そりゃあたいへん
「お兄さま、急いで!急いで下さい!」と慌てるカルラに強引に腕を取られ、早く!早く!と急かされながら、まだ入った事の無い区画に足を踏み入れると、そこは、大きなガラス張りの壁の向こう側に、空船が整然と並んでいる広大な空間だった。
一瞬、その広大さに呑まれて足が止まったが、俺の右腕を抱き抱える様にして、強引に引っ張って来ていたカルラに、グイっと力強く腕を引かれて再び歩き出す。
床が勝手に動く長い廊下に初めて乗り、その不思議さで興奮していると、
「お兄さまは初めてココに来られるので、観るもの全てが新鮮で興奮するのは分かりますが、今は急いでいますので・・・・
ああ、お兄さま! そちらではありません! こっちですわ!~ 」とカルラに腕を引かれて、三方の壁面がガラス張りになったエレベーターに押し込まれた事で、俺は少し落ち着いて周りを眺める余裕が出来たが、ふと、
『俺って、王都に帰って来てから、貴族区画から上の階もだが、空船が停泊している区画にも来た事が無いよな? これまでは、空船とは無縁の生活をしていたし、ましてや貴族と言えば、本当の素性を隠してノンビリと隠居暮らしを満喫していた『元侯爵様』ぐらいしか知らなかったしな〜 』と思いながら、ガラス張りの眼下に並ぶ空船を眺めていると、カルラが俺の右腕に回した腕にギュ!っと力を込めている。
どうもカルラは高い所は苦手な様で、俺がガラス張りの壁にベッタリと張り付く様にして眼下を眺めているので、自分も怖いのを我慢して、仕方なく俺に付き合っている様で、下を見ない様にとギュウゥ〜!っと、目を閉じている姿が可愛くて、空いている方の左手でポン♪ポン♪と軽く頭を叩いてやると、キョトンとした顔で俺を見上げ、そしてニヘラ~♪と目尻を下げて笑う。
早いもので、ジーク兄ちゃんから『俺の娘だ、仲良くしてやってくれ』とカルラを紹介されてから、もう4ヶ月以上経つ、彼女には兄妹が居なかった事もあり、父親から『彼は私の弟ハウゼクトの息子で、サード君だ!』と紹介された日から、俺を『お兄さま!』と呼び物凄く懐いている。
俺自身も一人っ子だった事もあり、妹が出来たようで嬉しくて、ついついカルラを猫可愛がりしていたせいか? 俺に対しての遠慮等の気遣いが無いのか? または俺を男性と認識していないのか? こうして無邪気に俺に抱き着いて来る。
俺としては『お兄さま♪』と言って、慕って甘えて来てくれるのは嬉しいが・・・
このところは特に、甘えて抱き着てい来るカルラの感触が柔らかになって来たようで・・・
無邪気に抱き着いて来るカルラの胸の感触に、思わずドキッ!とする事もあるが、本人は全く気にしては無い様子で、今も頭をポン♪ポン♪とされたのが嬉しいのか?『ウゥ~~~ン! ♪ ♪ ♪』ってな感じで甘え声を出して、俺の腕にスリスリと顔を押し付けている。
そう云えば、カルラが抱き着いて来るのは必ず俺の右腕だな?・・・
自分が慌てて俺を呼びに来た事を忘れたのか? 今度は、甘えて興奮しているカルラを右腕にぶら下げながら、カルラに随伴していたメイド長に先導されて辿り着いた先の部屋では、先々代国王と先代国王と現国王がそれぞれの奥様方を伴って待っていた。
「おお、来たか? 我がひ孫のサードよ! 突然の呼び出し済まなかったな! だが事は祝い事じゃ! 儂に新しいひ孫が誕生したのじゃからなっ! それも王子じゃ! 王子じゃぞ~!♪」と一同を代表してヨハンソン先々代国王が説明してくれたが、まあ曾祖父様のテンションが高くて、高くて、うざい事この上ない・・・・
「カルラ、君に弟が生まれたんだね~! おめでとう! しかし俺はカルラのお母さんが妊娠していたなんて全然知らなかったよ! カルラも水臭いな~」
