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Past Letter  作者: 東師越
第3章 ホシノキズナ
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第67.5話 Shining Darkness

孤独が寂しいから


独りが怖いから


それだけの理由だけでは


君への好きは計れない








Shining Darkness ~Childhood~








 約100年前、〝巨界(ガイア)〟最大の国バルガンノ王国の首都レゾリーチにある王宮内王室……そこにはゾーネの姿と玉座に座る老人の姿があった。


 「よいかゾーネ、お前はキール家の最後の末裔であり唯一の跡取りなんだ、だから」


 「はなしながいよ~」


 老人はバルガンノの王ゾルマ。


 ゾーネの祖父であり、巨人化をせずとも向かい合えば威厳があり、大柄で心臓の位置程まで伸びた髭が王の品格を漂わせる。


 それに向き合い立って目を合わせるのは、孫のゾーネ。


 歩く威厳と言っても過言ではない祖父の姿を前に、緊張感のきの字も無い。


 ゾーネにとっては慣れた光景で、そして少し憂鬱そうに、祖父の重要な話を遮る。


 「……はぁ……バカ息子はモリの一族の平民と駆け落ちし、生まれたばかりのお前を置いて疫病により両方あっさり死んでしまった……もうお前しかいないのだ」


 「へ~」




   ※ ※ ※ ※ ※




 ゾーネは両親の顔を知らない。


 ゾルマがゾーネの父親を勘当し、王族とは無縁である事にするために写真や経歴等は一切抹消された。


 しかしそれでもやはり子供が心配だったゾルマは、人を雇い密かに息子夫婦の状況などを知っていた。


 そんな中夫婦を襲ったのは、ザルブかぜ。


 当時治療法は生物学の神と業界から称されている学者マルベス・ロジエによって、薬すら必要としない適切な処置方法を確立させていた。


 しかし薬を必要としないために、本当に効能があるのかと信用性が疑われ、当時はその方法が中々広まらなかった。


 そのためにモリの一族の世界の田舎で細々と暮らしていた夫婦は、その村と共に一人娘を置いて命が潰えた。


 それを知ったゾルマは激しく塞ぎ込み、2人の亡骸とゾーネをバルガンノへ極秘裏に運ぶ事を命じ、体調を崩した。


 王国で実情を知る一部の関係者のみによる葬儀で、ゾルマは2人の顔を見るやいなや、言葉も発せずに泣き崩れてしまった。


 あの日、息子が王位を継承せず国を出ると言った日……ゾルマは本当は少し嬉しかった。


 妻を早くに亡くし、たった1人の子だったために王位を継承させるためそのためだけに……政治などの教養、品格、マナーなどの教育を無理強いさせてきた。


 本当は伸び伸びと育てたかったが、国のために仕方が無いと心を鬼にしてきた。


 息子は文句のひとつも言わずに、それを受け入れていた。


 そんな息子が、初めて自分の意思を自分の言葉で伝えたのだ。


 しかしそれは国を裏切る行為……〝巨界(ガイア)〟の、それもバルガンノの王位を放棄するとなれば、バルガンノの誇りや威厳は他国から失われる。


 ゾルマは子を思う親心よりも、国を担う王として息子を勘当した。




 「───ありがとな、父上」




 去り際、微かに耳に入った言葉が、最期に聞いた息子の言葉だった。




 亡骸の入った棺桶にしがみつき、周囲を気にせずゾルマの慟哭は葬儀場に響き渡る。


 もっと色んな所に出掛けたかった、もっと親子の時間を過ごしたかった、もっと話をしたかった。


 もっと……結婚を心から祝いたかった……孫の誕生を、同じ場で祝いたかった……。


 後悔ばかりが、涙と共に溢れ出る。


 何も分からない赤ん坊は、許ない口に親指を咥える。




 「王……この子は……」


