おいおいお前もだ
最近では、毎日の日課の様に、夕方になるとカルラが俺の部屋に顔を出し、一緒に夕食を取って、小一時間ほどお茶を飲みながらお喋りしていると、公爵家のメイド長が迎えに来る。
今日も、
「そうそうサード兄さま、聞いて下さいませ!」から始まり、学園での授業内容、同じクラスメイトの女生徒が何たら・・・ 上級生が何たら・・・ 今、王都で話題のお菓子や、服の話し・・・ 時には、俺が冒険者として討伐したゴブリンの話しを、楽しそうに聞いていたり、カルラ曰く、
「サードお兄さまが、お一人で食事をするのはお寂しいだろうと思って、カルラがご一緒に食事をしてあげてるんです!」との事だが、今、 カルラの母親である。
ヒルダ公爵夫人が、俺と同じ区間の一室で、療養中なのだそうだ、別に病気では無いとの事だったが、カルラにしてみれば、屋敷に帰っても母親が居なくて寂しいのだろう。
無論、公爵家の屋敷には大勢の使用人達が働いてはいるが、実際にカルラが屋敷の中で言葉を交わす相手は、カルラ専属のメイド長と、その部下のメイド達のみで、気楽にプライベートな会話を交わせる相手は皆無なのである。
俺自身が、両親が仕事で居ない間、思えば周りの大人達が気遣って声を掛けたりして貰っていたし、元侯爵様に色々と誘いを受けて一緒に過ごしている時は、寂しさを忘れる事が出来てたから・・・
それに、ジーク兄ちゃんに聞いた所、
「別に病気では無いんだ、病気では・・・ ただ、後半年は屋敷に帰れないからなあ〜 それで寂しい思いをしていた時に、お前が現れたんだ、カルラにしてみたら突然『兄』が出来た様なもんだ、見てみろよあのカルラの喜び様を、お前の諸々の諸事情が無かったら、ウチの屋敷に住んで欲しいぐらいだぞ!」
「まあ、ジーク兄ちゃんの屋敷に住むのも悪くはないと思うけど・・・ 堅苦しい生活もねぇ・・・」
「まあ、娘の事を頼むぞ お兄さま! 」
「僕も、一人の寂しさは身に染みて知ってますし、一人で夕食を取るより、カルラと一緒に食べる夕食は美味いですし、」
「悪いが頼むな!」と、まだ仕事が残っているジーク兄ちゃんは、補佐官に引き摺られて王宮区画の、自分の執務室へ連行されて行った。
左肩の義手が装着されて約1ヵ月、大体の生活リズムが固定されて来た。
平均、朝7時前後に起床して、軽くシャワーを浴びてから朝食を取り、お茶をノンビリと飲んでたらアイゼンが迎えに来るので、もう一杯、アイゼンと一緒にお茶を飲んでから、訓練場に向かう。
訓練場で、午前中はアイゼン達聖騎士と一緒になって基礎訓練、昼食後は、少し長めの休憩を取り、午後からは聖騎士と実践形式の模擬戦を繰り返す。
それはもう地獄のシゴキの様な訓練で、地面に倒れて、身体が動かなくなっても、強引に立たされ、魔法で体力を強引に回復させて、また身体が動かなくなって地面にぶっ倒れての繰り返しで、一度、全く身体を動かす事が出来なくなる程に追い込まれ、アイゼンに担がれて部屋へと帰った事が有るが、その姿を目撃したカルラが大騒ぎして、護衛騎士達が飛んで来るひと幕も有ったが、相手が聖騎士のアイゼンだった事も有り、アイゼンの説明を受けた護衛騎士達は、大人しく持ち場に戻ったらしい、らしいとは、俺自身が気を失ってて、その騒ぎを知らなくって、翌日は検査のみだったので、検査時以外は寝て過ごし、夕食の時にカルラから
「お兄さま、昨夜は、お兄さまと一緒に食事を取ろうと思って、お兄さまのお部屋に来たら、お兄さまが気を失ってるのを見て、私、大騒ぎしてしまって・・・ 」と聞かされ
「そんな事が有ったの?」と驚いたぐらいだった。
第一、精も根も尽き果てて失神してしまい、俺自身、一度、筋肉痛で真夜中に目が覚めた以外は、朝まで爆睡コースだったし・・・
それから約ひと月、今ではアイゼン達と同じ訓練メニューを熟せる様にもなった。
「あ〜 腹減って死にそうだ〜 オバちゃん、今日のおすすめメニューは何〜?」
「ああサー君かい? 今日も相変わらず元気だねー! 今日はラムのスペアリブとポテトサラダ、後は今夜の夕食様にビーフシチューを仕込んだけど、サー君、妹さんと必ず一緒に食事をするから、夕食はココでは食べれ無いんだよね?」
「うん、オバちゃんゴメンね! 妹は、今はちょっと難しい時期だから・・・ 」
「じゃあ、特別に少しだけ『味見』って事で、サー君には出してあげようかね?!」
「本当? やった〜 ♪ 」
「サー君、最近は本当に良く食べるよね?」
「いやいや、先輩方には負けるっす!・・・」
「まあ先輩方はね〜 」
「いやいやアイゼン君、君も学園生の頃も食べてたけど、今はそれ以上だと思うよ!」と言いながら、オバちゃんに渡されビーフシチューを受け取ってニコニコなサード、最初の頃は水すら喉を通らなかったのに、最近では体つきも良くなって来た。
この前までは少し細めな体型だったが、もこの1ヶ月でかなり変わったと自分でも思う程だ。