意外と考えている
しばらく、老執事のセバスが淹れたお茶を二人で静かに飲んでいたが・・・
「セバス、こんなに大勢の騎士様達に見守られていたら、私、恥ずかしくてサード様と忌憚のない、肉親同士のお話しができませんわ・・・ 」
「はい、かしこまりましたお嬢様!」とセバスが短く答え、騎士達を鋭い視線で一瞥すると、一瞬姿勢を正した騎士たちが整然と退室して行った後、
「サード様、お嬢様、セバスも隣室に控えておりますので、御用の際にはお申し付け下さい。」と老執事セバスは優雅に腰を折り、ドアの向こうへと姿を消した。
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・ ふぅ~~~ やっとセバス以外はこの区画から出た様ですね、貴族の子息女の生活って、本当に面倒だと思いません事?サード様?」
「確かに、この3か月の事を思うとね・・・ でも貴族の子息だと、平民の子に比べて、衣食住に関しては何も心配する事が無いのでは? 」
「ええ、平民の子達と比べると、サード様が仰る通り、衣食住の問題も無ければ、権力と富も有りますし、魔法や学問等を学ぶ環境も整っています。でも、それだけですわ! 第一、物心ついた頃から礼儀作法に、色々に習い事が満載で、しかも『貴族の子息女なら、このぐらい出来て当たり前』と言われる習い事も多い上に、他家貴族家の食事会に招待されれば、毒殺を心配してまともに食事も出来なければ、同世代の子息女達と一緒になって遊ぶにしても、色々と暗黙のルールがありましたし、本当に心を許して話しが出来る友達なんて、出来る筈もなく・・・ 今年入学した学園のクラスでも、もう派閥が出来ていますし・・・ 」
「確かに、私が学園に在学していた時も、貴族同士の派閥争いは酷かったですしね・・・ 」
「やっぱり・・・ 今年は伯爵家の子が5人も入学してる上に、公爵家の私が居て・・・ 全くカオスな状況ですわ! 」
「アハハ、」
「笑い事では無いのです! 」
「アハハ、ゴメン、ゴメン、やっとおすまし顔が取れたと思ってね!」
「かっ、家族や肉親に対しては当たり前事です!」
「気を遣ってくれてありがとう・・・・ 」
「いえ、父上からサード様の事は良く聞かされていましたから・・・ お会い出来るのが楽しみで、何を話しすれば良いか?が分からなくて、サード様は学園を先に卒業された先輩でしたし、共通の話題が分からず一方的に学園での出来事を話しただけで、お礼なんて・・・・ 」
『俺は、目の前でニコリと笑う少女に、気を使われていた様だ・・・・ 』
「じゃあ、親族からの提案として、先ず、俺に様は要らないし、俺も君の事を『カルラ』って呼ぶ事にするよ」
「ハイ、サード兄さま!」
「いや、だから『様』はいらないって・・・ 」
「いいえ、サード兄さま! 『様』では無く『さま』です! 」
「どこが違うの?」
「全然違います!」と反論され、尚且つ、カルラにウルウルとした上目遣いで、
「カルラがサード様の事を、サード兄さまって呼んではダメですか? 私、上には兄や姉は居なくて・・・ 私が幼い頃に、サード兄さまのお父様とお母様が立ち寄られてて、その度に、お父様方達から聞くサード兄さまのお話しを良く聴いてて・・・ だから私のお兄様の様な気がして・・・」
「エッ? うちの両親と良く会ってたの?・・・」
「ハイ! 2〜3ヶ月に一度は、公務で王都に来られてましたが?・・・」
「ハアァ〜? 俺、今まで、うちの両親の仕事は夫婦揃って冒険者だと思ってたけど?・・・ 」
「だからか〜 俺が学園に簡単に入学出来たのも、卒業時に色々な所から就職の斡旋が多かったのも・・・」
「当時、まだ幼かった私は詳しくは存じませんが? 何か特別なご事情があったご様子で・・・ 」
「そっか〜 親父や母さんが生きてた頃は、俺も幼かったし・・・ でも、親父達の友達や、交遊関係がある人達には貴族も多かったし・・・ 考えて見れば、元侯爵様の爺さんも大貴族だし、母さんの実家も王都で一番の豪商で貴族位持ちだし・・・ 俺って、親父が『堅苦しい生活が嫌で、実家を出て自由な冒険者になったんだ! 冒険者生活は良いぞ〜!』って行ってたのを鵜呑みにしてたんだな〜 」
「・・・・・・・・・」
「どうした?」
「いえ、私が考えも無く喋ってしまつた事で、サードお兄さまに、お父様と、お母様達の事を、思い出させてしまい寂しい気待ちにさせてしまたのでは無いか?と・・・」
そんな事を言いながら、少しシュンとした表情で俯いたカルラの頭を、ポンポンと優しく叩きながら、
「気を遣ってくれてありがとう。 カルラは優しいね! でも、もう5年も前の話しだし、俺はもう大丈夫だよ、それに、カルラって名前の可愛い妹も出来たし、もう寂しくは無いよ!」と慰めると
「あっ、ありがとう・・・」と言いながら、顔を真っ赤にして、余計に俯いてしまった。
その後、お互いに緊張の解けた2人は、先々代の国王が率いる4人が談話室に乱入して来るまで、色々と話しをした。