 「……ワシが育てる……ワシらが育てる……次期王ではない……この子を育てる」




   ※ ※ ※ ※ ※




 「……ゾーネ、ワシは老い先短い……死ぬ前に退位しなくては王としての責務を全うしたとは言えないのだ、学はあるのだから申し分ないはずだが……」


 「なんかいやだ~」


 「……父親に似て喋るだけで疲れてくるなぁ……」


 にしても疲れ方が違う、父親はその学習意欲と知識量でゾルマは何だかよく分からない言葉を並べられて疲れた。


 しかしゾーネの場合は、単にわがままのためゾルマにとっては全く未知の疲れが肩にドッと乗りかかってきている。


 「もういい~?」


 「……ああ、いい」


 またいつものように、ゾーネへの説得の試みを諦めた。


 仕方ないでは済まされない、死活問題なのだから……歴史あるバルガンノ王国の存亡の危機と言っても間違ってやしない。


 しかしキール家が滅べば、また分家や爵位の高い貴族からでも次期王家を決めればいい。


 あらゆる種族の世界のあらゆる国が、そうやって均衡と束の間の平和を守ってきた。


 それは、ガービウ・セトロイ率いるジェノサイドの入れ知恵から始まった、見せかけの歴史と、埃を被った伝統と、廃れゆく人の豊かな心が創り出す退屈な世の中だった。


 「やった~♪」


 ゾーネは王室を勢いよく出て行った。


 「……ゾルマ王、ゾーネ様に王位を継承されても、あの言動では……他国に示しがつきません」


 「ならん……キールは英雄の血、900年前の〝千年戦争〟にて巨人族を守った英雄の血だ、絶やす訳にはいかない……それこそ他国に示しがつかない」


 そんな中でも、それでもゾルマは血統主義にこだわった。


 バルガンノも当然ながら、コーゴーとジェノサイド、その両者と取り引きを行っているが、政治には絶対不干渉と世間的に非常に珍しい。


 珍しい理由として、両者からの第三者という目線が国の行き先にどれほどの影響力があるのかを知るためだ。


 ほとんどの国が両者に大きく依存する中、それらを堅く拒むこれはゾルマの独断だ。


 「……そうでしょうか……」


 元は巨人族とは、誇り高き種族で、義理堅く、他種族から憧れられる程の強く気高い矜持を持っていた。


 それを知るからこそ、ゾルマは何としてもキールの血を絶やしたくなかった……それが己の誇り、王としての誇りだからだ。それに……


 「げほっ!ごほっごほっ……かふ……」


 「王!」


 「いや、何でもない……」


 自分に残された時間があと僅かなのだと、咳をする口を押さえた手に着いた、濃い血が物語っているのだから。


 だから、早く───。




   ※ ※ ※ ※ ※




 ゾーネは自室に戻る途中で地下を探検し、その奥部で立ち入り禁止の文字はマークが数多く書かれている扉を見ていた。


 いつも見ている扉で、いつも気になる場所だ……祖父のそばに仕える者数人だけが入ることの許された場所……好奇心は当然宿る。


 「……なにがあるんだろ~♪」


 ゾーネはおそるおそる開けようとするも、扉には当然鍵がかかっていた。


 「う~ん……ど~しよ~……あ~♪お~い♪」


 するとゾーネは、たまたま目の前を通ってきた白衣を着た研究員の女性に声をかけた。


 この研究員がこの部屋を出入りする様子を何度も見かけたことがあったのだ。


 「ゾーネ様、どうされましたか?」


 「あそこあけて~♪」


 ゾーネは右人差し指で扉を指差した。


 「……申し訳ありません、あの部屋は関係者以外立ち入り禁止となっていて」


 「おじ~ちゃんにおつかいたのまれたの~♪」


 「……分かりました、王は何がほしいとおっしゃっていましたか?」


 ゾルマがそんなお使いをゾーネに頼むはずが無いと分かってはいたが、ゾーネをこれでもかと甘やかすゾルマを見てきた研究員はゾーネが嘆願すれば頼みかねないとも同時に考えた。


