は割愛させて頂くとして、
ああ、一応はサードも王位継承権第3位の王子ではある。
ただ、サードにとってはジーク兄ちゃんに子供が産まれ、しかも男の子だった事は大きな意味を持つ、特に今後のサードにとっては・・・
そして、この男の子が産まれた事に依って、世界は少しづつ、少しづつ動き始める事となる。この子の誕生は、『世界』と云う名の、天まで届く高く聳える山の、その山頂に有った小石なのだ、今、その小石が山頂から零れ落ち、世界が動きだしたのだ、この小石が零れ落ちた衝撃は、大雪崩を引き起こすのだろうか? 巨大な山崩れを引き起こすのだろうか? できれば、そうなる前に転がる小石が何処かに落ち着いて欲しいと、この世界を覗く者は思った。
だが、人には、生まれ持った役割がある事を、その者は誰よりも知っていた。
王子誕生の報は、瞬く間にナナシャ王国中を駆け回り、大いにナナシャ王国の国民を沸かせ、各地で行われた『誕生の祝い』の祭りは1週間以上も続き、新王子はジーザラストと名付けられた。
新王子が誕生して約2か月後、先々代国王に先代国王、現国王陛下と現宰相閣下、そしてサードが、王族区画のとある一室に集まっていた。
この五人が揃って顔を合わせるのは、ジーザラストが産まれた当日以来で、各人が色々と忙しかったので、仕方が無い事ではあったが、今日は、サードの今後の身の振り方を皆で話し合う為の大切な日だった。
「幸いにも戦艦ロフトス以下数隻の空船が殿下を気に入った様ですし、私自身、強大な力は持て余しますし、何よりも身の丈に合わない力は、その身を焼いてしまうと言いますし・・・・」
「そうかのう?~ 儂はそうは考えんが・・・ 大いなる力は民達の安寧を約束するものだと思うがのう?・・・」
「まあ父上、サードの意志を尊重しましょう。第一、我々はサードに対して『王族の務めを果たす様に』と強制する権限も資格もありません、サードの存在を知っていても、サードの両親が死んだ時、王家の人間と認知もしなければ、王都の学園に入学した時でさえ、一枚の銅貨すら支援していません。 例え、サードに対して認知出来ない、生活を支援してやれない、重大な理由が有っての事だとしても・・・
今回、サードは運良く空船に出会いましたが、これが、冒険者として生計を立てているサードが、ゴブリンの討伐に出掛け、ゴブリンを討伐する事は出来ても、その巣穴での戦いで左腕を切り落とされてしまい、街に戻る路上でサード倒れてしまっていたら? その事を我々は知っていたとしても、やはり我々はサードを見殺しにするしか手立てがなかったのですよ・・・
第一、その事をお決めに成ったのは、誰でも無い・・・ 父上本人では無いですか?」
「それを言われると、辛いのう・・・ サードが産まれた時、儂は王家の血族とは認知せなんだ事を、正直、今も悔やんでおるが、当時、国王であった儂は、カノ国が我が国に付け入るスキを作る訳にはゆかなかった! 何処に孫が可愛くない祖父が居ろうかッ!・・・ だから儂はこの決断をすると同時に、王位をお前に譲る決心もしたのじゃ・・・ あの忌々しい雌狸めッ!
そんなに儂が許せないのなら、儂を殺しに来れば良いものを・・・ 次々と儂の大切なものを奪って行きおる・・・ 」と先代国王オーベルトは、顔を真っ赤にして、流れる悔し涙を隠す様に俯いてしまった。
その話を聞きながら、先々代国王ヨハンソン腕を組んだまま、天井の一点を見つめ、現宰相閣下は腕組みしたまま瞑目していた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ シ~~~ン!と静まり返る室内、
「でもオヤジ、当時は当時の事情があったとしても、今は状況がちがうだろう!? 第一、俺はあの雌狸を許す気は一切無いぜ! 当時の事情はどうであれ、あれは逆恨みもいい所だ! 当時の俺は『自分の器量も実力も知らない世間知らずの小娘が、自分の思い道理に行かない事に腹を立てて、只々、ヒステリーを起こしているバカ女』としか見てなかったし、今回、あの雌狸の息子の小狸に、俺の可愛いカルラを差し出せと、上から目線で送られてきた書状を読んだ時には、執務室で『あの雌狸の住む小国を、即刻消して来い!』って叫んでしまったわッ! それに、今でも思っとるわッ! 第一、あの雌狸め、悪知恵は良く働く様で、色々と暗躍している様だし・・・ あぁ~~~! 思い出しただけでも腹が立つ!」と、その静寂を、ジーク兄ちゃんの怒気を孕んだ声が打ち破った。
「それに父上、サード君の考えは良いと思いますよ!? ジークに待望の男子が産まれた事ですし、カルラも、あの空船の事を公表出来る歳に成りましたし、サード君の認知問題にしても、おじい様と父上と私の連盟で、当時、サード君の事を認知出来なかった理由を明記した上で、あの雌狸との一件が終わったら、改めてサード君の存在を公表すれば良いのですし、あの雌狸が言う事が本当で、もしソレが、あの雌狸が言っている通りの性能なら、ナナシャ王国は数日、この大陸全土さえ、1年と持たずに焼け野原でしょうね! アレの修復が完了して、アレが再稼働するまでにどれだけの年数が掛るかは知りませんが、アレが再稼働し始めたのは小さな付属品たる土人形のみ、アレの発見から彼れ此れ20年は経つはずですが、アレが再稼働する気配も様子も、未だ無い様ですしね!」
「しかしなぁ~~~ 」
「諦めが悪いぞオーベルトよ! 昔からのお前の悪い癖じゃ! 皆の者、それで良いな!」
「「「「 はい! 」」」」
取り敢えずは、今後のサードの身の振り方は、先々代国王ヨハンソンの鶴の一声で決まったが、その後も、長い時間を費やして色々な事が決定され、サードは目的の為の行動を起こす事となった。