「ウウン違うの! カルラが水臭いんじゃなくてね、カルラに『秘匿の魔法』を掛けてたひいおじい様が悪いの! お兄さまが来られて4ヶ月・・・ カルラはお兄さまに喋りたくて、喋りたくて! 仕方が無かったんだから~~~!」と、俺に『水臭い』と言われた事が心外だったのか? 物凄い勢いで反論して来た。
「サード君、カルラ嬢が言っている事は本当だよ! 」と、横から現国王のユリウス国王陛下が声を掛けて来た。
「国王陛下、それは誠で?」
「うむ、事は国政に絡む事での!・・・ってか! サード君、私の事はジークを呼ぶ時みたいに『ユリウス兄ちゃん』とは呼んではくれんのか?」
「いや、仮にも国王陛下ですし・・・ それに陛下も私の事を『ジーク君』ってお呼びですし・・・」
「アハハハハハッ! ユリウス、まあお前は国王となる為に色々と忙しかったでのう、ジークと比べれば、サードが産まれた時以外は顔も見とらんしのう~ 仕方のない事じゃて、してサードよ! 儂の事はオーベル爺ちゃんと呼んでくれる約束じったよな?」
「はい、前国王陛下!」
「なっ!・・・ サードよ、なぜじゃ? なして(なんで)儂を爺ちゃんと呼んでくれんのじぁ~!・・・・・ (泣)」
「それは、現国王陛下と御同様に、恐れ多く・・・・ 」と少しお道化ながら真顔を作って答えると、
「まっ、孫が・・・ 儂の可愛い孫が~! 儂を苛めるのじゃあ~! ぐっ、ぐれてやる~!」といじけた。
「アハハハハハ! 甘い! 甘いぞオーベルトよ! サードよ!儂の事は『ヨハン爺ちゃん』と呼んでくれるよのう?」
「ええ、先『ああ、サードよ! 確か?お主は、第6副都市に属しておる海洋都市に行きたいと言っておらなんだか? 儂、来月にのう、そこに迎賓として呼ばれとるんじゃがのう?』・・・ (クソォ~ッ! こっ、このクソ爺! 巨大な飴玉を投げ込んで来やがった~!・・・) 」
「ほれっ? ほれ、どうしたサードよ!? 儂の事は何と呼んでくれるのかのう?~(^^♪
「クッ!・・・」
「どうしたサードよ!? いつまでも呼んでくれんと爺ちゃんは寂しいぞ?」
『そっ、そう来たか! 我が父ながら何と狡猾な手段を・・・ 儂もその手を使えば良かったか?・・・byオーベルト』
『まあ、さすが先々代の国王陛下って事でしょうかね? 良くサードが行きたがっている場所の事をリサーチしてますね! ここは現国王としては見習うべき所でしょうか?・・・byユリウス』
「まっ・・・ 負けました。 お、おじい『おい! 皆で何をして遊んでるんだ? 早く俺の息子の顔を見てやってくれ!』・・・・(いっ、一番美味い所をジーク兄ちゃんに持って行かれた・・・ byサード) 」
「「「「・・・・・・・ (by,ご婦人方の白い目)」」」」
「うん?・・・ どうしたんだ皆?・・・」
いつもの様に、バカを言って楽しんでいた男達を横目に、ご婦人方は産まれたばかりの王子の顔を見に新生児室に入って行く、その後を男たちは大人しく従って入った。
最近、先々代国王や先代国王、そして現国王陛下の三人と顔を合わせる機会が増えたサード達は、毎回、こんな感じでじゃれ合っていた。
まあ、サードが産まれて約19年の溝を埋めようと、国王達も頑張っているのだが、サードも素直に『じいちゃん・おじいさん・おじさん』とは呼べずに、お互いに気恥ずかしさが残っているのか?色々と難航していた。
まあ、この4ヶ月余りで気安く冗談は言える様には成ったとは、サード自身思っているし、その状況を作ろうとしてくれている先々代・先代・現国王陛下に対しては、感謝もしていた。
そんな事をおもっていると、
「ほらサード、お前の従弟の顔を見てやってくれ!」と待望の長男が産まれた事で、満面の笑顔で顔面を崩壊させたジーク兄ちゃんに背中を押され、サードも新生児室の中に入って行った。