 「ん~とねぇ~……わすれちゃったから、みたらおもいだすよ~♪」


 「……そ、そうですか……となると王に今一度聞きに行きましょう」


 「ええ~おつかいしたいの~♪」


 「……分かりました……今回だけ、10分だけですよ」


 研究員はしぶしぶ立ち入り禁止の扉を開き、ゾーネは入っていった。


 研究員のくまがかなり濃いのを見る限り、きっとここ数日まともに寝ていないのだろうと思える、それ故の正常な判断が下せないのもゾーネを行かせた理由にはなるだろう。


 だがこの研究員は何度かあの部屋を出入りしたことがあるとはいえ、中にとてつもなく危険なモノがあるという説明は受けていないし、危険性がありそうならゾーネならば判別は出来る。


 むしろ本当にお使いであるのならば、そんな危険なモノに興味は惹かれないと考えた。


 研究員はゾーネは言葉や口ぶり、顔の見た目に幼さはあるものの思考力そのものは大人と大差ない事を知っている。


 今の研究員にとっては、そんなことよりも早く寝たいという衝動に駆られているため、ゾーネが出てくるのを待たずにその場から立ち去ってしまった。




   ※ ※ ※ ※ ※


 


 研究員は一応報告にと思い王室に向かっていった。


 絶対の義務は無いが、家族大好き巨人のゾルマには報告してあげたいという感覚の方が正しいくらいだ。


 「ゾルマ王、本当に実行するつもりですか……以前バルガンノ郊外の森林で発見された、賢者ベントスのモノと思わしき肉片を……投与するなど……」


 ゾルマは、数々の勲章を服に身につける、若いナリの男と対話していた。


 男の名はプロリム・レンジ、このバルガンノ王国で最も強いゾルマの騎士だ。


 「バルガンノが古来より強国であったのは農工の生産力だが、それだけでは今後他国に侵略され、略奪されるだろう……軍備の強化は怠ってはならぬ…適合するかどうかは、やってみなくては分からぬ」


 「横暴です、いたずらに死んでもいい国民などバルガンノには一人もいません」


 「希望者を募れば、現れる者はおるはずだ」


 「しかし!」


 「プロリム、これは」


 「失礼します、ゾルマ王」


 どう考えても入るタイミングではなかったが、眠気は極限をとっくに超えているためそんなことはどうでもよかった。


 「……どうした?」


 「ゾーネ様がゾルマ王からのおつかいだと極秘研究室に入りましたが、何故わざわざゾーネ様に」


 「ワシはゾーネにそんなこと頼んでおらん」


 「……え……」


 最悪だ……これでは自分があの立ち入り禁止を絵に描いたような部屋に、あえて入れてしまったというシナリオとなる……。


 クビは間違いなしとしても、好きな仕事が出来なくなるのは嫌だな……という考えと、眠気が研究員の脳内でぶつかり合う。


 「今すぐ連れも」


 「ゾルマ王!!緊急報告です!!」


 「……何だ」




 「───レゾリーチ正門より!正体不明の軍隊約5万が襲撃!……敵襲です!!」




 「何だと!!?どこからだ!!」


 思わず玉座からガタッと立ち上がった。


 あまりにも何の前触れもなく、現れた謎の連中の顔も浮かばない……想像もつかない……。


 外から聞こえてくる爆発音や、銃火器による乾いた音が徐々に聞こえだし、近付いてくる感覚をゾルマは覚えた。


 「諜報員からの情報によりますと……敵の首元に烙印があるとの報告が……十中八九ジェノサイドかと思われます!!住民の避難は既に開始しました!!」


 「ジェノサイド!!?ゾルマ王!ジェノサイドの怒りを買うような事をなさったのですか!!?」


 「……いや……していない……」


 「しかし!ジェノサイドがたかが一国に侵略行為など不可解にも程があります!何をしたのですか!?」


 ジェノサイドの誰か1人でもこの王国にいたならば、こんな事態にはならなかったはずだとプロリムは今さらもう手遅れな後悔を焦りに変え、同じ質問をゾルマに投げかけてしまう。


