第61話 9th girl
求めることも知らず
運命に弄ばれ
私は人知れず生きる
もしこの世が
私に希望をくれるなら
どうか私を、逃がしてください
9th girl ~Lonely~
約15年前、ルブラーン王宮内王室。
一人の王宮従者が王室に急いで入っていった。
「王!!……はぁ……はぁ……緊急報告です!!……」
「何だ」
「……ルブラーン東部遊郭の娼婦の1人が……王の子を身籠もったとの報告が入りました!!」
「……だろうな」
「……と、言いますと……」
「彼女には俺から意図的に種付けさせた……王宮で保護する、部屋をひとつ空けろ」
「……は……はあ……」
※ ※ ※ ※ ※
それから約7ヶ月後、娼婦は10数時間をかけて女の子を出産した。
その知らせをケイナンは王室で聞いた。
「王、生まれたそうです」
「分かった」
ケイナンは知らせを聞いて部屋に向かっていった。
「王、元気な女の子です」
「……よし」
ケイナンは一人部屋に入り、赤ん坊を抱き抱える娼婦と面会した。
「……王……」
「……よくやった、といえるのはこれからだ」
「え……」
「抱かせてくれないか」
「……はい」
娼婦は赤ん坊をケイナンに手渡した。
「……来た」
「え?」
「……よくやった……このときを待っていた……」
「……しかし王、恐れながら……妾の子です……民衆には」
「……ああ、俺結婚してたっけか……なら問題だな、監禁しよう」
「かっ……監禁!?」
「ああ、世話役を一人付ける、一日交替でな……それから俺とお前は面会禁止だ、来るべきときまで、いいな」
「そんな!その子には……もう」
「愛情が邪魔なんだ、この子は道具、名前すらも必要はない」
「っ……」
「それに従えないならこの場で死んでもらう、それほどまでに重要なんだ」
「……っ……従い……っ……ます……」
娼婦は涙を飲んでそう言った。
※ ※ ※ ※ ※
その様子を気配を殺してハロドックは窓から覗いていた。
そしてハロドックは丘になっている川沿いに停泊する船に戻っていった。
「お帰りなさいませ、どうでしたか?」
「やっぱさすがだわルブラーン、いい女ばっか」
「……あの、クルエルの方は……」
「ベイルは?」
「寝てます、もう6日ほど」
「寝すぎだろ……いたぜ、9人目の〝ホシノキズナ〟継承者」
「……本当ですか」
「ああ、しかも生まれた瞬間から分かってた……今までは5、6歳になってから発覚するんだがマナクリナ以来の大物だ、何としても手に入れる」
「……それで、ベイル様に利はあるんですよね」
「ああ、〝ホシノキズナ〟は集結の力を持っている、つまり、ベイルが必要な〝死神魂〟を持つ奴もポンポン出てくるぞ……多分」
「……仮にそうだとしても、2000年探して僕だけですよ?」
「ベイルは持ってるか否かの判別は距離30センチ程度まで近付かねぇと分かんねぇんだろ、周りにどれだけ影響を及ぼすか分かんねぇけど強い奴は集まりがちだ、マナクリナの時もそうだった」
「……あとどれだけ待てばいいですか?」
「さっき生まれたから、15になるまで」
「……長いですね……」
「ある程度理解力あった方がいいだろ、それに女は15から18までが至高の美しきボディを持てる時期なんだよ」
「ご自分の趣味ですか」
「大事だろ」
「分かりました、ベイル様にそう伝えます」
「はいよ」
その後ベイル達は再び人間界を走って回り、赤ん坊は王宮内で監禁され、そのまま成長していった。
※ ※ ※ ※ ※
そして15年後、ルブラーン王宮内角部屋に、少女がひとり空を眺めていた。
「───」
「王女、食器を片づけに参りました」
従者が少女の部屋に入り、器が2つだけ乗せてあるトレイを持って部屋を出た。
少女の右足には足枷があり、下着も無くボロボロの白いワンピースのような服の姿だった。
「だらしねぇなおい」
「っ……」
すると少女の背後にはハロドックが立っていた。
「……あ」
「おっと」
少女が叫ぼうとした瞬間、ハロドック以外の全てのモノがピタリと止まった。
そしてすぐにハロドックは少女の背後に回り、口を右手で押さえた。
「……んん!?……」
「騒がれたら困るからな、悪かったな」
「───」
少女が黙ったのを見て、ハロドックは少女から離れた。
少女は震え、目を見開いてハロドックから視線を離せずにいた。
「明日お前をここから連れ出す、明日は満月で快晴、ドラマチックな条件は整った」
するとハロドックは少女の後頭部を右手で触れ、自分の胸に少女の額を当てた。
「待ってろ、必ず助けてやる」
「っ……」
少女は一瞬困惑したが、我に戻りハロドックを突き飛ばした。
「おっと、さすがに早すぎたか……またな」
ハロドックは窓から飛び降り、早急にルブラーンから脱出した。
「……え……」
ハロドックは川沿いに停泊する船に戻っていった。
「思いのほか警備が堅ぇな……真夜中より、夜明け前の深い方がいいな」
「おーマジでいいのか、今までお前ひとりでやってたのに急に俺ら巻き込んで」
「……本物の敵が誰か、マナクリナが死ぬまで分からなかった……その敵を倒すには、ベイルの力が必要だ」
「……敵は同じってか?」
「ざっくり言えば違うが、黒幕は同じだろ」
「……ラルフェウ世話係な、面倒くさい」
「はい!……て、ハロドックさんじゃないんですか?」
「俺は別行動だ後で合流する、どうもクルエルの女は俺といたら早死にするからな」
「……分かりました」
「よし……ZZZ」
「……もうちょい緊張感持てよ……」
※ ※ ※ ※ ※
