まるでバカップル
聖騎士見習いの任命式から、約2ヶ月後の昼過ぎ、朝早い時間から俺が生活の場として私用化している病室へ、アイカがやって来て、
「サード様の本日のご予定ですが、全てキャンセルとなり、今日と明日の2日間は、待機日となります。 また、状況によっては延びる事も考えられますので、その際のにはご連絡申しあげます。」
「了解した。 で、この間に街に出る事は?」
「それは可能ですが、その場合は、私の同伴が必要となります。」
「ああ、それは多忙なアイカを拘束する事になって悪いな! 私自身はアイカと王都の街をデートするのも悪くは無いと思うんだが?」
「サード様、既に孫が産まれた年寄りに、そんな冗談を言うなんて・・・」と、目の前に立つ女性が頬を薄っすらと染める。
この女性アイカは、俺が聖騎士見習いに任命された事で、俺に付けられた副官兼情報士官兼、お目付け役である。
見た目は背が低くて、華奢で、幼顔で、ギリギリ20代に見え、『普段は大きなメガネを掛けて事務系の仕事に従事している女性』に見えるが、その外見とは裏腹に、聖騎士隊の情報武官・・・ 士官では無く武官で、聖騎士隊の情報局の局長で、紹介された初日に手合わせをする事になったが・・・
「サード! 悪い事は言わん、直ぐにアイカ殿に詫びて、手合わせするのは辞めた方が良い!」とアイゼンに忠告され、
「サードや、何事も経験じゃ!」と元侯爵様に唆され、
「サード君、実戦ならば私も父上も、彼女には勝てるが、試合では彼女に勝った事は無い、彼女に試合で勝てたのは、亡くなられた彼女の元旦那だけだ、ああ、それと良い事を教えよう。 彼女は、君のお父上が、幼少期から少年期に掛けて、そう、学園に入学するまで教育係を務めていた女性だよ!」と総長閣下は教えてくれた。
「もう!総長閣下は、何を先にバラしちゃうんですか〜 私が後でバラしてサード様が驚く顔をゆっくりと拝見したいと思ってましたのに〜 」とプン!プン!と言いながら抗議する姿は、『どう見ても20代なのだが・・・ 親父の教育係りをしてたって事は?・・・』と思っていたら、
「あらサード様、女性の歳を詮索するのは・・・」と元侯爵様が掛けた『ハジメ!』の合図と同時に、3mは離れていたハズの彼女が、俺の目の前に立っていた。
それも、額にあった小さな突起状のツノが5〜6cm程に伸び、口は耳元まで裂け、目は大きく釣り上がった恐ろしい表情で・・・
彼女は人種と小鬼種のハーフだが、人種の父親は鬼人種とのハーフだったらしく、隔世遺伝で彼女に鬼人種の特性が現れたらしい、因みに、彼女は見かけ以上に力も強く、勉強が嫌だと駄々を捏ね、横を向いて反抗する我が父上に対して、片手で目の前の重い勉強机を持ち上げると、ドスン!と屋敷が揺れる程の音を立てて、駄々を捏ねる父上の前に置き直した事も有ったとか・・・
無論、俺はその場で直ぐに両手を挙げて降参の意を示し、彼女の軍門に無条件で下る事になった。
一件、色々と無敵にも見える彼女だが、気に入った相手には物凄く甘い事が、この2ヶ月で判明した。
聖騎士見習いとしての任務で、第2副都市に2人で赴いた時に、冗談で、「こうやって2人で街を歩いてると、知らない人が見たら、俺達は恋人同士に見えているのかな?それとも夫婦に見えてるのかな?」と話したら、アイカが、
「えッ! いや・・・ いえ、サード様が嫌な訳では無く、あのぉ〜 ・・・ 」と、しどろもどろになって、顔を真っ赤にしてフリーズしてしまう事態が発生してしまった。
無論、この時は任務を遂行中で、離れた場所でその様子を見ていた他の聖騎士隊の隊員達は、アイカの変貌ぶりに驚くと同時に、込み上げて来る笑いを抑えるのに必死だったそうだ、他の隊員達の暖かい視線を感じたアイカが、お返しにと回りに放った殺気が、尋常じゃない殺気だったそうだ、後から聴いた話しでは、
「路上で昼寝をしていた猫は飛び起きるし、犬は吠えるし、敏感な子供は泣き叫ぶし、マークしていた人物は、何か?を感じたのか?物陰に身を寄せて様子を見るしで・・・ まあ幸いにも、マークしていた人物は、お前達を『人前でイチャイチャしている。リア充のバカップル』だと思った様で、任務は巧く遂行出来たがな!」とアイゼンが思い出し笑いをしながら、任務後に教えてくれた。
アイカをデートに誘って、断られた俺は、ノンビリと朝食を摂り、ああ、アイカに朝食を一緒にと誘ったら、今から急いで帰宅したら、可愛い孫達と一緒に朝食が食べれますから!と、いそいそと部屋を出て行った・・・
その後は、最近渡された俺の空船『100m級空船/コティア』の、改装計画書に添付されている改装後の図面を眺めては、気になる箇所を3Dで表示させたりして、時間を潰していると、まだ学園で授業を受けている時間なのに、カルラが
「お兄さま! 大変ですの! 一大事ですの!」と部屋に飛び込んで来た。