 「ゾルマ王……そうだとしたら、ゾーネ様の身が危険です」


 多分研究員のこの言葉が無ければ、ゾルマとてこの混乱の中、ゾーネの事を頭によぎらせただろうか……。


 「っ!!プロリム!ゾーネの元に向かえ!!」




   ※ ※ ※ ※ ※




 同じ頃、ゾーネは極秘研究室の一番奥にあるさらに別の分厚い鉄の扉の前に立った。


 「……これかな~?」


 ゾーネは部屋の扉の横にある手の形が描かれた指紋認証に右手を置いた。


 すると機械の溝のような線は黄緑色に光り、扉が開き扉の向こう側の部屋に入っていった。


 コーゴーから提供されたセキュリティ対策、指紋認証システムを導入した扉だ。


 この部屋だけ妙に近未来的な、無機質な鉄の部屋だ……そんな部屋が、ゾーネのワクワク感をさらにかき立てる。


 「……なにこれ~?」


 ゾーネは部屋の真ん中のテーブルに置かれていた、アメ玉にも満たない大きさの謎の欠片を見た。


 かなり硬そうな透明なケースに入っていたが、再び指紋認証システムをゾーネは機械に手を乗せて溝のような線が黄緑色に光ると、ケースが開き白い煙が噴き出した。


 「……なんだろ~?……つめた~い……」


 ゾーネは両手で摩ったり、匂いを嗅いだりし、そして口の中に入れた。


 「ん~?」


 「ゾーネ様!!!」


 「んっ!……」


 ゾーネはプロリムの呼びかけに驚き、思わず欠片を飲み込んでしまった。


 「ゾーネ様!!!至急王室に向か……ゾーネ様……このテーブルの上に置いてあったモノ……どうされましたか?」


 「……え~っと~……たべちゃった……」


 「なっ!!!?……か、体に何か異変はありませんか!?どこかが痛いとか!!」


 「ん~と……ないよ~?」


 「……行きましょう!」


 一応その場での異常が無いと分かり、プロリムはゾーネの手首を握り急いで部屋を出た。


 「うん」


 何が起こっているのか、何故プロリムは急いでいるのか、もしかしたら勝手に入って激怒した祖父から逃げるためなのか……。


 何をどう考えても分からないため、ゾーネはとりあえずプロリムの指示に従った。




   ※ ※ ※ ※ ※




 プロリムはゾーネを連れてエレベーターに乗り、王室に向かっていった。


 城の最上階にある王室だが、いざというときのための緊急脱出用の隠し通路の入り口があるためプロリムはゾーネを連れてきた。


 「ゾーネ!無事か!」


 ゾルマは慌てて、ポカンとするゾーネの体に傷が無い事を確認し強く抱きしめた。


 「うん……ど~したの~?」


 「よかった……敵襲だ、分かるな!」


 すぐに離れゾーネの両肩に手を置き、極端な簡潔さで状況を理解させようとした。


 「……うん……」


 先ほどから街から聞こえてくる音と祖父の言葉で何が起こっているのかを察することは出来たが、実感がイマイチ湧かない。


 「報告!!バルガンノ軍レゾリーチ本隊は半壊!!駆けつけた増援の編成隊もレゾリーチ前で足を止められ苦戦!!」


 「ゾルマ王……このままでは……」


 「……ワシも出る、総力戦だ」


 「……はい、第一本隊に連絡だ!!」


 ゾルマは先代が王だった頃、剣術をあらかた極め、戦線に立った経験も持っている。


 「はっ!!」


 伝令兵は戦地に戻り、ゾルマは玉座の後ろに飾ってあった長刀を手にして立ち上がった。


 「プロリム、ゾーネを〝巨界(ガイア)〟から逃がせ」


 「……ゾーネ様が1人で、生きられるでしょうか……」


 「この戦いが終わった後に迎えに行けばよし……見つからなければ……いい機会だ、独りたくましく生きていく強さが身に付く」


 「ゾルマ王!!」


