手加減しても
「さてサード、お前の腕前がこの5年でどれだけ上達したか? 見せて貰おうかの?」
「俺の成長ぶりを見て驚くなよ~!」
「ちょっと待てサード、その棒で無はく、あの八角の杖を使え!」
「え~!? あれって、鉄製の杖だよ?」
「ああ、あれを使え」
「まあ、元伯爵様が使えって言うなら・・・ でも、ケガしても知らないよ?」
「ほう!儂にケガさせるほどの攻めが出来る様なら、また第5副都市の例の店にでも連れて行ってやろうかの?」
「本当に?」
「ああ本当じゃ! その代わり、サードが儂に一本も決める事が出来なかったら、サードは儂の云う事を一つだけ聞くってのはどうだ?」
「その話し、乗った!」と、猛然と元侯爵様に向かって鋭い突きを放ったが、元侯爵様は右手に持った矛の柄を地面に突いたまま、左足を右後方に引き、体裁きのみでサードの突きを捌いてしまう。
それから小一時間後、サードがどんなに本気の突きを放とうが、左腕の義手の変則的な突きや薙ぎを放とうが、右手に持った矛の柄を地面に突いたままの状態を崩す事無く、サードが突きを突き切った瞬間、矛の柄をサードの足に絡め、地面に転がす程度で、最後まで元侯爵様は仁王立ちで、サードの方はゼーゼーと荒い息で地面に転がり、もう体を起こす体力も残っていない、ただ、右手は未だに杖をしっかりと握ったままだった。
そんな、泥だらけに成って地面に転がるサードの姿を見て、満足そうに頷くと、
「サードや、ちっとは成長した様だが、それも髪の毛一本分の成長だった様だのう~ まだまだ修行は足りんのう~ 賭けは儂の勝ちで良いかの?」
「なっ・・・ 何で・・・」
「何で『儂に勝てなかったか?』ってか?」
『コクコク』
もう喋る元気も無く、首を振るしか出来ないサード、
「それは、サードが、主に『虚実』を知らんせいかの?」
『む゛?』
「ああ、言葉では理解し辛いか? 良し、マルクスや、ちと儂の相手をせい!」
「えぇ~っ! 私が師匠の相手をですか?・・・」
「何じゃ?嫌そうじゃの? お前は可愛い弟弟子や、可愛い部下達の為に、実演もしてやれんのか? 情けないの~?・・・」
「いやいや師匠、あんた絶対に本気を出すでしょうが! それに師匠が手に持っているのは『水鏡』でしょうが! 私の胴体を真っ二つにする気ですか!?」
「何じゃ・・・ 隠居したか弱い老人に冷たいのう~ ・・・・」
「そんな弱弱しい振りをせんで下さい、師匠は隠居したと言っても、今でも多分、ナナシャ王国でも確実に10本の指には入る強さですよ! マジで!」
「全く・・・ 久し振りに師匠の相手も務められんとは・・・ 冷たい弟子じゃのう~ 見てみろ、サードなんぞ地面にぶっ倒れて、身動きが出来なくなるほどに儂の相手をしてくれたのに・・・ のう冷たい兄弟子じゃのう~ サードや、そう思わんか?」
『あ゛・・・』
「そうじゃ、あのマルクスに槍を教えたのは儂じゃ、従ってマルクスは、お前の兄弟子と云う事じゃ!」
「もう分かりましたよ! 分かりましたから部下達の前で苛めるのは止めて下さいよ~~~」と、部隊長マルクスから泣きが入った。
「すんなりと『はい、お相手お願いします。』と云えんお前が悪いんじゃ!」
「はいはい、でも、水鏡相手は、流石に私でも嫌ですよ!」
「我が儘な弟子じゃのう~~~」とブツブツ言いながらも、水鏡を収納ボックスに収めると、改めて取り出した。 雷を纏った槍を取り出したが・・・
「師匠、冗談ですよね?! 師匠が雷神槍なんて使ったら、周囲1Kmは焼け野原ですよ! 焼け野原! 」と、かなり怖い目で睨まれてしまい、
「洒落の分からん弟子じゃのう~ ・・・」と云いながら、渋々と雷神槍と呼ばれた赤黒い禍々しい色をした槍を収納し、約2mほどの練習用の鋼鉄の槍を受け取り、静かに構えた。
それからが凄かった・・・・
結果としては、マルクス隊長が、元侯爵様の突きを胸元に受けて負けてしまったのだが、元侯爵様の突きを受けたマルクス隊長は、練習場の壁まで吹っ飛んで、練習場の壁をボロボロに崩して止まった。
で、マルクス隊長は聖騎士の鎧の胸元を大きく陥没させ、口元からは血を流してはいたが、ケロリとした表情で、
「師匠、手加減して下さいって、言いましたよね? 聖騎士の鎧がボロボロじゃあ無いですか・・・」とブツブツと文句を言いながら立ち上がって来た。
あの状態で立ち上がって来るマルクス隊長にも驚いたが、それ以前に、元侯爵様とマルクス隊長の立ち合いが異常すぎた。
全身に雷を纏ってマルクス隊長に突きを放つ元侯爵様、それに対して、同じ様にこちらは全身に黒い炎を纏って受けるマルクス隊長、お互いの攻防で、練習場の地面には、至る所に焼け焦げた跡が・・・
二人が戦う姿は、まるで魔獣同士の戦いにも見えて、同じ聖騎士であるアイゼンや他の部下達も、口を開け、唖然としてその攻防を見ていた。
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