プロローグ的な感じ?
小高い丘の上に、ぽつんと建っている小さな家、その小さな家の縁側?
縁側と言うには、広く、屋根も掛かってない事からウッドデッキと言った方が良いのだろうか?
この小さな家の持ち主は、頑なに『縁側』だと言い張っていた。
そして、その縁側でこの小さな家の持ち主が膝の上に三匹の猫を乗せて、揺り椅子に身体を預けながら、その眼下に流れる月明かりに照らされた雲を眺めつつ、微睡を貪っていたが、
膝の上で丸まっていた子猫の内の二匹が、ピクピクと耳を動かして何かに気付いた素振りを見せて、揺り椅子に体を預けている事物の口元付近を髭を震わせながら確認すると、お互いに目線で確認する様な仕草をする。
すると、小さな家が音もなく静かに沈み始め、そして、穴の中にすっぽりと埋まってしまうと、それまで見えていた月明かりも、頭上に何かを被せられたのか?見えなくなってしまった。
先程までの景色と違い、薄暗い闇の中、揺り椅子に体を預けた人物の顔を二匹の仔猫が覗き込む。
その人物がお腹の上で組んでいた両腕は細く、枯れ木の様で、その顔も深い皺で覆われていた。
そして、その人物の貌を覗き込んでいた真っ白な仔猫と、真っ黒な仔猫は、悲しそうな顔をして、その瞳を閉じる。
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と、静かな時間が、僅かばかり流れたと思ったら、突然、ドーン!と激しい音が響き、小さな家が揺れた。
「うおぉ~お! 何事!? えーっ! なんじゃこりゃ~~~!」と、揺り椅子に体を預けていた人物が、ドーン!と響く音に驚いて目を覚まして、そして、今度は自分の見慣れない腕を見て二度驚いている。
そして、揺り椅子に体を預けていた人物が驚いて飛び起きた拍子に、その人物の顔を覗き込んでいた2匹の仔猫が、縁側の床にコロコロと転がり落ちると、まるでポヨーン♪と音を立てるかのように5歳児ぐらいの見た目をした幼女の姿に変わった。
「ねえチャトレ、シロとクロの二人は、今度はいったいどんな悪戯をしたのかな?」
「え~っと、今回の実験は、船体防御用バリアの実用化実験だって!」
揺り椅子に座った人物の質問に、膝の上で丸まって寝て、我関せずを決めていた茶トラ柄の仔猫が、これも先程の仔猫たちと同じように、ポヨーン♪と音を立てるかのように5歳児ぐらいの見た目をした幼児の姿に変わると、ニコニコと嬉しそうに返事をした。
「で、さっきから響いている。この衝撃音は?」
「多分、依頼を済ませて帰って来たレアが、船に降りようとして、船体防御バリアに阻まれて激突した音と、さっきからドン・ドン・ドン!と響いている音は、レアがバリアを破ろうとして、バリアに攻撃を加えている音かな?」
「ふぅ~・・・ で、だったらどうしてレアは通信で『入れてくれ』って言って来ないのかな?」
「ああ、とうさん、それは無理だよ! だって、あの二人が・・・」と、縁側の端で何やらしている。白い髪の色をした女の子と、黒い髪の色をした女の子の後ろ姿を指さす。
指差された先を視線で辿ると、その先では、何故か?どこかの事務員さんの様な格好をした白い髪の色をした女の子が、インカムを装着して『当、コールセンターの受付時間は18時を持って終了しています。また明日のお問い合わせをお願い致します。』と言って、目の前に展開されていた連絡用のウインドウを閉じている様子が見て取れた。
「何が『当、コールセンターの受付時間は18時を持って終了しています。また明日のお問い合わせをお願い致します。』よ! シロ! 早くこのバリアを解除しなさいよー! じゃあクロ!」
「はーい、来々軒! 今日の出前の受付は18時まであるよー! また明日電話してくると良いよー!」と、クロと呼ばれた黒い髪の色をした女の子が、幼児用のチャイナ服を着て、電話注文を受けている店員さんの真似をしていた。
「ハイハイ、分かった。分かった。 約束の時間に帰れなくてゴメン、だからお家に入れて~!」
「反省の様子が見れてなーい!」
「以下同文!」
「え~~~っ!」
「もうちょっと頑張って、ゴメンなさいする!」
「激しく同意!」
赤い髪に小さな黒色の巻き角を持った幼女が、それぞれ髪の色と同じ色をした小さな猫耳を持った幼女2人に責められている様子を見て、助け船を出す事にした。
「クロもシロも、それぐらいにしたらどうだい? 何もレアも遅くなりたくて遅く帰って来た訳でもないんだし、それに、一応は遅くなるって連絡が有ったんだし、ねっ?」
「でも・・・ レア、遅すぎ~~!」
「同意!」
「イヤイヤ、レアは、依頼仕事の帰りにワイバーンの群れに襲われていた船団からの救援依頼を聴きつけて、ワイバーンの群れを討伐して来たんだし・・・」
「でも、遅すぎる! レアなら50匹程度の群れなら、30分も掛からない!」と白い髪の幼女、シロが言うと、
「瞬殺! 決定事項!」と黒い髪の幼女、クロが少ない言葉で合意する。
まあ、早い話が、冒険者ギルドからの急な護衛依頼で、6日近くも家を空けていた大好きな家族が、今日の18時ごろには合流する事が出来そうだと聞いて、2人が大喜びしていた所に、近隣空域を航行中の船団から、ワイバーンの群れに襲われているとのSOS通信が入り、レア達が進路を変更して討伐に向かったのだが、その後、討伐終了の連絡も無く、18時過ぎには帰ってくる予定が、22時を過ぎても帰って来ないので、二人とも拗ねてしまってたのだ・・・
管理者権限で船に張られたバリアを解除すると、レアに向かってバリアを解除した事を伝えた。
「ありがとうございます。お父様♪ えっ!? ・・・ おっ・・・・ お父様・・・・
ギャァ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 」と、レアは、自分が『お父様』って言って敬愛する人物の顔を見ると、その途端に、口から泡を吹き白目を剥いて失神してしまった。