 ゾルマは自分の命は何があってもここが終わりなのだろうと腹を括った……いや、括りきれていない事は、長刀を持ちながら震える手で目に見える。


 「あくまでもしもの話だ、ジェノサイドが狙うとすれば賢者ベントスだろう……あれは無事か?」


 「いえ……それがその……」


 「どうした?……」


 「───ゾーネ様が……飲み込んでしまったようで……」


 「……は?」


 「……ごめんなさ~い……」


 「悪いのは私です、ゾーネ様を驚かせてしまって……しかし!ゾーネ様曰く体に変化は無いそうです!」


 「……逃がせ、早急にだ……早く!!」


 何が起こるのか分からない未知の物体をゾーネが口にしてしまった……それもショックだが、それよりも想像よりも凄まじい勢いで進行してくる謎の軍隊の足音の方が気になる。


 「……分かりました」


 「神樹林の入り口は南門を抜けた先の一枚岩にある、いいな」


 「はい、行きましょうゾーネ様」


 「……おじいちゃん……やだよ……やだよぉ……」


 長刀を握る祖父の姿をゾーネは初めて見た。


 この姿を見る時は、王である祖父すらも参戦しなければならない程切羽詰まった事態のみだと察していた。


 ゾルマ本人は口に出さずとも、ゾーネにはそれが容易に理解出来る。


 祖父が死ぬわけ無い、祖父はきっとものすごく強い、そう案じ続けても涙は流れる。


 「……ゾーネ……かわいい我が孫……」


 ゾルマは自分の事が心配でたまらないゾーネを慰めるために、優しく頭を撫でた。


 「……行きなさい、愛している故に守るのだ……行きなさい」


 「……うん……」


 ゾーネは涙を両手でゴシゴシと拭い、プロリムと共に正門とは反対側の南門に向かっていった。


 王室の奥にある隠し階段を使って、地上に降り、振り返る事無く走り続けた。


 「報告!!本隊……増援隊……壊滅しました…」


 「……そうか……向こうの大将は誰だ」


 「……ヤドルモ・ナダラです……」


 「ジェノサイドの最高幹部をよこすとは……」


 ジェノサイドの幹部はあらゆる世界に数万人程いる、その幹部が管轄する地域にいるジェノサイドの人々を仕切る。


 だが、最高幹部はジェノサイドに僅か3人しかいない。


 さらに強い戦闘に特化した別の少数精鋭の隊はあるが、最高幹部は戦闘能力もそうだが、何よりジェノサイドを支える力のある者が就く位置だ。


 そんな最高幹部が動けば、5万ぽっちの戦力でも奇襲により王国の王都を壊滅させるなど、容易いモノだ。


 「……もう……勝ち目は無いかと……」


 「勝ち目がどうとかではない……戦うのだ……守るとは強い者の特権ではない……守りたいモノがある者の義務だ」


 ゾルマは王宮を出て戦場に向かっていった。




   ※ ※ ※ ※ ※




 数十分後、8メートル近く身長のあるヤドルモは極秘研究室に侵入していった。


 軍隊が正門から王宮までの道を作り、ヤドルモ率いる本隊が一直線に進む、ただそれだけが王都を壊滅させる理由だった。


 もちろん本隊にも王国兵は攻撃を仕掛けたが、全てはねのけられ躊躇なく殺されていった。




 その中の1人が、ゾルマだった。




 ゾルマは屈さず鬼気迫る勢いで本隊のほとんどを削るが、ヤドルモがあまりにもあっさりと一撃で鎮めてしまった。


 「……ヤドルモ様、ありません……」


 「……そうか……なら……俺らが来た入り口の反対側だろうな……これは何としても成功させなきゃなんねぇ任務だ、行くぞ」




   ※ ※ ※ ※ ※




 プロリムとゾーネは、一枚岩に向かって走っていた。


 「はぁ……はぁ……ぅう……」


 「ゾーネ様、どうされましたか?」


 「……だれかくるよ……」


 (……私でも気付けない距離で……やはりゾーネ様は逸材……となると……)