翌日の真夜中より深い夜、ハロドックの予想を裏腹にルブラーンには雨が降っていた。
「ちっ、格好つけたかったのに……まあむしろ雨の方が捜索活動はしにくいけど」
ハロドックは既にアリシアの部屋に忍び込んでいた。
「おーい起きろー」
ハロドックは眠っている少女の胸を優しく掴んでゆすり、少女を起こした。
「……ん……っ!!?」
「おはようお姫様、迎えに来たぜ」
「っ……」
「まあそう震えなさんな、怖いのは分かるがこれはお前にとってチャンスだぞ」
「……チャンス?……」
「逃げたいだろ?ここから」
「……え……」
「本ばっか読んでスカスカの硬いパンと栄養価高いくせに味の薄っすいスープ食って、労働すら無い奴隷以下の生活から解放されたくはねぇか?」
「……わ……」
「わ?」
「……分かりません……あなたが誰なのかも……どうしてここにいるのかも……私にここから逃げてほしいのかも……」
「……分かった……俺はハロドック・グラエル、魔人族だ、俺はお前をここから救い出す義務があるんだ」
「……義務……」
「俺はお前を救わねぇといけねぇんだ」
「……どうして……」
「……契約を交わしたんだ、お前の先祖と」
「……先祖?……」
「〝汝ハロドック・グラエルは、〝ホシノキズナ〝を継承するクルエルの者達の軌跡と、それらが結び、託し、紡ぐ先の結末を導く先導者となり、如何なる理由があろうと、継承者の生涯を添い遂げる事を誓う〟
……それが俺の結んだ契約だ……破れば、クルエルの血族は末代を残さず死に絶える事になる……都合が良い話だが、俺はお前を死なせたくない」
「……どうして……」
「好きなんだよ……お前らが」
「……好き……」
「愛してるの2、3歩手前くらいの好きだが、理由には十分だと思っている……」
「───」
「……そういえば、お前名前なかったよな?」
「……はい……」
「俺が名付けてやるよ、そうだな……アリシアってのはどうだ?」
「……アリシア……」
「お前は今日からアリシア・クルエルだ」
「……何で……」
「どうした?」
「……何で……私なんですか……私が……」
アリシアは突如ボロボロと涙を流し始めた。
「……ここから出るのが嫌なら強要はしねぇよ、本人の意思を最優先に尊重しろって契約にもある」
「……出して……」
「……何て?」
「……私を!……ここから出して!」
「……いいのか?」
「……ずっと夢だったの……キューちゃんみたいに……世界中を……探検することが……」
アリシアは泣きながら微笑み、ハロドックにそう言った。
「……いい夢だな、だがその夢は俺との秘密にしようか」
「……どうして?」
「その夢が、俺達を結ぶ〝果てしなき繋がり〟だ……なんちって」
「……はい」
すると部屋のドアが開き、ひとりの兵が2人を見つけた。
「な、何だお前らは!!?」
「あ、見つかった」
ハロドックはアリシアを抱き抱え、窓を飛び降りた。
「きゃあああ!!!」
「安心しろ、たかが3階だろ」
ハロドックは着地し、北東の山に向かって走り出した。
そしてルブラーン南西にある軍基地の屋上で兵が鐘を叩き、けたたましい音がルブラーン中に響いた。
(さてと、俺らがベイルと合流するわけにはいかねぇから……適当な理由つけてアリシアと別行動しねぇとな……)
すると2人の前に5人の兵達が現れた。
「いたぞ!捕らえろ!!」
ハロドックは屋根に上り、そこを走って追っ手から逃れた。
(……いや待て、この状況を利用しろ……チャンスは今しかねぇな)
「……アリシア、行け」
そう言ってハロドックは屋根から降り、山の入り口付近でアリシアを下ろした。
「……え……」
「追っ手がすぐ来る、俺が引きつけとくから行け」
「……行けって……走れない……」
「昨日俺の体力を入れといた、体が弱ぇから馴染むのに一日かかったが、兵に追われても振り切れる!」
「……けど……どこに行けば」
「この山を超えればチビとイケメンの男がいるはずだ、そいつらは俺と協力関係にある、必ず保護してくれる」
「……でも……ハロドックさん……」
「俺なら問題ない、後で追いつく!行け!!」
「……はい……」
アリシアは振り向き、山の頂上へと走っていった。
「……やっと行ったか、我ながら強引だったが……逸材なんだから多少厳しめに、な」
「おい!いたぞ!捕らえろ!!」
「……あちゃー……すぐバレた……まあいっか、辿り着かなかったら着かなかったで方法考えりゃな」
(そして腹減ったな……ニコラスの様子も見てぇし、あのうさぎんとこに行くか……)
ハロドックは1人、サン・ラピヌ・シ・ソノに向かっていった。
※ ※ ※ ※ ※
同じ頃、王宮内では混乱を極めていた。
「王、王女が王宮から脱走したそうです」
「……なんだと……今すぐ捕らえろ!」
「既に包囲網は展開していますが……珍しく頭に血が上っているようですね」
「お前には関係ない、お前を中心に必ず捕らえろルナ」
「……はい」
ルナは困惑を示す返事をして王室を出た。
「……あの王女に何があるというんだ……」
※ ※ ※ ※ ※
翌朝、アリシアはベッドの上で目を覚ました。
「……えっ……」
「おはようございます」
少女の顔の目の前に男の顔があった。
「お名前は言えますか?」
「……えっと……」
(お前は今日からアリシア・クルエルだ)
少女はハロドックの言葉を思い出した。
それは自らを表す記号、自らの存在理由、存在証明……そして人が初めて誰かからもらう、愛を形どった最初のプレゼント……。
「……アリシア……クルエル、です……」
9th girl Fin.




