おもわくあった
初めて食べた昼食のオカズのビックボアの角煮を、心行くまで堪能して食べたサードは、食後の食休みも程々に、元侯爵様に連れられて、聖騎士達が招集されている大演習場に来たが、その上空には、サードが初めてその姿を見る。
元侯爵様の400m級/高速巡洋艦、アルバトロスが悠然と浮かんでいた。
「凄い!凄い! これが元侯爵様の空船?!」
「ああ、儂の空船、アルバトロスじゃ! サードは初めて見るかの? まあ軍人以外は、空船の戦艦を見る機会はあまり無いからのう! アッハハハハ!」と凄い!凄い!と、興奮して騒ぐサードに気を良くした元侯爵様が、威張る様に胸を張って大笑いしていると、元侯爵様の頭上から、赤い軍服を着用した少女が飛び降りてきた。
「提督〜! 迎えに来たよ〜♪ 」
「おお、アルバト! 急に頼んで悪かったのう? 」
「ボクは提督の船だよ! どんな些細な事でも、頼りにされたら嬉しいよ!♪ 」
「そうかそうか!アルバトは相変わらず可愛いの〜 おお! そうじゃ!そうじゃ! 紹介しよう、サード、この子が儂の『姫』、空船のアルバトじゃ、で、アルバトよ!彼がサードじゃよ!」
「この子が例の?」
「そうじゃ・・・」
「おお〜っ! あの子達よりも先に、話題の主と顔を合わせるのは、悪い気もするけど・・・ 私がトーマの空船、アルバトロスの人型AI端末体の、アルバトだよ! よろしくね!♪ 」
「人型AI端末体? 姫じゃなくて?・・・ 」と、空船の姫が自分の母親と同じ様に、『トーマスト』では無く、『トーマ』と呼んでいる事に懐かしさを覚えながらも、気になって聞いてみたが、
「その事は、あまり気にしなくても大丈夫だから! もう少ししたら、私達のお姉様方から、説明があると思う! それよりも、私に乗船するんでしょ? 早く!早く!」とサードの腕を取って、既に地上に着地し、タラップを下ろしていたアルバトロスに向かって、早く!早く!と誤魔化す様に案内をする。
それを見た聖騎士達が、驚愕の目でサードを見ていた。 空船の姫が、自分の主人以外を率先して案内するのは、主人以外は、その家族が稀に有るか?どうか?なのである。
乗船して30分後、聖騎士達は広い講堂の様な場所に集められていた。
「キヲツケ〜〜〜! 総長閣下に〜! 敬礼! 直れッ! 総長閣下に傾聴!」
「楽にしてくれたまえ!」
「ハッ! 総員、休めッ!」
『うおぉ〜 流石、聖騎士隊! 凄いな〜 』と、元侯爵様に強引に連れて行かれ、一緒に壇上へと上げられたサードは、聖騎士達が靴音を『ザッ!ザッ!ザッ!』と立てながら、一糸乱れない動きで、総長に敬礼する姿を見て、ある種の肝銘を覚え、本気で感動していた。
「さて諸君、先ほどの食堂での事だが・・・」と前置きすると、後ろを振り返り、ツカツカと軍靴の靴音を立てて、何故か?壇上で、元侯爵様の横に並んで立たされて居たサードの前に立つと、突然、片膝を折り、膝を床に着けると、サードに対して臣下の礼を取った。
そして、元侯爵様・・・ いや、トーマスト永世侯爵も、息子のアルフレッド侯爵と同様に、静かに膝を折ると、サードに対して臣下の礼を取る。
このナナシャ王国では、トーマスト永世侯爵とアルフレッド侯爵が、膝を折って臣下の礼を取らなければならない相手は少ない、侯爵家の人間が膝を折る相手とは?・・・ と、召集された聖騎士達がその事に気付いた瞬間、講堂に召集された聖騎士達が一斉に膝を折り、サードに対して臣下の礼を取ったのだった。
「サード殿下、これまでの若い聖騎士達や、聖騎士見習い達の心無い誹謗中傷の数々、そして此度の件も『私は気にしてませんから・・・ それに、彼ら達は私の事情は知りませんし・・・ 謝罪は無用です。』そうですか・・・」とアルフレッド侯爵が、若い聖騎士達がサードに対して行った非礼に対して、詫びようとするのをサードが止めた。
「そうですか・・・ 私自身、あの場で若い聖騎士達を叱りつける訳にも行かず、この様な事に成った次第でしたが・・・ ならば、段取りを次に・・・」と言いながらアルフレッド侯爵では無く、聖騎士隊の総長の顔になると、パチリと小気味良い音で指を鳴らした。
聖騎士隊総長が鳴らした指の音を合図に、何処からとも無く、黒尽くめの鎧を着た騎士達が現れ、講堂で膝を折ったままの姿の聖騎士を、数名拘束すると、そのまま講堂の外に連れ出して行く、そんな騒ぎが有っても、トーマスト永世侯爵とアルフレッド侯爵が立ち上がっても、未だ聖騎士達はサード対して膝を折り、臣下の礼を取ったままだった。
トーマスト永世侯爵と、アルフレッド侯爵に関しては『謝罪は無用』とのお言葉は有ったが、聖騎士達は未だに許しを得た訳では無いし、また『サード殿下の御前』でもあった。
「さて諸君、様々な諸事情で皆には無用な荒波を立たせた事を、ここで詫びよう。そして、彼の国がまた!我が国に対して良からぬ事を考えている様だ! 私は、もうあの様な光景は二度とは見たくは無い! 彼の国は、既にサード様の存在に薄々と気付いている様だ! 先程の一件はその事にも関係する・・・ で、国王陛下と宰相閣下ともご相談した結果、サードが彼の国の脅威を跳ね除けれる程に強くあれば?との結論となった! 我ら聖騎士の今回の任務は! サード様を徹底的に鍛え上げる事である! そして、今後のサード様への、諸君達の対応だがな・・・ 取り敢えず、彼の国に情報流していると疑わしき者、今回、何も知らない見習い聖騎士を唆して、サード様に対して反感を持たせようと画策した彼の国の密偵、その密偵から賄賂を供与されていた騎士達を拘束した。
さて諸君、ここまでの話は最高機密だ! 今すぐに忘れろ! 良いな!」
「「「「「ハッ! 忘れました!」」」」」
「うむ! さて諸君、これよりサード君の聖騎士見習いへの任命式を始める。 準備しろ!」
「「「「「ハッ! 準備します!」」」」」と聖騎士達が応えると、一斉に立ち上がり動き始めた。
その後、聖騎士見習いへの推薦人トーマスト永世侯爵、承認者代理アルフレッド侯爵と言う事で、400m級/高速巡洋艦/アルバトロスの船上で、サードの聖騎士見習いへの任命式が行われた。
まあ、この聖騎士見習いへの任命も、ジーク兄ちゃんから聞かされていた『サードが自由に生きる為への布石だ』との事だったが、何か?柵に囚われて行っている様な気もしない訳でも無いサードだったが、次にジーク兄ちゃんに会ったら、その尻から黒い悪魔の尻尾が生えて無いか? 一度、確認してやろうと思っていた。