 すると2人の前にあっという間にヤドルモ達6人が追いついてきた。


 「……くっ……」


 「何でお前らだけ逃げてんだ~?巨人族は売られた喧嘩を買うんだよな~?」


 「……認知に誤りがある」


 するとプロリムは剣を抜き、あっという間にヤドルモ以外の5人を斬りつけた。


 「売られた喧嘩を買うんじゃない、守るためにわざわざ買ってやるんだ」


 「へぇ、ちゃんと強ぇのいんじゃねぇか」


 「ゾルマ王のバルガンノ軍に、弱き者などいない」


 プロリムは正面からヤドルモに向かって剣で刺しにかかるが、ヤドルモはその切っ先を右手の平で受け止める。


 「なっ!?……無傷……」


 「なまくらな剣だなおい、ジェノサイドの最高幹部なめんな」


 ヤドルモはそのまま剣を握りしめ、粉々に握りつぶした。


 「っ!!……」


 「終わりだ」


 ヤドルモは剣を蹴り上げ、プロリムの頭を右拳で殴りにかかった。


 しかしプロリムは15メートル近くに巨人化し、ヤドルモの右拳はプロリムの両足の間で空を切り、プロリムはヤドルモを右脚で蹴り飛ばした。


 「ちぃ……ってぇな!口ん中切っちまったじゃねぇかよ!!」


 「……ゾーネ様、速く入り口へ」


 「でも……」


 「速く!!!!」


 「っ……」


 「……岩に飛び込めば樹に囲まれた霧深い道が現れます、そこを真っ直ぐ辿ればウーヴォリンの神樹林という場所に出ます、そこからは……ご自身で、道を歩いてください」


 「でも!」


 「……あなたが生きてくれるだけで、我々はそれでいいのです……必ず迎えに行きます……ゾルマ王と共に!!!必ず!!!」


 「……うん……」


 ゾーネは涙を拭い、勢いよく岩に飛び込んでいった。


 「……よかっ……がはっ!?……」


 「何がいいのか教えてくれよ~あ~?」


 ヤドルモはプロリムの腹部に渾身の右拳を放った。


 プロリムは右手で腹部を抑え、両膝と左手を地面についた。


 「はぁ……はぁ……」


 「さてと、お命頂戴といくか~」


 ヤドルモは背負っていた4メートルの刃の大剣を抜いた。


 (なんて重い一撃……全身に衝撃が……)


 「じゃあな」


 (……だが)


 ヤドルモが右から左へ剣をプロリムの首に斬りにかかった。


 しかしプロリムは直前でかわし、ヤドルモに右拳で殴りにかかった。


 しかしヤドルモは左手の平で難なく受け止めた。


 「なっ……」


 「雑魚雑魚、なんだその火事場の馬鹿力」


 「っ……」


 「あばよ」


 「……ゾーネさ」




   ※ ※ ※ ※ ※




 ゾーネは道のりを走っていく途中、肉体が斬れる音を聞き取り、立ち止まって振り返った。


 「……あ……ぅう……」


 ゾーネは再び涙を流しつつも、前を向いて再び走り始めた。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「はぁ……はぁ……はぁ……」


 あまりにも広い光景に、極限状態の精神にありながらもゾーネは見入ってしまった。


 全ての世界を繋ぐ架け橋〝ウーヴォリンの神樹林〟。


 しかし目の前には樹林と呼ぶような木々は一切なく、真ん中にたった一つそびえ立つあまりにも巨大な樹、〝神樹ウーヴォリン〟。


 振り返るとそこは木々で生い茂り、奥が見えない程に暗い樹林となっていた。


 「……おじいちゃん……プロリム……」


 草原と呼ぶべきその地を、道なき道をただただ走り続けた。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「……はぁ……はぁ……あ……」


 何時間走っただろうか……目の前にたった一つ在る樹は、ほとんど目に見える大きさが変わっていない……広大過ぎる……。


 そんな中ゾーネは一台の荷馬車を見つけた、どうやら休憩中のようだ。


 ゾーネはとにかく逃げるために荷馬車の中に乗り込み、積荷の木箱が大量に積まれた中、木箱の上に置いていた大きな布で身を隠した。


 操縦席とは仕切りがあり、休憩中だった商人の男にはゾーネの姿は全く見えなかった。


 「うし、そろそろ行くか」


 手綱を握り、2頭の馬は真っ直ぐに進んでいく。


 ゾーネはいつの間にか眠ってしまっていた───。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「お、お前誰だ!!」


 「……ん……」


 ゾーネが目を覚ますと、目の前には商人の男が腰を抜かしており驚愕を隠しきれずにいた。


 「……あ……えと……ありがとう……ございました……」


 目をこすり、立ち上がって荷馬車から降りた。


 「……わあ……」


 そこは〝ウーヴォリンの神樹林〟ではない、街が一望出来る丘の上……人間界だ。


 しかし、ゾーネがこの場所が人間界だと知るのは、この時よりもう少し後だ。


 「……おしっこ……」




   ※ ※ ※ ※ ※




 それからゾーネは約100年間、人間界中を放浪した。


 人里に入っても何もする事は無く、かといって盗みを働くなどは微塵も頭によぎらず、よく飢えで倒れた。


 やがて森に入り、各地の森を渡って生きながらえた。


 自覚は無いがモリの一族の血も混じっているため木々と共鳴し、食べられるものの識別などは容易く、水のありかも知り、慣れてくると余裕が生まれる。


 余裕が生まれると、頭から離れなくなる……プロリムの事……祖父の事……。


 いつか迎えに来てくれる、敵を蹴散らして、きっとボロボロかもしれないけど……でも、迎えに来てくれる……約束したのだから……そう信じ続けてきた。


 だが、数十年も経てば、迎えに来ない事はもう分かりきっている。


 ただそれでもそうやって信じ続けなければ、孤独で寂しくて、どうにかなってしまいそうだった。


 迎えに来てくれたら、今度はちゃんと祖父の話は聞こう、これまでの生活だって話したいし、それから、それから……と、何度も頭の中で繰り返した。


 恐怖だってある、あいつらがここまで追ってきたら……そう考えていると不安で、巨人化して少しでも安心感を感じないと眠れない夜を過ごした。


 誰にも見つからないように、誰かに見つけてもらうために、ゾーネは見えない何かを待ち続けた。


 孤独はもう嫌だと……何度も生きることを諦めかけた……狂って、変に高笑いしたり、木にかじりついたり、人里で大騒ぎしたり……その度に泣いたり。


 木々との共鳴は、コミュニケーションは取れなくても孤独を忘れるくらいには救われた。


 それでも、人の温もりが欲しくて……でも、人に見つかりたくなくて……彷徨い続けた。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「助けてええて!!!」


 随分久しぶりに聞いた、人の声。


 幼い頃の夢を見ていたため、現実とごっちゃになって目の前がよく見えていなかった。


 眠気が覚めた頃まばたきを少し早め、その時視界に入った光景に、全てが奪われた気がした……目、耳、心───全てを。


 「やっとか……これでハニーローストピーナッツは俺のも……」


 「きみはだ……」


 スローモーションというより、時間が止まったに近い感覚を覚えた。


 枯れ果てたのか、涙は出ない。


 それよりも胸の鼓動の高鳴りが、むず痒い胸の内が、火照り熱い体が、目の前の男が……。


 考えがまとまらない、考えてもどうにかなるものじゃない、ずっと求め続けていた、この感覚……安心感と……もう一つは……知らない、けど……あたたかい……。


 でも直感で理解出来た。


 「……なあ……名前……なんていうんだ?」


 「……へ?あ……ゾーネ・キール……だよ……きみは?」


 「……クラジュー……エフィーグ……うん」


 「……そっか……」


 自分はこの人が、この世の誰よりも、心の底から───好きなんだ。




 Shining Darkness  Fin.




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